トピックス -企業家倶楽部

2019年12月10日

汎用性の高い医療を目指して挑戦を続ける/窪田製薬ホールディングスCEO 窪田 良 氏

企業家倶楽部2019年12月号 核心インタビュー


「世界にインパクトを与える仕事をしたい」と語る窪田製薬ホールディングスの窪田良CEO。希少で治療法が無いような眼疾患をはじめとした新薬開発に挑戦し続け、在宅・遠隔医療モニタリング機器の製作にも力を入れる。昨年、そんな彼らにアメリカ航空宇宙局(NASA)から共同開発パートナーとして白羽の矢が立った。今回は、NASAとの提携に至った経緯から医療の将来展望まで、余すところなく伺った。
( 聞き手は本誌デスク: 相澤英祐)






NASAが注目した医療技術

問 今回NASAとの提携に至った機器について、具体的に教えていただけますか。

窪田 レーザーで網膜の細胞をスキャンし、解析する装置です。手の不自由な方や、機械の扱いに慣れていない方でも、簡単に自分で目の写真を撮ることができます。撮影や解析の際にはAIがガイド。もし異常が見つかれば、医師までアラートが届き、患者に診断を促します。

 この装置を使ってご自身で目を撮影すれば、自動で異常を検知しますから、本当に必要な時だけ通院していただくことができます。これにより患者と医師、双方の負担が軽減されるでしょう。病院でしかできなかった検査を家庭内で行えるよう、機器は超小型化し、個人購入できる価格に設定する予定です。

問 開発に際してはどのような問題意識があったのでしょうか。

窪田 まず、目の悪い方は通院するだけでも大変ですから、遠隔で診察を受けられるようにしたいとの想いがありました。また、目の病気の多くは自覚症状が無いため、気付いて病院に行った時には手遅れとなっている傾向があります。しかし、私たちの装置が家にあれば、簡単に目を解析できますので、自分が病気になる前や病気になった瞬間に、すぐ気付いて治療を受けられると考えました。

 これまで、ベンチャー企業の限られた予算の中で開発するとなると、優先順位を下げねばなりませんでしたが、「世界を変える」という自社の目的に沿った製品ですので、やはり投資することに決めました。

問 NASAが目を付けたポイントはどこでしたか。

窪田 現時点では、目の奥の写真を撮影するのは大変高度な技術で、眼科医といえども修行を積まねば習得できません。しかし私たちの製品には、メディカルエンジニアや眼科医でなくては撮れなかった目の写真を自分で撮れるという、画期的な技術が組み込まれております。


 実はNASAでは宇宙飛行士の目の病気に問題意識を感じており、眼科にあるような大きな機械を宇宙ステーションに運び込んで試用していました。しかし、現場に眼科医はいませんから、上手く撮れない。また、重ければ重いほど打ち上げコストがかかる宇宙領域において、機械が大きすぎるという難点は無視できません。そうした中、絶えず課題解決策を探しているNASAが、私たちの技術に注目したという次第です。



一般に向けた汎用性の高い事業へ

問 NASAからの依頼を受け、一般向けの機器と同時に開発しているのですか。

窪田 そうですね。NASAと開発している機器は、一般向けよりも複雑な仕様になると思います。耐久性、宇宙放射線の影響回避、省電力化など、様々な部分で宇宙仕様を満たす製品を作らねばなりません。

 そもそも、NASAは対 象としている病気が違います。今、私たちは黄斑部という、網膜の中心部を見る装置を一般市場向けに開発していますが、NASAが見たいと考えているのは緑内障の診断に必要な視神経の部分なのです。

 目と言っても様々な部位があり、病気によって見るべき場所が違います。私たちは加齢黄斑変性や糖尿病網膜症という、患者が多くてニーズの大きい部分にフォーカスしてきました。ただ、NASAからは「その技術を応用して視神経を見てくれないか。そして機器を宇宙仕様にできないか」と依頼を受けたのです。

問 なるほど。一般向けに開発していた製品とは、見ている目の部分が異なるわけですね。

窪田 その通りです。将来的には目の様々な部位を全てこの装置一台で診断できるようにしたいですね。これが一家に一台ある当たり前の装置となり、家で手軽に使えるとなると、そのデータは大変貴重なものになります。


 現在、医療データは病院ごと、医師ごとでしか持っておらず、中央管理されていません。私たちがこの装置を通してプラットフォームを構築し、全世界の医療情報を集約して見ることができれば、いつどこでどのような病気が起こっているのか分かる可能性もあります。地球上の莫大なデータを集めることで、要因を徐々に特定していけば、的確にライフスタイルの改善を促せる。このデータ解析が世界を変えると信じています。







簡単に目の奥を撮影して以上を検知

単一因子の病気に注力し成功確率を上げる

問 失明にも繋がる恐れのある加齢黄斑変性に対する飲み薬の開発は、その後どうなったのでしょうか。

窪田 残念ながら、加齢黄斑変性には効果がありませんでした。その考えられる一番の要因は、この病気が多因子疾患であることです。

 しかし、私たちは元々、若年性の黄斑変性であるスターガルト病に対する薬を開発していた経緯がありました。そこで、単一の原因で起こるスターガルト病に再び経営資源を振り向けることにしたのです。


