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トピックス -企業家倶楽部

2020年05月20日

「真剣」で挑んだ本気の勝負/ジンズホールディングスCEO 田中仁

企業家倶楽部2020年6月号 馬渕磨理子のそこが知りたい!vol.1





「ピンチはチャンス」。経営者なら誰しもぶつかる壁がある。その時、何を考えどう行動したのか。業界をリードする企業家たちをゲストに迎え、トップとしての心構えやブレイクスルーにつながるターニングポイントをアナリスト馬渕磨理子氏が紐解く新企画。記念すべき第一回はJINS田中仁社長。2度のターニングポイントを切り抜け、昨年は過去最高益を更新した。止まるところを知らないJINSはあの時のターニングポイントをどう切り抜けたのか。将来の展望とともに田中社長に語っていただいた。(聞き手:馬渕磨理子)



エビデンスベースでピンチをチャンスに

馬渕 御社は今回のコロナウィルスを含め、3度のターニングポイントがあったと思います。3月5日にホームページに危機管理のお話を書かれていましたが、ご出身の群馬県前橋市に2つ目の拠点、第二本社を置かれた理由をお聞かせください。

田中 コロナウィルスもそうですが、特に言われて久しいのが首都圏直下型地震です。30年内に7割の確率で起こると言われていますが、対策が打てているかというと、事実動けていませんでした。これからどんなことが起きるかわかりません。何か起こった時に、社員の安全が第一ですが、加えて生産拠点や物流拠点、本社機能など、社員の労働環境と事業を継続させる環境が整えられているかというと、できていませんでした。

馬渕 国内の多くの企業も同じ状況ですよね。

田中 「本社は東京だけ」という企業はたくさんあると思います。エビデンスベースで考えないといけません。事実や根拠に基づいた行動を心掛けた方が良いと思っています。リスク回避をするためにどうあるべきかを考えたときに、起業の地である前橋が災害も少なく災害保険料も安いという理由で選びました。

馬渕 今回のコロナウィルスは日本の企業が考えなければならないきっかけになりましたね。リモートワークも必然的に迫られていますが、御社は以前から進められていると伺いました。

田中 このコロナウィルスで初めて「テレワークをしっかりやろう」というムードが生まれました。仕組みはあったのに、こういうことがないと機能させられないものです。有事には様々なことをトランスフォーメーションする良いきっかけにしなければなりません。



付加価値を創造する

馬渕 前期の業績は過去最高益を出されています。業界内だけには留まらず、ここから益々成長していくと思いますが、眼鏡業界のトレンドについてお聞かせください。

田中 最近の業界の売上は横ばいです。眼鏡というものに新しい付加価値を生めなければ、この横ばいが段々と右肩下がりになります。これはどの産業でも同じでしょう。

 新しい価値を生みだすというのは我々のミッションとしても掲げています。バイオレットライトを使った近視進行抑制メガネ型医療機器の開発もそうですが、価値を付けていきマーケットを広げるのが我々の狙いです。ですがいずれは目薬で視力が治り、眼鏡の視力補正が不要な時代になってくるでしょう。そのときどう生き残るのか、「眼鏡ってどういう存在なのか」ということを議論しています。



「真剣」で勝負する覚悟

馬渕 新機能や新デザインを計画的にリリースしているのはビジョンに基づいているのですね。08年が1つ目のターニングポイントだと思いますが、ファーストリテイリング柳井正会長に会いに行ったそうですね。どんな話をされたのですか。

田中 06年に株式上場して気が緩んでいました。戦略が無いまま出店や開発をして、2期連続最終赤字になりました。さらにリーマンショックと重なります。株価も50円以下で上場廃止も見え隠れしていました。そんな時に、偶然柳井さんをご存知の方から「田中さん一回会ってみませんか」と紹介を受け、08年12月24日にお会いしました。

 私は「何かヒントがもらえるのではないか」という甘い気持ちで会いに行きました。ですが、行ってみたらとても厳しかったのです。

「御社はどんなお仕事されているのですか」「御社の企業価値は何ですか」と次々に質問され、あたふたして答えました。ですが、初めの2、3問で柳井さんは見切ったようでした。直接言われてはいませんが、「あなたには経営者としての能力がない。ビジョンも志もない会社は売った方がいい。この株価は御社に将来が無いと言っている。自分自身を知りなさい」。そう言っているのだと受け取りました。

