トピックス -企業家倶楽部

2020年03月17日

民間の知恵で行政を未来型に

企業家倶楽部2020年4月号 【BUSINESS REPORT】





マネーフォワードは1月16日、東京都港区のザ・プリンスパークタワー東京で、自社の法人向けイベント「Biz Forward 2020」を開催した。本イベントでは、「ビジネスは冒険だ」というテーマを掲げ、ビジネスパーソンのチャレンジを応援するピッチコンテストや、各分野を代表するゲストスピーカーが多種多様なセッションを行った。マネーフォワード社長CEO の辻庸介氏が登壇したInspiring Session では、元ヤフー社長で、副都知事に転身し注目を集める宮坂学氏と「スマート東京」について対談した。




辻   ヤフーの社長から副都知事という民から官への大きな転身をしましたが、その経緯についてお聞かせください。

宮坂   私は1997年にヤフーに入社しました。51歳の時に新しいチャレンジがしたいと思い、ソフトバンクグループから離れ、初めは参与という形で都政に携わることになりました。初登庁の日にいきなり小池都知事に呼ばれ、「5Gをやりたいんだ」と言われた時は孫さんに似ているなと感じましたね。

辻   リーダーとなる人はやはりパッションがすごいですね。宮坂さんを中心に様々な面白い取り組みをされていますが「スマート東京の実現」というアジェンダの一環である「電波の道」について教えて下さい。

宮坂   これまで行政は電波についてあまり取り組んでいませんでした。しかし、蛇口から水が当たり前のように出るのと同様に、どこでもスマホなどのデバイスがインターネットに繋がることはこれからの時代に基本的なインフラにならなければいけません。そこから、21世紀のインフラの1つとしてインターネットや電波に常に接続できる環境を整備することを目標に「電波の道」計画が始まりました。

辻   今はどの段階まで進んでいるのでしょうか。

宮坂   東京都が携帯キャリアに提供できるアンテナの基地局をできるだけ提供しようということで、第1弾を行いました。今まで41局しかキャリアに提供していませんでしたが、第1弾では1万3000局を提供する運びになりました。これからさらに進めていきますが、現段階でかなりインターネットに繋がる場所が増えましたね。
   私が思い描いているのは、オリンピックの時に多くの人が会場でネットにアクセスしても繋がり、観戦しながらインターネットも楽しめる設備が完備されることです。

辻   まさに長年ヤフーに携わってきた宮坂さんの本領発揮ですね。何か課題はありますか。

宮坂   世界のメガシティと比べ、行政に関わるIT人材が圧倒的に少ないことですね。東京都の職員の中で、IT部門の職員はたった0.3%しかいません。現在は民間と行政の間に隔たりがあるので、もっと民間から行政に、行政から民間に人材が渡れるような架け橋を作らなければなりません。東京都でも新卒や中途採用でICTの専門職を採用しようと計画しているので、各国に負けないIT部門を組織していきたい所存です。

辻   弊社も民間としてお役に立てたら嬉しいです。次に災害に関する取り組みについてお聞かせください。

宮坂   日本のスマートシティを考える上で、災害は切っても切り離せません。テクノロジーを駆使して、少しでも災害を防ぎたいという想いがあります。台風の時にすぐに避難情報にアクセスできたり、ドローンを目視外の場所に飛ばして物資を運んだり、都民の安全とより良い生活にプライオリティを置いて仕事をすることが都政の役目です。

辻   民間と行政では対象やプライオリティが全く違いますよね。

宮坂   そうですね。民間はあくまでビジネスですが、行政のプライオリティはセーフティを築くことです。東京都の長期ビジョンとしては、経済やインフラ、自然を5Gなどのネットワークで繋げ、それをデータとして蓄積し、防災、エネルギー、教育などのサービスの質を向上させるということを掲げています。

辻   最終的には大きなテーマになりそうですね。新宿や丸の内、小笠原、奥多摩、一言で東京都といっても多様な地域と文化があるので、1つのやり方では難しそうですね。

宮坂   そうですね。東京は東京ドーム約4万7000個分もの広さがあり、一気にすべてを変えるのは難しいです。まずは東京ドーム10個分など、地域を細かく区切って、地域ごとの特徴に合わせて実験を行っていくつもりです。

