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トピックス -企業家倶楽部

2020年05月26日

Yコンビネーターの新規育成企業に見る未来――超音速旅客機からコロナウイルス対策まで

企業家倶楽部2020年6月号 GLOBAL WATCH vol.31


米国を代表するアクセラレータ一、Yコンビネーターは、今や世界のスタートアップの登龍門となっている。ここからストライプ、エアビーアンドビーなど多くのユニコーン企業が育っている。同社は2020年最初の投資案件約200社を3月に公開した。同社の投資リストには未来が詰まってる。ハードウェアからソフト開発、そして今、世界を揺がしているコロナウイルス対策まで。ビジネスのヒントを探った。





マウンテンビューにあるYコンビネーターの本社オフィス。コロナウイルスの影響で3月の「デモデー」はすべてオンラインでの情報提供となった。


未来1 サンフランシスコからニューヨークまで音速で3時間。東京ー大阪ほどの距離ならビルからビルへと垂直離陸機で目的地にひとっ飛び――。

 ハードウェア系のスタートアップは比較的分かりやすく、スケールも大きい。中でもエクソソニック(シリコンバレー)は「超音速旅客機を復活させる」を合言葉に、轟音のしない超音速旅客機の開発を目指している。超音速旅客機といえば英仏が共同開発したコンコルドがあった。1979年に就航したが、ソニックブームという爆音が原因で大西洋上しか飛べず、燃費コストもかかったため商業的に成功しなかった。2000年の爆発墜落事故もあり、もうその雄姿は見られない。

「過去50年、長距離旅客機の飛行時間は変っていない。これを半分にする」というのがエクソソニックの目的。マッハ1.8の60人乗りの旅客機を想定している。サンフランシスコから二ューヨークまでを、東京~大阪を新幹線で行くのと同じ3時間で結ぶという。30年の実用化を目指し、軍用機への転用も可能にして市場を拡大する。共同創業者兼CEOのノリス・タイ氏はロッキードマーチンでNASA(米航空宇宙局)の支援を受けて低騒音機の開発を手掛けた経験を持つ。

 19年7月にスペースXのエンジニア2人が創業したタリンエアー(ロサンゼルス)は、滑走が不要なVSTOL機(垂直短距離離着陸機)の開発を手掛ける。水平翼のある通常の形状の飛行機(5人乗り)に、4つのプロペラがついた浮力機が合体して浮上する仕組み。浮力機は上空で離脱し、本体のみが水平飛行に移行する。着陸直前に再び、飛来した浮力機が合体して、プロペラの力で着陸するというアイデアだ。電気の力で560キロメートル(350マイル)飛行できるようにする。空港まで移動しなくても、ニューヨーク〜ワシントン(200マイル)、東京〜大阪(500キロメートル)にあるオフィスビルなら直接結べるようになるかもしれない。



未来2 掃除や修理など人手が必要だったサービス産業の自動化がロボットで加速する。

 ソマティック(ニューヨーク)はオフィスのトイレを便器から床まで掃除してくれるロボットを開発した。車輪の付いた自走する本体にノズルのついたアームがついており、画像認識で便器などの位置を特定し、アームから液体を噴射して洗浄する。アームがブラシを自動で装着し床なども磨く。あるテック企業と契約し、250台のロボットで年間650万ドルのサービスを提供する契約を結んだという。ロボタイヤ(シリコンバレー)は自動車のタイヤ交換を自動化した。アーム状のロボットが重たいタイヤの着脱をする仕組みで、4本のタイヤを従来の4分の1の15分以内で交換できるとする。カナダのサイバードンティクス(ブリティッシュ・コロンビア州キャッスルガー)は虫歯の処置をするロボットを開発中だ。虫歯を削って被せもの(歯冠)の処置を、歯医者の手作業よりも8倍速い15分で可能にする。

