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2018年12月27日

全員経営でブランドを生み続ける/MTGの強さの秘密

企業家倶楽部2019年1/2月号 MTG特集第2部


細部にまでこだわり抜く確かな開発力でヒットを連発するMTG。各業界のナンバーワンと組み、戦略的にブランドを構築する同社は、フィロソフィを心に刻んだ社員の全員経営によって支えられている。彼らが生み出す商品の何がユーザーを駆り立てるのか、その強さの秘密に迫った。(文中敬称略)




   2018年12月4日、久々の陽気の中、東京・代官山駅から歩くこと約10分、ガラス張りのスタイリッシュな建物に辿り着いた。同年7月26日にグランドオープンした「SIXPAD STATION」。MTGが技術力を結集して完成させた、近未来型EMSトレーニング・ジムである。


   EMSとは、「ElectricalMuscle Stimulation(筋電気刺激)」の略で、電気刺激によって筋肉のトレーニングをサポートする技術のこと。MTGの大ヒット商品「SIXPAD」に導入されており、「SIXPAD STATION」はこのテクノロジーを存分に駆使して筋肉を鍛えることのできる革新的なジムと言える。


   階段を上り、2階にあるフロントの扉を開けると、清潔感溢れる店内が広がり、スタッフの明るい笑顔に迎えられた。注意事項などの説明を受けた後、早速専用のインナーに着替えて1階へ。腕、脚、腹など、9部位18カ所の筋肉に電極が配置されるようになっているEMSフルボディスーツを着用すると、自身のスペースに移動し、トレーニング開始だ。


   まずはデジタルトレーニングミラーと呼ばれる鏡の前に立ち、自身の骨格を認識させる。あとは指導を担当するトレーニングスペシャリストの指示に従いながら、15分の運動を行っていけば良い。


   スイッチが入ると、電気刺激によって負荷がかかり、何もせずとも筋肉が動かされているのを実感できる。負荷の重さは、横に備えられたコントロールタワーで部位ごとに調節が可能。トレーニングスペシャリストが、お客に応じて適切なレベルに合わせてくれるので、心配いらない。


   たかが15分と侮るなかれ。腕の開閉やスクワットなど、動作自体は単純だが、EMSによる負荷がかかった状態では易々と動けない。終わる頃には息も絶え絶え、全身汗だくだ。



強さの秘密1・商品力

エビデンスを徹底追求

   
   ロナウドが出演するCMでもお馴染みとなった「SIXPAD」だが、その効果はいかほどのものなのだろうか。本製品は、京都大学名誉教授の森谷敏夫が提唱する世界最高峰のEMS理論とロナウドのトレーニング理論を基に、MTGが総力を挙げて開発した力作だ。中でも森谷のEMS理論は、この革新的なEMSトレーニング・ギアに多大な影響を与えている。


   森谷は「筋肉を効率的にトレーニングできる電気刺激の周波数は20ヘルツ」と説く。従来のEMS機器には50~60ヘルツという刺激を送っている製品も多かったが、これでは最初こそ大きな筋肉の張力が生まれるものの、その力が急速に低下してしまい、トレーニング効果があまり望めない。一方20ヘルツの刺激であれば、時間が経過しても張力が保たれるため、継続して効率的な筋肉トレーニングが行えるというわけである。


   また、実験の結果、20ヘルツの刺激は他の周波数と比べて酸素の消費量が多いことも判明した。これはすなわち、効果的にエネルギーが使われている証拠であり、やはり高いトレーニング効果があることを示す。


   MTGは、こうした電気刺激による筋疲労について生体効果を検証し、学会発表まで行っている。その詳細は、公式サイトで余すところなく見ることが可能だ。


   同社がエビデンスにこだわるのは、今に始まったことではない。まだ水事業を主力としていた時から、松下は他社との研究開発において「ただ単に理論だけでなく、エビデンスも取ってほしい」と口を酸っぱくして言ってきた。


見えない細部にもこだわる


   「ReFa」ブランド主力の美容ローラー一つとっても、MTGは相当なこだわりを持って作っている。


   例えば、ローラーの肌に触れる部分が完成するまでに試作されたモックは数百種類。また、ローラーの回転部分に関しても、松下は「どれほどのヘビーユーザーが使い続けても、半永久的に滑らかな回転を保たねばならない。世の中で滑らかに回転し続けるものとは何だ」と考え抜いた結果、自動車のタイヤに辿り着いた。そこで、回転時の摩擦を減らすためのベアリングが独自開発され、「ReFa」の美容ローラーに組み込まれている。


