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トピックス -企業家倶楽部

2020年12月26日

企業カルチャーを育み「顧客目線」のプロダクト開発で成長

企業家倶楽部2021年1/2月合併号 マネーフォワード特集第2部 マネーフォワードの強さの秘密





2012年、辻はマネーフォワードを創業し、個人向けにお金の見える化サービス「マネーフォワードME」をリリース。翌年の13年から法人向けクラウド会計ソフトを加え右肩上がりで成長。創業から5年後の17 年に本格的なフィンテック企業としてIPO(株式上場)を果たした。時価総額は2000億円超となり、その「成長性」・「社会性」は市場からも高く評価されている。「すべての人の、『お金のプラットフォーム』になる」という壮大なビジョンを掲げ、挑戦を続ける同社の強さの秘密に迫る。 (文中敬称略)




「お金の課題をテクノロジーで解決したい。『お金を前へ。人生をもっと前へ。』というミッションを創業当時のワンルーム時代から掲げており、それは今も変わっていません」と辻は真っすぐ正面を見て語る。その淀みのない言葉には骨太な企業家が醸し出す、「覚悟」と「純粋さ」が伝わってくる。

 本来、「お金」は人生を豊かにする「手段」でしかない。そして、「お金」はその便利さから、私たちの生活に必要不可欠な存在であることもまた事実である。人々がお金に関する不安や悩みから解放されたとしたら、どれだけ幸せな人生を歩めるだろうか。

 真偽は別として国会やメディアで「老後2000万円問題」が話題になり、年金だけで生活できるのだろうかと不安に感じている人は少なくないだろう。実に多くの人が日々の暮らしの中で、家や車のローンや教育費などをやりくりしながら、さらに将来への貯えも考えなければならず、「お金」に関する悩みは尽きないのが現実だ。

「お金」に関する不安が積もり積もって、日本経済全体の閉塞感を生み出す原因ともなっている。辻は前職のマネックス証券にいた頃、退職金でFXに投資して始めは勝っていたが、だんだん負けが多くなっていた人たちがいるのを知り、心を痛めた。

「FXなどの金融商品は、使い方によっては良いサービスなのに、知識があるかないかで人生の選択肢を狭めてしまうのは勿体ない。お金はツールに過ぎないのに、人生を大きく左右することがある。お金に関する課題を解決するサービスを作りたいと思った」と起業に至る原体験になったと語る。

 インターネットというテクノロジーを活用し、「お金」の課題を解決することでより良い社会作りに貢献しようとチャレンジする同社の取り組みについて見ていこう。



強さの秘密1 先見性



DX時代の波を掴む

 テクノロジーは我々のライフスタイルを便利なものに変えてくれる。その中でも「インターネット」の誕生はインパクトがあった。90年代には多くのネット企業が誕生。レンタルサーバーやインターネット回線接続会社など、ネット黎明期にはインフラ周りの企業が勃興した。

 インターネットの商業利用から約30年が経った。高速なネットインフラが普及した後、その上で動くソフトウェアの時代がやってきた。高価だったサーバーもクラウド化が進み、事業者もユーザーもサービスを利用するコストが格段と下がったことでネットは私たちの生活に欠かせない存在となっている。

 07年に発売されたアップル社「iPhone」の登場が我々のライフスタイルをさらなる進化へと導いた。ネット接続の機会を室内から屋外へ引っ張り出したのだ。スマートフォンの普及は脱パソコンとも言える。若い世代には「ネット」イコール「スマホ」なのだ。1995年以降に生まれた世代を指す「Z世代」は、正真正銘の生まれながらの「ネットの民」である。インターネットは生まれる前から自然にあり、すでに無意識のものですらあるZ世代が社会人になり働き始めている。「令和」とはそういうデジタル時代であることを認識しておかなければならない。かつては輝きのあった「ネット企業」という言葉が使われなくなる日は近いだろう。