■デモデーはオンライン開催


 Yコンビネーターはスタートアップ育成スクールのようなもので、年2回、冬(1〜3月)と夏(6~8月)に3カ月のコースを開設し、世界中から「生徒」を募集する。Yコンビネーターはスタートアップの株式7%と引き換えに15万ドル(1500万円前後)を提供する。スタートアップはお金をもらって、ビジネスモデルに磨きをかける。必須授業は毎週シリコンバレーで開催される「ディナー」への出席のみ。そこで著名な起業家などを招いて講演をしてもらい、ディナーを通じて、講演者やほかの起業家らと意見交換をしたり、人脈を広げたりできる。そして「卒業」イベントとして「デモデー」を迎える。投資家やメディアを前に、創業者が自らのビジネスモデルをプレゼンする場だ。出資を受けるチャンスや、ニュースとして報道される機会を探る。


 今年は3月23日と24日の2日間、サンフランシスコのイベント会場「ピア48」で招待客1000人以上を集めて大々的に開催する予定だった。ところが新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミック騷動で、急きょオンラインでの情報提供のみとなった。Yコンビネーターは当初よりも早い16日には招待客のみが閲覧できるサイトを開設。企業の概要と創業者のバ ックグラウンドを掲載し、創業者に直接連絡できるようにした。今回は前回19年8月のデモデーよりも22社多い197社がエントリー。これは会場をシリコンバレーからサンフランシスコに移した1年前のデモデーの参加企業数186社を抜き、過去最高の参加数だ。197社のうちハードウェア系は22社で全体の11%を占めた。


未来2 掃除や修理など人手が必要だったサービス産業の自動化がロボットで加速する。


20年冬のデモデーはオンラインで実施するとの告知。
写真は過去のデモデーの様子。(Yコンビネーターのサイトより)


未来3 コロナウイルスのような感染症がパンデミック(世界的な大流行)になっても、すぐに治療薬が見つかる。

 コロナウイルス大流行という時節柄、ヘルスケア分野のスタートアップにも注目が集まる。ヘルスケア/バイオテクノロジーとして分類される企業は33社あった。「量子コンピューター」「人工知能(AI) 」、そして「コロナウイルス」という3つのキーワードがそろったスタートアップがメンテンAI(サンフランシスコ)。量子コンピューターと機械学習を使って効率的にタンパク質医薬品の設計・開発を手掛ける。量子コンピューターは従来のスーパーコンピューター以上に、膨大な計算を高速でできると期待される次世代技術。共同創業者兼CEOのハンス・メロ氏はAIで有名なカナダのトロント大出身で強化学習で博士号を取得。共同創業者兼CSOのトーマス・ヨルベ氏はスウェーデンのストックホルム大学出身のタンパク質工学の専門家だ。紹介文には「新型コロナのようなウイルスの拡散を防ぐペプチドを含む3つの新しいタンパク質の開発に取り組んでいる」とある。

 ポストエーラ(シリコンバレー)も機械学習を使って医薬品の開発をし、開発期間の短縮をうたう。Yコンビネーターは3月25日、コロナ対策に貢献できそうな投資先30社ほどのリストを公開しており、ポストエーラもそのうちの1社。英ケンブリッジ大、オックスフォード大、ニューヨークのスローンケタリング記念がんセンター、イスラエルのワイツマン科学研究所と共同でコロナ治療薬を探査中という。フェリックス・バイオテクノロジー(サンフランシスコ)は抗生物質に耐性を持った細菌感染症の治療にウイルスを活用し、治療薬として抗生物質を代替するとする。コロナウィルスに感染して死亡した人にもこうした耐性細菌に二次感染した人が多いという。アバロンバイオ(サンフランシスコ)はウイルスなどの抗原に結合する抗体こそ安全な医薬品として、「干し草の中から針(抗体)」を見つける方法を開発したとする。ハードウエア系ではタンブアヘルス(シリコンバレー)は「電話を肺の画像診断装置に変える」がキャッチフレーズ。「Tセンス」というデバイスを使って肺音を収集し、アプリで肺内部の様子を可視化する。肺炎や喘息などの診断に使えるとしており、ナイロビとケープタウンで実験中。放射線による診断と比較しても遜色はないとしており、医療機器の普及が遅れるアフリカやアジアなどの市場を開拓する。