   持ち手にあるソーラーパネルから光を取り込み、微弱な電流「マイクロカレント」を流す技術にも、目に見える部分ではないが、相当な手間がかかっている。さらに素材についても、直接肌に触れる商品である以上、敏感なユーザーにも受け入れられるように上質なプラチナでコーティングを行った。


   松下が「手が切れるほどの研ぎ澄まされた開発」と表現する通り、モノづくりに妥協は無い。これが女性からの支持を受けている所以だ。


 強さの秘密1・商品力

強さの秘密2・開発力

アイデアはスケッチブックの中に


   次から次へとヒット商品を飛ばすMTG。実のところ、商品の大部分は松下のスケッチブックから生まれる。「デザインは99・99%が松下の絵コンテ」と常務取締役の中島敬三は語る。


   松下にアイデアが湧いて来る秘訣を問うと、「なぜ富士山に水が湧いているのか聞くのと同じ」と笑う。理屈ではなく、際限なく湧いて来るというわけだ。


   ただ、彼が常に様々なアンテナを張り、情報を収集しているのは間違いない。アイデアの源泉、その点と点が線になり、それが面、立体となった瞬間、松下は突如として鉛筆を取り、スケッチブックにデッサンを描き出す。


   中島も、アイデアを書き起こす松下の姿を間近で見てきたうちの一人だ。松下と飛行機に乗った際、ペーパーナプキンをもらい、それに商品を描いた松下は、商品の形、使用する時と場所、その時の詳しい状況、ユーザーが言うであろうセリフ、販売員が語る売り文句に至るまで、事細かに語った。


   その鮮明な商品イメージとコンセプトは、世界にも通じる。バックダンサーが着るステージ衣装のボタン一つにまで強いこだわりを持つことで知られるマドンナでさえ、MTGと共同開発するスキンケアブランド「MDNASKIN」の商品デザインに関しては、何一つとして変更を求めなかった。


利益を作る開発マン


   その様々なアイデアを具現化していくのが開発部隊だが、MTGの仕組みは他社とは一線を画している。

   一般的な企業の開発担当者は、可能な限り品質の良い商品を納期通りに作ると、すぐに次の商品開発へと移っていく。一度作り終えた商品は営業部隊の管轄となるため、それらがどのような売上げと利益を上げ、投資をどの程度回収できたのか気にすることはあまり無い。

   一方MTGでは、次の商品開発に進みつつ、自身が携わった商品については、手離れした後でも売上げ、利益ともに日々確認する。結果として、「稼げる」商品にするためには何が足りなかったのかを自ら研究し、コスト低減や品質向上の努力へと繋がっていくのだ。

   開発が自ら投資回収計画を立てるのもMTGの特徴だ。商品が完成するまでにどれだけの投資がかかるのか、投入する市場、材料費、営業人員の人件費、販促物の種類といった情報を積み上げて、具体的な金額に落とし込む。もちろん、芸能人を起用する場合など、直接動くのはプロモーション部門になるが、商品コンセプトを伝え、ヒアリングを行って持ち帰るのは開発側の社員である。

   そして、何年何カ月でどれだけの量を販売すれば損益分岐点を越え、その後利益はどれだけ積み上がるのか、自分なりのシミュレーションを作り、経営層に対してプレゼン。これを受けて、「半年で損益分岐を越えるならやろう」「3年かけてもこれだけの利益しか出ないのであれば中止」といった判断が下される。「負けると分かっている戦いはしない」と語るのは取締役企画開発本部長の長友孝二。これが、MTGの投資回収率の高さに繋がっている。まさに松下の言う通り、MTGの開発は「単にモノを作るだけの開発マンではなく、利益を作る開発マン」なのである。


リーダーの登竜門


   こうした仕組みが取られているのも、MTGでグループ経営が貫かれているからである。同社では、組織をPC(プロフィットセンター)と呼ばれる収益部門に分け、その中で採算管理を行っている。開発部門もPC化されているため、前述の通り、売上げ、経費、利益の計画から、現状の把握、月ごとの数値管理といった予実の見える化が図られ、容易に経営判断ができるようになっているのだ。


