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トピックス -企業家倶楽部

2020年05月18日

世界的困難に衛星活用の時代/アクセルスペースCEO 中村友哉 vs 国際パフォーマンス研究所代表 佐藤綾子

企業家倶楽部2020年6月号 宇宙時代の問題解決





2019年9月から多発化したオーストラリアの大規模森林火災の焼失面積は、約1000万ヘクタール(日本の本州の半分)に及び、貴重な野生動物の生命が10億以上失われたと推定されている。煙が都市部を覆い、呼吸困難を訴える患者が続出した。そして、煙は海を越え隣国へ到達、一国の問題では無くなってきた。そして今日では、新型コロナウイルス感染症のニュースが世界中を覆っている。国境なき世界的困難をどう乗り越えたらいいのか、宇宙的視点で対談してもらった。



宇宙は特殊ではない

佐藤 そもそも論ですが、「宇宙ビジネス」や「宇宙ベンチャー」と言っても幅広く、定義付けが難しいですね。

中村 衛星やロケットを作るという話になると高度な技術力や資金が必要になりますが、それだけが宇宙ビジネスではありません。そもそも「宇宙ビジネス」という単語に私は疑問を感じています。これまで宇宙はビジネスが考えられていなかったフィールドなので、仕方なく「宇宙ビジネス」と呼ばれています。でもこれは不思議な話で、フィンテックとかエデュテックなど〇〇テックという言葉はありますが、「場所」で区切られているのは宇宙だけです。宇宙ビジネスという言葉は何も指しておらず、「宇宙ビジネスをやろう」と言うのは変な話なのです。

 現在、アフリカ南西部にあるアンゴラ共和国のスタートアップと仕事をしていますが、彼らは宇宙ベンチャーでも宇宙ビジネスでもありません。彼らは我々のデータを買い、付加価値を付けて農業領域でビジネスをしていきます。このように宇宙は特殊ではなく、データアセットとして世の中のビックデータの1つにならなければなりません。

 宇宙が特別という感覚がなくなった時が、我々の試みが成功した時です。もし、3年後に対談させていただいたら、「宇宙ビジネス」という言葉はもうなくなっているでしょう。

佐藤 近い将来には本当に宇宙が身近になるということですね。中村社長にブレない軸があったから、今の世の中のニーズを掴み、タイミングを逃さなかったのでしょう。今、アクセルスペース社の事業はどの段階でしょうか。

中村 我々の衛星は今1機飛んでいますが、今年中に4機を一斉に打ちあげ、5機体制にします。打ち上げ後に位置を調整し、等間隔で飛びます。まず10機が目標です。10機あると世界中を1日1回撮影できるようになります。

 我々の衛星は南北に回っていて、地球は東西に回っています。一番膨らむところ、赤道は間隔が空いてしまいます。5機だと撮影頻度は2、3日に1回ほどですが、10機だと1日1回になるのでそこを目指します。ただ、10機でもシンガポールを撮るとインドネシアが撮れないということがあります。これから様々なニーズが出てきたときに、そういう場所も網羅するとなるともう少し機数が多い方がいいと考えています。



最近のトレンド

佐藤 毎日世界中を上空から俯瞰できると様々なビジネスに活用できそうですね。

中村 最近急に注目されているのがSDGsです。SDGs投資などもあり、環境をケアしてない企業は投資が引き上げられてしまいます。そうすると、環境負荷が高そうに見られる企業は環境保護への気遣いをアピールしないといけません。環境に影響はないと数字を並べられてもわからない部分もあります。

 しかし、衛星写真を見るだけで、水が綺麗なことや倒木されてないことがわかります。一昔前ならいらないと言われてきたことが、こういう環境意識の高まりの中で新たなビジネスになりつつあるというのも面白い世の中の変化だと思っています。

佐藤 衛星写真はサポーティングマテリアルとしても活用できるのですね。衛星を使えば国際的な問題となっていたオーストラリアの大規模森林火災も防げると思ったのです。そして、現状では新型コロナ感染症の拡大問題が発生し、世界を混乱に陥れています。

中村 今回の様な国際的な問題は衛星画像サービスを活用して頂く機会になると思います。世の中の関心は時により変わります。衛星を使えば世界中どこでも撮ることができます。情報を得たい時に即座に見られるようにすることは大事だと思っています。

佐藤 この対談は目的を持って提案しました。事業で成功した後に財団を立ち上げる経営者がいるように、1つのビジネスで成功したら社会貢献をするというのはよくある話です。しかし、直接社会貢献となる仕事をするのは難しいところがあります。アクセルスペースの事業は国境を超え、まさにコスモポリタンでコスモスの事業をしています。他の企業家の皆さんと一緒に社会貢献ができたらより素晴らしいと考え、オーストラリアの森林火災やコロナ感染症の話をさせてもらいました。

