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2020年02月27日

「快適生活」で1兆円企業を目指す/アイリスオーヤマ会長 大山健太郎

企業家倶楽部2020年4月号 アイリスオーヤマ特集第1部 アイリスオーヤマの未来戦略





   東北から世界に羽ばたくグローバル企業、アイリスオーヤの勢いが止まらない。2023年には1兆円企業の目標を掲げ、ワンチーで果敢に挑む。率いる総帥は名君として知られる大山健太郎である。高い念を掲げ、社員一丸となって成長を重ねてきた。業界がシュリンクす中、独自の「なるほど家電」でひとり気を吐くアイリスオーヤマ。お客の心わしづかみにする大山流経営の極意はどこにあるのか。ユーザーイン経営世界に挑む大山の真意に迫る。



東北の雄として

   2020年1月9日、午後16時、仙台のホテルメトロポリタンには多くの人たちが集まっていた。ざっと900人はいるだろうか。華やぎに満ちた会場。舞台の脇では仙台フィルハーモニー管弦楽団の面々が奏でる音が一層華やかさを増している。

   恒例となっているアイリスオーヤマの新年賀詞交歓会が始まるのだ。
   舞台が明るくなり、会長の大山健太郎が登壇した。
「皆さんあけましておめでとうございます・・・最近の温暖化現象で冬物商品の動きが鈍く懸念されます。昨年はフランスに工場建設、中国の蘇州の工場が3.5倍に拡張、・・・いよいよ1兆円企業に向けて布石を打つことができました」
   集まった面々は皆、大山の言葉にくぎ付けになる。
「昨年、経営者が選ぶベスト経営者で弊社社長の大山晃弘が第4位に選ばれました。第一位は孫正義さんです」
   会場からは拍手が沸き起こる。
「リアル店舗が今一つの中、イーコマースが3割増しと好調でした。売上げはグループ全体で5000億円を達成、経常利益ともに過去最高を達成することができました。おかげさまでLED照明は5年連続6度目の省エネ大賞を受賞する事ができました。これはあり得ないことです」
   会場には大きな拍手が沸き起こる。
「今年は451名の新入社員を採用します。就職ランキングでも当社は263位から80位にランクアップしました」
   会場からは再び大きな拍手が沸き起こる。大山はさらに続ける。
「それだけ当社が注目を集めているという証拠だと思います。2020年今年は皆様方の期待に応えられる1年にしていきたい。宜しくお願いします」
   会場からの拍手喝采を浴びながら大山が舞台を降りる。
   続いて長男で社長の大山晃弘が登壇。会場からは温かい拍手で迎えられる。
「昨年は天候不順、消費税増税でグループ全体では5000億円の売上げがありましたが、アイリス単体では1611億円と目標1900億円に届かず悔しい思いをしました。今年こそは頑張りたい・・・」
   力強く挨拶する息子の姿を見つめる大山の眼差しは温かい。





県知事や市長も臨席

   続いて村井嘉浩宮城県知事が舞台に立った。
「大山会長は昨年第21回企業家大賞に輝きました。誠におめでとうございます」
   会場は一段と大きな拍手が沸き起こる。村井は続ける。
「海外に工場を建設、グローバル展開をするのもいいですが、宮城県にはまだ土地がいっぱいあります。ぜひ地元にも建設してほしい」と挨拶すると、会場は笑顔のどよめきが・・・。
   続いて郡和子仙台市長が舞台に立ち、アイリスオーヤマのテレビのコスパと性能について実体験をもとに語り、会場を沸かせる。
   懇親会が始まると、会長の大山と社長の晃弘の前には長蛇の列が続いた。その一人ひとりと笑顔を交わす二人。
   新年の多忙な時期にも関わらず、知事、市長本人が駆けつけたアイリスオーヤマの賀詞交歓会、それだけ宮城県、そして仙台市にとってはアイリスオーヤマの存在が絶大ということだ。まさに東北の雄として君臨している。