 高速大容量のネットインフラのコストが下がれば、多くの産業領域からネットサービスへの参入が起こるのは必然であろう。産業のDX化(デジタルトランスフォーメーション)が始まった。EC最大手のアマゾンやネット証券が既存勢力から市場を奪っていった事実がそれを物語っている。もはやDX化の判断の遅れは、企業の死活問題である。それは企業がデジタル化する前に、スマホが普及したユーザーのライフスタイルの方が先にDX化が進んでいるということなのだ。

 マネーフォワードが提供するプロダクトは、店舗を持たず、ネット上に存在する。ユーザーは必要な時に自分のスマホやPC端末からアクセスし、簡単に利用できるため利便性が高い。デジタル化が進んだ社会に上手く適合したサービスを展開している同社のビジネスモデル自体が、「時代の波」に乗っているのである。辻のテクノロジー・ドリブンの事業戦略における「先見性」が同社の強さの源泉といえるだろう。


DX時代の波を掴む

フィンテックの先駆け

 17年9月29日に東証マザーズに日本初のSaaS(Software as a Service)企業として株式上場を果たしたマネーフォワードは、間違いなく日本のフィンテック企業のフロントランナーと言える。フィンテックとは、金融(ファイナンス)とテクノロジーを掛け合わせた造語で、数字とデジタルの「親和性」の良さからこの20年の間にネット証券や電子決済事業など様々な金融サービスが誕生している。

 SaaS(サーズ)はクラウドサービスの1つの形態である。これまでソフトウェアはパッケージソフトとして提供されていたが、ユーザーは端末にソフトをインストールすることなくネットを経由してクラウド上で利用できるため、導入時の面倒な手間がなく、利便性が高い。このSaaS市場は年率13%で伸びており、24年までには1兆2000億円まで拡大する見通しで、魅力的な市場だ。

 先述のように「スマホ」が普及していく過程では、地図や天気、ニュースやゲーム、さらに音楽や動画といった非ビジネス領域のアプリが多く誕生した。まずはエンターテインメント領域が普及し、次にビジネス領域に広がっていくのがネット文化の特質と言える。次に欧米や中国に遅れた「キャッシュレス化」がようやく日本でも進み、電子決済が広く普及するとスマホが財布代わりになった。キャッシュレス化が進み、買い物に出る際に財布は持たずスマホだけ持参する人も増えてきた。その便利さからエンタメからビジネス領域でもスマホの使用頻度が高まった。

「週末に複数の銀行やクレジットカード、証券などの金融機関の口座を確認し、エクセルで一覧表を作るのは大変な作業で面倒」と辻は自身の体験からも資産管理ができるアプリの必要性を感じていた。

 ソニーやネット証券の先駆けとなるマネックス証券など先進的な組織で約10年間業務に携わる経験を持ち、さらにペンシルバニア大学ウォートン校でのMBA海外留学が加わり、海外の最新の金融サービスを目にしてきた。そんな辻が日本に戻り、フィンテック領域でスタートアップベンチャーを起業したのは必然だったのかもしれない。生まれる時代は選べないが、何をもって身を起こすかは企業家自身の意思決定である。この時代に「クラウドサービス」を選択したことは、運の良さもあるが、辻をはじめとする経営陣の着眼点の良さ、まさに事業戦略の勝利であると言える。


フィンテックの先駆け

強さの秘密2 顧客目線



個人向け家計簿アプリ

 家計簿アプリ「マネーフォワードME」の利用者は1100万人を超え、業界シェアでナンバーワンを誇る。具体的にどんなサービスか見ていこう。まずは、アプリをスマホにダウンロードすると、自分が普段使っている銀行やクレジットカード、証券会社と連携させる。

 ユーザーは各金融機関から発行されるオンラインサービスのIDとパスワードを入力するだけでいい。すると自動でデータを取得し、ばらばらに預けている自分の資産が「見える化」されるのだ。提携している金融機関は2650以上あり、銀行口座の残高、保有している株式や投資信託、クレジットカードの利用額、マイルやポイントまでが一括管理、1つのアプリ上で個人の資産を把握でき便利だ。

