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トピックス -企業家倶楽部

2020年03月03日

「生活者目線」でビジネスを創る/アイリスオーヤマ会長 大山健太郎

企業家倶楽部2020年4月号 アイリスオーヤマ特集第2部 アイリスオーヤマの強さの秘密


「 快適生活」をコンセプトに、徹底的に消費者目線に立った商品を作り大躍進を続けるアイリスオーヤマ。現在、国内外に32 工場を持ち、海外をめると28社の企業群を形成、2019年度のグループ総売上高は5000億円にするなど国内屈指の大手メーカーに成長している。「製造機能」と「問屋機能」を併せつ『メーカーベンダー』という独自の業態を確立し、世界企業への階段を登っている東北発のグローバル企業アイリスオーヤマの強さの秘密に迫る。(文中敬称略)




   平日の午前9時過ぎ、夫や子供たちを送り出した主婦が忙しい家事から解放される時間帯だ。自宅のリビングで一息入れようとテレビの電源を入れると、以前から気になっていた家電の紹介をしている。
「冬のあったか快適特集。ぽかぽか布団乾燥機」
「使い方は簡単!ホースを伸ばして布団をかぶせ、スタートボタンを押すだけ。小さくて軽いので、持ち運びもラクラク。一人分は10分でぽかぽか、毎日使えます!」
   販売員が実際に使い方を実践し、軽快なトークで商品特徴を分かりやすく解説していく。今年は暖冬と言っても朝晩の冷え込みは厳しい。毎日暖かい布団で眠ることができたらどれだけ幸せだろうか。そんなささやかな願いを叶えてくれる便利な商品が、リーズナブルな価格なら、誰でも欲しくなってしまうだろう。それもそのはず、アイリスオーヤマ製の布団乾燥機「カラリエ」(8180円税抜き)は2015年の発売以降、シリーズ累計販売台数300万台を突破する大人気商品となっている。





強さの秘密1「ユーザーイン」発想

生活者目線 

 日本がまだ貧しかった頃、消費者は何でも欲しがった。メーカーは大量生産で商品を作れば売れた時代であった。そして、国民の所得が増え、さらに良い物を欲しがる消費者に対して、メーカー同士は機能面で競争し他社と差別化を図った。その結果何が起こったか。消費者のニーズからはかけ離れた高機能で高価な商品が店舗の棚に並べられるようになった。

   気付いた時には庶民感覚と離れた高級品ばかりの品揃えとなり、客離れを起こしてしまったのだ。大手メーカーが高機能・高品質に走り、独自の進化を遂げた日本市場は「ガラパゴス現象」と呼ばれた。10万円もする炊飯器が注目されたが、購入できる人はどれだけいただろうか。
   大手家電メーカーが迷走する中、ひとり気を吐く元気な企業がアイリスオーヤマだ。家電メーカーとしては最後発組ながら、2009年にLED照明を発売開始すると、瞬く間に大手照明メーカーからシェアを奪った。
   掃除機などの「生活家電」、IHコンロ、レンジや炊飯器などの「調理家電」、ドラム式洗濯機や冷蔵庫といった「白物家電」まで次々に進出、プラスチック加工が得意な日用品メーカーから家電メーカーへと進化している。最近では音声操作が可能な4K対応液晶テレビも安価で発売を始め、停滞する国内家電業界において存在感を増している。
   なぜ、この様にアイリスオーヤマが快進撃を続けられるのか。その秘密は「ユーザーイン発想」のものづくりをしてきたからだ。

「不便・不満」を解消

   これまで既存の家電メーカーは、良いものを作っていれば売れるだろうという生産者側の視点である「プロダクトアウト」の発想で商品開発をしてきた。それではモノが売れない時代になり、市場(マーケット)で何が売れ筋かを分析する「マーケットイン」のものづくりをするメーカーが増えてきた。しかし、マーケット内だけで他社の商品を意識しているため、消費者は蚊帳の外にして、目につきやすい機能面での競争に陥ってしまったのだ。

    一方アイリスオーヤマでは、すべての判断基準は「お客様はどう思うだろうか」という視点に立っている。「サイドミラーばかりを見ていてはいけない。常に前を見なさい。」と会長の大山健太郎は開発担当者に檄を飛ばす。その真意は、競合の動向ばかりを気にしていると、本来意識しなければならない生活者の目線ではなくなってしまい、既存メーカーと同じ過ちを繰り返すことになってしまう。それではアイリスオーヤマである存在意義がない。
「私たちは生活者の代弁者です。生活の不満や不便を解決し、潜在的なニーズを汲み取った商品開発で『快適な生活』に変える。それが『ユーザーインの発想』です」と大山は淀みなく信念を語