馬渕 奥様が心配するほど顔色が悪く、体調まで崩されたそうですね。

田中 業績を回復させるための施策、テレビCMや追加料金0円、エアフレームの件も、頭の中にずっとありましたが、実行する勇気がありませんでした。自信がないからチャレンジできなかったのです。失敗したら更に赤字が上回るのではとか、悪い方に考えてしまうのです。

 でも柳井さんに「ビジョンや志がなかったら事業は絶対に成長しない」と言われ、確かにそうだと思いました。体調が悪くなりながら、布団の中で、自分は何のために仕事をしていて、会社は何のために存在しているのだろうと自問自答しました。

 そしてすぐ翌年1月の役員合宿で、会社の運営はこうだと戦略を決めました。それを決めたら、会社が何のために存在するのか、自分自身が何のために仕事をしているかが腹に落ちました。すると、それまで妄想していたアイデアを実現させたくなるのです。これで失敗して会社を辞めても悔いはないと、覚悟できました。

 その覚悟ができ、「メガネをかけるすべての人に、良く見える×良く魅せるメガネを、史上最低・最適価格で、新機能・新デザインを継続的に提供する」、これを具現化するためにこうしようというのが見え、それが年末までのアイデアと結びつくのです。そしてこのアイデアを自分自身、商人として試したかったのです。それまでも勝負はしてきましたが、そこで初めて「真剣」勝負をしました。

馬渕 株式上場もされていましたし、それまでも真剣勝負ではなかったのですか。

田中 それまでは竹刀の勝負だったのです。負けても痛いくらいで、「真剣」ではないので死にません。でも、真剣を持ったときの勝負はエネルギーが寄ってくるのです。負けたらもう辞めるしかない。そうすると迫力が出てきます。絶対に勝たねばと思って構えると、CMに何億円かけるという話に「今の時代に合ってない。この会社はこうやって上手くいった」などと言われても、命懸けでない中途半端な意見に価値を見出せなくなりました。

 それでも、店長会議で話をしても、8割ほどは「本当にうちの会社大丈夫かな」という不安を感じたと思います。ただあの真剣勝負がなかったら今はありません。

馬渕 一番のターニングポイントで、それが礎になっているのですね。

田中 何事も本気になることの大切さと力を感じました。


「真剣」で勝負する覚悟

初代のあるべき姿

馬渕 ピンチの後には業績も回復し、株価も急上昇しました。様々なアイデアもこのとき既にあったのですね。

田中 「JINS PC」やブルーライトカットも売れましたが、また壁がありました。原因は、ブームで接客が回りきっていなかったのです。お客さんが来るのが当たり前で、店舗のスタッフは感謝する気持ちを忘れていました。

 そのとき、「メガネをかけるすべてのひとに・・・」は戦略で、時代とともに変わるということでした。しかし、時代が変わっても50年・100年変わらない、根っこのビジョンを決めて、その時代にあった戦略を決めなければならないと思いました。そこでドイツのコンサルティング会社と組み、我が社のビジョンづくりをしました。

馬渕 14年にブランドビジョンを再定義されたものが「Magnify Life」なのですね。このとき、従業員と正社員数を増やされていますが、経営者として大変な判断だったと思います。理念が固まったことにつながってくるのでしょうか。

田中 お客様に接する店舗スタッフがブランドを体現する。つまりお客様はスタッフを見てそのブランドを判断します。なので店舗スタッフは本当に大切な人間であり、その人たち皆が共通の価値観を持たなければなりません。その共通の価値観として「Magnify Life」が生まれました。そして、それを具現化する従業員のAttitude(姿勢)として、Progressive(革新的な)、Inspiring(インスパイアする)、Honest(誠実な)という3つ心構えを決め、人事評価や店舗作り、商品作りなどあらゆるものに紐づけてブランドを体系化していきました。

馬渕 従業員も増やされ、教育も徹底されている点が2つ目のターニングポイントだったのですね。

田中 目標は「世界一になりたい」とか「売上一兆円」ということではないと感じました。日々のビジネスの繰り返しがブランドを創り上げていきます。そう考えると、自分が生きているうちに世界一になることが、ブランドとしてあるべき姿なのだろうかと思ったのです。いわゆるブランドと言われるものは、頭首が4代5代と続いています。初代は、自分が世界一になるというよりは、世界一の価値を提供するための礎になる人間だと思うのです。そう考えたことで自分の生き方も変わり、ただ会社の売上利益だけではなくて、その成長が社会につながっていくことを考えるようになりました。



