トピックス -企業家倶楽部

2019年12月02日

効率経営を武器にニッチ市場を掴む/ピーバンドットコムの強さの秘密

企業家倶楽部2019年12月号 ピーバンドットコム特集第2部


(文中敬称略)

 プリント基板のECサイト運営で躍進するピーバンドットコム。国内外約30社の工場を繋げることでファブレス経営を実現し、少量多品種のニッチ市場で存在感を増している。広くニーズを汲み取り、信頼に応える姿勢で、多くの顧客から支持を集める同社の強さの秘密に迫る。



強さの秘密1・ニッチトップ

モノづくりベンチャーが重宝


 電子機器が氾濫する現代にあって、あらゆるモノづくりに必要不可欠な商材と言っても過言ではないプリント基板。これをインターネットで手軽に注文できる仕組みを作っているのが、ピーバンドットコムだ。同社のEコマースサイト「P板.com」にアクセスし、諸々の仕様を入力すれば自動で見積もり。注文から最短1日で、必要な基板を受け取ることができる。

 数えきれない場所で使われるプリント基板だが、ピーバンドットコムが受けるのは、主に小ロット生産の注文だ。最低1枚からでも購入できるようになっており、一度の平均注文数は20枚程度。平均単価は7〜9万円だという。これを毎日、約150件受注しているというのが現状だ。

 具体的な顧客としては、まず製造ベンチャーが挙げられる。ロボットベンチャーとして東証マザーズにも上場しているサイバーダイン、スタイリッシュな電動車イスを開発するWHILL、小型人工衛星を手掛けるアクセルスペースをはじめ、新進気鋭のモノづくりスタートアップが製品の試作や少量生産を行う際には、必ずと言って良いほど「P板.com」に発注がかかる。

 また、大学の研究室や高等専門学校、理化学研究所などにも重宝されている。テレビでもお馴染みのロボットコンテストで学生たちが操作しているロボットの中には、「P板.com」で取り寄せたプリント基板が内蔵されている可能性が極めて高いと言えるだろう。


 試作や試用ではない受注ケースとしては、あまり数の出ない高額な医療機器がある。1個あたり10〜15万円する補聴器、MRIの撮影機械、歯科医院に備えられる電動椅子などは、ピーバンドットコムの範疇だ。




ニッチ市場で躍進


 家電量販店に並ぶような10万単位の数を生産したい場合は、中国にある工場と直接取引してスケールメリットを生かした方が得策だろう。トヨタやパナソニックといった大企業は、そうした製造網を確保している。

 一方、ピーバンドットコムが受注するのは多くても1000枚単位。大量生産品との住み分けをはっきりさせ、あくまでニッチ市場に特化しているのだ。その取引実績は、2018年1月末で2万社を超えた。 現在、こうした試作などを含む小ロットのプリント基板市場は6000億円とされる。ピーバンドットコムは20年3月期予想で売上げ22億円と、未だマーケットシェアは約0.3%に留まるが、社長の田坂正樹は「裏を返せば、まだまだ成長余力に溢れていると言える」と事業拡大に意欲を示す。

 事実、Eコマースの潮流は製造業にも押し寄せている。経済産業省の「電子商取引実態調査」によると、電子部品・デバイス製造業を含む電気・情報関連機器製造業の市場規模は36兆円に上る中、EC化率は08年39・5%から18年53・5%と右肩上がりだ。


 これに比例するように、「P板.com」の登録ユーザー数は伸長を続け、19年6月末時点で約5万4000に達している。1年に1回以上発注するアクティブユーザー数も約2万5000と好調だ。



強さの秘密2・利便性

24時間365日発注可能


 ピーバンドットコムが支持される最大の理由は、やはりインターネット上で24時間365日、どこにいてもプリント基板を発注できる手軽さだろう。「P板.com」にアクセスして仕様さえ打ち込めば、簡単に見積もりを取ることが可能。設計データを持っていれば、即注文までできてしまう。エンジニアとしては煩雑な交渉や手続きが要らず、願ったり叶ったりである。