県知事や市長も臨席

アイリスオーヤマという会社

   ご家庭の中を見回していただきたい。クリア収納ケース、園芸用品やペット用品など、アイリスオーヤマの商品のお世話になっていることに気づくであろう。
   家庭用商品で知られるアイリスオーヤマだが、最近は違う。LED照明器具を筆頭に、サーキュレーターや炊飯器などの小型家電、掃除機、洗濯機、そしてテレビにも本格に参入。今や家電事業が売上げの6割を占める。有名大手家電メーカーが次々と縮小していく中、家電へと大きくカジを切っている。さらに、復興支援の想いから、東北の生産法人と手を組み、精米事業にも参入、パックごはんや餅など食品事業にも進出している。
   今やアイリスグループ28社、国内外の工場数は32工場、国内拠点は70か所に及ぶ。
   驚くのはその商品数だ。なんと25000点という途方もない数が動いている。そして商品開発に定評がある同社だが、1年間に発売する新商品は1000アイテムというから驚く。
   アイリスグループ28社の2019年度の売上は5%増の5000 億円、経常利益は5 %増の285億円と、売上高、経常利益ともに過去最高を更新した。
   そして20年12月期は売上高前期比20%増の6000億円を見込む。東京五輪の開催に合わせ、テレビにも力が入る。B2B事業も営業人員を拡充し販路を拡大。23年のグループ売上高1兆円構想を掲げ、パワー全開で世界に挑む。仙台に本社を置く、東北随一の優良企業に成長している。
   2018年7月、創業60 周年の節目を機に、社長職を長男の大山晃弘に譲り、会長に就任した。役割分担は晃弘が経営全般を担い、大山は新規事業の創出や地域社会への貢献に力を注ぐ。



試練を超えて

   今や欧米や中国にも進出、世界中の快適ライフの担い手として成長街道まっしぐらの大山だが、ここまでくるには決して順風満帆ではなかった。幾多の辛酸をなめてきた。
   ピンチに見舞われる度に「ピンチはビックチャンス」と捉え、這い上がってきた。
   中でも大山の頭から片時も離れないのは、オイルショック後の倒産の危機だった。
   大山は1945年東大阪に8人兄弟の長男として生まれた。大家族でもあり、生まれながらにしてリーダーシップを期待されていたといえる。父親は小さなプラスチック工場を営んでいたが、大山が19歳の時に急逝、あとを継ぐことを余儀なくされる。
   それがアイリスオーヤマの前身大山ブロー工業所である。「下請けでは終わりたくない」という意思の下、最初に開発した商品は漁業用のブイであった。次にプラスチック製の育苗箱を開発、農業用品としてユーザーが多い東北の宮城県に工場を建設。売上げも順調に伸ばしていた。
   そして1973年の秋、第4次中東戦争がはじまり、オイルショックが勃発した。プラスチックの原料となる石油の価格が高騰、買い占めが横行、一瞬売上げは伸びたが、その後壮絶な値崩れを起こし、どん底に落ちた。
   宮城県に新工場を建設したばか最初の開発商品 漁業用のブイ角田I.T.Pにあるショールームには最新のTVが並ぶりで2カ所を回すことは不可能だった。
   故郷でもあり父親がつくった東大阪工場を閉めるのは、自分の身体を切り刻まれるようだったとのちに語っている。
   そして誓った。二度と社員を解雇するようなことはしないと。



