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トピックス -企業家倶楽部

2019年12月27日

2020年は米中対立が深まる年に/ニュースソクラ編集長 土屋直也

企業家倶楽部2020年1/2月号 国際政治入門vol.2


   2020年が始まった。20年はさらに米国と中国の対立が深まる年になるだろう。地政学的に米中のはざまにある日本は否が応でもそれに巻き込まれていくことになる。



香港人権法は悪化のきっかけ

   米中対立の深化を予感させる象徴的な出来事は、米連邦議会上下両院による香港人権民主主義法の可決だ。米中貿易交渉で、一定の成果を得たいトランプ大統領は習近平主席の反発を招くことになる同法の成立は回避したかったが、議会に逆らえず、拒否権は使えなかった。もし、トランプ大統領が中国に配慮して拒否権を発動しても、連邦上下両院がそれぞれに3分の2以上の賛成で再可決をすれば、同法は成立する。両院ともほぼ全会一致で可決していたので、再可決は必至の情勢だった。トランプ大統領に拒否権発動の選択肢はそもそもなかった。

   それでもトランプ大統領は、署名までに時間をかけた。また、署名するまでに米保守系メディアのFOXニュースのインタビューに答える形で、署名への躊躇を意図的に表明した。さらには、署名の際にもわざわざ習近平主席への好意をにじませるコメントまで明らかにした。


   いずれも、署名はするが、自分は中国への敵対姿勢を取るつもりはないとの意思を中国に伝えようとの必死の思いからでた行動だ。妥結寸前となっていた中国との貿易交渉の第一段階の合意をできれば実現したいと思っているからだ。中国の習主席にすり寄ったといっていい。


   今年11月の大統領選を控えて、支持層である中西部の農民に対して、急減してしまった中国向け農産物輸出は回復するとのプレゼントを用意したかったからだ。


   前回のこのコラムで書いたように、トランプ大統領は反中派のボルトン前安全保障担当補佐官を更迭するなど、対立より融和へ舵を切っている。その方が、今年の大統領選に向けて支持層を広げるのに有利と判断したからだ。大きな外交上の転換だ。


   だが、香港問題は中国にとっては経済問題よりも優先しなければならない最大の政治課題だ。香港のデモ勢力が求める「完全民主化」は認めようがない。香港で民主化を認めれば、分離・独立を求めている国内の少数民族の統制が取れなくなってしまう。



香港での譲歩は習体制弱める

   さらに、この問題で米国に譲歩する姿勢をみせれば、習主席の中国共産党内での権力基盤が揺らぎかねない。任期制限を外すなど「独裁色」を強めている習主席だが、それだけ成果も求められている。まして、香港の自治を強化するような「譲歩」は絶対にできない相談だ。

   独裁色が強まる一方で、水面下で「反習近平」勢力が根強く育っている。習近平語録を、その勢力をバックアップするのが江沢民、胡錦涛らの共産党首脳クラスの幹部OBたちだ。引退したはずの彼らだが、一定の発言力を有している。


   彼らの発言力がもっとも増すのは、夏に河北省の避暑地、北戴河で開かれる非公開会議場だ。秋以降の政策や人事に関して、OBの了解を得るための場になっており、拒否権を発動されたりすれば、習近平主席の権力は弱まりかねない。


   例年、習氏が最も気を遣う会議であり、これまではもめそうな議題は取り上げられないように仕向けたり、江沢民氏の健康がすぐれなかった時期には、開催そのものを見送ったりしてしのいできた。


   だが、19年はむしろ、OBから習主席を支援する動きがでて、反習のムードはまったくでなかったという。6月から始まっていた香港デモに、党内抗争をしている場合ではないとの危機感が共有されたからだ。香港への「軍事的」な介入も辞さないことが確認されたという。


   中国外からは、軍事介入などして日米欧の経済制裁を受ければ困るのは中国の側、との見方もある。30年前の天安門事件(民主化を求めた若者が人民解放軍によって多数殺害され弾圧され、民主化を支持した共産党幹部が更迭された事件)の後には経済制裁で中国は一時的に孤立した時期もあった。


   天安門の苦い経験があるから、軍事介入などできないというのが、中国国外からの見立てだが、中国側の考え方は違う。共産党内には軍事介入も辞さずという一致がある。経済的な犠牲を払ってでも、香港においても共産党独裁は維持するという強いコンセンサスが共産党内にできている。


   裏返して言えば、それほど香港問題は重視されているということ。権限を強める習主席でも、譲歩は難しい案件と言える。香港で強硬姿勢を取るほど、習主席の党内基盤はより強固になるという状況すら生まれている。



台湾総統選も引き金に

   今年の米中問題が経済交渉にとどまらないもうひとつの動きは台湾だ。今年1月には台湾の総統(大統領)選挙が予定されている。失政が多かった現職の蔡英文総統は支持率が低迷していたが香港デモが激しくなるにつれて支持は回復、いまや再選が確実視されている。

   蔡総統と与党の民進党は、親中国の野党国民党に比べ対中慎重派だ。民進党内には「独立」の住民投票の実施を求める独立派すらいる。


   香港デモで中国寄りの警察が民主派を弾圧する動きが伝わるにつれて、台湾では独立的な地位を維持することの重要性が再認識され、民進党支持が広がっている。蔡総統は、対中強硬策ゆえに再選されるわけで、再選後は独立色をより強めることが予想される。


   米議会は台湾旅券法を通すなど一貫して台湾支援の姿勢をとってきた。香港のケースと一緒だ。


   だが、台湾の独立は中国共産党にとってはけっして許せない状況だ。習政権は最大の外交目標として台湾併合を掲げ、19年初めには、歴代政権もしてこなかった「場合によっては軍事行動も辞さず」という方針を表明している。


   台湾を巡っては、台湾とそれを支援する米国が「軍事的」に衝突するリスクも20年には想定外とは言えなくなってきている。米中が軍事衝突すれば、日本は米国支援に回らざるをえず、日本企業は中国市場から締め出されるリスクも少なくない。


   米中の対立が先鋭化しないように、まして軍事衝突に発展しないように日本はどうふるまえばいいのか、小国らしい外交力が問われる年になるだろう。




P r o f i l e


土屋直也(つちや・なおや)

1961年生まれ。84年早稲田大学政経学部卒業、同年日本経済新聞社入社。86 年から3 年間ロンドン駐在員としてサッチャー首相の英国と金融街シティを取材。98年から4 年間ニューヨーク駐在中は、ウォール街を取材し、2001年9月11日の同時多発テロに遭遇。日本では主にバブル後の金融システム問題を日銀クラブキャップとして担当。バブル崩壊の起点となった91年の損失補てん問題で「補てん先リスト」をスクープし、新聞協会賞を受賞。2014 年7月、ソクラ創設のため、日本経済新聞社を退職。同年10月、株式会社ソクラを起業し、代表取締役兼編集長に就任。



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