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トピックス -企業家倶楽部

2020年06月27日

地球環境学の3つの視点 コロナ禍後の世界「地球」と共存する知恵が必要/千葉商科大学名誉教授 三橋規宏

企業家倶楽部2020年8月号 緑の地平 54





エコロジカル・フットプリント(http://www.ecofoot.jp/what/)より


一つの地球と折り合える知恵

 ポスト「コロナ禍」の世界はこれまでとは異なる道を歩むことになるだろう。その際、参考にすべきなのは地球環境学の3つの視点である。

 地球環境学の基本的な考え方は大きく3つある。第一は「一つの地球」と折り合える生き方の追求だ。経済活動の規模を測定する一つのアプローチとして「エコロジカル・フットプリント」(詳しく知りたい方はウェブサイト参照)がある。経済を発展させ、豊かな生活をするためには農業や漁業を営む、工場を造る、道路や鉄道を敷設する、住宅を造るなど様々な方法で自然の土地や海洋を利用する。その表面積を合算したものが豊かさを得るために犠牲にした(踏みつぶした)自然面積(エコロジカル・フットプリント)と定義する。

 地球は有限の惑星である。地下資源は発掘し続ければやがて枯渇してしまう、有害物質を排出し続ければ様々な公害病を発生させる、化石燃料の大量消費は地球温暖化を加速させ、異常気象を深刻化させる、野生生物世界に過度に踏み込めば、人間社会に存在しない悪性ウイルスの感染を引き起こす。

 一つの地球と折り合える生き方とは地球の限界を踏まえた生活をすることにほかならない。エコロジカル・フットプリントの研究者による試算によれば、一つの地球で暮らせたのは1980年頃までだった。それ以降は人間活動が地球の限界を超えてしまい、エコロジカル・フットプリントは拡大の一途を辿っている。2000年頃には1.2個の地球が必要な状態だった。もし世界の人々がアメリカ人並みの生活を求めれば、地球が5.3個、日本人並みの生活なら2.4 個の地球が必要になるという。

 地球の限界を突き抜けてゴリ押しすれば地球から様々な反撃を受ける。頻発する異常気象や今回のコロナ禍は地球の限界を超えた人類への警告として受け取るべきだろう。

 持続可能な一つの地球を維持するためには、地球に住む私たち一人ひとりが「地球市民」の意識を持たなくてはならない。

 地球市民に必要なマナーは、「地球的視野で考え、足元から実践する」ことだ。そのためには利己主義ではなく利他主義の発想が必要だ。他人に何かを求めるのではなく、まず自分が地球の悪化につながる行為を自制、節制することだ。それが回り回って持続可能な地球に貢献するという意識を持つことは並大抵なことではない。そんな「理想論」、「きれいごと」を並べても現実の世界では通用しない。人類の歴史を振り返れば、個人レベルでは利己主義、国家レベルでは「自国第一主義」を追求することで維持されてきた。そのやり方を変えることなど出来るはずがないと考えている人は少なくないだろう。だがその考え方を改めない限り大切な地球を持続可能な姿で維持することができない。そこまで追い込まれている。



バックキャスティング思考

 第二に必要な考え方はバックキャスティング思考である。激動の時代には過去のやり方を踏襲していては衰退してしまう。押寄せる変化に対し基本路線は従来のまま変えず微調整で対応すると、進むべき方向を間違え袋小路にはまり込んでしまう。

 今回のコロナショックについても同様な指摘ができる。地球の限界を超えたことで人間社会に存在しなかった様々な感染症が発生している。最近の事例で言えば、重症急性呼吸器症候群(SARS、03年)、中東呼吸器症候群(MERS、14年)が猛威を振るった時、中国、韓国、台湾、シンガポールなどは多くの感染者、死亡者を出した。この時の苦い経験からこれらの国・地域では感染症に対する周到な準備をしてきた。これに対し感染者、死亡者ゼロの日本は「対岸の火事」として傍観し、「日本は別だ」として準備を怠ってしまった。