強さの秘密2「利益を出す仕組み」

「逆境」が人を育てる

   大山は1964年に父親の急死に伴い、急遽会社の経営を継ぐことになった。東大阪市にある小さな町工場の社長に就任したのは成人前の弱冠19歳である。当初は父親の代わりに家族を養うので精一杯であったことは想像に難くない。

   家業を継いで10年ほどは独学で必死に経営を学んだ。プラスチック加工技術を生かして農業分野に進出。自社ブランドの育苗箱が当たり、農業の本場である東北地方に拠点を求め、宮城県に新工場を建設した。
「さあ、これからが勝負!」という矢先に不運にもオイルショック(1973年)が起きる。原油が高騰し、市場はプラスチック製品の買い占めに動き、一気に需要が跳ね上がって一時的に育苗箱の販売数が伸びた。しかし、75年を境に値崩れを起こし、蓄えていた資金も使い果たしてしまった。
   もはや東大阪と仙台、2つの工場を維持する経営的体力は残っていなかった。そこで、規模が大きく、設備が新しい仙台工場を残し、創業の地東大阪の工場を閉めることにした。そうするしか生き残る選択肢は無かったといった方が正解だろう。
   決断を遅らせて船が沈んでしまっては全員共倒れになってしまう。断腸の想いであったが、東大阪で働いていた50人をリストラせざるを得なかった。世界経済が不況に陥った未曽有の出来事であったが、零細企業の頃から支えてくれた社員に自らクビを言い渡す辛さは大山にしか分からないだろう。     この時、「二度と社員をリストラするような経営はしない」と大山は誓った。この強烈な反省と悔しさがアイリスオーヤマの原動力となり、現在の成長を支えていると言っても過言ではない。

「経営理念」に誓う

   1970年代にオイルショックを経験し、2000年代に入ってもリーマンショックを発端とする世界的な不景気、2011年には東日本大震災が日本を襲い、企業経営をしていると予期せぬ逆境が度々起こる。昨今では二大大国である米中貿易摩擦も世界経済に大きな影響を与えている。
   しかし、どんな事態が起ころうとも、大勢の社員を抱え、その家族の生活を考えると倒産する訳にはいかない。そこで、大山は「会社の目的は永遠に存続すること。いかなる時代環境に於いても利益の出せる仕組みを確立すること。」と企業理念の1番目に掲げた。
   大山は、オイルショック後、不景気でも黒字を出している企業を徹底的に分析した。需要とミスマッチを起こすリスクのある「プロダクトアウト」型の経営では景気に左右されるリスクがあると知った。
   いかなる時代環境に於いても利益を出せる仕組みとは何か。それは、価格競争に陥った市場に留まらないことである。実際に、アイリスオーヤマの代名詞となった「クリア収納ケース」でさえ、市場が飽和状態になり価格が下落し利益が出し辛い状況になった際には、一時撤退を決断した。自分たちで作った愛着のある市場であったが、「いかなる状況でも利益を出す」という企業理念に反するため、大山は迷いを断って国内の収納市場から退出したのだ。その分、経営資源を他に振り分けることができ、新分野への進出がしやすくなるというメリットもあった。



強さの秘密3「オープンな企業文化」

迅速な意思決定

   アイリスオーヤマでは毎週月曜日に恒例となっている行事がある。午前9時30分から始まり17時まで続く「新商品開発会議」だ。参加メンバーは50 名ほどで、商品の機能・デザイン・価格などあらゆる側面から検討する。会長と社長も同席、営業・製造・品質管理・財務・研究開発・知財など商品に関わるすべての部門が一堂に会し、その場で決裁していく。

