トピックス -企業家倶楽部

2019年10月25日

モノづくりを素材の縛りから解放する/TomyK Ltd.代表 鎌田富久 × Nature Architects CEO 大嶋泰介

企業家倶楽部2019年10月号  エンジェル鎌田’s Eye


ACCESS 創業者で現在エンジェル投資家の鎌田富久氏が、投資先企業の経営者と対談する「エンジェル鎌田’sEye」。今回は構造設計によって素材の機能を拡張し、あらゆるモノづくりに革命をもたらすNature Architects CEOの大嶋泰介氏をゲストに迎え、モノづくりの未来についてお話を伺った。企画:本誌デスク 相澤英祐



構造設計で素材の機能を拡張

鎌田 御社の構造設計技術で製作された波線形の木製ベンチが、私のオフィスでも評判です。ユニークな形をしているだけでなく、かなり高度な技術が使われているとのことですが、詳しくご説明いただけますか。

大嶋 通常、こうした波打つような形の木製ベンチを作るには、複数の木のパーツを細かく組み合わせなければなりません。しかし私たちの技術を駆使すれば、たった一枚の分厚くて堅い木の板を自在に曲げることができます。

鎌田 厚さ45センチはある木の板が、折れてしまうことなく曲線を描いているのは不思議です。

大嶋 実は木材には複数の切れ込みが入っており、これによって一定方向に木が曲がるようにして、滑らかな曲線を表現しています。このように、ある素材に何らかの構造を加えることで、その素材には本来無かった特性を追加し、機能の拡張を実現するのが、私たちの技術です。

鎌田 なるほど。では、例えばこのベンチのように、使用する素材を曲げたい場合は、「どの程度曲げたいのか」という機能から逆算して、それを達成するための具体的な構造、切れ込みの大きさや形などを割り出すわけですね。

大嶋 まさにおっしゃる通りです。その「逆算」によって必要な構造設計を行えるのが、私たちの技術の核と言えます。

 したがって、手掛けることができるのは木材のみに止まりません。金属のように、木材以上に重くて硬く、曲がりにくい素材もあれば、反対にスポンジのように軽くて柔らかい素材もありますよね。私たちは構造設計技術を駆使することで、こうした様々な素材に、可能な限りお望みの機能を与えていきます。

鎌田 これまでは製作が難しかった「軽い素材ながら強度を保つ」「硬い素材の一部だけ柔らかく曲げる」といった製品を作ることが可能となりますね。この他に、御社の技術の強みはありますか。

大嶋 これまで複数の部品を組み立てて作らざるを得なかった製品を、場合によっては一つの金型で作れるようになることです。少なくとも部品点数の削減に貢献できることは間違いありません。組み立ての工程が少なくなる分、製造効率が上がり、製品も軽量化でき、さらにはコスト削減にもつながります。

鎌田 大きな可能性のある新しい技術ですね。車のフレームなど、「衝撃を吸収したい」といったニーズもあるかと思います。

 その場合も「上手く衝撃を逃がしてほしい」のような機能から逆算して設計を行うわけですね。

大嶋 そうなります。私たちは、車のフレームやヘルメットに使われる衝撃吸収用の緩衝材など、様々な人工物に最適な構造を届けることができます。



新しい当たり前を作る

鎌田 部品点数が少なくなり、組み立ての工程が減るということは、3Dプリンターとも相性が良いですね。

大嶋 その通りです。私たちは落合陽一博士との共同研究でロボットを作ったのですが、これは3Dプリンターを用いて一つの素材から作成しました。

 例えばロボットの腕を作る場合、上手く曲げ伸ばしをさせるには、沢山の部品を組み合わせて関節ごとにモーターを組み込むのが一般的です。一方、私たちは細かく切れ込みを入れたパーツに穴を開け、そこに糸を通して引いたり、電圧をかけたりすることで、モーターを使わず、組み立てもせずに滑らかな動きを実現しました。

鎌田 3Dプリンティングは、御社の技術が広まる上で追い風となりそうですね。

大嶋 確かに、既に海外では3Dプリンティングを製造ラインに取り入れ、製品の量産に使用する例が少しずつ出てきており、投資も行われています。 一方、課題もあります。現状の製造業では、それぞれのセクションごとに精密な部品を作り、これを最適な工程で組み合わせて完成させています。ところが、3Dプリンティングによる製造の強みは、最初から一体で作れてしまう点です。したがって、従来の製造ラインには全く当てはまらず、既存のモノづくりの延長線上で考えることができません。

鎌田 御社の技術によって大多数の部品が不要となれば、産業構造が変わるかもしれません。新しい当たり前になっていく可能性があります。

大嶋 将来的には、モノづくりの際に機能から逆算して構造設計を考えるのが当たり前になると確信しています。ただし、現状では業界自体が全く成熟していませんので、できるだけ早く当社の技術を使った製品が量産される状態まで持っていくのが目標です。その際の収益モデルとしては、「軽量かつ強靭な部品を生み出す」「製品の部品点数を圧倒的に減らす」といった、私たちにしかできない高付加価値の図面をライセンス供与する形を考えています。



