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トピックス -企業家倶楽部

2019年12月16日

グーグル対アリババ、スマートシティ巡り米中競うーAI、自動運転など先端技術のショーケースで火花

企業家倶楽部2019年12月号 グローバル・ウォッチ


貿易や技術の覇権を巡る米中の対立が続いている。「スマートシティ」が世界各国で注目を浴びる中、このデジタル先端技術のショーケースといえる分野でも米中のつばぜり合いが起きる可能性が出てきた。阿里巴巴集団(アリババ)は地元の杭州市で人工知能(AI)を使った都市のスマート化を進め、国内だけでなく海外にも展開しようとしている。一方、米グーグルがカナダのトロントで建設するスマートシティの全貌がこのほど明らかになったが、個人情報保護の壁などもあり計画は遅々として進まない。中国はトップダウンで計画を推進でき、新技術の実装も速く、人口100万人を超える大都市を米国の倍近く持つ。ファーウェイの次はアリババが米国の標的になるかもしれない。




   9月26日、アリババは杭州で毎年開催している国際会議「云栖大会(アプサラ・カンファレンス)」で、傘下のクラウドサービス会社、阿里雲(アリババクラウド)を通じて提供するスマートシティのAIプラットフォーム「城市大脳(ETシティブレイン)」が23都市に拡大していると発表した。北京、上海、広州のほか、習近平国家主席肝いりの新ハイテク都市・雄安も含まれる。2017年8月にはマカオにも展開することを公表。マカオにクラウドコンピューティングの機能を構築し、それを交通システムの管理のほか、観光客のモバイル決済やプロモーション、電子医療システム、行政システムなどへ4年間で展開する。18年1月には海外初の事業として、マレーシアのクアラルンプールにも進出することを発表した。渋滞緩和のほか、大学や研究機関にシティブレインを開放しイノベーションの推進に役立てるとしている。


   シティブレインは都市のビッグデータを収集して、交通やエネルギーなどをAIを使って効率的に管理するシステムだ。アリババはこのシステムを16年10月に発表し、杭州市政府とともに同市のスマートシティ化を進めてきた。シティブレインは監視カメラの映像データを受け取り、道路の運行状況を把握する。信号機を操作することで交通の流れを円滑にする。2年間で420平方kmのエリアにある1300超の信号機をコントロールするようになった。杭州はかつて中国国内で5番目に渋滞がひどい都市だったが、これが57位に下がったという。


   シティブレインは交通事故などの通報を受け取ると、そこまでの道筋にある信号機を青にすることでパトカーや救急車など緊急車両を素早く送り込む。シティブレインの導入で、杭州市蕭山区では車の平均移動速度が15%速くなり、平均移動時間は3分短縮されたという。また緊急車両の対応時間が半分になり、救急車の到着も7分早めることができたとしている。道路の画像から事故かどうかを特定する精度は92%を超え、事故の通報の前にパトカーに現場急行の指令を出すなど迅速な対応も可能になった。


   アリババは18年9月、「杭州シティブレイン2・0」を発表し、消防士の活動を支援して消火活動を最適化することを発表した。火災が発生した地域周辺の消火栓の数、ガス管の位置などの情報を消防士に素早く提供する。水道管など水回りの情報収集をすることで、水漏れ検知などに対応し水資源の最適化も図る。


   アリババは「シティ」と並んで、工場の製造工程などを管理する「インダストリアル」、医療情報を管理して最適な医療サービスの提供を目指す「メディカル」、廃棄物やエネルギーの管理をする「エンバイラメント」などAIブレインを多分野に展開する。航空機のフライト情報関連の「アビエーション」もあり、杭州蕭山国際空港では顔認識技術を使ってパスポートチェックが3秒で終わるようになったという。変装した人物もすぐに見つけることができる。北京国際空港では到着した航空機の駐機場の割り当てに威力を発揮し、駐機場の利用率向上、乗客を航空機まで送迎するシャトルバスの運行削減に貢献した。



■グーグルは1500ページの計画公表

   米国でスマートシティの事業化を目論むのはグーグルだ。グーグルの持ち株会社アルファベット傘下のサイドウォーク・ラボが新しいコンセプトの都市を世界に問おうとしている。

   6月下旬、サイドウォークは1年半かけて練り上げた、カナダ・トロント市のスマートシティの見取り図を公表した。トロントの中心ユニオン駅から東に約3kmほどにある「キーサイド(波止場)」。オンタリオ湖を望むこのキーサイドを起点に広がる、約3平方kmのエリア「イースタンウォーターフロント」を再開発する計画で、6月17日に同地区の再開発計画最終案(MIDP=基本技術革新・開発計画)を事業主体ウォーターフロント・トロントに提出した。同地区は資材置き場や廃棄物処理場などとして活用されるだけで、長らく放置されてきた未開発エリアだ。カナダ政府とトロント市はウォーターフロント社を01年に共同で設立し、向こう25年間で同地域を再開発する計画を打ち出した。17年3月に再開発計画の公募を開始し、17年10 月にサイドウォークを事業パートナーとすることを決定。それ以来、グーグルが何をやろうとしているのか世界の注目を集めていたが、サイドウォークはトロント住民などの意見を聞きながらMIDPをまとめ上げ、ようやく公表に至った。


   「トロント・トゥモロー~包括的成長のための新しいアプローチ」と題した報告書は1500ページを超えるボリュームで、概念を説明する「計画」、具体的なテクノロジーを紹介する「都市イノベーション」、官民で開発を進める取り組み方を説明した「パートナーシップ」の3部で構成。サイドウォークが考える「スマートシティ」のコンセプトが漏れなく詰め込まれた内容になっている。