 ユーザーは個人の金融資産データを取り扱うのだからセキュリティについては最も気になる点だろう。同社では、金融機関のシステム構築・運用に長年携わったプロ人材が、システム構築を担当する。最高水準の暗号方式「2048bit」のSSL証明書を利用した方式を採用し、ユーザーのデータと銀行等の認証情報は、異なるサーバーに暗号化して保存し、既存の金融機関と同等レベルの厳重な管理・運用体制を敷いている。



「以前、アカウントを2重登録したみたいで使えないと辻社長に相談したところ、『いくら社長の私でもユーザー情報にはアクセスできないので申し訳ない』と言われたことがあり、むしろセキュリティに対して信用するようになりました」と辻の友人でもある弁護士の菊間千乃は言う。



ユーザーフォーカス

 ウェブサービスでは、いろいろな説明はなしに直感的に使える「UI」(ユーザー・インターフェイス)でなければ利用者は増えない。同サービスも手のひらサイズの中に資産の内訳を示す家計簿の円グラフや推移、口座残高を一覧できるように工夫したデザインになっている。面倒な作業から解放され、これまで手間がかかっていた資産確認の時間短縮ができ個人ユーザーの痒い所に手が届くサービスのため支持されている。

「これは本当にユーザーが求めているだろうか。ユーザーのためになるプロダクトしか社外に出さない」が新サービス開発に関わるエンジニアやデザイナーの口癖である。この顧客目線のプロダクト作りが同社の開発のベースにはある。

 そして同社の特徴であるが、デザイナーに大きな権限が与えられている。現代では「見栄えがいい」とか「カッコいい」というだけがデザイナーの仕事ではなくなっている。アップル社のiPhoneのように直感的に迷わず使える機能面や組織の在り方にまでデザインが深く関わってくる。ユーザーはその企業のモノづくりに対する姿勢を「プロダクト」から無意識的に感じ取るものである。同社の「ユーザーフォーカス」という行動指針が徹底されているから、シェアナンバーワンの地位を確立しているのだ。

 ビジュアルによって視覚的に自分のポートフォリオを確認できるため、ユーザーは使い心地が良いと感じ頻繁にサービスを利用するようになる。銀行の入出金やクレジットカードの履歴をもとに自動作成されたグラフによって、「お金の見える化」が実現したことにより曖昧であった記憶ではなく、正確なデータをもとに毎月の支出からどんなものにお金を使っているのか分析できるメリットがある。故にロジックで使い過ぎを節約するような行動に変わっていく効果が望める。現状把握が出来てはじめて、現金と不動産と株式のポートフォリオを比較し、資産形成の次のステップに進むことができるのだ。



強さの秘密3 生産性向上



B2Bへ参入

 20年、新型コロナウイルスの感染拡大が世界を襲った。感染防止のためテレワークが推奨され、「ウェブ会議システム」や「プロジェクト管理ツール」などオンラインによるコミュニケーション支援サービスに注目が集まっている。結果的にコロナ禍は働き方のDX化を一気に早めるという効果があった。マーケットでは、ますます本格的なビジネスツールとしてのアプリケーション誕生の期待値が上がっている。

 個人向けの「家計簿アプリ」からスタートした同社だったが、ユーザーに「どんな機能があったら便利か」というアンケートを取ると、「確定申告」というキーワードが浮かび上がってきた。辻はソニー時代に経理部に所属していた経験があり、会計業務の非効率さについては理解していた。

 しかし、まだ家計簿アプリを立ち上げてから日が浅く、社内では新規事業にリソースを割くことに反対するメンバーも多かったが、辻は思い立ったが吉日と開発を進めた。「法人向けクラウド会計ソフト」事業の立ち上げにこのような秘話があったが現在では売上げの6割を占める主力事業へと育っている。



