トピックス -企業家倶楽部

2018年12月27日

MTG の未来戦略/ブランド開発企業として新境地を切り拓く

企業家倶楽部2019年1/2月号 MTG特集第1部


「ReFa(リファ)」ブランドの美顔ローラーやサッカー選手のクリスティアーノ・ロナウドをCMに起用した「SIXPAD(シックスパッド)」などで知られるM T G の躍進が止まらない。2018年7月には東証マザーズに上場、時価総額2840億円と、ユニコーン企業として話題をさらった。社長の松下剛は「一発屋で終わらない、ブランド開発カンパニーとして世界に発信していく」と宣言する。そこにはどんな真意があるのか。1兆円企業を目指し次々と布石を打つMTGの未来戦略に迫る。 (文中敬称略) 



ここからがスタート

   2018年7月10日、東京・兜町にある東証アローズのオープンプラットフォームには100名ほどの人が詰めかけていた。張りつめた空気の中にも笑顔が溢れている。ほどなく待ちわびた人が現れた。この日マザーズに上場を果たしたMTG社長の松下剛である。沸き起こる拍手の中、エスカレーターを降りてきた松下の顔には満面の笑みがこぼれる。そして記念の楯を手に、記念撮影の中央に収まった松下の顔は、一段と輝きを増していた。

   そして恒例である上場記念の打鐘のセレモニー。「カーン!」。松下が打った鐘の音が、張りつめた空気を振るわせ、アローズに響き渡る。その澄み切った鐘の音を聴きながら、松下はあらたな決意に燃えていた。


   松下は「まさにこの日がスタート」と気を引き締めた。2017年9月期の売上高453億円、経常利益61・2億円なら、直接一部上場することもできる。しかし松下は敢えてマザーズを選んだ。「我々はベンチャーです。ここからさらなる高みを目指して突き進む」と松下。上場で気が緩まないようにという戒めの気持ちもあったろう。


 ここからがスタート

ブランド開発企業

   メルカリに次ぐ大型企業の上場とあって、会場には多くの報道陣が詰めかけた。MTGの経営戦略を語る松下の声は自信に満ちていた。

   「我々はブランド開発カンパニーとし、独自のブランドを世界に発信していきます」


   力強く松下の声が響く。

   
   「ブランド開発カンパニー」の宣言に、会場からは驚きの声が発せられる。というのは、MTGは美顔ローラーが有名な「ReFa」やEMSトレーニング・ギア「SIXPAD」の会社としてのイメージがあるからだ。


   「そう思われているのも無理はない」と松下も感じている。これまでは商品のブランドを浸透させることに注力し、会社としてのMTGを前面に押し出すことはしてこなかった。それは松下の戦略だったと言える。


   しかし上場するにあたり、会社としてのあり方を明快にしたいと考え「ブランド開発カンパニー」と位置付けた。「この発想は、10 年ほど前から考えていた。具体的に打ち出したのは上場を準備する1年半前から」と松下。長年の想いがようやく形になり、宣言したということになる。


   上場後の新ブランドとして、この日お披露目したのが「SIXPADSTATION」である。最先端のテクノロジーを駆使したEMSフルボディスーツを身につければ、15分で体が鍛えられるという画期的なジムを開設したのだ。一号店は7月末に東京・代官山にオープン、ここで徹底的にオペレーションを検証した上、世界中5000カ所に展開するとの宣言にはどよめきが沸いた。この「SIXPAD STATION」については第2部を参照いただきたい。



MTGという会社 

   MTGと聞いたら「ああ、マドンナやロナウドをCMに使っている会社」というイメージを持つ人も多いであろう。「ReFa」は知っているが、会社についてはあまり知らないという向きも多い。そんな方にMTGについて少し説明しよう。

   設立は1996年。当時のMTGは今とは異なり、様々な商品を扱っていた。それをBEAUTY(以下ビューティー)とWELLNESS(以下ウェルネス)という分野に収れんしていったのは、松下の先見性と時代を読み解く力であろう。

 そして09年、主力商品となる美容ローラーを「ReFa」ブランドで発売した。今や「ReFa」シリーズは約50アイテムに拡大、18年7月には累計1000万台を達成した。

   15年にはサッカー界のスター、ロナウドをCMに起用したEMSトレーニング・ギア「SIXPAD」を発売、世間の注目を浴びた。またアメリカのトップスター、マドンナと共同開発した化粧品ブランド「MDNA SKIN」シリーズを開発。その他、顔の筋肉を鍛える「PAO」、骨盤を鍛える座椅子「CUVILADY」など、ユニークな商品を送り出している。

   そして18年、7月には東証マザーズに上場を果たし、あらためてブランド開発カンパニーとして打ち出した。18年9期の売上高は33%増の604億円、経常利益は45%増の88・8億円と、とてつもない成長を実現している。