 バックキャスティングとは、将来の望ましい姿、予想される最悪の事態を想定し、そこから現在を振り返り、望ましい姿に近づけるため、あるいは最悪の事態を回避するため、いまからどのような対策、準備を進めればよいかを政府の政策として事前に周到に検討し、それに沿って準備を進めていく手法のことである。この手法を取り入れていれば、今回のコロナ禍に対しても十分対応できたはずだ。



サーキュラーエコノミー思考

 地球環境学の3つ目の視点はサーキュラーエコノミー(循環型経済)思考だ。豊かな生活を求めて経済発展を求めた結果、地下資源の多くが掘り尽くされてしまった。世界各地の森林が伐採され農地や工場・住宅地などに転用された結果、多くの森が失われ、生物の多様性が損なわれてしまった。その結果、人間社会に存在しなかったウイルスが人間に感染し暴れ出した。

 ポスト「コロナ禍」の経済は、それまでの資源・エネルギー多消費型経済から抜け出しサーキュラーエコノミーに転換する必要がある。

 サーキュラーエコノミーに転換するための第一条件は原則として地下資源の発掘を止め、地上資源を有効に活用することだ。鉄、銅、アルミ、ニッケルなどの地下資源の多くは道路、鉄道、様々な建造物、さらに自動車、船舶、航空機、テレビやパソコンなどの製品に使われている。これらを総称して地上資源と呼ぶ。地上資源は寿命がくれば廃棄物になる。その廃棄物の中から貴重な金属資源を取り出し再利用する。これまでの経済発展によって、地上資源は十分過ぎる程蓄積されている。わずかに残された地下資源は将来世代に残しておく配慮が必要だ。

 第二の条件は再生可能(自然)エネルギー、水素エネルギーの積極的な活用だ。18世紀後半から始まった産業革命は石炭、石油などの化石燃料に支えられてきた。大量に消費された化石燃料が地球温暖化の主因になっている。

 これ以上地球温暖化を加速させないためには、太陽光、風力、バイオマス、地熱など多様な自然エネルギーと水素エネルギーを併用し、分散型の地産地消型のエネルギー供給体制を早急に構築しなければならない。



木材資源の再評価も大切

 サーキュラーエコノミーに求められる第三条件は、自然の回復である。20世紀後半の産業革命から始まった世界的な近代化、工業化のうねりの中で、世界中の森が大量に伐採され、生物の多様性が失われてしまった。

 自然回復の手段として森林の復活は急務である。木材は再生可能な資源で、計画的に植林すれば木材資源は再生可能な資源になる。歴史的にみれば経済発展に伴って金属資源やプラスチック資源が木材資源に置き換わったが、これからは木材資源が金属資源やプラスチック資源に置き換える努力が求められる。それを可能にする様々な技術が開発されている。

 ポスト「コロナ禍」の世界が持続可能な「一つの地球」を前提に動き出せば、これまでの「イケイケドンドン型経済発展」とは異なるが、活力ある安定した経済社会の新しい営みが可能になるだろう。




Profile 

三橋規宏(みつはし ただひろ) 経済・環境ジャーナリスト 千葉商科大学名誉教授 1964年慶応義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞社入社。ロンドン支局長、日経ビジネス編集長、論説副主幹などを経て、2000年4月千葉商科大学政策情報学部教授。2010年4月から同大学大学院客員教授。名誉教授。専門は環境経済学、環境経営論。主な著書に「ローカーボングロウス」(編著、海象社)、「ゼミナール日本経済入門25版」(日本経済新聞出版社)、「グリーン・リカバリー」(同)、「サステナビリティ経営」(講談社)、「環境再生と日本経済」(岩波新書)、「環境経済入門第4版」(日経文庫)など多数。中央環境審議会臨時委員、環境を考える経済人の会21(B-LIFE21)事務局長など兼任。

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