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トピックス -企業家倶楽部

2020年02月27日

米中、共通キーワードは「1984年」  デジタル人民元発行と ー米大統領選が焦点に

企業家倶楽部2020年4月号 グローバル・ウォッチ





   2019年は米中対立がクローズアップされたが、20 年も引き続き米中それぞれの動きに世界が翻弄されそうだ。米中貿易摩擦が休戦モードに入ったと思いきや、年明け早々、米国がイランと開戦かと緊張感が高まった。そして今は中国・武漢発新型肺炎の行方を世界が固唾を飲んで見守っている。次に来る波は何か。突発事件は予測できないが、中国発では「デジタル人民元」の発行、米国発では11月の米大統領選が今年の2大イベントになるだろう。米中に共通するキーワードは「1984年」である。




昨年末から世界は目まぐるしく動いている。

   19年最大のトピックだった米中貿易摩擦は「休戦モード」に入った。同年12月13日に両国が貿易交渉の第一弾で基本合意し、同月15日、米国の関税追加リストの発動が見送られた。20年1月15日にはトランプ大統領と劉鶴副首相が合意文書に署名し、中国が米国からの農産物の輸入を1.5倍にする代わりに、米国が19年9月に引き上げた関税率を半減するなどの内容が発表された。全面的な和解にはほど遠いが、摩擦がスカレートする事態は回避されつつある。    
   米中緩和モードの中、正月早々、世界を震撼させたのは米国によるイラン高官殺害だ。1月2日、米国防総省はイラン革命防衛隊の精鋭組織「コッズ部隊」のソレイマニ司令官をドローン攻撃で殺害したと発表。コッズ部隊は最高指導者ハメネイ氏直属で、イランの対外工作を担ってきた。ソレイマニ氏はイラクに駐在する米軍へのテロ攻撃を画策していたとされ、殺害されたのもイラクのバグダッドだった。イラン政府は有力者が殺害され、米国への報復を宣言し、米イラン開戦かと世界は緊張した。しかし革命防衛隊が8日、ウクライナの旅客機を誤って撃墜。それを政府が当初隠ぺいしたことが分かると、国民からの現体制への批判が噴出し、対米戦争どころではなくなった。

   米イラン戦争の危機が収束し、次に世界を揺るがしたのが中国・武漢発の新型肺炎「WARS(武漢急性呼吸器症候群)」だ。19年12月から現地で謎の肺炎が流行し、日本の厚生省も1月6日に注意喚起の通達を出していた。23日に武漢市政府が公共交通の運休を発表し、同市を事実上「封鎖」すると、世界中にパニックが広がった。03年に香港を中心に世界に拡散した新型肺炎「SARS(重症急性呼吸器症候群)」が中国発のパンデミック(世界的な大流行)として知られるが、新型肺炎の原因がSARSと同様に新型のコロナウイルスであることも判明し「WARS」とも呼ばれるようになった。

   SARSは世界で8千人近くが感染し、800人ほどが死亡した。WARSは2月4日現在、患者数は2万人を超え、中国だけでも400人超が死亡している。中国は19年は辛うじて6%台の経済成長率を維持したが、20年は5%台に落ち込むのは確実。1〜3月は5%割れの可能性も指摘されている。世界の名目GDP(国内総生産)に占める中国の割合は03年の4%強から、18年はその4倍ほどの16%弱に拡大。国内消費の停滞が貿易を通じて世界経済に与える影響も各段に大きくなっている。また海外に出国した中国人の数は18年は約1億4千万人。05年の3千万人から4倍以上に増えている。中国政府は国内旅行に続き、1月27日には海外への団体旅行も中止するよう旅行会社に命じた。サービス貿易を通じて世界各国の経済にも大きな打撃となる。20年、世界経済の成長率が3%を割り込むとの見方もでている。