辻   まさにまちづくりですね。最後にこれから「スマート東京」を進めるにあたり、一言お願いします。

宮坂   スマートシティを作るうえで大切なのは、自分たちの住みたい街は自分たちで作ることではないでしょうか。「あなたは住む人、私は作る人」ではなく、積極的に行政に参加して頂きたいです。「どうせ自分が言っても変わらない」と諦めてしまっている方もいるかもしれませんが、行政としてはそのような都民の声や気持ちを吸い上げるヒアリングの能力を上げ、東京が少しでも良い街になるように、皆様と一緒に力を合わせて頑張っていきたいと思います。



ITを駆使して新たなビジネスモデルを創造する


ITを駆使して新たなビジネスモデルを創造する


印刷業界の古くからの下請け構造と非効率を変革したラクスル社長CEOの松本恭攝氏、金融業界のビジネスパーソンを支える新しいインターネットメディアを創造したユーザベースCEOの梅田優祐氏。業界は違えど、インターネットで既存の産業に新しい風を吹かせる彼らは、これからの日本の経済を牽引する企業家であることは間違いない。DNX Ventures の倉林陽氏が「レガシー分野をどのようにディスラプト(破壊)して成功したのか」というテーマで、2 人の注目企業家に迫った。


倉林   まずは事業内容についてお聞かせ下さい。

松本   「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」というビジョンの下、印刷や物流といった既存の古い産業をITの力で変革し、新たなビジネスモデルを構築しています。印刷、物流業界に共通しているのは、業界の最大手が小さな印刷会社や運送会社に外注するという典型的な下請け構造があることです。そこで弊社では、インターネット上で下請けの印刷会社や運送会社のコミュニティを作り、大企業を介さず直接お客と繋がるような仕組みを作りました。現在では印刷、物流、広告が事業の柱となっています。

梅田   弊社は「SPEEDA」というB2B向けの経済情報プラットフォームから始まりました。現在はB2C向けのソーシャル経済メディア「NewsPicks」、マーケティング系の「FORCAS」、スタートアップ系の「INITIAL」など様々なサービスを多角展開しています。2018年にはグローバル展開を目指し、アメリカの経済メディア「QUARTZ」を買収しました。
   各メディアに共通しているのは、ビジネスパーソンをターゲットとしていることです。創業時から、世界中のビジネスパーソンに使ってもらえるような経済メディアを作りたいという強い想いがあり、B2BとB2Cの両方向かつグローバルに、ビジネスパーソンの日々の意思決定を支えられるメディアを提供しています。

倉林   事業の着想に至る経緯は何ですか。

松本 私は2008年にA. T.カーニーに入社しました。この年はリーマンショックの影響もあり、コスト削減に関する事業がほとんどで、突き詰めていくと印刷が最も削減率が高いコストであると分かりました。大手2社が6兆円の巨大マーケットの半分を占め、残りの3万社を超える小さな印刷会社が下請けとして存在し、各印刷会社の稼働率はなんと4割を切るほど低いのです。この非効率を解消できるようなビジネスがしたいと思い、転職先を探したのですが、いくら探してもそのような会社は見つからず、自分でやるしかないと決意したのがきっかけです。

倉林 印刷業界という古い業界に新しい技術を持ち込むということで、様々なハードルがあったと思います。それをどのように克服し、現在のプラットフォームの構築に繋がったのでしょうか。

松本 創業当時は今のようなファブレス型のeコマースではなく、「印刷比較ドットコム」という価格比較サイトを立ち上げ、印刷会社とお客を繋いで一括見積りができるサービスを提供していました。価格比較サイトを始めた時は、無料でサービスを利用でき、広告も載せられるということで良い反応がいただけたのですが、広告費をとるというビジネスモデルではスケールしませんし、非効率を解消したいという目的も果たせません。ある程度お客と印刷会社が集まったところで、弊社自身がeコマースで販売していくという現在の業態へ転換しました。印刷会社からすれば味方に突然裏切られたと思うのは当然ですね。多くの反応が「ITで印刷業界を変えようとした人はたくさんいるけど、成功した人は1人もいないから止めたほうがいい」というものでしたが、何社かの応援があり、なんとかスタートが切れました。

