トピックス -企業家倶楽部

2019年12月06日

トランプ外交の行方/ニュースソクラ編集長 土屋直也

企業家倶楽部2019年12月号 国際政治入門

軌道修正の始まり

 世界の盟主であるべき米国の外交がトランプ大統領という特異なキャラで迷走を続けている。それが、世界の安全保障を非常に不安定にし、オーバーに言えばいつ軍事紛争が起こってもおかしくない危機の淵に立たせている。

 危機の震源地、トランプ外交に大きな変化の兆しが見えた。イランや北朝鮮、そして中国を猛烈に敵対視して、外交混乱の元凶だったボルトン前安全保障担当補佐官がついに9月10日に更迭された。トランプ外交はようやく軌道修正が始まったと言ってよいだろう。世界各地の緊張を緩和する方向で、不透明感の払しょくに一歩踏み出せたということはできる。

 なぜ、ボルトン氏を更迭したのか。これを振り返って分析することは、今後のトランプ外交の行方を占ううえで重要だ。

 直接的なきっかけは、アフガニスタンの反政府勢力タリバンとの和平交渉にボルトン氏が反対したことで、トランプ大統領の堪忍袋の緒が切れた。和平交渉は、大統領の山荘、キャンプデービットにタリバン幹部を8月に招いてトランプ大統領が最後の交渉をする「演出」まで整っていたが、交渉内容のなさにボルトン氏が強硬に反対してつぶれた。



ボルトン氏更迭の意味

 トランプ大統領がアフガン和平にこだわり、急いだのは、アフガニスタンからの米兵の撤退を実現したかったからだ。実施できれば、これまで十数年にわたって歴代大統領ができなかった「政治的な果実」を手にできる。

 なによりトランプ大統領にとって大きいのは、大統領選にプラスと読んでいるからだ。当たり前のようで、この判断の変化は大きい。これまではイラン、アフガニスタン、北朝鮮、中国と実際の果実は小さくとも、トップ交渉で外交的な進展があったかのように「演出」することを狙ったトランプ外交に、待ったをかけてきた最右翼はボルトン氏だった。

 強硬派としては強い「信念」のあるボルトン氏はトランプ大統領にとっては邪魔に思うことが多かった。今年2月の北朝鮮の金正恩氏とのベトナムでの会合を物別れに終わらせたのも、ボルトン氏だった。このため、6月に南北朝鮮の境界線、板門店で再会した際には、わざわざボルトン氏はモンゴルに送り込み、同行させなかったほどだ。

 政権内ではめずらしく盾突くことがあるボルトン氏をトランプ大統領にしては「我慢強く」使い続けてきたのは、彼を政権の中枢に据えることが、大統領選挙にプラスと判断してきたからだ。

 ここまでのトランプ大統領の再選戦略の要は、支持の基盤であったキリスト教福音派など、超保守層の支持を固めることにあった。トランプ氏が勝利した2016年の大統領選挙では、この層に訴えかける「アメリカファースト」と「親イスラエル」の政策を強く打ち出し、これまで選挙に出かけなかった保守層まで掘り起こすことで、事前予想を覆す勝利を手に入れた。

 この層に受けるため、中東情勢の不安定化をものともせず、米国大使館のテルアビブからエルサレムへの移転など露骨な親イスラエル政策もとってきた。この層の支持を確実にするうえで、強硬派ボルトン氏を中枢に据えることが必要だった。



トランプの誤算

 ボルトン切りは、この路線を修正し、より幅広い層に訴えかける和平路線へ選挙戦略を切り替えたことを意味する。強硬派の支持が多少揺らいでも、やむをえないと判断を変えた象徴がボルトン更迭だったといえる。

 このため、サウジアラビアの石油施設攻撃へのイランの関与を明言したにも拘わらず、トランプ大統領はロウハニ・イラン大統領との首脳会談の実現にこだわった。ボルトン更迭はそのための布石ですらあったのだが、イラン側から断られた。


 穏健派のロウハニ大統領は、チャネルの構築になるトランプ大統領との会談を検討した節はある。だが、一連のトランプ外交へのイラン国内の革命防衛隊をはじめとするイスラム強硬派の不信感は非常に強く、交渉を許さなかった。経済制裁で疲弊するイランとは、緊張緩和の糸口がないとは思えないが、交渉の基盤を築きなおすのは、ビジネスマン出身のトランプ大統領が考えるほど簡単でないことが明白になった。



カギを握る中国

 交渉の再構築が必要なのは、中国や北朝鮮との間でも言える。「中国は21世紀のソ連」と語り、対中急先鋒だったボルトン氏の更迭は、中国との交渉でも雪解けの期待を持てる一歩ではある。

 だが、3月に米中交渉が暗礁に乗り上げた裏には、米国側が中国の国有企業問題やあらゆる企業の定款に中国共産党の指導に従うことと書かされている点などにまで廃止を求めたことが、反習近平派ともいえる長老まで習近平支持でまとまらせてしまったという背景がある。

 中国政府は、香港での大規模デモの裏で資金提供などをしているのは米国との見方を強めていて、妥協すれば、他の少数民族問題にまで影響するとの懸念を強めている。

 長老も加わって毎年8月に開かれる保養地、北戴河 での会議でも、香港への強硬姿勢では習近平を支持する考えで共産党内は一致した。

 米中交渉でも、妥協より経済制裁を受けた方がましという空気が中国共産党を支配している。イランと同様に、これまでの乱暴な交渉が、相手を「強硬派」という形の一枚岩へ追いやってしまった。

 北朝鮮とのストックホルムでの実務者交渉でもわずか一日で「決裂」と決めつけられてしまった。

 ボルトン更迭は、トランプ外交の転換を示す明確なサインだ。にも拘わらず、その程度では振り向かせることはできないほど、米国と諸外国の関係は悪化してしまった。

 トランプ大統領の選挙目当ての外交転換は見抜かれ、足元を見られている。好転は容易ではないだろう。




P r o f i l e


土屋直也(つちや・なおや)

1961年生まれ。84年早稲田大学政経学部卒業、同年日本経済新聞社入社。86 年から3 年間ロンドン駐在員としてサッチャー首相の英国と金融街シティを取材。98年から4 年間ニューヨーク駐在中は、ウォール街を取材し、2001年9月11日の同時多発テロに遭遇。日本では主にバブル後の金融システム問題を日銀クラブキャップとして担当。バブル崩壊の起点となった91年の損失補てん問題で「補てん先リスト」をスクープし、新聞協会賞を受賞。2014 年7月、ソクラ創設のため、日本経済新聞社を退職。同年10月、株式会社ソクラを起業し、代表取締役兼編集長に就任。



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