原材料自体に機能を追加

鎌田 御社の技術は、車のフレームやベンチといった部品や最終製品に対してのみならず、原材料自体にも応用可能と伺いました。

大嶋 そうですね。何かを作る際、基本的に原材料は規格品の中から選び、組み合わせて使うものです。しかし私たちの技術を使えば、原材料自体に欲しい機能を追加することも可能となるため、その特性に縛られることがありません。

鎌田 具体的にはどのようなケースが考えられますか。

大嶋 例えば、非常に温度の低い条件下でもよく伸び縮みするゴムを作りたいとしましょう。通常ならば、樹脂を何種類か組み合わせて作りますが、当社の技術を使えば、たった一つの物質に対して「切れ込みを入れる」などの構造設計を施すとにより、必要なゴムを作ることができます。これによって、原材料の幅自体を広げることも可能となるのです。

 
鎌田 そうなると、最終製品を製造している企業だけでなく、原材料メーカーにとっても必要な技術と言えますね。

大嶋 原材料自体を成形すれば、これまでの製造手法では実現できなかった複雑な形も設計できるようになります。自由度が高まり、デザイナーや設計者がイメージ通りの商品を開発できる可能性が広がるでしょう。



構造物本来の機能を探求する

鎌田 起業に至った経緯をお聞かせいただけますか。

大嶋 製品の形状を設計するだけでなく、「密度を減らした上で硬度も担保する」といった計算を行うとなると、難易度の高さからソフトウェアが十分に提供されていませんでした。そこで、そうした様々な場合も含めて算出できるソフトを作りたいとの想いから、東京大学在学中の2017年に創業しました。

鎌田 Nature Architectsという社名もユニークですが、どのような想いが込められているのでしょうか。

大嶋 「nature」には「自然」や「本質」という意味があり、「自然の現象を、構造を使ってコントロールし、デザインする」という意味を込めています。


 また自然界には、ハチの巣の軽くて強いハニカム構造のように、構造物の本質を垣間見せてくれる実例が溢れています。こうした「自然の中にある構造物本来の機能を探求する」という想いも込めました。



アイデアを募集し現場のニーズを知る

鎌田 御社の技術は製造から建築に至るまで、あらゆる領域に応用可能なので、大きな潜在市場が期待できます。ただ、いかんせん新しい分野ですので、まずは必要とされる方々にリーチして認知度を高めるところから始めなければなりませんね。

大嶋 そうした取り組みとしては、現場のニーズを知るため、三井化学と共同で当社技術の活用アイデアを公募しました。この中から現場の課題を知ることができ、有意義でした。私たちの技術が、現場の課題解決につながらなければ、独りよがりになってしまいますからね。既に動き出している案件もあります。

 今後は構造設計技術にさらなる磨きをかけ、10月1日にはプレスリリースも行う予定です。

鎌田 具体的にはどのような発表内容となりますか。

大嶋 当社の技術が一目で分かるように、3Dプリンターを使って人間の腕とそっくりなサンプルを製作する予定です。骨は軽くて強い構造、皮膚は柔軟に仕上げ、関節の部分は決まった方向にのみ動くようになっています。もちろん指にも関節があり、自動ではありませんが、モノをつまむこともできます。

鎌田 御社の技術で可能となることを、分かりやすく示すわけですね。今後のビジネスの展望はありますか。

大嶋 製造業の中には、当社の技術が必要とされるケースが非常に多く、潜在的な需要が眠っています。当社と組むことで、部品の組み立て工程を大幅に削減したり、商品開発や改良をより迅速に行ったりすることが可能となるでしょう。

 これまでは、私たちが取り組んでいる「最終的な機能から遡って構造や素材を決定する」という考え方自体が存在しませんでしたから、言わば職人的な感覚で研究開発を進めるしかありませんでした。しかし私たちの技術を使えば、それが汎用的にできるようになる。この点をしっかりPRしていきたいですね。

鎌田 世の中は総じてエコに向かっていますから、モノづくりをシンプルにして部品点数を削減し、製品を軽量化していく方向性は時流に乗っています。ただ、今までに無い製造の考え方ですから、市場を先頭で切り拓くフロンティア企業として、成長を期待しています。

P r o f i l e

鎌田富久(かまだ・とみひさ)

東京大学大学院の理学研究科にて情報科学博士課程を修了。理学博士。1984年、東京大学の学生時代に、情報家電・携帯電話向けソフトウェアを手がけるベンチャー企業ACCESS を荒川亨氏と共同で創業。2001年、東証マザーズ上場。2011年に退任すると、2012 年4 月より、TomyK Ltd. にてベンチャー支援を開始。

大嶋泰介(おおしま・たいすけ)

東京大学総合文化研究科広域科学専攻広域システム科学系単位取得退学。日本学術振興会特別研究員(DC1)、筑波大学非常勤研究員などを経て、2017年5月Nature Architectsinc. を創業。情報処理推進機構より未踏スーパークリエータ、総務省より異能ベーションプログラム認定。



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