トピックス -企業家倶楽部

2019年11月11日

2020年代は宇宙時代になる/アクセルスペース 代表 中村友哉

企業家倶楽部2019年12月号 来たる!宇宙時代vol.1


 近年、宇宙に関するニュースが世間を賑わせています。国内ではZOZOの社長を退任した前澤友作さんが、民間人として初めて月旅行に行くことを発表し、多くの人を驚かせていますね。

 そして海外に目を向けると、テスラの創業者であるイーロン・マスクが設立したスペースXが、商業用ロケットの打ち上げに成功しました。さらにアマゾンの創業者であるジェフ・ベゾスが設立したブルーオリジンは、有人宇宙船の打ち上げを計画しています。このように、私たちの想像を遥かに超えるスピードで「宇宙」は身近なものになっていくでしょう。



民間宇宙開発は宇宙への憧れから始まった

 さて、宇宙開発はいつから始まったのでしょうか。その起源は冷戦時代に遡ります。アメリカとソ連が、国の威信をかけて投入資金を顧みずに技術開発競争を繰り広げました。その結果、世界初の人工衛星「スプートニク1号」の打ち上げ、「地球は青かった」という言葉を残したガガーリンによる初の有人宇宙飛行、さらにアポロ11号の有人月面着陸成功と続きました。

 しかし冷戦が終結すると、宇宙開発は「競争」から「協調」に変わりました。それまでは勢いがありましたが、予算が抑えられてイノベーションが起きなくなります。アポロ以降、人類が月に行っていないという事実からも、宇宙開発の停滞が分かるかと思います。

 そんな中、宇宙開発の膠着状態を打破する動きが90年代に起こりました。IT長者たちの参入です。アメリカ人の多くは「宇宙に行きたい」という夢を持っています。彼らは「宇宙への憧れ」を叶えるため、私財を投入してロケット開発などの宇宙事業に関わっていきました。そして2000年代に入って、ジェフ・ベゾスやマイクロソフト共同創業者のポール・アレンといった企業家が、宇宙開発の企業を立ち上げ始めたのです。

 
 90年代に民間による宇宙開発事業が芽生え、00年代に入って民間宇宙開発企業が現れました。民間宇宙開発の原動力となったのは、アメリカ人の中にある宇宙に対する純粋な「憧れ」や「好奇心」であったと言えます。



日本では宇宙事業に逆風

 そして00年代後半になると、「○○をやります」と宣言した企業家に、そのビジネスさえ面白ければ、実績は無くともVCが資金援助するようになりました。それによって、宇宙事業を行うベンチャー企業がアメリカで現れ始めたのです。

 なぜアメリカのVCはリスクの高い投資をすることができるのでしょうか。現在活躍するVCの多くは、若い頃に投資家から支援を受けて起業し、成功を収めた人々です。そして今度は彼らが投資家となり、宇宙開発の分野で面白いビジネスを行おうとしている企業家にチャンスを与える。自分たちが資金援助を受けた恩返しとして、野心ある企業家に投資する流れが出来ているのです。

 一方、日本は状況が違いました。日本の投資家は実績やビジネスモデルの正当性などを重視し、確実な案件にしかお金を出したがりませんでした。それに加えて、「誰が宇宙事業なんかに投資するか」というスタンスで、宇宙領域でビジネスをするなど不可能だと思われていたのです。

 そんな宇宙ビジネスに対する風当たりの強い日本で私たちも起業したわけですが、アクセルスペース創業の経緯は特殊なものでした。元々私たちは東京大学から大学発ベンチャーを立ち上げるプロジェクトを前身としており、助成金を受け取りながら人工衛星を開発していました。しかし、当然ながら助成金には期限があります。人工衛星を作り続けるには資金が必要であり、営業活動を行う中でウェザーニューズ社の人工衛星を開発する契約が決まりました。この契約が無ければ、アクセルスペースは立ち上がらなかったでしょう。このように私たちは、VCから資金調達を行うアメリカ型のスタイルとは全く違う形での起業だったのです。



小型衛星はキューブサットが起源

 このような経緯で、08年にアクセルスペースを設立することとなる私ですが、大学時代は缶から作る缶サット、10センチ立方のキューブサットといった超小型の人工衛星を作っていました。

 人工衛星と聞くと、国家予算で開発しているNASAやJAXAの衛星を思い浮かべるかもしれませんが、私たちは彼らとは考え方がまるっきり違いました。莫大な国家予算で人工衛星を作るJAXAには失敗が許されません。一方私たちは「バグが起きても良い、とにかく自分たちの人工衛星が宇宙で1週間生き延びれば良い」というスタンスで開発を始めました。

 JAXAの衛星を作る際に使われる部品は、宇宙という過酷な環境に耐えうるものでなくてはならないので、価格が非常に高く、納期も半年後になるので学生では手が出ません。そこで私たちは、東京・秋葉原で買った部品で衛星を作ることにしました。

 その部品も衛星の一部として宇宙に行くわけですから、当然テストはしなければなりません。ただ、その時も「壊れなければ良い」という最低条件で放射線テストなどを行いました。確実に失敗を避けるため、高品質の素材を使って人工衛星を作る国家プロジェクトではあり得ませんが、「壊れなければ良い」というところまで信頼性要求を下げれば、秋葉原の部品でも宇宙に行けるのです。

 結果的に、私たちが開発したキューブサットの打ち上げは成功し、それが日本上空に来た時には、しっかり交信を行うことが出来ました。「大学生が秋葉原の部品で作った衛星が宇宙で機能した」という成果は大きな注目を浴び、世界中の大学で小型衛星を作る機運が高まりました。