中村 グローバル経済の時代ですから、このような提案から生まれるビジネスはたくさんあります。我々はビジネスを始めてからいわゆるマーケティングはしていません。使い方は人それぞれだからです。

 ただ、地上で起きていることの情報が分かるのでポテンシャルはとても高いと思います。その用途を我々の頭で考えるより、世界中の70億人の頭で考えてもらった方が可能性は広がります。そこで、まずはデータの使い方と可能性を知ってもらい、自由な発想で活用してもらいたいと思っています。国境を越えた大災害や感染症への対応策はまさにアプリケーションを開発する絶好の機会だと捉えています。

佐藤 今回の新型コロナ感染症の様なケースでは、まず発生地と言われる中国の武漢を上空から見たいと思いますが、どんなことができるのでしょうか。

中村 例えば車の動きなど、経済の影響がどれほど出ているか画像から読み取れます。武漢を定期的に撮影して画像という客観的なデータから分析することができます。



宇宙に国境はない

佐藤 最近、アフリカに行っていたそうですね。訪問の目的は何ですか。

中村 日本の伝統芸能や芸術、技術を様々な人に伝える、外務省の日本ブランド発信事業でエチオピア、ザンビア、アンゴラを訪ねてきました。まだアフリカの人にとっては、宇宙は非常に遠い場所と思われています。日々の暮らしが大変で、宇宙開発で何十億、何百億投資することは考えられません。しかし、宇宙はそんなに遠いものではなく、衛星を活用してできることを伝えに行きました。まるで啓蒙活動のようでした。

佐藤 30年前、イーラーニングの視察で南アフリカのプレトリアへ行きました。物理的に大学へ通えない生徒に、パソコンを貸与して授業を配信するものです。その当時は通える範囲に大学がある日本に持ち帰ってもできないと思っていたのですが、今になってイーラーニングの仕事をしています。当時私たちは日本に適用できないと決めつけたのは、国を一つの単位とした狭い考え方でした。ですが、衛星を使った事業を提案していただけると、その概念が振り払われる可能性がありますね。

中村 その通りです。宇宙が提供できる価値は普遍的で、この国だからどうということはありません。上手に活用していただけるサービスを提供できた時の恩恵は大きいのです。我々は高価な衛星を買ってもらいたいわけではありません。我々が提供できる価値をどう世界に広げていけるかに興味を持って欲しいのです。

 今回アフリカで講演をして、衛星画像が簡単に活用できると気づいた現地の人はとても驚いていました。講演後にたくさん質問を受けましたが、現地の人がこんなに質問するとは予想していなく、外務省の担当者もとても喜んでくれました。実際にアンゴラの企業とは契約までしてデータ提供を始めています。


宇宙に国境はない

農業分野で宇宙活用

佐藤 宇宙事業に関心を持ってもらえて良かったですね。ちなみにそれはどういう事業内容でしょうか。


中村 ひとつは農業です。つい最近まで行われていた内戦により、まだ地雷が埋まっています。そのため農地が使えず、食料は輸入に頼っている状況です。国がこの問題の解決を試み、それを支援するスタートアップが出てきています。講演後にそのスタートアップ企業のCEOが訪ねてきて、「衛星画像サービスを是非使わせてほしい」と言ってくれました。

佐藤 実際にはどのように衛星画像サービスを使うのでしょうか。

中村 地雷除去は国が順番にやっています。衛星画像は農業を効率よく始めるために使われます。提携した企業は生産者と消費者の流通をITでスムーズにし、農業の一大プラットフォームを作ろうとしているベンチャー企業です。農家、小売、流通など農業に関わる人がメリットを得られるしくみを作ろうとしているのです。これまでドローンを使っていて、衛星画像は高価すぎて使えないと思っていたようです。我々の画像が生産者にとって有効なデータとなるので、是非試してみたいということでテスト利用をしている最中です。

佐藤 ケープタウン、プレトリアとアフリカには2回訪問した経験がありますが、まだまだ貧富の差が激しそうですね。それぞれの国に課題がありそうですが、今回の訪問から得た感触はどうですか。

中村 南アフリカはまだアフリカの中では先進国ですが、まだまだ課題が残されている地域や国があります。アンゴラは国有の資源が食料を買うために消えてしまっているのが現状で、自分達で食料を作りながら発展していくことが国としての課題です。ザンビアは銅で国を維持しているため、一次産業からの脱却や電気供給の安定化です。それぞれに課題がありますが、それを解決するために衛星画像が貢献できる分野があります。そこで衛星画像を活用してもらうために、発展途上国での利用事例を積み重ねていくことが重要です。アフリカの講演では、押し売りではなく、まだ誰も達成してないことを我々と一緒に作り上げ、新しいビジネスを作っていきましょうという呼びかけにとても感動してくれました。



