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2019年11月18日

欧米の自治体で広がる「気候非常事態宣言」トランプ米大統領への警戒心も影響か/千葉商科大学名誉教授 三橋規宏 Tadahiro Mitsuhashi

企業家倶楽部2019年12月号 緑の地平 vol.50


三橋規宏 (みつはし ただひろ)

経済・環境ジャーナリスト 千葉商科大学名誉教授

1964 年慶応義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞社入社。ロンドン支局長、日経ビジネス編集長、論説副主幹などを経て、2000年4月千葉商科大学政策情報学部教授。2010 年4月から同大学大学院客員教授。名誉教授。専門は環境経済学、環境経営論。主な著書に「ローカーボングロウス」(編著、海象社)、「ゼミナール日本経済入門25 版」(日本経済新聞出版社)、「グリーン・リカバリー」(同)、「サステナビリティ経営」(講談社)、「環境再生と日本経済」(岩波新書)、「環境経済入門第4 版」(日経文庫)など多数。中央環境審議会臨時委員、環境を考える経済人の会21(B-LIFE21)事務局長など兼任。
 



18カ国、970自治体が表明

 地球温暖化が原因の気候変動が激しさを増している。異常気象が常態化し今年も北半球の日本、欧州、北米は猛暑に襲われた。1カ所に集中的に降る豪雨、それに伴う洪水、山崩れなどの災害が目立つ。台風も大型化し凶暴化している。生態系も世界のあちこちで破壊され、生物種の絶滅スピードは1日に約100種と推定され、このままでは25~30年後には地球上の全生物の4分の1が失われてしまうという試算もある。森林火災も世界中で発生している。カリフォルニア、シベリア、インドネシア、さらに今年のアマゾンの森林火災は空前の規模に達し、このまま放置すれば世界の酸素の20%を供給する大森林地帯が近い将来砂漠化してしまう、と警告する科学者もいる。


 地球の気候は明らかに異常性を増している。本気で取り組まないと悪化する気候変動を食い止めることができなくなる、こんな危機意識からこの数年、「気候非常事態宣言」(Climate Emergency Declaration=CED)を決議、発表する地方自治体が欧米中心に急増している。危機を共有し温暖化対策や生態系の維持、保全に全力で取り組む決意表明が緊急課題になってきたためだ。

 この運動を呼びかける団体(国際気候非常事態フォーラム・ICEF)によると、これまでに18カ国、970の自治体が非常事態宣言を表明している。CED自治体が多い国としてはカナダ(447)、英国(318)、ドイツ(38)、オーストラリア(39)、米国(26)などの欧米先進国が目立つが、アルゼンチンやフィリピンなどの開発途上国の自治体も数は少ないが宣言に参加している。


 さらに今年5月~7月には英国、アイルランド、ポルトガル、カナダ、フランス、アルゼンチンが国家として非常事態宣言を発表した。


 ところが不思議なことに、非常事態宣言する自治体や国の中に環境先進国の北欧諸国(デンマーク、スウェーデン、ノルウェー、フィンランド)が入っていない。その理由として考えられるのは、これらの国の首都がすでに今世紀前半にカーボンニュートラル(炭素中立)の達成目標を掲げ取り組んでいることだ。カーボンニュートラルとは環境化学用語で、排出されるCO2と吸収されるCO2が同量であるという意味だ。コペンハーゲンは2025年、オスロは30年、ヘルシンキは35年、ストックホルムは40年までにカーボンニュートラルを達成するための実行計画を進めている。非常事態宣言をするまでもないということだろう。



人口も経済活動も地球の限界を超えてしまった

 北欧諸国を別にして、非常事態宣言が必要になってきた背景には世界人口の急増、それを支える経済活動が地球の限界を超えてしまったことが指摘できよう。


 人口も、経済活動も地球の許容限度をとっくに超えてしまった。「77億人の世界人口が日々大量の資源エネルギーを消費し、大量の廃棄物を排出しながら各人の幸福を追求している今日の文明が生態系や地球環境に膨大な負荷をかけていることは容易に想像される」とこの分野の専門家、山本良一東大名誉教授は指摘している。


 地球温暖化対策としてはパリ協定による温室効果ガス削減の国際条約が来年からスタートするが、欧州では国任せ、自治体任せだけではなく、個人ベースでも、やろうと思えばやれることがたくさんある、まず「隗(かい)から始めよう」との機運が盛り上がっている。



欧州では夜行列車が復活利用者急増

 そのひとつが夜行列車の復活だ。欧州の夜行列車はこの数十年飛行機に押され衰退気味だった。しかし大量の温室効果ガスを排出する飛行機を避けて夜行列車を利用しようと呼びかけてきた環境NGOなどの運動が浸透し、利用者が急増している。

 脱飛行機といっても完全に利用できなくなれば人の移動が大幅に制限され経済活動だけではなく飢餓国や衛生環境の劣悪な国への食糧支給、医療支援などにも大きな障害になる。要は便利だからといって過剰利用は避け、緊急性がなければ時間がかかっても鉄道に切り替えようとする運動である。フランスでは今年7月、環境税として同国発の航空便の利用客に一人当たり最大18ユーロ(約2100円)を来年から課す方針を明らかにした。税収は鉄道の整備などに充てるという。スウェーデンはすでに昨年、同様の航空券課税を導入している。


 欧州では夜行列車が復活利用者急増

温暖化軽視のトランプ大統領に世界の自治体が警戒心

 気候非常事態宣言をする自治体がこの数年急増してきたもう一つの理由として、地球温暖化の影響を軽視し、パリ協定からの離脱を掲げ、国内の石炭火力発電規制の緩和などを打ち出し経済優先、アメリカファーストを掲げる米トランプ大統領の登場が指摘できるだろう。しかも彼に同調する他国の政治指導者が増えていることだ。


 その典型が今年1月に就任したボルソナーロ・ブラジル大統領だ。極右政党出身で、「ブラジルのトランプ」と称されている。環境保護より経済優先を掲げ、アマゾンの積極的な開発を掲げて大統領になった。アマゾンは南米9カ国に広がる世界最大の熱帯雨林帯だが、その6割がブラジル領だ。ハンバーガー用の肉牛牧場、主として中国向けの大豆農地を広げるため森林の伐採が続けられている。今年アマゾンの火災が異常な広がりを見せた背景には焼き畑づくりのための人為的な火災が目立った。

 非常事態宣言を最初に決議した自治体はオーストラリアのメルボルン郊外に位置するデアビン市だった。2番目が17年2月7日の同じオーストラリアのヤラ市、3番目が米ニュージャージー州のホボーケン市と続く。一方トランプ大統領が米大統領に就任したのが17年1月20日だ。トランプ大統領が登場するまでは、非常事態宣言を決議する地方自治体は極めてまれだったことが分かる。それからわずか2年ほどの間に、冒頭で指摘したように非常事態宣言する自治体が世界で1000近くまで増えたのは、地球温暖化軽視のトランプ大統領や彼に同調する他国の政治指導者の登場に世界各地の自治体や住民が危機感を募らせ、非常事態宣言の形で反旗を掲げるに至ったのではないだろうか。

 残念だが日本ではまだ気候非常事態宣言をする自治体はない。

 福島原発事故以降、石炭火力にしがみつく日本の温暖化対策は欧米と比べ大幅に遅れている。今回の「気候非常事態宣言」の動きについても、対岸の火事を眺めるような危機感なしの日本の消極的な姿勢に驚きを禁じ得ない。



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