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トピックス -企業家倶楽部

2020年06月03日

マクドナルドとモスバーガー戦略の違い~「トマトの使い方」から見える~

企業家倶楽部2020年6月号 繁盛店から学ぶ


飲食店コンサルティング会社スリーウェルマネジメント代表の三ツ井創太郎です。このコーナーでは、皆さまが日頃なんとなく利用したり、見たりしている飲食店のビジネスモデルやマーケティング戦略を、分かりやすく解説していきます。皆さんにとって身近な存在であるハンバーガー業界。今回はハンバーガー業界売り上げ1位のマクドナルドと2位のモスバーガーの戦略を分析していきます。



ハンバーガー業界の売上高ランキング

 まず、ハンバーガー業界の売り上げランキングを見ていきます(非上場のため、最新の決算情報が公表されていない企業に関しては、過去の売上高などを筆者が調べた)。表1をご覧ください。

 売上高1位は日本マクドナルドホールディングス(2722億円)、2位はモスフードサービス(662億円)、3位はロッテリア(252億円)、4位はファーストキッチン(91億円)、5位はフレッシュネス(54億円)です。今回はハンバーガーチェーンの比較をするため、ケンタッキーフライドチキンやサブウェイなどのチェーンは除きました。

 上位5社の売上高を比較してまず気付くのが、マクドナルドの圧倒的な強さです。売上高は、2位のモスバーガーの4倍以上です。次は、上位2社の経営数値を詳しく分析します。


ハンバーガー業界の売上高ランキング


表1





表2





表3


マクドナルドの原価率は?

 マクドナルド(2018年12月期)とモスバーガー(2019年3月期)の直近の決算書から、両社のビジネスモデルをひもといていきます。

 売上高に関しては先ほど述べた通りです。一方、営業利益はマクドナルドが約250億円(営業利益率9.2%)、モスバーガーが約5億円(営業利益率0.8%)となっています。マクドナルドの営業利益はモスバーガーの50倍です(モスバーガーに関しては、18年8月に発生した食中毒の影響が大きく響いています。18年3月期の営業利益は約37億円です)。(表2参照)

 次に両社の原価率を見ていきます。マクドナルドの原価率は35.8%であるのに対して、モスバーガーの原価率は50.7%。両社の原価率には15ポイント近い開きがあります。(表3参照)ここまで大きな原価率の差がある要因として考えられるのが「野菜」です。皆さんも、モスバーガーといえば「野菜たっぷり」というイメージがあるかと思います。そして、マクドナルドと大きく異なるのが「トマト」の使い方です。

 モスバーガーのメニュー一覧を見てみると、トマトを強調したものが多くあることが分かります。一方、あまり気付かれていないようですが、マクドナルドの現在の通常メニューでトマトを使用しているのは「グラン クラブハウス」と「グラン ガーリックペッパー」の2種類のみです。いずれも、マクドナルドの中で特に野菜を前面に打ち出した商品であり、ある意味モスバーガーの対抗商品ともいえます。では、なぜマクドナルドではトマトを使ったメニューが少ないのか? その理由はトマトが高いからだと推測されます。



実際に分解してみた結果は?

 さらに両社の商品戦略を細かく分析するため、実際にマクドナルドのガーリックペッパーとモスバーガーの「モス野菜バーガー」を購入して分解してみました。価格はガーリックペッパーが390円、モス野菜バーガーは360円です(いずれも税込のテークアウト価格)。

 商品の満腹感において重要な指標であるハンバーガーの総重量はガーリックペッパーが162グラム、モス野菜バーガーは168グラムで大差ありません。しかし、トマトの重さに関してはガーリックペッパーが17グラムなのに対してモス野菜バーガーは32グラムと大きく違います。さらに、トマトとレタス等を合計した野菜の総重量はガーリックペッパー30グラムなのに対して、モス野菜バーガーは52グラムと1.7倍です。肉のパテの重量は両社とも53~55グラムとほとんど大差ありません。ガーリックペッパーは野菜の重量で負けている分、バンズの重量をモス野菜バーガーより10グラム程度多くしています。

 このことからも、いかにモスバーガーが野菜にこだわっているのかが伝わってきます。そのこだわりは、重量のみならず野菜の産地にも表れています。ガーリックペッパーのトマトやレタスは日本、韓国、アメリカ、メキシコ、ニュージーランド、カナダなど世界各国から仕入れています。一方、モス野菜バーガーのトマト、レタス、玉ねぎはすべて国産です。(表4参照)


実際に分解してみた結果は?


表4


原価以外から見えたモスバーガーの戦略

 新鮮な国産野菜を多用するモスバーガーの戦略は、原価率以外の経営指標からも読み取れます。ここで両社の「在庫回転日数」を見ていきます。在庫回転日数とは、在庫が何日かかって回転(在庫を販売して現金化された)したのかを分析する指標です。具体的には「棚卸資産(在庫)÷1日の売上原価」で算出します。それでは両社の在庫回転日数を見ていきます。(表5参照)

 マクドナルドの在庫回転日数は6.1日、つまり全店の6日分にあたる営業用の在庫を保有していることになります。一方でモスバーガーの在庫回転日数は2.6日です。

 モスバーガーの在庫回転日数が短い点に関しては、鮮度が重視される新鮮な国産野菜などの原材料を多く使用している事にも起因しています。

 一方、マクドナルドの在庫回転日数が長いのはなぜでしょうか。食材や備品等を世界各国から大量購入することで、原価を下げる戦略に起因しているといえます。ただ、こうした戦略は在庫の現金化が遅くなるため、キャッシュフローへの悪影響や為替変動リスクを伴います。つまり、資本力がある企業にしかできない戦略といえるでしょう。