■デジタル人民元で  超監視社会出現

   WARSが世界経済に短期的な影響を与えるとすれば、より長期的に影響を与えそうな中国発の動きが「デジタル人民元」の発行だ。19年6月に米フェイスブックなどがデジタル通貨「リブラ」発行の構想を発表したのを受けて、7月、中国人民銀行の王信研究局長はすでに国務院(政府)が中銀によるデジタル通貨の研究開発を承認済みで、人民銀行がデジタル通貨研究所を設置して深圳市などと協力してシステムを開発中であることを明らかにした。「中央銀行がデジタル通貨の発行を加速する」必要性を強調した。
   
   リブラは米議会の猛反発を受けて、推進団体からメンバーの離脱が相次ぎ、その先行きが危ぶまれている。フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOは19年10月、「米国の規制当局が認可しない限り、世界のどの国でもリブラを発行しない」と議会で明言した。こうした状況の中、元重慶市長で金融分野に詳しい黄奇帆・中国国際経済交流中心副理事長は同月、上海市での講演で「人民銀行は世界で最初にデジタル通貨を発行する中銀になるだろう」と語った。
   
   人民銀行は14年からデジタル通貨の研究を進めており、中国はデジタル通貨の安全確保で不可欠な暗号化技術を法的に規定する「暗号法」を1月1日に施行した。地元メディアによれば、人民銀行は国有銀行3行、通信大手3社と共同で、深圳と蘇州で20年中にデジタル人民元の利用試験を実施する予定だという。

    黄奇帆氏は講演の中で、米国が国際銀行間通信協会(SWIFT)などの送金システムを通じてドルの国際的な流れを把握し、世界の通貨を支配している現状を批判。SWIFTなどが時代遅れになっているとも語り、ブロックチェーン技術などに基盤を置くデジタル通貨の必要性を訴えた。もっとも中国はデジタル人民元をすぐに国際送金に拡大するのではなく、周小川人民銀行前総裁は11月、珠海市での講演で「まずは国内の小売りにおける決済手段として普及を図っていく」と述べた。
   
   中国では「アリペイ」や「ウィーチャットペイ」のようなキャッシュレス決済がすでに60%近く普及している。今さら中銀自らデジタル通貨による決済手段を提供していく必要があるのか。米ブルームバーグは「デジタル人民元導入はスマホ決済大手には脅威になる」との報道の中で、「中銀は失った権力を取り戻そうとしている」との識者のコメントを紹介している。

     すでにアリペイなどは18年6月から中銀主導の決済管理プラットフォーム「網聯」への接続を強制され、中銀が決済のやり取りをすべて把握できるようになっている。デジタル人民元の導入で現金でのやり取りも中銀が掌握するかもしれない。「プライバシーなどまったくなくなってしまう」と野口悠紀雄・一橋大名誉教授は指摘する。中国はすでに人工知能(AI)による顔認識技術と監視カメラの設置で個人の行動を監視できる体制を構築しつつある。それに加えて資金の流れまでも把握する。ジョージ・オーウェルが1949年に出版したSF小説「1984年」で予言した、「ビッグブラザー」が支配する超監視社会が出現しようとしている。

   中国政府・中銀がデジタル人民元の外国での利用を規制しても、信用力の弱い通貨が普及する国では、その利便性や価値保存性から国民がデジタル人民元を保有しようとするかもしれない。デジタル人民元はリブラ普及に対する中国側の防衛的な意味もあるが、弱小国もデジタル人民元を警戒する。リブラやデジタル人民元の浸透に対して、カンボジア国立銀行も中銀デジタル通貨「バコン」を3月までに導入する見通し。カンボジアは自国通貨リエルがあるが、実際はドルが広く流通する。最近は中国企業の進出も活発で、バコンの導入でこれ以上、他国に通貨主導権を握られまいとする意図が透けて見える。中国としてはじわじわとデジタル人民元が国境を越えてゆくことが、ドル支配を弱めることになると考えているのだろう。