 世界中の大学で高精度の小型衛星が作られるようになると、鼻が利くシリコンバレーの投資家が人工衛星の技術に目を付け、我先にと宇宙ベンチャーに投資し始めました。ロケット事業はまだ私財を投入して行うことが多いですが、人工衛星ビジネスにはVCが多く付いたのです。小型人工衛星を作る動きは、キューブサットが先駆けになったと言っても過言ではないでしょう。



民間企業の参入を促したサービス調達

 NASAは11年、スペースシャトルによる宇宙計画を終了。そのため国際宇宙ステーション(ISS)への人員輸送は完全にロシアに依存していました。そんな中、今年、NASAはアメリカ本土からの有人宇宙飛行を目指し、ISSへ宇宙飛行士を運ぶ有人カプセル搭載のロケット開発を民間に委託したのです。そこで受注を行ったのが、ボーイング社とスペースXでした。

 このように、今まで国が全てを行ってきた宇宙開発を民間企業に委託し、国の代わりに開発してもらう「サービス調達」が、民間企業の宇宙開発への参入を促しました。今回、創業間もないスペースXがサービス調達を受注しましたが、以前このようなことはあり得ませんでした。

 宇宙開発は国家的な大事業であり、サービス調達の受注企業として名乗りを上げるためには実績が必要でした。そのため実績の無い中小・ベンチャー企業は入札することすら不可能だったのです。ただ、これでは産業の新陳代謝が促進されませんので、一定の割合で中小・ベンチャー企業からも調達することが義務付けられました。

 サービス調達では「軌道上でこれをやってください」のような形でミッションが課せられます。しかし裏を返すと、ミッションさえしっかりこなせば、それ以外の部分は受注した企業の裁量に任されるということなのです。

 例えば、「ISSに物資を運ぶ」というカーゴミッションを遂行しながら、輸送船にカメラを搭載して宇宙で機能するか確認するなど、ミッションのかたわらで自分たちの実験を行うことができます。スペースXも「ISSのカーゴミッション」を受注して大きく成長しました。アメリカのサービス調達は国内の民間宇宙事業者を増やし、成長する場を提供したと言えます。 



2020年代は宇宙ビジネスが本格化

 宇宙ビジネスは元々国の事業であり、国が全て行ってきました。しかし、現在はサービス調達などで、国の事業を民間企業が担うようになりました。そして20年代は、民間企業の宇宙活用を民間企業がサポートする時代となっていくでしょう。

 宇宙ビジネスと言っても様々ありますが、一番早くサービスを提供できるのは人工衛星の分野だと思います。私たちも創業当初ウェザーニューズ社の衛星を作ったように、衛星は宇宙ビジネスの中でもエンドユーザーに一番近いのです。衛星事業者は20年代の前半にはフルサービスが提供できるでしょう。

 反対に、まだ時間が掛かりそうなのはロケット業界ですね。ロケット開発には専門的なノウハウが必要で、開発期間やコストは人工衛星の比ではありません。

 さらにネックなのが実績です。「開発が終わったから打ち上げます」と言っても、「実績が無いから失敗するのではないか」と利用者に思われてしまいます。つまりロケットはある程度の実績を積まなければ利用してもらえないのです。しかし、新規参入の企業は実績を積もうにも、ロケットを打ち上げることが出来ないというジレンマに陥ってしまう。こうした状況から、ビジネスとして展開していけるのは20年代後半でしょう。

 小型ロケットに需要があることは確かです。今まで人工衛星を打ち上げる時には、大型のロケットに相乗りしていました。しかし相乗りとなると、どうしても大型ロケットのメイン顧客の軌道に行くことになるので、ターゲットとする軌道に制限が掛かります。また、人工衛星に不具合があった場合でも打ち上げを延期することは出来ません。

 一方、小型ロケットであれば好きなタイミングで、目標の軌道に行くことができるなど柔軟性がありますから、ニーズは大きい。現在、ロケット業界には多くのプレイヤーがいます。おそらく20年代前半には激しい競争が起こるでしょう。

 国が行っていた宇宙事業を民間が請け負うようになり、そして民間対民間の宇宙ビジネスが活発になれば、宇宙事業の市場規模は、国家が策定する宇宙関連予算を遥かに超えていきます。



最新技術が宇宙開発に追い風

 最近はAIやIoT、5Gなどの最新技術が私たちの生活を大きく変えていますよね。そうした技術は同様に、宇宙開発の発展にも大きく貢献しているのです。

 私たちは今年から「アクセルグローブ」というサービスを立ち上げました。これは、上空600キロの同一軌道上に複数の小型人工衛星を打ち上げて地球全体を毎日観測し、そのデータを解析してお客様に提供するサービスです。

 
 アクセルグローブをビジネスとして展開するには、二つの大きな問題がありました。

 一つはデータの保管です。毎日地球を観測すると、年間でペタバイト級の膨大なデータ量になります。私がアクセルスペースを創業した08年当時では、そのようなデータ量を毎年保管する場所は存在せず、保管できたとしても莫大なコストがかかりました。しかし、現在はクラウド技術の向上に加えて、データ保存容量あたりの単価が低下したことによって、大量のデータを取り扱うことが可能になりました。

 もう一つが画像の解析です。従来の衛星写真は、専門知識を持った人たちが一枚一枚手作業で解析を行っていました。アクセルグローブでは、毎日地球上を撮影した膨大な衛星写真が人工衛星から送られてきます。それを一枚ずつアナログで解析していてはビジネスになりません。そこにAIによる自動解析の技術が登場したことで、大量の衛星写真を解析し、お客様に提供できるようになりました。

 アクセルグローブの場合は、AIとクラウドによってサービスの実現性が高まりました。これからも「最新技術×宇宙」という視点から、様々なサービスが生まれてくることでしょう。



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