 前号で取り上げたスターバックスコーヒーの在庫回転日数は約23日間です。コーヒー豆という商材を扱っていることにも起因していますが、在庫回転日数はその会社のビジネスモデルを探る上で一つの指標となります。

 グループ合計約1700店舗のモスバーガーに対して、全世界で3万7000店舗という圧倒的な数を誇るマクドナルドだからこそ、規模のメリットを生かした低原価率でのビジネス展開ができているといえます。

 次は業界1位の圧倒的売上高を誇るマクドナルドのマーケティング戦略を分析していきます。


 原価以外から見えたモスバーガーの戦略


表5


広告宣伝に注力

 マクドナルドのマーケティング戦略の特徴として、季節限定商品の販売強化が挙げられます。皆さんは何度も、以下のような商品を紹介するテレビCMを見たことがあるかと思います。

「グラコロバーガー」「月見バーガー」「チキンタツタ」

 ここで皆さんにクイズです。マクドナルドは年間何アイテムの季節限定商品をリリースしているでしょうか? 18年1~12月までのハンバーガー、デザート、ドリンク等の季節限定商品を集計してみると、なんと106アイテムもありました。ちなみに、17年度は115アイテムでした。このことから、マクドナルドが「年間100アイテム以上」の季節限定商品リリースを1つの指標としていることが予想されます。

 こうした新商品を開発、リリースしていくには大きな労力を要します。さらに、こうした季節限定商品を消費者に認知させるためには、テレビコマーシャルを含めたさまざまなPR戦略が必要となります。

 ではもう1つクイズです。こうした季節商品のPRを含め、マクドナルドが年間どの程度の広告宣伝費をかけているかご存じでしょうか?

 18年12月期の決算資料で「広告宣伝費及び販売促進費」を確認すると、77億円(売り上げ対比2.8%)となっています。77億円というと、ハンバーガー業界で売り上げが4位のファーストキッチンの売上高にも匹敵するような金額です。

 なお「広告宣伝費及び販売促進費」に関しては、18年度のみならず過去3年間を見ても、売り上げ構成比の2.6~2.8%を支出しており、マクドナルドが継続的に一定のPR費用をかけていることが分かります。こうした多額のプロモーションを継続的に行っていくことで、圧倒的業界1位のシェアを獲得できているのです。

 一方、モスバーガーに関してはマクドナルドのような多額のプロモーション費用は使えない代わりに「野菜たっぷり」「安心・安全」「国産野菜」という明確なブランドコンセプトを前面に打ち出すことで、一定の根強いファン層のリピート需要を獲得しているといえます。

 一方で、いくらマーケティングを強めても、店舗に人材がいなければ継続的に売り上げアップは実現できません。現在、人材獲得はどの企業においても最も重要な経営課題です。次はマクドナルドとモスバーガーの人材不足への対応策を見ていきます。



人材不足への対応策

 人材不足への対応は、飲食業に関わらず、日本のあらゆる業種においても急務の課題となっています。

 マクドナルドでは特に「主婦(主夫)」の採用に力を入れています。18年12月には3万人であった主婦(主夫)を4万人に増やすため、採用強化を行っています。「クルー(アルバイト)体験会」「LINE応募」「Twitter質問箱」といったように、応募の心理的ハードルを下げ、母数(応募数)増加に対する取り組みにも力を入れています。

 一方で、モスバーガーではシニアスタッフの雇用に力を入れています。また、リファラル採用(友人紹介)を行う専用のWebシステムを活用するといったように、多くのスタッフ獲得を実現しています。さらに、モスバーガーの新たな取り組みとしては、ベトナムの大学との連携が挙げられます。5年間の在留資格である「特定技能」を活用して、日本の店舗で雇用・教育を行う「ベトナム・カゾク」をスタートさせています。この取り組みの興味深い点は、5年間の就労を終えて帰国したベトナム人スタッフを、ベトナム現地でも店舗スタッフとして再雇用しようとしていることです。そのため、現地法人との合弁会社設立に向けても動いているようです。国内の人材不足解消と海外展開という2つの戦略を同時に進める新たな施策として、今後の展開に注目していきたいと思います。

 同時に、省人化への取り組みも進められています。モスバーガーではセミセルフレジなどの導入を進めています。また、マクドナルドでも「モバイルオーダー」の試験的導入を進めています。これは、お客さんが自分のスマホ等から事前にオーダーができる仕組みで、2020年には全国に順次導入していく計画となっています。

 教育面においては、スタッフの早期教育に使う「動画教育ツール」を強化するといった対策を行っています。

 このように、両社では人材不足に対して「応募数の最大化」「省人化」「定着率向上」「生産性向上」を計画的に推進しています。この視点は今後あらゆる業界で必要な取り組みとなります。

 売り上げアップにはマーケティング戦略がもちろん重要ですが、これだけでは飲食店の継続的な売り上げアップは実現できません。絶えず話題となる新商品を投入して顧客を飽きさせないマーケティング戦略と、店舗力の根幹である人材力を強化していくマネジメント戦略。この双方に対して企業として計画的にしっかりと取り組んでいるからこそ、マクドナルドは既存店売上高49カ月連続プラス、営業利益250億円を達成できているのです。




Profile 

三ツ井創太郎(みつい・そうたろう)飲食専門のコンサルティング会社、スリーウェルマネジメント代表。一般社団法人日本フードビジネス経営協会理事長。長年、飲食業界の現場で培った経験を武器に、個人店から大手外食企業、国内から海外まで幅広いクライアントに対してコンサルティング支援を行う。HP上で飲食店経営のあらゆる課題を解決する無料ノウハウブログを100記事以上公開中。



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