   開発会議は宮城県にあるアイリスグループの本部機能を果たす「角田I.T.P」(インダストリアル・テクノ・パーク)で行われているが、家電製品の開発拠点である「大阪イノベーションセンター」と「東京アンテナオフィス」をテレビ会議でつなぎ、情報はすべて共有される。
   担当者は1つの案件につき10分程度プレゼンをしていくのだが、大手メーカーからのキャリア組は、毎週、トップと顔を合わせる場があること自体に驚き、その意思決定の速さにさらに驚く。前職では商品化までに何度も稟議が必要の上、なかなか商品化出来ないといったストレスがあるのだ。
   アイリスオーヤマはここが違う。提案したアイデアが「開発会議」で決裁されれば商品化できるため、キャリア組のモチベーションも高い。
   効果はそれだけに留まらない。開発会議で意思決定のプロセスをオープンにすることで、会社の考え方や生活者目線で合理的に判断していることを社員に理解させる効果がある。さらに時間の無駄を省けて一石二鳥ならぬ「一石三鳥」なのである。




強さの秘密3「オープンな企業文化」


徹底した「情報共有」

   アイリスオーヤマでは社員と想いを共有するために創業当時から続けている取り組みがある。社員が増えた現在でも毎週月曜日の「朝礼」を欠かさない。その場で、社長自ら企業理念や事業戦略について語り、全社的に情報共有を図っている。出張などで参加できない人のため、翌日には活字にされ全員に配信するなど徹底している。

   毎年1年分の朝礼をまとめた「朝礼集」を全社員に配布。さらに5年分がたまると「総集編」として1冊に製本している。たかが朝礼、されど朝礼である。

「新入社員でも1年も働けば、アイリスの文化・理念を理解できる」と生え抜きで家電開発部部長の原英克は、胸を張って言う。

   商品開発する上で掲げているコンセプトがある。機能はシンプル(Simp le)、価格はリーズナブル(Reasonable)、品質は大半の人が「いいね」と言ってもらえるグッド(Good)の頭文字を取って「S・R・G」と呼んでいる。

   実際にドラム式洗濯機の開発が進められる過程で見てみよう。当初、ドラム式は乾燥機が付いているのが当たり前と考えられていた。そうなると価格が抑えられずリーズナブルな「値ごろ感」が実現できなかった。そこで、ドラム式は洗い方の構造上、水の量が少なくて済み、水道代が節約できるという機能に絞り、乾燥機能は思い切って外したところ、ヒットにつながった。

   開発者にも「その機能が無ければないで安くなるなら迷わず取ってしまう」という柔軟な発想が求められる。

「既成概念を持ってはいけない」と原は大山から何度も注意を受けたという。今、売れているものが良いとは限らない。もっと生活者目線で考えたら良い商品があるかもしれないと考えるのがアイリス流である。

「他社でヒットしているからうちでも作ろうでは、『マーケットインの発想』です。それでは、アイリスの存在意義がない」と原はプライドを見せる。



強さの秘密4・独自の業態確立

問屋機能を包括 

   メーカーがせっかくい良い商品を開発できたとしても、実際に消費者の手まで届かなくては意味がない。

「うちはモノを作るのが『目的』ではなく、『手段』です」と大山は言う。あくまで生活者が感じている「不便・不満」を解消し、快適な暮らしを実現することを目的としているのである。その目的があるため、既存のビジネス慣習を変えることに躊躇はない。
   一般的にメーカーと消費者の中間には、商品を店舗で売る「小売店」と商品を店舗に卸す「問屋」(ベンダー)が存在する。ところが、問屋はアイリスオーヤマが得意とする新商品の取引を好まない傾向がある。

   なぜなら、売れるか売れないか見通しが立たない新商品よりも、販売数が読める定番商品を扱った方がリスクを回避できるからだ。在庫スペースの問題もある。それらはすべてコストとなって反映されるのでシビアになってしまうのだ。

   もし新商品がヒットすれば品切れを起こし、売れなければ在庫を抱えることになる。問屋の立場で考えると、人気商品は欲しいが取り扱いが難しく面倒なのである。したがって止む無く安全策を取ってきた。大山がいうところの「問屋の壁」である。

   ここに見られるメーカーから消費者までの「商流」は、どの業界も抱えている課題といえる。問屋の論理で扱いやすい商品だけになると、どれも似たような品揃えが店頭に並ぶことになる。本来、消費者は多様性を求めているのであって、大山の言う「生活者目線」とは異なる。アイリスオーヤマの「ユーザーインの発想」はモノづくりの側面だけではなく、商流・物流にまで及ぶ。高い壁ではあるが、ここにビジネスチャンスがあった。