倉林   地道に印刷会社の信頼を得て、ようやく思い描いていた事業に着手できたのですね。梅田さんはいかがでしょうか。

梅田   私は戦略系コンサルティングファームや投資銀行で働いていた時に、あまりの激務にこんなひどい世界があるのかと思いました。ふと「なぜこんなに時間に追われているのか」と考えると、私も含め多くの人が情報の海に溺れているからだと分かりました。グーグルのように簡単に情報にアクセスができ、ビジネスに特化したメディアがあれば良いなと思い、勤めていた投資銀行で提案してみたのですが、取り合ってくれなかったので、自分で作るしかないと起業を決意しました。

倉林   お2人とも学生時代から企業家を目指していた訳ではなく、コンサルティング業務の中で思いがけずビジネスチャンスを見つけ、最終的に起業するという選択肢が残ったということですね。
   お2人を支えるチームにはとても優秀な方々が集まっていますが、採用でどのようなことを大切にしているのかお聞かせ下さい。

松本   重視しているのは、実績のある人ではなくポテンシャルのある人かどうかです。今の経営陣に共通しているのが、最前線で経験を積むことで急成長してきたということです。社長と取締役という上下関係ではなく、横の関係を築き、任せる部分は全て任せています。事業に人生をかけて取り組み、困難に直面した時にも共に戦い、成長できるメンバーを採用していきたいです。


梅田   私はベストなタイミングの時にバイネームでその人を採用できるかどうかが、事業の成功要因として大きいと感じています。バイネームで採用したい時はタイミングが重要なので予算は気にしていません。また、その時はメンバーになってもらえなくても、声をかけ続けるとタイミングが合うときが必ず来るのです。


倉林   ポテンシャルやタイミングを見抜くのはとても難しいと思いますが、経営していく中で直感が磨かれたと感じますか。

松本   マネジメントチームを採用するときに、自分の時間の50%以上を費やしたことがありました。2年間会い続けてようやくチームに入ってもらったこともあります。行動力は採用に必要不可欠ですが、全力を尽くした後は運だと思っています。実は毎年初詣に行った時は、大吉が出るまでおみくじを引いているんです。


梅田   今でも人を見抜くのは難しいですが、自己認識力が高く、自分を客観的に見れる人はチャレンジできる環境さえあればどんどん成長していきますね。現在、NewsPicks社長の坂本は10年前に学生インターンで弊社に来たのですが、一緒に事業を作り上げる中で立派な事業家の1人になりました。


倉林   機会提供はとても大切なことですね。社員が100人を超えると、経営者だけではビジョンの浸透やフォローが及ばなくなり、経営者と若手を繋ぐ中間層の育成が必要になってきます。これに関してどのように取り組まれましたか。

松本   私の場合は最初の5年で20人いたメンバーのほとんどが入れ替わりました。そこからマネジメントをしっかり行い、100人にメンバーが増えた時に、何のためにビジョンを掲げているのかという課題が噴出しました。この時にできたのが「Reality」「System」「Cooperation」という3つの行動指針です。この指針に基づいて評価点を見直すことでビジョンが明確になりました。一方で、新メンバーにどのようにビジョンや指針を体感してもらえるかということを今後の課題として認識しています。


梅田   私の場合も最初の壁は30人でした。2回目の資金調達もあり、売上げが一気に上がると同時に、NewsPicksを始めようとしていたときで、ただでさえオペレーションが追いついていないのにどうして新規事業を始めるのかと皆しらけてしまったのです。今までは狭い空間で考えていることが完全に共有されていましたが、それが30人で出来なくなりました。この時に初めて、会社として基軸とする価値観とビジョンを言語化することの必要性を痛感し、7つのルールや「経済情報で世界を変えよう」というビジョンを言語化するに至りました。

   しかし、買収した企業にも同じ価値観を押し付けてしまい失敗した経験もあります。グループになってくれた会社にも誇りを持っている価値観があるので、ユーザベースとしての芯の部分を共有しつつ、グループ企業の価値観を大切にしていきたいです。

倉林   お2人のような、若くて優秀で欧米流の経営ができる方がこれからのニューリーダーになると思うので、更なる活躍を期待しています。



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