松下剛という男

   MTGの成長をもっと深く知るには松下自身の生い立ちから語らねばならない。

   松下は長崎県の五島列島の出身だ。本当の両親の顔は知らない。生後3カ月で松下家の養子となり、男ばかり4人兄弟の末っ子として育てられた。


   「貧しい家でしたが上の兄たちとは全く差別されることなく育てられました。自分が養子であることを知ったのは小学校5年生の時でした」と松下はしみじみ語る。


   今年で48歳になる松下だが、育ててくれた松下家への感謝は片時も忘れたことはない。育ててくれた松下家に恩返しをしたい、その一心で、小学生の頃から「会社をつくる」と宣言していた。そして中学生になった頃には、日本で一番大きな会社であるトヨタがある愛知県で起業すると決めていたという。


   会社を興すと五島列島から裸一貫で飛び出した松下は、まずは愛知県にあるデンソーに就職、資金を貯めた。デンソーを辞めてからも営業会社でトップ営業マンとして頭角を現し、96年MTGを設立することとなる。


   当時のMTGは宅配水のカートリッジなど、ありとあらゆるものを売った。そのときの経験から「どんなものでも売れる」という自信がついたのだろう。


   20数年前、苦楽を共にした創業メンバーがほとんど辞めていないことは、松下の人間性の素晴らしさを物語る。松下を知る人は皆、情に厚い男、社員想いと絶賛する。



一人ひかる 皆ひかる何もかもひかる

   若くして起業、経営者となった松下の支えとなったのが、盛和塾であった。そこで師匠として出会ったのがファミリーイナダ会長の稲田二千武である。また親友として今も支え合うのがリネットジャパングループ社長の黒田武志であり、アスア社長の間地寛である。松下はこうした先輩や仲間のアドバイスを聞き、吸収し、自らの経営に生かしていった。

   稲盛が唱える「利他の精神」そして「アメーバ経営」を松下流に修正し、独自の経営スタイルを創り上げていった。


   MTGのフィロソフィ「一人ひかる 皆ひかる 何もかもひかる」は、社員一人ひとりの心の原点として、全ての根幹となっている。


   「経営者として大切にしていることは」との問いに、松下はすかさず「社員との信頼関係」と答えた。「本当に良いメンバーが多いのが我が社の強み。頭数ではなくて心数。みんながやる気を出せて、未来をワクワクできる会社にしたい」。社員数1500人となった今も、社員を家族とし、一人ひとりを想いやる松下の情の深さは誰をも感動させる。



アメーバ経営を実践するプロフィットセンター 

   全ての社員が力を発揮し、いきいきと働く組織風土を創り上げた松下だが、その原点となっているのが、プロフィットセンター(以下PC)である。今や80ものPCが一体となって有機的に活動し、商品を磨き、ブランドを磨き、そして販売力を磨き続けている。その徹底力、スピード感が、他には真似できない組織力となっている。

   これはまさにアメーバ経営である。競争の激しい美容業界で、独自のブランドを一から創り上げてきた松下。戦いに勝てるのは、求心力が強く、一丸となって立ち向かう組織力があるからと言える。


   アメーバ経営を参考にする企業は多いが、松下ほどそれを徹底して実践している企業家は少ない。このPCは、各ブランドごとに形成され、誰でもリーダーに立候補できる。PCの詳細は第2部で説明しよう。



稀代のアイデアマン 

   今のところ「ReFa」はじめ同社商品のアイデアの源泉となっているのは、松下自身である。商品のコンセプトからデザインまで松下のアイデアから始まっている。常にスケッチブックを持ち歩き、溢れる想いを書き連ねる。そこには稀代のアイデアマン松下の「お客様にもっと感動していたただけるものをお届けしたい」という情熱と執念がある。 

   そのアイデア力について、アリババジャパン社長の香山誠は、「松下さんのあのスケッチブックにある構想を商品化するだけで、すごいヒット商品が生まれる」と絶賛する。


   「ReFa」の美顔ローラーの流れるような美しいデザインも、松下の構想から生まれたものだ。その松下のアイデアを進化させ完成させていくのが、それぞれのPCの仕事ということになる。




   クリエーション、テクノロジー、マーケティング、ブランディングの4つの軸を融合させるMTG独自のビジネス手法が出来上がったと松下。前述の通り、今のところ最初のひらめきは松下に因るものが多いが、その構想を具現化していくブランド開発システムが構築できている。各PCそれぞれが一つの企業として切磋琢磨する独自のシステムだ。80ものPCが同時進行でブランドを進化させている。それぞれのPCは独立採算だ。いわばMTG内に80の会社が存在しているようなもの。だからこそ開発の種は途切れない。



「五島の椿」プロジェクト

   松下の故郷愛は強烈だ。「孤児の自分を育ててくれた松下家、五島列島に恩返しをしたい」。その熱い想いが薄らぐことはない。それを具現化したのが、18年11月に立ち上げた新会社「五島の椿」である。五島列島に育つ椿を材料に、様々な商品を開発、事業化するというものだ。