   仮に数字が予定に達しない可能性が高まると、営業部門と相談し、足りない要素の把握に努める。このため、ちまたでよく聞くような営業と開発の軋轢は発生しない。松下自身、「開発がどんな商品を作ってきても売るのが営業だ。どんな営業に持たせても売れる商品を作るのが開発だ」と叱咤激励する。


   部門のPC化にあたっては、3カ月に1回行われるグループ経営プレゼンでの発表が必須となる。プレゼン内容は「PCを3カ年、5カ年でどのように成長させていくのか」という事業計画だ。


   審査委員は松下をはじめとする役員。場合によっては監査法人、顧問弁護士、証券会社が入ることもあり、計画に穴が無いか、上場審査さながらの評価が下される。この登竜門を見事通過した者だけが、リーダーに任命されるのだ。このため、PCには法人としての意識があり、また将来経営を担うであろうリーダー層育成にも一役買っている。


商品を内部留保する


   もちろん、短期的な売上げが見込まれるモノづくりばかりしていても、革新的な商品を生み出すことはできない。商品化できれば面白いが、技術的に実用可能なのか、現実性と折り合いを付けねばならないような案件も多くある。そうしたチャレンジングな商品開発についても、MTGは「10年後に凄い商品が出てくれば良い」と割り切って取り組む。


   幸い、MTGはネタに困っていない。産官学でコラボできる機会を日々探っており、新しいアイデアを収集すべく論文を読み解くチームがあるほどだ。大小含め、常に何百という商品を同時並行的に開発している。


   時には、戦略的に商品の市場投入時期をコントロールすることもある。例えば、アイテム数が増えすぎたり、商品コンセプトが被ってしまったりする場合だ。そのような際には前倒しで開発を行い、「商品の内部留保」を行う。「1年後も上手く開発が続いているかは分からない。一度ボタンを押せばすぐに商品化できるものを常備しておきたい」と長友は語る。 


強さの秘密2・開発力

強さの秘密3・ブランド力

ナンバーワンを狙え


   MTGの商品が支持される秘訣として欠かせないのが、ブランド力である。それがよく表れているのは、ナンバーワン戦略だろう。その名の通り、その道のナンバーワンと組むという戦略だ。


   マドンナやロナウドといった、世界的に超一流とされている人物を迎えての共同開発は好例である。産官学での連携を図る際にも、対象領域において最も権威があり、研究が進んでいると考えられる大学や企業と組むのがMTG流だ。

   
   商品を売るチャネルに関しても、この考えは貫かれている。日本の百貨店の中でMTGが真っ先に契約したのが、コスメフロアでは世界一との呼び声高い伊勢丹新宿店。現在も日本橋三越本店1階フロアをはじめ、名立たる百貨店の目立つ場所に出店する。


   海外でも、アメリカであればニューヨークのマンハッタンにある高級百貨店バーニーズ・ニューヨークに店を構え、既にECの進んでいる中国ではデジタルトランスフォーメーションの牽引役であるアリババと組んでネット販売に注力するという具合だ。世界に展開していくにあたっては、「メイド・イン・ジャパン」という日本ブランドも大きな強みとなるに違いない。


   値決めに関しても、ブランド構築の上で重要だ。あまりに低価格では安っぽさが出るが、高価すぎると手が届かない。品質をきちんと表現しつつ、多くの人が買うことのできる絶妙のラインが求められる。実は、松下の口癖は「値決めは経営」。商品価格は社長自ら決定する力の入れようである。


   そのため、MTGの商品は量販店でも決して値下げに応じない。通常、1年前の商品は型落ちとされて価格が下げられるものだが、MTGはブランドを意識し、当初より「その習慣には乗らない」と宣言し続けてきた。

模倣品に徹底抗戦

   ブランディングの強化において、模倣品との戦いは宿命だ。こうした知的財産権侵害への対策は、お金がかかる上に何も新しいものを生み出さない「守り」に当たる領域なので、諦めてしまう企業も多いが、MTGは徹底抗戦を貫く。

   それもそのはず。不当な模倣業者は、最初からユーザーを騙すつもりで偽物を売りつける。MTGの商品だと期待して購入したユーザーは、商品がすぐに壊れたり、効果が表れなかったりしたことで失望。結果的にはMTGが風評被害を受け、ブランド力の低下に繋がってしまうのだ。