   サイドウォークは15年6月、ニューヨーク市副市長やブルームバーグCEOなどを務めたダニエル・ドクトロフ氏がグーグルの支援を受けて設立したスタートアップだ。アリババのシティブレインが登場する1年以上前だ。ドクトロフ氏はマイケル・ブルームバーグ市長の下で、ニューヨーク市の再開発を推進した経験を持つ。サイドウォークはニューヨーク市に本社を置くが、手掛ける再開発はキーサイドが初めて。MIDPについて「世界で最も革新的な場所を創造するための道程について、私たちの最高の考えを表現した。21世紀の都市生活の新しい標準となるだろう」とドクトロフCEOは話す。


■グーグルは1500ページの計画公表

■「歩道」から変える

   サイドウォークは「歩道」の意味。同社はその名前が象徴するように、「歩行者ファースト」を徹底するため、車道よりも歩道を優先する都市設計を考えている。同社のスマートシティの特徴の一つが歩道に敷き詰める「モジュール化された敷石」。通常のアスファルトやコンクリートを敷き詰めた歩道と異なり、サイドウォークは六角形の敷石を置いていく。敷石は雨水を通すコンクリート製の平板で、LEDや電熱線を組み込んでいる。モジュール化することで歩道の補修や電気や水道管の工事も容易になる。モジュールの製造コストは高くなるが、維持費が低下することで、30年間で総コストは13%安くなると試算する。


   そしてこの歩道は「動く」。LEDの光で車道と歩道を区切る。朝は人の乗り降りや物資の搬入がしやすいように車道部が拡大するが、昼時になると歩道部が拡大して、それまで駐車スペースだったところは屋台レストランの出店スペースになったりする。また太陽光で充電して動く電熱線は凍った歩道を溶かし、歩行者がスリップしないよう安全に配慮している。降雨を予測して雨が降りそうだと、「レインコート」と呼ばれるテントのような構造体が歩道を覆い、歩行者が快適に歩けるようにもする。


   歩行者ファーストを徹底するため「モビリティ(移動性)」についても再設計する。トロント市内を走る軽量軌道交通(ライトレール、LRT)を再開発エリアにも拡大する。自動運転車によるライドシェアリングのサービスも普及させ、住民の乗用車の保有を減らし、土地の利用法としては非効率だった駐車スペースも削減する。自転車や電動スクーターのシェアリングサービスを導入し、短い移動の距離に使う。さらに荷物や廃棄物の配送・輸送については、地下通路を走る自動走行車を利用し、地上にいる歩行者を妨げないようにする。


■「歩道」から変える

■アリババも米国家安全保障上の脅威

   アリババの「シティブレイン」は中国の国策でもある。中国政府はアリババクラウドをテンセント、バイドゥ、アイフライテック、センスタイムとともにAI政策を推進する中核5社に認定し、アリババクラウドをスマートシティの担当企業とした。総人口14億人を背景に中国には15年時点で100万人を超える大都市が109ある。一方、人口3億人の米国には45しかなく、都市という市場自体が小さい。

   また欧米など先進国では個人情報の収集にプライバシー保護の観点から神経質になってきている。サイドウォークがMIDPを公表した後でも、個人情報管理への住民の懸念が収まらないことから、ウォーターフロント社はさらに一般からの意見を聞き、MIDPの承認を20年3月まで延期した。「プライバシー侵害を懸念する声は聞いている。都市データ管理を民主的な独立機関に任せるなど、我々の取り組みはこうした声に直接応えたものだ。MIDPで示した取り組み方は世界の標準モデルとなるだろう」(ドクトロフ氏)


   新技術の実装が中国で加速する中、アリババなど中国のデジタル経済の先頭を担うテックジャイアント(BAT=バイドゥ、アリババ、テンセント)を見る米国の視線も厳しくなっている。BATはファーウェイのように米国市場でビジネスをしているわけではなく、米中ハイテク摩擦の直接の当事者にはならないと見られていた。しかしスマートシティのような、AI、自動運転、キャッシュレス決済など先端技術を網羅したプロジェクトとなると、米国も中国企業の世界市場への展開を黙認しているわけにはいかなくなる。


   テンセント、ZTE、アリババ、バイドゥ――。米国務省のクリストファー・フォード次官補は9月11日、ワシントンでの国際会議で国家安全保障上、危険な中国企業としてファーウェイのほかにこの4社を名指しした。「中国共産党が協力を求めた時、ノーと言うことはできない」と指摘。「中国共産党が権威主義警察国家のまったく新しい近代的なモデルを構築するのをこうしたテック企業が支援しており、党の組織に代わって彼らの役割が高まっている」とも語った。中国による「警察国家」の輸出に米国は神経を尖らせている。


   9月27日、米ブルームバーグはトランプ米政権が米投資家の資金が中国企業に流入するのを制限する方法を協議しており、中国企業の米株式市場での上場廃止も選択肢に含まれると報道した。米財務省は報道を否定したが、米国市場に上場する中国企業は160社ほどあり、その時価総額は1兆ドルを超えているという。BATではバイドゥとアリババもその中に含まれている。アリババの創業者、馬雲氏はフォード次官補の発言の前日の10日に会長職を退いた。馬氏は共産党員であることが表面化しており、米国からの批判の矢面に立たされる可能性を察知して、リスクを回避したのだろうか。



Profile

梅上零史(うめがみ・れいじ)


   大手新聞社の元記者。「アジア」「ハイテク」「ハイタッチ」をテーマに、日本を含むアジアのネット企業の最新の動き、各国のハイテク産業振興策、娯楽ビジネスの動向などを追いかけている。最近は金融やマクロ経済にも関心を広げ、株式、為替、国債などマーケットの動きもウォッチしている。



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