■本流はソフトウエア

 Yコンビネーターはプログラマーのポール・グレアム氏らが05年に立ち上げ、ネット決済のストライプ、民泊支援のエアビーアンドビー、クラウドストレージサービスのドロ ップボックスなどのソフトウエア系ユニコーン企業を多数輩出してきた。「Yコンビネーター」という言葉自体、コンピューター言語「LISP」の関数に由来する。選抜されるスタートアップもソフト系が圧倒的に多い。今回の197社中、「SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)」に分類された企業が74社、「開発者向けツール」分野の企業が25社など、圧倒的にソフト系が多い。



未来4 リモートワーク、チーム作業などでオフィスワークの生産性が大幅に増す。

「退屈な会議、無くします」。ケイデンスワーク(シリコンバレー)は従来よりも会議を半減し1人当たり週5〜7時間節約できるようにするとうたう。女性がトップのスタートアップだ。マイクロソフトやドロップボックスで製品開発に携わってきたメリッサ・ドゥー創業者兼CEOは製品開発中に不要な会議で集中力を妨げられた経験から、ネット上でチームメンバーの作業や情報を共有できるソフトを開発した。ジンク(サンフランシスコ)はグーグルカレンダー上で、会議室の予約ができるサービスを提供。ヒューマンリー(シアトル)は求職者の選別を自動化し、人事担当者が効率的に採用活動を進めるのを支援する。

 コロナウイルスの拡大で注目されるリモートワーク関連のスタートアップもある。ミストロ(サンフランシスコ)は在宅勤務など離れた場所で働く従業員に福利厚生プログラムを提供する。医療サービス、スポーツジム利用、コワーキングスペースの提供などで、プリペイドカードを従業員に渡すことで精算の手間も省く仕組み。パイロット(サンフランシスコ)もリモートワーク向けサービスで、世界中に分散した従業員の給与の支払いなどを管理する。



未来5 プログラミングの手間を省くツールなどでソフト開発が効率化される。

 AIで話題のディープフェイク技術。フェイクニュースなど本人が話してないことをあたかも話している画像を生成する技術だが、ローズバッドAI(サンフランシスコ)はこの技術をマーケティングに応用する。カリフォルニア大学バークレー校出身の女性AI研究者リーシャ・リー氏が創業したスタートアップで、ネット広告をより魅力的にするため、掲載されているモデルの顔をサービス対象地域に適切な顔に取り替えてしまうツールを提供する。

 ディープソース(サンフランシスコ)はAI向け言語「パイソン」向けの校閲ソフト。プログラムのバグの可能性を指摘し、必要なら修正もしてくれる。フローボット(ニューヨーク)もプログラミング作業中に、自然言語でコードを記述すると実際の「パイソン」の言語記述に変換してくれるツールを提供する。プログラミングにかかる時間を大幅に短縮できるとする。フレッシュペイント(サンフランシスコ)は開発したアプリの利用状況を、プログラムに情報収集のコードを追加しなくても済むツールを提供する。

 ジェットアドミン(サンフランシスコ)はドラッグ・アンド・ドロップといったマウス操作で、顧客分析ツールなどをサイトに実装できるという。カストディア(サンフランシスコ)はグーグルスプレッドシートに、CSVファイルをダウンロードすることなく、各種データベースからデータを取り込めるようにする。

 ハードからソフトに経済活動の比重が移る中、ソフトウェアの生産性を高めるツールへの需要は高まっている。Yコンビネーターのスタートアップ育成の比重もソフトにあり、米国経済がデジタル対応を進める原動力となっているといえる。




Profile 

梅上零史 (うめがみ・れいじ)  大手新聞社の元記者。「アジア」「ハイテク」「ハイタッチ」をテーマに、日本を含むアジアのネット企業の最新の動き、各国のハイテク産業振興策、娯楽ビジネスの動向などを追いかけている。最近は金融やマクロ経済にも関心を広げ、株式、為替、国債などマーケットの動きもウォッチしている。

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