   実際、MTGの下には、「偽物」が1日に1つは返品されてくる。偽物を買ってしまったユーザーの全員がわざわざ返品してくるわけではないことを考えると、相当な数の模倣品が出回っていると考えて良い。


   このためMTGでは、「作らせない、入れさせない、売らせない」をモットーに掲げ、様々な対策を講じる。まず、前提となる知的財産の権利は、既に権利化されているもので特許、意匠、商標を合わせて1682件。さらに合計827件を出願中だ。


   法的処置としては、中国で模倣品を製造している業者を、中国公安の協力を得て摘発。17年12月には深?市で「ReFa」ブランドの模倣品製造に関わった容疑者7名が逮捕され、主犯格が懲役と罰金の実刑判決を受けた。


   また、国内では税関まで研修に赴き、職員に権利侵害を見極める上での判断基準を伝えている。こうした努力の成果もあり、17年に海外から日本に入って来た模倣品の中で、意匠権で差し止められた総数の実に78%はMTGの商品となっている。


   こうした断固たる姿勢が模倣業者にも伝わり、一定の抑止力にはなっていると思われるが、MTGがブランドを守るための戦いはこれからも続くだろう。


強さの秘密3・ブランド力

強さの秘密4・大家族経営

男が惚れる男

   
   松下は養子であった経験から、社員や代理店を家族のように想う「大家族経営」を標榜する。彼が人をどれだけ大切にしているかは、当の社員にエピソードを聞けば明らかだ。


   取締役プロフェッショナル事業本部長の井上祐介は入社前、MTGの販売代理店を営んでいた折、自社で問題が起きた経験を持つ。取引を切られる可能性も覚悟して松下まで報告に行くと、「井上さん、大丈夫だよ。いつでも支えるから」と言われた。


   さて、その問題がまだ解決していないというのに、松下から15周年記念式典への誘いがあった。そればかりか「約30社ある販売店の代表としてスピーチをしてほしい」と打診されたのである。井上は驚き、「先日の問題を抱えているので、申し訳ないがお断りさせて頂きたい」と返すと、松下は言った。


   「私も経営者の端くれですから、そんなことは分かっています。分かっていて頼んでいるんです。あなたが良い時だけの付き合いはしません。どうかその場所を、あなたの再出発の場にしてください」


   井上は「もし問題が起こった時点で契約を切られていたら、今頃どうなっていたか分からない。社長に救ってもらいました」と感謝する。


   また前述の長友は、20年以上の付き合いがある古株らしく、デンソーの先輩社員であった頃の松下を回顧して懐かしむ。


   「何か揉め事があると、それを聞きつけては、自身は関係が無いにもかかわらず矢面に立ち、解決しに向かう。初めて男に惚れるという気持ちを味わいましたね」


フィロソフィを浸透


   そんな松下が率いるMTGでは、フィロソフィを浸透させるためのルールブックを作っている。これだけであれば、施策として行っている会社も多々あろうが、MTGでは実践の場を重視する。


   まずは毎日の朝礼。全社で理念の唱和をした後、各グループに分かれて、再度朝礼を行う。ここでは、理念を抽象的な概念として捉えるのではなく、実務に落とし込むため、ルールブックの中から条項を取り上げ、それに関して自身の体験を話したり、それにフィードバックをもらったりする。こうしたブレストを毎朝行うことで、自然とフィロソフィが行動に体現されるようになるのだ。


   また、チームで月に1回集まる活性会も重要だ。ランチミーティングのこともあれば、飲み屋で集うこともあるが、毎回フィロソフィに沿ったテーマを決め、話し合いながらフィードバックを落とし込む。同じフィロソフィでも、他人の意見を聞くことで、自身の考えの幅も広がっていく。もちろん、チームとしての信頼関係構築にも繋がる。


   そして、有志で集って行われるのがフィロソフィの塾「光塾」だ。こちらも頻度は月に1回。休日に会議室などを借り、合宿のような雰囲気で集まって、自らフィロソフィの浸透を図る。しばしばゲストとして社長の松下や役員が参加することもある。


   最後に、全社のベクトルを合わせるため、半年に1回開かれる方針発表会。各事業のビジョンやミッションを共有し、フィロソフィを改めて全社員で共有する。


   こうしたフィロソフィの徹底的な浸透が全員経営の基礎となり、社員一人ひとりが本分を果たすことで、今日のMTGの飛躍がもたらされているのである。



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