 プリント基板において少量多品種のニッチ市場をターゲットに据えるということは、多くの注文が唯一無二のオーダーメイド製品となることを意味する。通常ならば一つの製品ごとに個別対応する必要があるが、ピーバンドットコムはこれを可能な限り標準化。作りたい基板の種類、用途、寸法、製造枚数といった最低限の必須項目から、板の材質や厚み、表面の色、特殊加工の有無といった詳細設定まで、メニュー画面に沿って仕様を選択し、数値を入力していくだけで、お客が苦労することなく見積もりを取れるようにした。言わば、オーダーメイド品の製造を仕組みに落とし込んだ形だ。

 そうした仕組みは、「一度作れば終わり」というわけにはいかない。新技術がどんどん生まれ、新しい要望も次々と舞い込んでくる中、ピーバンドットコムはサイトの立ち上げ以来、常にメニューの改善を重ねてきた。その際には、新たな仕様を見積もれるように加えるばかりでなく、需要の少ない設定を外すことも行うなど、ユーザーの利便性を第一に考えたサイト作りを心掛けている。


 営業事業部でシステム開発チームのリーダーを務める箕浦道雄は「標準化に完璧はあり得ません。私たちはウェブでの販売に100%特化しているからこそ、改善努力を怠らずに続けられる。対面販売を行う片手間でECサイトも立ち上げているような競合が、こうした絶え間なく細かいアップデートに対応していくのは困難でしょう」と自社の強みを語る。




最短翌日納品が売り


 その納期の早さも、ピーバンドットコムの特長だ。国内の工場で製造した場合、最短1日で納品が可能。海外で作っていても、最短2〜3日で届けられる。

 当然、納期は長く設定した方が安く済ませることができるが、背に腹は代えられないような緊急の案件も多い。「不測の事態で基板が壊れてしまった」「他社に頼んで作った基板の質に納得が行かない」「急遽納品せねばならない製品の基板が1個足りない」などなど――5日待てば3万円で買える基板が、翌日納品では15万円する場合もあるが、それでも翌日注文は絶えない。


 最終製品自体の価格が非常に高く、部品の原材料費を吸収できるため、基本的に価格よりも早さが重視されるケースもある。例えば何千万円もするような医療機器を販売するメーカーの場合、「15万円で翌日届くのならば、3万円で5日間待つよりもそちらの方が良い」との判断に至りやすい。



強さの秘密3・信頼性

納期遵守率99%以上を常に維持


 ピーバンドットコムが誇るのは、驚異の納期遵守率だ。10月12日現在で99・172%。年間で平均しても、東日本大震災のあった11年も含めて、毎年99%以上を達成している。

 プリント基板はあくまで製品の一部であり、最終完成品ではない。また、試作のために注文している場合は、そのチェックを踏まえなければ、本格的な製作に入ることができない。したがって、基板の納期が定まらなければ、後の製造工程に重大な影響を及ぼしかねないのだ。これこそ、ピーバンドットコムが納期遵守率を重視する所以である。

 その納期遵守のための施策には、執念すら感じるほどだ。例えば、海外の工場で生産した製品を納める際には飛行機便を飛ばすこととなるが、万が一これが台風などの影響で欠航になったとしても、民間便を使ったハンドキャリーで運ぶ仕組みを構築している。そうした業者は各国に存在するのだ。


 田坂は前職のミスミ時代、阪神・淡路大震災の非常事態にあってもヘリコプターを飛ばしてまで各地に製品を届けようとした自社の姿を克明に記憶している。「私は当時、どうして10円や100円程度のものを納めるために、採算度外視でこんな大掛かりなことをするのかと疑問に思っていましたが、ミスミは困っている人たちにこそ製品を届けることで信頼を勝ち得たのです。それが後の飛躍に繋がりました」




全てのデータを人の目でチェック


 ピーバンドットコムは、ただ顧客と工場の間を機械的に取り次いでいるわけではない。顧客が製造しようとしているプリント基板のデータを確認し、完成した際にきちんと機能するかどうかにまで注意を払っている。