 スターガルト病は、子どもが罹る失明疾患の黄斑変性の中では最も数が多い。この単一因子の病気に対する薬を開発することで、成功確率を上げる戦略です。



過去の経験を活かした新薬開発

問 スターガルト病の新薬開発に挑んでいる会社は他にもあるのですか。

窪田 たくさんありますが、私たちは臨床試験で既にフェーズ3に入っており、他社と比べて優位に立っていると言えるでしょう。新薬開発のプロセスにおけるフェーズ3とは、人を対象に多くの経験を積んでいることを示します。

 まずフェーズ1では、誤って処方を上回る錠数を服用したとしても副作用が出ないか、安全性を確認します。フェーズ2では、本当にその薬がターゲットの臓器まで行って効果をもたらすのかを見ます。鍵と鍵穴に例えれば、鍵に毒が無いか確かめるのがフェーズ1、その鍵が鍵穴にはまってドアが開くのか確認するのがフェーズ2。そして、その鍵で開けたドアの先で病気が治るのかどうかを調べるのがフェーズ3です。

 フェーズ1でおよそ8割の薬が失敗します。その段階を突破したとしても、フェーズ2でさらに半分ほどが上手く鍵を開けられません。私たちが以前開発に挑んだ加齢黄斑変性の新薬は、その先のフェーズ3で立ち止まってしまいました。ただ、2年間鍵を開け閉めしても、ドアも鍵も壊れず、非常に安全だということだけは分かりました。何カ月か経つと安全性試験で失敗してしまう事例もある中、私たちの開発した治療薬は安全性を確認済みですから、同じ黄斑変性であるスターガルト病の新薬開発では私たちが先を走っていると言えます。

問 スターガルト病の新薬開発は、加齢黄斑変性の際の経験が布石となっているのですね。

窪田 この布石はとても重要です。子どもに薬を飲んでもらうには、高い安全性が要求されます。例えば、70歳の方が残り20年薬を飲み続けるのと、10歳の子が残り80年薬を飲み続けるのでは、安全性の基準に相当な差があります。私たちの薬は、一般的に臓器が弱ってきている高齢者の方に2年以上服用していただいても問題ありませんでしたので、スターガルト病の新薬開発の際にはアドバンテージがあるのです。

 加齢黄斑変性の臨床試験で安全性が証明されているという事実は大きな財産となっています。この財産があるからこそ、様々なことにチャレンジできるのです。

問 現在、具体的にはどのような段階にあり、可能性はどれほどでしょうか。


窪田 スターガルト病の薬は進行を抑制するものなので、徐々に遺伝子が壊れていくのを止められるかを確認しています。動物モデルで最も人に近いとされるネズミの実験では成功しましたから、人にもきちんと効果があるのか試すわけです。2年後には結果が出ますが、安全性の高さはクリアしていますし、加齢黄斑変性の時より成功確率は高いと期待しています。



メディカルデータ企業を目指す

問 これまでで一番の苦労は何でしょうか。

窪田 あまり苦労と思うことはありません。スポーツ選手が苦しいトレーニングを経ても、結果が出ると楽しいので、やはりトレーニングしてしまうのと同じです。一時的には辛くとも、結果のために前進していると思うと楽しい。

問 企業家はそう考える方が多いですね。最後に、将来展望をお聞かせください。

窪田 私たちはメディカルデータの会社になりたいと思っています。私は究極的には人が病気にならない世界を目指しているので、誤解を恐れずに言えば、医師も薬も無くなれば良いと思っています。


 では、いかに病気を予防していくのか。鍵となるのは食生活かもしれませんし、その人の運動量やライフスタイルかもしれません。メディカルデータから理想的な生活環境を示唆・啓蒙することで病気が減らせるのであれば、それに越したことはないでしょう。今後も、世界にインパクトを与える仕事をしていきたいですね。



P R O F I L E

窪田 良 (くぼた・りょう)

1966 年兵庫県生まれ。91年慶應義塾大学医学部卒業、医師免許取得。96 年日本眼科学会専門医認定を取得、虎の門病院勤務。97 年緑内障原因遺伝子「ミオシリン」の論文発表、「須田賞」を受賞。98年慶應義塾大学医学部「三四会奨励賞」受賞。99 年慶應義塾大学大学院医学研究科博士課程修了、博士号取得。2000年ワシントン大学医学部構造生物学教室シニアフェロー就任。01年ワシントン大学医学部眼科学教室助教授就任。02 年アキュセラを設立し、社長兼最高経営責任者に就任。05年取締役会長就任。14 年慶応義塾大学医学部客員教授就任。16年窪田製薬ホールディングス会長、社長兼最高経営責任者に就任。19年NASA ディープスペースミッション研究代表者就任。



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