大山流経営 徹底した情報共有

   仙台市から南へ自動車で一時間、田畑や野原が広がる丘陵地帯に同社の主力拠点である角田I.T.P(インダストリアル・テクノ・パーク)がある。ここは国内最大の開発・製造・物流の拠点だ。そして世界に発信する司令塔の役割を果たす。
「ここにいるのが一番落ち着く」と語る大山は、まさにこの城の主である。ここで快適ライフの構想を練り、新規事業の種を探る。
   アイリスの新商品開発はつとに有名だ。毎週月曜日にトップをはじめ、開発担当者、営業部、品質管理部門などが一同に会し、新商品開発会議が行われる。階段式の会議室の最前列に陣取り、采配を振るうのは社長の晃弘だ。2年前までそこに座っていた大山は、一番後ろの席に座り、アドバイザーとしての役割を担う。
   この商品開発については第二部をご覧いただきたい。
   ここで触れたいのは、毎週月曜日、商品開発会議の前に、朝9時から実施される朝礼だ。ここで大山は自分の思い、考えていることを語る。数台のモニターを通し、リアルタイムで全国の拠点に繋がっている。
   トップが考えていることをリアルタイムで情報共有。トップの思いを共有することが大山流経営のカギとなろう。 この情報共有は徹底していて、朝礼の内容は直ちにメールで配信され、一定期間経つと朝礼集として配布される。
   「トップとそうでない社員の差は情報量だけ」と大山、社員一丸となって前に進むには、徹底した情報共有と幹部育成が大切と語る。


大山流経営   徹底した情報共有


角田I.T.Pにあるショールームには最新のTVが並ぶ




アイリスオーヤマの企業理念

   オイルショックで長年勤めてくれた50人もの社員を解雇した若き大山は必至で考えた。
「自分のどこが間違っていたのだろうか?」
   そしていかなるときにも利益を確保、潰れない会社経営に舵をきった。その決意はアイリスオーヤマの理念として掲げられている。この理念は常に全社員が唱和、アイリスオーヤマ人としての土台となっている。

1.会社の目的は永遠に存続すること。いかなる時代環境に於いても利益の出せる仕組みを確立すること。
2.健全な成長を続けることにより社会貢献し、利益の還元と循環を図る。
3.働く社員にとって良い会社を目指し、会社が良くなると社員が良くなり、社員が良くなると会社が良くなる仕組みづくり。
4.顧客の創造なくして企業の発展はない。生活提案型企業として市場を創造する。
5.常に高い志を持ち、常に未完成であることを認識し、革新成長する生命力に満ちた組織体をつくる。

   衣類の「しまう」から「探す」需要を創造したクリア収納ケース、園芸を「育てる」から「飾る」にコンセプトを変え、提案した園芸商品。お客に寄り添い常に需要を創造してきた。
   しかし、せっかく良い商品ができても問屋が取り扱ってくれなければ店頭に並ばず、お客に届かない。
   そこで考えたのが「メーカーベンダー」という発想だ。メーカーとして問屋機能も果たすという異色の仕組みづくりには20年もかかったという。それだけ長年の商習慣を破るのは難しい。
   しかしその仕組みづくりに果敢にチャレンジしたからこそ、今の発展がある。日本を代表するグローバル企業のユニクロはSPA(製造小売業)である。自分で作って自分で売るという業態だ。メーカーからエンドユーザーまでのルート短縮という意味では、アイリスの「メーカーベンダー」がそれに当たる。
   そして開発の基本となるのは、「ユーザーイン」の発想に尽きることにたどり着く。
「高機能の20万円もする洗濯機は要らない。使いやすく汚れが落ちればいいよ」というお客の不満解消に応えると、必要機能を搭載して6万円でできると胸を張る。お客の不満・不便を解消する。このユーザーインの発想はモノづくりだけではない。あらゆる場面で基本となっている。
   年間1000品もの新商品を投入、新商品比率が5割以上という戦略を可能にしているのも、お客の不満・不便に寄り添うユーザーインの発想である。需要創造の種はいくらでもあると、他社の追随を許さない。
   営業利益率10%を必達とする大山、競合品が乱立し、利益率が下がった市場は無理に追わないと決めている。経営理念第一カ条の「いかなる時代環境に於いても利益の出せる仕組みを確立すること」に則るためだ。それより新商品を開発、需要創造することに重きを置く。



