• トピックス
  • 企業家倶楽部
  • バックナンバー
  • 企業家チャンネル
  • 私の注目ニュース
  • 新商品コーナー

トピックス -企業家倶楽部

2020年05月29日

新型コロナでトランプ再選危うし/ニュースソクラ編集長 土屋直也

企業家倶楽部2020年6月号 国際政治入門vol.4


新型コロナウイルスを巡って米国と中国が非難合戦を繰り返している。トランプ大統領やポンペオ国務長官は新型コロナウイルスを「中国ウイルス」「武漢ウイルス」と呼んで、今回の世界的な蔓延の責任は中国にあると批判して、自らの対応の悪さを覆い隠そうとしている。



中国たたきに転じる

 米国側の主張は、米国の安保担当大統領補佐官、ロバート・オブライエン氏の3月中旬のワシントン、ヘリテージ財団での講演の発言によく現れている。「中国が医師の告発を封じ込んで発生を隠蔽したため、世界各国の対応が2ヶ月遅れた」。

 こうした発言に反発するように中国外交部(外務省)の副報道官はツィッターで「新型のコロナウイルスは生物兵器の研究所で感染した米軍人が2019年10月に武漢で開かれたスポーツ大会、ミリタリー・ワールドゲームズ(世界の軍人約1万人が参加した軍人オリンピック)に参加した際に持ち込んだ可能性がある」との記事を紹介した。

 自ら確認したわけでもない記事で応戦するなど、中国側の対応もずさんだ。非難の応酬は、相互不信と正確な情報が流れにくくなるだけで、感染拡大を防ぐという最大の目的にはそぐわない。事態を悪くすることだけで、大人気ないというよりは子供っぽい対応だ。これが経済規模で世界1位と2位として「覇権」を争っている大国の行動なのだから、暗澹たる気持ちになる。

 そもそも米国の主張は基本的なところで間違っている。中国は12月31日にはWHO(世界保健機構)に「武漢で原因不明の肺炎が27例発生、うち重症が7例ある」と通報、WHOはこれを発表していた。

 今回の新型ウイルス封じ込めの成功例をされる台湾は、この発表を受けて直ちに反応、中国からの旅客機に検疫官を急行させるなど対応策を次々ととった。台湾に比べれば、中国との人の交流は少ないとはいえ、米国もすばやく対応していれば爆発的な感染は防げたかもしれない。米国が中国への渡航歴のある人の入国禁止を出したのは2月に入ってからだった。

 1月末の段階でトランプ大統領はツイッターで「中国のがんばりと透明性に大いに感謝している」とほめあげていたのに、死者が増えだすにつれて、中国たたきに矛先を変えた。11月の米大統領選を控えて、米国内の空気を読んで、対応を変えたとしか思えない。

 確かに、オブライエン補佐官が言うような、告発した医師を処分するなどのおかしな動きが中国の武漢であった。ほかにも、武漢へ入って市、省の対応ぶりのまずさを報じた中国人ジャーナリストへの弾圧など、中国政府の側にも都合の悪い情報を遮断、封じ込めようとした動きはあった。発表されている感染者や死者の数も基準を厳しくして封じ込めているといわれる。

 だが、告発した眼科医への中国の警察の処分は1月に入ってから。先立つ時期にWHOへの通報はされ、台湾などはうまく対応しているので、世界の対応が遅れたという米国側の主張は通りづらい。



感染源は武漢の研究所?

 中国側が過剰にみえるほどの反応を見せたのにもわけがある。感染源は当初は武漢の市場で売買されていた野生動物とされていたが、本当の感染源は武漢にある二つの研究所のどちらかではないか、つまり政府機関から洩れたのではないかとの疑惑がまったく拭えないからだ。

 二つの研究所とは、この市場からわずか280メートルしか離れていない武漢疾病管理予防センターと13キロほど離れている中国科学院・武漢ウイルス研究所である。1月ごろからネット上でこれらの公的な機関が感染源なのではないかとの告発が続いていたが、2月6日には広東省の華南理工大学・生物科学与工程学院の教授が研究者投稿サイトに、この二つが感染源ではないかとの論文をアップした。

 いまはこの論文は削除されてしまったが、そのコピーは拡散している。もし事実なら中国政府は支払いきれない世界的な賠償請求を求められかねず、国内外からの批判で、習近平体制が揺らぎかねない状況になる。いまは感染拡大の抑止が最大の課題だが、状況が落ち着けば感染源について政治的な課題として浮上するのは間違いない。米中の非難合戦は、この問題の根深さを背景にしたなすりあいの前哨戦と言ってよい。



医療に消極姿勢がアダ

 大統領選を控えて中国たたきに転じているトランプ大統領の足下の支持率は少し上がっている。だが、コロナウイルスの問題はじわじわの支持を失いかねない要素をはらんでいる。トランプ大統領にとっての最大の弱点になりそうなのが、医療制度問題。国民に医療をいきわたらせる第一歩といえた、オバマ大統領が整備した医療制度「オバマケア」を骨抜きにする政策を打ち出していたことだ。

 米国では民間の医療保険に入れない低所得層の間で感染が爆発的に広がったのではないかとの見方が広がっている。そうでなくても、感染症の広がりで、誰でも医療を受けられる権利への関心が高まるのは確実だ。医療制度の充実を唱えてきた民主党候補へ票が流れる可能性が濃厚だ。新型コロナウイルスの問題が長引き、深刻化するほどに医療制度の充実に距離を置いていたトランプに不利に働くのは間違いない。

 もうひとつの問題は、感染症の問題はグローバルに解決していくしかない問題で、自国第一主義のトランプでは解決が遅れがちになる問題だからだ。感染症は、治療薬の開発とワクチンの開発ができて初めて問題を収めることができる。それまで重症者に治療を施せるよう医療崩壊が起こらないように、できるだけ感染者数が爆発的に増えるのを防ぐしかない。

 治療薬とワクチンの開発にはなによりも情報の惜しみない交換で開発を促進するしかないのだが、国際体制への協力に消極的なトランプ政権の下で米国は国連への資金を渋るなどWHOの弱体化に手を貸してきたとしかいえない。自国第一主義の米国に、欧州はこうした危機の際に積極的に協力する姿勢をなくしており、グローバルな解決への道筋がつけにくくなっている。

 トランプにとって新型コロナウイルスの蔓延は、再選への障害となる可能性が高い。中国や欧州をたたけばたたくほど、実はボディブローとなって自らに跳ね返ってくる問題だと言ってよいだろう。




Profile 

土屋直也(つちや・なおや) 1961年生まれ。84年早稲田大学政経学部卒業、同年日本経済新聞社入社。86年から3年間ロンドン駐在員としてサッチャー首相の英国と金融街シティを取材。98年から4年間ニューヨーク駐在中は、ウォール街を取材し、2001年9月11日の同時多発テロに遭遇。日本では主にバブル後の金融システム問題を日銀クラブキャップとして担当。バブル崩壊の起点となった91年の損失補てん問題で「補てん先リスト」をスクープし、新聞協会賞を受賞。2014年7月、ソクラ創設のため、日本経済新聞社を退職。同年10月、株式会社ソクラを起業し、代表取締役兼編集長に就任。

コメントをシェア

骨太対談
 
コンテンツメニュー
企業家賞
企業家倶楽部企業家大学
Page Top