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トピックス -企業家倶楽部

2020年12月26日

人との出会いがビジネスの醍醐味/マネーフォワード社長 辻 庸介 Yosuke Tsuji

企業家倶楽部2021年1/2月合併号 マネーフォワード特集第3部 編集長インタビュー





「誰に対してもフェアでフランクに接する人柄」と評判の辻庸介社長。「テクノロジーの力で『お金』で悩む人をなくし、全ての人から必要とされるプロダクトをつくりたい」とモノづくりへのこだわりを語る。世界で戦える本格的なフィンテック企業の誕生にマーケットからも注目が集まる。先見の明がある稀代の企業家の世界観に迫る。(聞き手は本誌編集長 徳永健一)



サービスを作りたくて起業

問 辻社長の経歴はユニークですね。京都大学農学部を卒業しソニーに入社したのち、ネット証券の先駆けであるマネックス証券に自ら手を挙げて出向されてますね。マネックス証券在籍中にウォートン校へ海外留学をされたり、ビジネスパーソン人生を謳歌していたと思います。なぜ、飛び出してまで起業しようと考えたのでしょうか。直接的なきっかけは何かありましたか。

辻 はじめは起業ありきではありませんでした。私はサービスを作りたかったのです。当初は「マネーブック」というフェイスブックのお金版を考えていました。フェイスブック創業者のザッカーバーグ氏のオープン思想に共感し、資産運用の上手な人のやり方を皆が参考にできるサービスを企画しました。マネックスの新規事業として提案をしましたが、リーマンショックの後で新規投資は難しいという判断でした。そこで、自分でやるしかないと起業することを選択しました。最終的にマネックスからも出資していただき、松本大さんにも応援していただきました。

問 現在のサービスの前身となるプロダクトがあったのですね。現在の主力事業についてはいかがでしょうか。サービスの特徴、ユーザーに支持されているポイントはどこにあるのでしょうか。

辻 1つは中小企業向けのクラウドサービスです。会計、確定申告、請求書、給与、経費、勤怠といったバックオフィス支援サービスで、十数万社の中小企業の方に使っていただいています。現在では、売上げに占める割合は6割ほどです。

 2つ目が「マネーフォワードホーム」と呼んでいますが、個人向けの家計簿・資産管理サービスです。1100万人以上のユーザーに使っていただいており、日本最大のサービスになっています。

 その他には、銀行などの金融機関向けに紙の通帳代わりになる「通帳アプリ」や「家計簿アプリ」を提供するサービスをしています。

 特徴はスマホにシフトしたのが一番早かったことです。銀行やクレジットカード、証券会社と一度連携していただくと後は自動的にデータを取得し家計簿や会計データを作成します。連携先金融機関の数が多いのも特徴です。

問 銀行口座も複数持っていたり、クレジットカードや証券、保険、ポイントや電子マネーと自分の資産を正確に把握するのは不可能ではないかと思います。入出金を記帳したり、明細書を補完したりするのは面倒だと誰もが感じていることでしょう。さらに老後に備えて資産運用までなかなか手が回りません。そこに大きなビジネスチャンスがあったのですね。

辻 多い方では提携先の金融機関が100個になる人もいます。マイレージやポイントも連携できるので、あらゆるものを管理されているユーザーも存在します。以前、流行った書籍「レコーディングダイエット」と同じで、何に使っているか「可視化」すると見直しができるので多くの方に使って頂いています。

 個人がサービスに課金する文化は日本になかったのですが、便利だということで使っていただいており、毎月500円の有料サービスも26万5000人突破しています。そのデータをもとに「おかねせんせい」というお金の悩みを解決し、最適な行動をアドバイスしてくれるサービスがあります。貯金目標額を設定すると次の給料日までいくら使えるか、資産運用を始めるタイミングの目安を教えてくれます。お金のことは誰も教えてくれないし、よく分からないですよね。

 私たちは金融機関ではないので、金融商品は販売しません。常にユーザーの立場になってプロダクトを作ると決めているのです。



自動運転のお金版が理想

問 最近のフィンテック領域のトレンドはどうでしょうか。世の中の変化についてどう感じていますか。

辻 コロナの影響もありオフィスに出社できないなど、リモートワークが進んでいます。さらにハンコ廃止やペーパーレスの動きも広がっていますね。例えば中小企業向けのクラウド会計サービスがありますが、私もソニー時代に経理部にいたので苦労したのですが、経費一つとってみても、領収書をペタペタと紙に貼っていましたが、今ではアプリを使えば、スマホで画像を撮り、紙は捨てていいのです。法律も変わり、すべて電子データで済むようになりました。承認者が了解すれば、クラウド上でそのまま会計情報に反映され、一気通貫でデータが流れるようになっています。

 飲食店のPOSレジと連携すれば伝票を手入力で打ち直す作業が省けます。決済が電子化されるとキャッシュレス化が進みます。すべてのモノがテクノロジーによって「デジタルトランスフォーム」し、世の中がDX化しています。

問 逆説的ですが、コロナによりDX化が一気に進むという現象が起こりましたね。確かにキャッシュレスやペーパーレスは生産性が高くない、個人事業主や中小企業にとってはメリットがあります。デジタル化によってデータ化された情報は過去の履歴を振り返ることが簡単になり、便利です。「見える化」の効果は大きいですね。

辻 よく見たらスタバを飲み過ぎているなとか分かりますね。「見える化」によって人の行動が変わります。まず、私たちがしたかった一歩目がお金の「見える化」でした。「現状把握」ができて初めて「課題」が見えるのです。

 お金の「見える化」まで出来たので、次のステップである「お金」を使いこなして人生をもっと豊かにして欲しいと思っています。そのために私たちはサービスを作っていきたいと思います。

