トピックス -企業家倶楽部

2019年11月01日

相手へのリスペクトを忘れない

企業家倶楽部2019年12月号 視点論点


 9月20日に、ラグビーワールドカップが日本で開幕しました。夏季オリンピック、サッカーワールドカップとともに世界三大スポーツイベントといわれており、アジアでは初の開催となります。

 先日、元日本代表で伝説的なラガーマン吉田義人さんと話す機会に恵まれました。ラグビーファンなら知らない人はいないヒーロー的存在です。現役時代はウイングという花形ポジションで活躍、ポイントゲッターでした。とにかく足が速く、100mを10秒台で駆け抜ける脚力で見る人を魅了してきました。大学ラグビーの強豪明治大学で主将を務め、19歳で日本代表にも選出された逸材です。

 今でもラグビーファンの間で語り継がれている試合があります。それは29年前、1990年の関東大学対抗戦「早明戦」です。

 紫紺の明治とエンジの早稲田は長くライバルとして激突してきた歴史があります。両校の選手は学校の威信にかけても負けられないと気合が入っていました。さらにその年は全勝対決ということもあり、国立競技場は6万人の大観衆で異様な盛り上がりを見せました。

 試合は明治が優勢で、後半37分24対12とダブルスコアでリードしていました。このまま明治が早稲田を破り、対抗戦優勝だと誰もが思っていたことでしょう。

 しかし、時計の針が残り3分となった頃からドラマが始まります。早稲田も最後の粘りを見せ、1トライを返し、24対18に追い上げます。そして、ロスタイムに入りました。最後のプレーです。明治の吉田選手が蹴ったボールを早稲田陣営が受け、左に素早く展開、長身のフルバック今泉選手にボールが渡るとどんどん加速し、80メートル独走のノーホイッスルトライとなりました。トライの後に与えられる追加得点のチャンスであるコンバージョンゴールも決まり、24対24の同点となったところで試合終了の笛が鳴りました。

 この試合を観戦していた人で誰がこの結末を予想できたでしょうか。稀にみる同点劇はあまりにもドラマチックであり、結果今でも語り継がれる名試合となっています。私も同年代の学生が生んだ奇跡に感動し、胸が熱くなったのを覚えています。

 ノーサイドを告げる笛の音が鳴った瞬間、両校同時優勝が決まりましたが、反応は真逆でした。早稲田の選手は勝ったかのように喜び、明治の選手は負けたかのように膝から崩れ落ちました。明治主将であった当事者の吉田選手は、あの結果をどう受け止めていたのか、本心を聞いてみました。

 「ラグビーは試合が終わればノーサイド。敵も味方もなく、お互いのプレーを認め合うスポーツです。相手チームの選手に対してリスペクトしかない。それが偽わらざる本心です」と吉田さんは真っ直ぐな目で私を見て答えてくれました。一流のスポーツ選手がまとうオーラというのでしょうか、現役を退いている吉田さんですが、ラガーマンの持つ逞しくも健全な精神性が伝わってきました。

 せっかくの機会なので、懇親パーティーに登壇し、ラグビーワールドカップ開幕の宣伝をして頂くことになりました。司会者に吉田さんの紹介をお願いしようとすると、吉田さんが私に近づいてきてこう囁きました。

 「あなたから紹介してほしい」、短い言葉ですが有無を言わせぬ説得力がありました。

 会場は参加者の熱気が充満し、近くの人の声も聞こえないくらいでした。吉田さんは状況を一瞬で把握し、女性司会者のか細い声では注目が集まらないと判断し、男性の野太い声で紹介した方が注目が集まると考えたのです。鋭い読みだと思いました。一瞬で敵のタックルをかわし、トライへの道筋を見つけてポイントゲットしてきた吉田さんの判断力はビジネスシーンでも変わりません。

 「全力を尽くし、常に相手へのリスペクトを忘れない」

 ビジネスもスポーツもこの気持ちと爽やかさが必要ですね。



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