 顧客が基板の製造データをアップロードすると、まず「ウェブチェッカー」が走る。これは、完全とまではいかないが、設計図の画像データを元によくあるミスを自動で見つけてくれる優れものだ。例えば、電気が通る銅線の配線が近すぎると、「これではショートしやすくなってしまいます」といった具合に問題を発見。該当する箇所が画面上で分かる。今後はAIも駆使し、データの不備をより細かく見つけられるようにする計画だ。

 極めつけは、全ての注文案件に対して網羅的に行われる人の目によるデータチェックである。その間に何かあれば、お客に全てフィードバック。送られてくるデータの3割は、何らかの理由で差し止められるという。

 中には、ピーバンドットコムの徹底したデータチェックに信頼を置き、それを目的としてデータを投げてくるお客もいる。自社できっちりチェックする手間が省けて時間短縮にもなるというわけだ。

 ピーバンドットコムもその期待に応え、「きちんと動く製品が作れるか否か」だけでなく、「このままでも問題ありませんが、もし量産をご希望ならばこのように改善することをオススメします」といった提案まで行う。こうした対応力では、他社の追随を許さない。

 カスタマーサポート部の部長で、元々基板エンジニアだった宮坂俊明は、「たとえお客様が頑なに『このままで良い』と言っても、明らかに使えない製品を納めるのは避けたい。それならば仕事を請けない方がマシだ」と想いを吐露する。「使えるものを作ってこそ製造業。モノづくりをしている以上、使えないものを納めてお金をいただくほど嫌なことはありません」と技術者魂を見せる。

 ピーバンドットコムの競合としては海外サービスも多いが、基板の設計図におかしな点があっても、そのまま機械的に工場に流し、作ってしまうことがほとんどだ。あるいは、良かれと思ってデータを勝手に独自編集されるケースもあるという。そのような通知がお客に入ることはまず無いため、お客は仕上がってきた基板を見て、初めて思っていた製品と違うことに気付く。


 そうした競合のあり方について「ネット通販なので、一つの正解ではある。でも、私たちはそうじゃない。人間がいて、ちゃんと確かめるのが大きな特長です」と宮坂。人の目で見る以上、アナログな部分は多い。当然、人件費もかかる。しかし、これが圧倒的な安さを売りにする海外企業との差別化になっているのも事実だ。




通信簿を受け日々改善


 ピーバンドットコムは製品出荷時に、同社に対する通信簿を同梱している。感謝の言葉から辛辣な評価まで様々だが、いずれにせよ大事な「声」であることには間違いない。特に要望に対しては真摯に受け止め、それを元に改善した事例は数多くある。

 例えば、着日指定。ピーバンドットコムでは、依頼を受けてからオーダーメイド製品を作って納品するビジネスモデルの性質上、既存の在庫を出荷しているわけではないので、着日までは確定できなかった。前述の通り、ピーバンドットコムは納期の順守を絶対条件にしている。したがって、守るべきは出荷日であり、極力早く製品を届けることを是としてきたのだ。

 ただその場合、金曜日に出荷すると土曜日に着いてしまう。多くの企業は土曜日が休業なので、届けられても受け取れないというケースが目立った。そこで、これまでは顧客から個別に電話連絡してもらい、月曜納品とする形を取っていたところ、1週間先までは注文時にネット上で着日指定できるようにしたのである。


 場所代など費用の観点から考えても、在庫を抱えるのは得策ではないため、ピーバンドットコムとしては、お客の求める納期から逆算して生産を行うことでコントロールする。これも、納期遵守率99%以上という実績があるからこそ為せる業と言えよう。



強さの秘密4・持たない経営

プリント基板のラクスル


 毎日多くの案件を受注するピーバンドットコムだが、その社員数は20数名と少ない。人数が少ない分、利益率も経常利益ベースで19年3月期14・2%と非常に高い。

 田坂も「仕組みがしっかりしているので、あまり人は増やしません。人を増やしたからといって売上げや利益が伸びるビジネスモデルではないのです。より秀逸な仕組みに磨き上げていくことに注力しています」と説く。