ゼロからの挑戦

佐藤 井戸を掘って現地の人に感謝されるという話を聞きますが、それはみんなの幸福が井戸というニーズに応えたからです。その国のニーズや問題はその国民が知っているわけですね。ビジネスをする上で大切にしていることはどのようなことでしょうか。

中村 アンゴラの話もそうですが、単に画像を売って終わりではありません。現地の人たちが我々のデータを使ってどうビジネスを作っていくのか、どのアプリケーションを使いどうエンドユーザーにサービスを提供するのかが重要です。衛星画像を直接エンドユーザーに届けても使えません。

 衛星画像を現地の人が使うことで付加価値を高め、ニーズに則したサービスを提供することが一番望ましいのです。スタートアップでは効率を求められることがありますが、我々はシェア争いをしたいのではありません。既に確立しているマーケットの中でどうするかではなく、新しい価値をゼロから作っていきたいのです。それには、各地で一緒にビジネスを作っていかないと定着しません。現地に足を運ぶことでパートナーシップを大事にしながら地道にやっています。

佐藤 地道だけどとてもクリエイティブですね。さらにこのビジネスをしていくにはイマジネーションも豊かでないといけないし、求められる人材も見えてきますね。言われたことをただやるだけの受け身の姿勢では務まりませんね。

中村 人間関係も大事です。きちんと信頼してもらってビジネスの地盤を作ります。ベースがあると横展開ができるようになり、一気に社会に定着するデータプラットフォームになると信じています。

 ビジネスに近道はありません。地道に一個一個積み上げていくことで、5年後には社会に当たり前に受け入れられているプラットフォームになっていると信じています。大学から始めたベンチャーですが色々なサポートもあり、助けられてここまできました。


ゼロからの挑戦

パッションとミッション

佐藤 中村社長のアクセルスペースは大学発ベンチャーですね。他のベンチャー企業とどこが違うのでしょうか。

中村 事業化したい対象、パッションがあり、それを実現する手段として選んだ起業という点です。世の中には起業したいから起業できるテーマを探す人も少なくないでしょう。その場合、ビジネスになると思って起業するからやりやすいのです。一方で、大学発ベンチャーはまず技術を持っていて、この技術が社会に受け入れられるかどうかから始めます。これがとても大変なので大学発ベンチャーがなかなか生まれてきません。

佐藤 話を聞いていると、大学発ベンチャーをしている人には共通性があります。皆さんそれぞれの事業について話し出すと止まりません。

中村 そのぐらいのパッションがないと経営できません。以前、経営者と大学の教授でビジネスをさせようとした例がありますが上手くいきませんでした。経営者からすると、こんなにコストと時間がかかるビジネスをどうしてやるのかという話になってしまうのです。大学発ベンチャーはパッションを持つ人でないとやり遂げられません。大学発ベンチャーをどうしたらいいかとよく聞かれますが、教授ではなくパッションを持つ学生がやるのがいいと答えています。このビジネスを社会に定着させる覚悟があることが大切です。

佐藤 大切なのは「ミッション」と「パッション」、そして「ビジョン」なのですね。

中村 何を実現したいかのビジョンはあります。色んな偶然が重なってここまでこられました。最初は衛星を作ることへの興味だけでしたが、それを社会がどう見るかを考えたときに、「これだ」と自分の中で響くものがありました。

 自分たちが社会にどう貢献できるかは重要ですが、それを自分の持つ技術で実現できるのは素晴らしいことだと思います。この想いを大切にしながら実現していきたいです。世界中を撮影したデータを多くの人に役立つ形で使えるようにすることが私たちの使命です。




Profile 

佐藤綾子(さとう・あやこ) 博士(パフォーマンス心理学)。日大芸術学部教授を経て、ハリウッド大学院大学教授。自己表現研究第一人者。累計4万人のビジネスマン、首相経験者など国会議員のスピーチ指導で定評。「佐藤綾子のパフォーマンス学講座」主宰。『部下のやる気に火をつける33の方法』(日経BP社)など単行本194冊、累計323万部。


中村友哉(なかむら・ゆうや) 1979年、三重県生まれ。東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻博士課程修了。在学中、3機の超小型衛星の開発に携わった。卒業後、同専攻での特任研究員を経て2008年にアクセルスペースを設立、代表取締役に就任。2015年より宇宙政策委員会宇宙産業・科学技術基盤部会委員。



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