ネット通販の拡充

   1兆円構想に向けての販売強化の一つがネット通販の拡充である。
「ネット通販によりバイヤーの壁がなくなった」と語る大山。商品の品質と値ごろ感が勝負となる。それだけにお客と直接つながるネット通販部門「アイリスプラザ」に力を入れてきた。
   ネット通販は国内よりも海外で力を発揮している。特にネット通販が普及している中国においては重要なチャネルとなっている。
   2019年、同社の家電開発拠点である「大阪イノベーションセンター」のビル内に、アンテナショップを開設した。インバウンドを意識したものだ。商品を見てもらい自国でネット通販を利用してもらうためだ。必要機能を搭載したコスパの高い「なるほど家電」は、中国を中心に爆発的に成長する可能性を秘めている。
   そのために中国工場の拡大に余念がない。蘇州工場は3.5 倍に拡張、天津には生産拠点の新設を予定している。多品種小口配送ができる生産・物流体制はネット通販を展開するうえで大きな強みとなっている。
   ネット通販が好調に推移、2019年のネット通販売上高は3割伸びた。「経常利益の50%を投資に」という積極的な戦略が、グループ全体の成長を支えている。





B2Bで空間ソリューション

   1兆円構想の切り札がもう一つある。B2B事業分野である。LED照明事業部を軸に、東日本大震災以降に強化された。強みはグループの総合力を生かした「ワンストップソリューション」と、取締役B2B 事業本部長の石田敬。
   LED照明はもとより天井材、床材、壁材、イス・机などのオフィス家具を一体化してオフィス空間を提案、2019年からは、人工芝、LEDビジョン、スタジアムチェアなどスポーツ施設にも参入している。
   オファーは「オフィス」「店舗」「工場・倉庫」「スポーツ施設」など多岐にわたる。それには全国に60カ所の営業拠点を展開、地域密着でビジネスソリューションを提案している。
   2018年11月に東京・浜松町に開設された「東京アンテナオフィス」は、そこで働く人を輝かせるフレキシブルなオフィス空間として提案。打合せ室、応接室、会議室などすべてがショールームとなっている。ここには2019年だけで8000社が見学に訪れたという。
    働き方改革が叫ばれる今、快適な空間は重要なテーマである。そして多彩な商材を持つアイリスグループならではの領域だ。
   大山からは「ジャパンソリューション」としての意識を持つようにと言われている。アイリスの強みを生かした新しい鉱脈となりそうだ。




B2Bで空間ソリューション


全てがショールームになっている東京アンテナオフィス




「快適生活」を世界へ

「日本の快適なライフスタイルは世界で受け入れられる」と早くから海外進出に力を入れてきた。
   1994年には米国カリフォルニアへ、96年には中国大連に、98年にはヨーロッパに進出、オランダに現地法人を設立し、現地生産、現地販売で事業を展開している。
   2019年にはフランスに新工場を建設、中国蘇州工場を拡張、中国の巨大なマーケットを睨み、生産体制の拡充に余念がない。
「それぞれ文化は違えど快適に暮らしたいという欲求は同じ」と語る大山。経常利益の半分を投資に回し、大胆な戦略にチャレンジし続ける。
   便利で納得価格のアイリスオーヤマの商品は、世界が待っている。あの小型でパワフルなサーキュレーターは東南アジアで活躍しそうだ。



名将として世界に名を馳せる

   2018年に社長業を息子の晃弘に譲ったとはいえ、いまだ絶大な力を誇る。
   「おかげさまで少し楽をさせてもらっています」と笑顔を向けるが、その目は新規事業やジャパンソリューションを見据え、輝いている。
   東北の経済同友会と東北ニュービジネス協議会の会長として、地域活性化にも力を入れる。自らも被災者として、震災復興にも心血を注ぐ。若手起業家の育成にも熱心だ。2019年には企業家大賞に輝き、その経営手腕を評価された。      変化の激しいこの時代、あまり先のことを考えても仕方がない。しかし楽観視すぎると足をすくわれる。「悲観的に考えポジティブに行動する」が一番と大山。50年以上もアイリスオーヤマを率いてきた名将としての貫禄が光る。
   大山をして「東北随一の名将伊達政宗を思わせる」と、ニュービジネス協議会会長の池田弘は語る。日本の名将として、新しいモノづくりの騎手として大山健太郎のチャレンジはまだ続く。



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