 このように、少数精鋭の社員が一人あたり1億円の売上げを叩き出しているピーバンドットコム。以前より、「自動販売機のようなビジネスモデルを作りたい」と例えてきた田坂だが、こうした仕組み化と効率経営の考え方は「ミスミ時代に自然と体得した」と語る通り、無意識のうちに継承していたようだ。

 その仕組みは、「プリント基板のラクスル」と表現すると分かりやすい。ピーバンドットコムは、自社で工場を持たないファブレス経営を実現。彼らは国内外約30 社の工場をネットワークしており、顧客が前述の簡単見積もりを行うと、求める基板の仕様、納期、価格などを勘案して、最も適当な工場に自動で生産が打診される。

 1社の工場に依存しないことで安定した製品供給が行えるわけだが、ピーバンドットコムはそれにあぐらをかかず、取引先工場と長期的な信頼関係を築くことを第一に考える。低価格かつ高品質な基板を期日通りに収めてもらえなければ、彼らのビジネスモデルは成り立たないからだ。


 その考え方は、台湾や韓国といった海外の提携工場に対しても同様である。「台湾、韓国の工場は20年前から品質が安定していて安心できる。コストも日本より安く、場所も近いのでメリットがある」と田坂。元々は、各国の業界団体に所属する基板メーカーに連絡を取り、直接訪問して提携関係を構築した。今では、国内と海外の生産量比は半々となっている。




基板製造をシェアリング


 ピーバンドットコムが謳う「イニシャルコスト無料」も、こうした仕組みの下に成り立っている。

 元々プリント基板を作るのは、版画のようなものだ。最初の「版」を作るのには時間とコストが掛かるが、それさえ仕上がれば量産は楽になる。だが、ピーバンドットコムの顧客は、大部分が少量生産を望んでいる。そして、仮に4〜5枚程度しか製造しないのであれば、わざわざ専用の「版」を作る必要はない。むしろ少量の注文では、製造段階で「空きスペース」が生じてしまうくらいだ。

 名刺の印刷を想像してほしい。10枚分の名刺を一度に刷ることのできるA4用紙があった場合、ある人が50枚、100枚と名刺を大量印刷したいのであれば、10枚の枠全てにその人の名前を刻んで量産すれば良い。

 だが、仮にその人が名刺を3枚しか必要としていない場合、残り7枚分のスペースは空いてしまう。いずれにせよA4用紙1枚(=10枚分の枠)を印刷せねばならないことに変わりはないため、それならば空いた7枚分のスペースに他の人の分の名刺も「同乗」させる形で印刷した方が経済的だ。

 これと同じ考え方で、ピーバンドットコムでは基板を製造する際、少量生産だからこそ発生しがちな「空きスペース」を有効活用し、複数の注文分をまとめて作ることでコストカットを実現した。言わば、プリント基板製造のシェアリングを行ったわけである。専用の「版」を作っていないため、大量生産には向かないが、少量の試作を製造する分には圧倒的な安価で提供できるので、イニシャルコストを無料にすることが可能となっている。

 従来、少量生産を望む顧客に対応するのはビジネスとして難しいとされてきた。プリント基板業界はメーカー主導で、数十枚、数百枚のような小量の製造は受け入れられず、納期や価格もメーカー側の言い分を聞かねばならなかったからだ。

 しかし、ピーバンドットコムはインターネットを駆使することで、こうしたしがらみからモノづくりに勤しむ中小規模の企業を解放。見事にロングテール市場を掴んだ。

 その結果、ピーバンドットコムの顧客分布は家電から通信機器、自動車関連に至るまで、特定の商品や領域に依存しないバランスの良いものとなっている。今後はここに、宇宙、ロボット、IoT、農業といった分野が入ってくるだろう。


 世界の流れも、誰もが同じ製品を手に取る大量生産・大量消費の社会から、多様化した個人がそれぞれに合った製品を購入する少量多品種の時代へと変わりつつある。バラエティに富んだ製品が生まれ続けるためのプラットフォームとして、ピーバンドットコムは時代の潮流に乗り、飛躍していくことだろう。



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