問 新しいサービスについて、もう少し将来のイメージを聞かせてもらえますか。

辻 私たちが社内で今議論している「プロダクトビジョン」は、自動運転に近いイメージです。近い将来、テクノロジーの力で人は車を運転しなくなりますね。それと同様に自動の資産運用やバックオフィスが実現すると考えています。自動車の世界だけでなく、我々の生活の中にAIが入ってきて、人の人生が豊かになるようなサービスを作りたいです。



フェアであるか

問 マネーフォワードはフィンテック企業であり、テクノロジードリブンであるにも関わらず、ユーザーに寄り添う精神を大切にしていて、人の温もりやホスピタリティを感じますが、経営する上で心掛けていることは何でしょうか。

辻 私たちはユーザーさんの生活を良くしたいので、変えるためにはツールだけでは実現できないと思っています。そこで、社内では「ミッション・ビジョン・バリュー・カルチャー(MVVC)」を経営の一番ど真ん中に置いています。

 月次の朝会では1時間の内10分、週次の朝会では30分中の5分は、私か役員がMVVCに紐づいた実体験の話をしています。

問 どんな話をされるのですか。

辻 先日ユーザーさんにお会いした際にこんな意見を頂きましたとか、自分の言葉で話すようにしています。大切にしている価値観では、フェアネスというバリュー(行動指針)がありますが、企業はユーザー、社員、株主、取引先、社会など色んな人々のお陰で成り立っています。その方々の応援なくして今のマネーフォワードは存在しないので、全ての人たちにフェアな姿勢でいようと伝えています。

問 大切にしている価値観を何か紹介してもらえますか。

辻 例えば、当社は副業を許可しています。それというのも「副業の人に働いてもらっているのに内は副業禁止ではおかしくないだろうか」という議論があったからです。意思決定の際にMVVCの話が出てきます。「ユーザーフォーカスのプロダクトになっているだろうか」や「リスペクトにかけていないか」という問いかけがメンバー同士であります。

 うちには頭ごなしに否定する人はいませんね。カルチャーを体現している人を表彰する制度があり、どんな意識で働いているのか話してもらうと感動します。組織を作るのも、サービスを作るのも「人」しかいないですからね。

 カルチャーへの共感を重視しています。同じ価値観を共有してきた時間が信用というアセットになっています。私がこうしたいと話すと自発的に考えて、予想以上のものができます。私がするよりずっと良いものが生まれて、なるほどなと感心します。



経営者は常に自責

問 創業から今までで一番苦労したことは何ですか。

辻 創業当時、世の中に受け入れられるプロダクトをどう作ったらいいのか分からない時は辛かったです。誰もが思い浮かぶものは既に存在します。あまりにもニッチだと商売になりません。プロダクトがマーケットにちゃんとフィットするサービスを作れないといけません。ユーザーは多くの選択肢があります。だから、「あったらいいね」ではいずれ使われなくなります。「なくてはならない」ものをどうやって作れるか分からず苦労しました。

 終電より1本早い電車で帰ろうとすると、「今日は早退ですか?」と冗談が飛び交うくらい月曜から日曜まで、めちゃくちゃハードワークでした。仕事をやらされている感覚はないので、楽しかったのですが、がむしゃらに働きました。

 自分たちはゴールに向かって走っていると信じているのですが、暗闇で分からず、もしかしたら反対に走っていたらゴールから遠ざかっていると不安になるのです。人は努力するゴールが定まっていたら、後はもう必死に頑張ればいいのですが、それが見付かるまではしんどい思いをしました。

問 他にも何かありましたか。

辻 経営者の悩みの8割は人だといいますよね。突然、人に辞めたりされるとショックです。明日をも知れぬ小さな会社になかなか来てくれないですよね。その人しかできないのに開発が突然止まってしまって、床が抜ける感覚です。

 当時は焦ってもいましたし、開発のスピードやクオリティを求めて、圧力も強かったと反省しています。やはり一番苦しいのは人が辞める時です。慣れてきましたが、慣れてはいけない気もします。

 経営者のイメージは、旗を立ててどんな強風だろうが雨だろうが、責任があるので旗は離すことができません。しかし、付いてきてくれる人たちに夢を見せられなかったり、ワクワクさせられないと去って行ってしまう。力不足を実感しました。経営者は完全に自責です。謙虚にならざるを得ません。



人との出会いが転機

問 プロダクトをリリースして、これなら行けるかもしれないと感じた「きっかけ」は何かありましたか。

辻 新しいサービスをユーザーはなかなか使ってくれません。継続して使ってくれる人は一握りなのですが、「銀行口座を3つ以上連携した人は継続する確率が高い」ことが分かった瞬間です。これはひょっとしたらいけるかもしれないと思いました。すぐにこの1つのKPI(重要経営指標)に絞り込んで、それだけに集中しました。

 もうひとつは、クラウド会計をリリースした際に、私たちの未来のビジョンに賛同してくれた大手会計事務所の先生方との出会いです。未来を信じてくれた恩人です。株式上場の時には上場セレモニーで一緒に鐘を叩いて頂きました。

 ビジネスをしていて一番楽しいのは、人との出会いです。一緒に考えて、一緒に仕事が出来て、それがビジネスの面白いところですね。



profile

辻 庸介(つじ・ようすけ)
京都大学農学部を卒業後、ペンシルバニア大学ウォートン校MBA修了。ソニー株式会社、マネックス証券株式会社を経て、2012年に株式会社マネーフォワード設立。新経済連盟 幹事、シリコンバレー・ジャパン・プラットフォーム エグゼクティブ・コミッティー、経済同友会 第1期ノミネートメンバー。

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