■デジタル人民元で  超監視社会出現

■米国はレーガン再選の  1984年を想起

   一方、米国は11月の米大統領選に向けてすべてが動いている。米中貿易戦争の休戦もそうだ。今年の世界における最大のイベントだろう。トランプ大統領が再選されるかどうかが焦点だ。36年前の1984年、同じ共和党のロナルド・レーガン大統領が再選した年を想起させる。トランプ大統領とレーガン大統領は同じ共和党という以外にも、70歳前後の高齢で大統領に就任したこと、不動産開発と俳優というプロ政治家出身でないことなどの共通点がある。トランプ氏の選挙スローガン「米国を再び偉大に」はレーガン氏が使った言葉であり、「宇宙軍」の発足などレーガン大統領の政策を意識していると思われる政策も多い。
   
   現職大統領は常にメディアの注目を集め、大統領選に向けたキャンペーンにもつながり、再選に有利に働く。戦後、大統領になった人物は13人おり、在職中に暗殺されたケネディ大統領を除くと、再選されなかったのは共和党ではフォード大統領、ブッシュ(父)大統領、民主党ではカーター大統領の3人だけ。3人とも在任中の景気が悪かったのが落選の主な理由とされるが、トランプ政権下で米国経済は今、絶好調だ。株価も就任時に比べて1月末時点で40%も上昇しているトランプ大統領の支持率は50%を割り込み、不支持率の方が高いが、オバマ大統領が再選された時も支持率は同じぐらいだった。
   
   80年代といえば政治面では米ソ冷戦、経済面では日米貿易戦争が続いていた時代だ。レーガン政権は再選後にソ連、日本への圧力を強めていく。ソ連では85年にゴルバチョフ書記長が誕生し、米ソの間で軍縮交渉が始まった。85年のジュネーブ、86年のレイキャビック会談などを経て、89年、レーガン氏の後を受けたブッシュ大統領とゴルバチョフ書記長のマルタ島会談で「冷戦終結」が宣言された。日米関係では85年にプラザ合意で円が対ドルで大幅に切り上げられ、日本企業のアジア生産シフトがおきて国内産業空洞化が加速。86年には日本が米国製半導体の購入を増やすことなどを決めた「日米半導体協定」が結ばれた。翌年には協定違反で米国が日本製のパソコンなどに報復関税をかけた。   
 
   トランプ大統領が再選されたとして、2期目に何をするかは明白だ。米中貿易・ハイテク戦争の再開である。北朝鮮、イランというリスク要因はあるが、米国の政治面、経済面での仮想敵国は今やGDPで米国を猛追する中国である。新型肺炎、企業債務問題などで弱り始めた中国経済に、人民元切り上げ、国内の戦略産業への補助金の削減といった圧力を高めていくと見られる。1月の第一弾の合意では為替についても「米国の輸出業者と不公正に競争するために中国が通貨手段を使わないよう、為替の透明性を高める」といった内容を盛り込んだ。中国はデジタル人民元の発行などで米国のドル覇権に挑戦してくるだろうが、米国側も最強通貨ドルのデジタル化など対抗措置を取ってくるだろう。

   トランプ大統領は、中国がWARSで混乱しているのをほくそ笑んでいるだろう。中国経済の減速は米国にも跳ね返ってくるが、それは米国が関税を引き上げたためではないと主張することができる。貿易交渉で第二弾の合意を急ぐ必要もない。大統領選で再選するまで中国問題は棚上げできる。目まぐるしく世界の関心が移り変わることで始まった20年。11月の米大統領選というクライマックスに向けて、まだまだ二転三転ありそうだが、米国が大きく動くのはトランプ再選後になるだろう。


■米国はレーガン再選の  1984年を想起

Profile

梅上零史(うめがみ・れいじ)


   大手新聞社の元記者。「アジア」「ハイテク」「ハイタッチ」をテーマに、日本を含むアジアのネット企業の最新の動き、各国のハイテク産業振興策、娯楽ビジネスの動向などを追いかけている。最近は金融やマクロ経済にも関心を広げ、株式、為替、国債などマーケットの動きもウォッチしている。



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