実力と自信を持って

馬渕 「世界一」を考えると数値だけを追いがちですが、御社が向かれている方向は近視のない世界観や医療的な側面もありますよね。さらに「Think Lab」は全く眼鏡と違いますが、眼鏡の装着中に採取した、「オフィスでは集中できない」というデータをもとに作っています。一見すると、眼鏡から生まれていますが、「見る」ことにメインを移されたと感じます。そして業績も過去最高益になり、いま正に次なる第3フェーズへのターニングポイントだと思いますがいかがでしょうか。

田中 私もそう思います。前回はブームで作った最高益でした。でも今回は実力です。積み上げているという自信があります。さらに、我々がこれから出す製品は他社にないものがまだまだあるので、さらに右肩上がりになる気がしています。ゆくゆくは最低でも利益で1000億円になりたいです。業界では、眼鏡の売上と利益、販売本数は全国で一位ですが、今のビジネスモデルに固執していたら落ちていきます。JINSを、ビジネス変革をしないとだめです。その先行きには自信があります。

馬渕 アイデアは田中社長の中にベースがあるのでしょうか。

田中 今までは私がメインでしたが、今は社員も含めた優秀な仲間とともに考えています。私より社員のほうが優秀ですから。そういう体質にしなければならないと思っています。


実力と自信を持って

我が道を行く

馬渕 今後発表されていく商品が楽しみですね。それは眼鏡をかける方々の生活を変えるという方向性なのでしょうか。

田中 基本的にはそうですが、お客様の健康や「見る」ことに役立つことにつながるかもしれません。将来的に眼鏡が本当にこの世に残っているかは分かりません。お客様にとってメリットの大きいサービスが生まれるかもしれません。

馬渕 その一つが「Think Lab」なのでしょうか。

田中 「Think Lab」は派生事業の一つです。非常に面白く、可能性があります。最初はB2Bで作りましたが、2月に汐留にB2Cを作り、好評いただいています。そういうB2Cのモデルをこれから作っていきたいです。

馬渕 オフィスだと人から声をかけられて集中できないこともあります。作業が進まないので、一人で仕事ができる空間は大事ですよね。



バカになるほど成長する

馬渕 経営者としていつも心がけていらっしゃることはありますか。

田中 スタッフに「本気は自分への投資」と言っています。何かをするときには本気になる。本気になると、周りからは一見バカに見えます。でも結果として、本気になって取り組んだことは、後に自分の血となり肉になり、成長につながります。自分でうまくできていると思っているときは、だめなのかもしれないですね。よく「人間万事塞翁が馬」と言いますけど、調子がいいときは失敗の種を蒔いていて、逆境のときは自分を磨く環境になっているのではないでしょうか。

馬渕 逆境の時こそ努力して認めることが次につながる、それの繰り返しですね。部下の意見も取り入れられる方でしょうか。

田中 そこは自信があります。仕事において自分の思いを言える会社であり、良い意見はどんどん取り入れます。それぞれの分野に優秀な人がいて、そのアイデアを寄せて初めて会社が成り立ちます。自分もそうですが、つまらない会社では働きたくありません。スタッフにとっても面白い会社でありたいと思うのです。それでは面白い会社ってなんだろうと思うと、自由に働けて、自由に意見が出せる、そういう場ではないでしょうか。世の中の人を見ていると、少しの勇気や覚悟が持てていないと思います。自分が本当に良いと思っていることを、会社や上司に進言して、それが本当に良ければ、きちんと組み入れる会社で働くべきでしょう。なのに、給与や待遇を守ろうとして自分を殺して生きている人がいかに多いか。

馬渕 その言葉を経営者だけでなく本当に世の中の人に届けたいですね。次世代の経営者の方々に何かメッセージを頂けますか。

田中 「本気になろうよ、覚悟を持とうよ、勇気を持とうよ」という言葉です。




Profile

田中 仁(たなか・ひとし) 1963年生まれ。81年前橋信用金庫(現しののめ信用金庫)入庫。87年、服飾雑貨製造卸のジンプロダクツを創業。88年、有限会社ジェイアイエヌを設立(現 株式会社ジンズホールディングス)。06年8月大阪証券取引所ヘラクレスに上場(現在のJASDAQ)。メガネなどのアイウエアを扱う「JINS」を全国に展開。13年「第15回企業家賞」受賞。5月東証一部に上場。

馬渕 磨理子(まぶち・まりこ) 京都大学公共政策大学院を卒業後、法人の資産運用を自らトレーダーとして行う。その後、フィスコで株式アナリストとして活動しながら、現在は日本クラウドキャピタルでマーケティング・未上場株のアナリストも務めるパラレルキャリア。プレジデント、SPA!での執筆を行う。大学時代はミス同志社を受賞。



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