法人向けクラウド会計ソフト

 クラウドサービスのメリットはいくつかあるが、まずは何といっても「価格」である。従来の社員数千人規模を想定している大企業向けパッケージソフトは高価であり、導入するにはソフトをインストールする「手間」がかかる。それに比べて確定申告や見積書・請求書の作成ができる「マネーフォワードクラウド会計」は、小規模の法人向けで月額2980円(中規模法人向け4980円)で初期費用が掛からずに始められる。個人事業主向けでは月額980円となっている。

 銀行、クレジットカード、電子マネー、勤怠管理、POSレジなどと連携することで膨大なデータ入力や仕訳を自動化し、会計業務にあてる時間を大幅に短縮、中小企業の課題である業務効率の「生産性」を上げることができる。請求書を作成すると自動的に取引先別、品目別などレポートを作成し、月次の推移や傾向を分析できる。経営状況を「可視化」し、より正確で迅速な経営判断がしやすくなる。データはクラウド上にあるため、端末を選ばずスマホからいつでもどこでもアクセスできる。

 さらに、クラウドサービスの利点として、法令改正や消費税の増税への対応や日々のサービス改善にも無料で素早くアップデート対応してくれることが挙げられる。従来のパッケージ型のサービスと異なり、バージョンアップの必要がなく、最新機能に自動的に更新してくれるのはありがたい。



強さの秘密4 企業文化



MVVC浸透

「一人では何もできません。自分は苦手なことも多い。自分よりも優秀な人が沢山いて、その人に任せた方が良い仕事をしてくれます。感謝しかない」と辻は仕事観について語る。関西出身の人が大切にする「義理人情」の厚さからなのか、偉ぶることがない。庶民派なのだ。

「採用面接でオフィスを訪ねた際に、社員と親しそうに話している辻の姿を見かけたのですが、この人が社長だと後で知りました」という社員は多い。誰とでもフランクに接する辻の人格が組織にも浸透しているのだ。社長室もガラス張りでオープンな雰囲気が漂う。

 取材を進めていく中で社内の様々な部署のメンバーに話を聞いたが、それぞれ個性はあるものの共通点があるように感じた。それは、プロダクトや組織に対する自分の立ち位置と目指すゴールを理解していることだ。

「本当にそれはユーザーのためになるのか常に議論しています」、「当社はユーザーフォーカスというバリューを大切にしているので、儲かるかどうかが基準ではない。社会に役立つ会社でなければ存続できない」と会話の中に自分の言葉として自然に出てきていたのだ。普段から考え、行動していないと自分の仕事観は語れないものだ。もうすぐ1000人規模の組織になるが、自社の「ミッション・ビジョン・バリュー・カルチャー(MVVC)」を言語化し、浸透している会社は強い。間違いなく同社の成長の原動力になっている。


MVVC浸透

カルチャーが競争優位性

 しかし、初めからこの様な企業文化があった訳ではないとPeople Forward本部 VP of Cultureの金井恵子は言う。組織が50人、100人、300人、900人と大きくなるにつれ、会社が大切にしている価値観も希薄化し、「言葉」の輪郭が人それぞれズレてきていると感じていた。

 もともとデザイナーとして入社した金井であったが、言語化できていない現状に危機感を持ち、自ら社長である辻に進言し「行動指針」の見直し・浸透の担当を担うことになった。部署を超えて越境することで視座が広がり、経験値が上がるということで、同社では越境を良しとする文化がある。大企業では御法度だろう。「よし、それなら早くやろう!」が辻の口癖だ。あらゆる場面で経営陣が繰り返し、自分の言葉で「ミッション・ビジョン・バリュー」について語る機会を作ることで社内にカルチャーとして根付いてきた。 12月1日には、人事部とカルチャー醸成を一体化した同社独自の「People Forward本部」を設立した。制度やルールで縛るのではなく、カルチャーや風土によって自立駆動できる組織をつくることが目的である。

「サービスを作るのも、営業をするのも、組織を作るのも、結局すべて『人』である」は辻の信条である。「People Forward」(人を前に)という企業文化が、人材採用でもプロダクト開発においても、「競争優位性」になる。マネーフォワードの活躍に刺激され、「Japan Forward」の機運が高まることに期待したい。



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