   メーカーは消費者との間に存在する問屋の壁を越えなければならない。そこで、アイリスでは問屋機能を抱える独自の「メーカーベンダー」という業態を確立したのだ。


強さの秘密4・独自の業態確立


物流の無駄を省く

   本部機能のある宮城県角田にある工場を訪ねてみた。工場内はロボットによる自動化が進んでおり、ほとんど人の姿を見かけない。自動倉庫については完全に無人化を実現しており、注文が入ると自動的に商品が運び出されていく。

   メーカーの「工場」というよりは、トラックが横付けし商品をすぐに出荷できる「物流センター」といった印象だ。商品は大量に作り置きするのではなく、売り場の販売状況に応じてタイミングよく出荷するため、保管コストが大幅にカットできるメリットがある。商品を作っている工場と出荷する物流センターが同じ施設内にあるので、商品が移動する距離が極端に短いのだ。

   商品をトラックに積み込み、倉庫に運び入れ保管する従来の流通構造は無駄な物流コストが掛かりすぎている。そのツケは価格に反映され消費者が負担することになる。取引先を待たせないように半径100kmから300km内になるように全国9カ所に工場を配置。物流にもイノベーションを起こすことで、当日出荷を可能にした。

「商品のサイズにおいても1cm小さくすると海外の工場から船のコンテナで運べる個数が多くできます。物流コストを考えた商品開発をしています」と原はいう。

「メーカーベンダー」という独自のポジショニングを確立し、物流の「仕組み」を変えることで消費者が納得するリーズナブルな価格を実現している。同社では企業努力で物流コストを省いている。リーズナブルでお値ごろ感があるのも納得がいく。



強さの秘密5・人材力

新分野に投資し続ける

「ロングセラーが会社をダメにする」と大山は言う。逆説的に聞こえるが、大山は企業経営を存続させる上での本質を突く。

   アイリスオーヤマには、代名詞ともなった「クリア収納ケース」という大ヒット商品がある。収納の概念を変えた革命的な商品で主婦の心を掴み、文字通り飛ぶように売れた。「プラスチック植木鉢」や「ペット関連商品」など同社のヒット商品を挙げればキリがない。

   もし、今でもこれらのヒット商品に依存した経営を続けていたら、現在のアイリスオーヤマの躍進はなかった。瞬く間に模倣品が市場に溢れ、値崩れを起こしたのだ。このようにヒットしたらヒットしたで同業者は放っては置いてくれない。先行者利益を享受できる時間はそう長くはない。

   外的環境の変化に柔軟に対応できる組織にしておかなければ、大山が企業理念の一番先に掲げた「会社の目的は永遠に存続すること。いかなる時代環境に於いても利益の出せる仕組みを確立すること。」を守ることができない。

   そこで毎週月曜日に「新商品開発会議」を行い、1年間に約1000アイテムもの新商品を市場に送り込んでいる。数々のヒット商品を抱えながら、新商品率(発売から3年以内の商品)は64 %に達するというから驚きだ。最低でも50%以上を死守するのを基準としている。

   どんなロングセラーでもいつしか時代の流れに置いていかれ陳腐化してしまう。その先には衰退しかない。それを避けるにはリスクを取り、新分野に投資するしか道はないのだ。

   同社では利益の50%を新分野に投資することを重要な経営指標となっている。




東京・大阪に新拠点

   2009年に本格的に家電事業に参入し、現在ではドラム式洗濯機や冷蔵庫、エアコンといった白物家電に進出。最後発の家電メーカーがなぜこんなにも短期間で開発の難しいとされる白物家電を作れるのだろうか。その理由は、パナソニックやシャープ、サンヨーといった国内大手メーカーを早期退職した熟練の技術者たちを多く採用しているからだ。

   大手メーカーは関西地区に集中しており採用面を考慮し、2013年に開発拠点として「大阪イノベーションセンター」を開設。

   新商品の開発力に定評のある同社に於いて、中心的な役割を果たすのが100名の技術者たちだ。その内70%はパナソニックやシャープ、サンヨーといった国内大手メーカーを早期退職した熟練の技術者が占める。

   2018年には「東京アンテナオフィス」を新設し、さらなる人材獲得に拍車をかけている。

   アイリスが得意とする生活者目線の『アイデア』と大手メーカーで培った『技術力と経験』の融合が今後のアイリスの「ものづくり」のノウハウになっていくことだろう。

「ものづくり日本」の復活はアイリスオーヤマの今後の活躍にかかっているのかもしれない。

   ひとりの消費者として、今後どんな「快適生活」が送れる商品が出てくるのか楽しみである。



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