   五島列島は日本で一番椿の生産量が多いが、これまでは油を搾る実だけを活用、残り95%は捨ててきた。しかし椿は実だけでなく、葉っぱも花も果皮も全て活用できることが分かった。特に花の中にある椿酵母を活用すると化粧品やパンやビールもつくれる。したがって、五島列島に新しい産業を生み出すことができるのだ。


   五島の椿プロジェクトの話をする松下はますます雄弁になる。20年に国際椿サミットが五島列島で開催されるが、ここに照準を合わせて新商品を発売するという。3年前から椿研究会を立ち上げ、長崎大学、長崎県、五島市、地元の人々と椿の可能性を研究してきた。「椿という文化をブランディング、マーケテイングして世界に発信していく」と言う松下。五島列島への恩返しだけに一段と力が入る。



1兆円企業を目指して

   上場後、次々と新規事業を仕掛ける松下。今度は睡眠の分野に参入するという。「睡眠はビューティーにもウェルネスに深く関係する」と語る松下は、「快眠のための機能性マットを考えている」と語る。ただし、今世の中にあるマットとは全く違う。新発想のマットなのだ。

   今、快眠が注目されているが、睡眠時間より睡眠の質が重要なのだという。では、どうすれば早く眠れるのかなど、2年前から研究を続けてきた。当然専門家のアドバイスも受け、最先端のテクノロジーやAIの機能を入れたものを考えているという。


   歴史も古く老舗も多い寝具業界だが、新参者ゆえに固定概念を外し、「快眠のために必要とされるマットとはどんなものか」を突き詰めていった。


   ブランド名は「NEW PEACE」、新しい平和な安らぎを与えるもので、雲の上で寝ているようなイメージという。AIモーションマットで、振動するのだという。AIと言うからには、どんどん学習して、使っている人に一番合った動きを提供してくれるのだろう。この「NEW PEACE」の登場は19年秋ごろになるというが、どんな商品なのか今から楽しみだ。



指輪型決済端末にも参入

   MTGはビューティー、ウェルネス分野だけに特化しているわけではない。世界でも最先端分野である指輪型決済端末機にも進出している。

   「チップとアンテナが入っていて、指輪をかざすだけでピッと決済ができる。カードを出したり、スマホを立ち上げたりする必要がないので大変便利。第1弾は決済ができるリングで、第2弾は車や部屋の鍵の機能がつく。第3弾は指輪にさらなる追加機能を入れて、ヘルスケアチェックやGPSも付け、安全対策にも活用できるようにする」と松下は説明する。


   既にオーストラリアのバンクウエストで活用され、CMもスタートしているという。リング決済の話を始めた松下は、もう止まらない。その便利さを見て欲しいと、バンクウエストのCMを見せてくれた。


   これは17年に英国のベンチャーMcLEAR(マクレア)を買収、その技術をもとに開発したという。既に一般用は第1弾の商品を米国で販売。日本での発売は20年を予定しているという。これまでの同社の商品とは全く別の分野の開拓に驚くばかりだ。


   ビューティー、ウェルネスを中心とした商品に特化してきた同社だが、また新たな分野を開拓している。松下の飽くなきチャレンジ魂は留まるところを知らない。


   そのために18年9月、ベンチャーキャピタル会社「MTGベンチャーズ」を立ち上げた。この新会社の創設により、世界中の新しい種を見つけて、ブランド開発のシステムを取り入れ、世の中に発信していくことも可能だ。前述のマクレアもその一例であろう。



JAPANブランドを世界へ発信したい

   MTGは「日本の良さを世界に発信したい」と早くからグローバル企業として活動してきた。国別、ブランド別にマーケティングを実践。アメリカはマドンナとの共同開発ブランド「MDNA SKIN」をニューヨークから発信、イギリスは「SIXPAD」、韓国や中国を中心とするアジアは美容ローラーで攻めてきた。「美容ローラーをアメリカやヨーロッパで普及させるには、マドンナから発信してもらい、これを世界に文化として根付かせたい」と語る松下。その戦略的発想に驚く。

   松下の漲るパワーは出会った人を皆虜にする。大きな夢を語り、その夢を確実に実現させてきた。その本気度と磨き抜かれた商品のクオリティが、世界のトップスターの心に突き刺さるのであろう。松下の交渉人・仕事師としての能力には天性のものがある。


   ここまで松下を駆り立てる源泉は何なのか。「共に戦ってくれる社員、そして関係者の幸せのため」と彼は語る。昨年には、名古屋の熱田神宮前に巨大な土地を確保した。2、3年後にはここに本社を移転、世界に向けた発信基地となろう。


   1兆円企業を目指し、あらたな布石を打ち続ける松下だが、その達成時期は早いかもしれない。世界中の面白い種を見つけ出し、独自のブランド開発システムで進化させ、世界に発信する。国境や業界を超え世界中にスマートライフを提案していくということであろう。


   引き締まった美しいボディは幾つになっても憧れだ。「いつまでも健康で美しく」は世界中の人々の願望だ。そこにMTG流ブランド開発という武器を携えて挑む松下。その壮大なチャレンジはまだ始まったばかりだ。


JAPANブランドを世界へ発信したい

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