2020年08月27日
ブレない信念が未来を拓く
企業家倶楽部2020年10月号 ユーグレナ特集第2部 ユーグレナの強さの秘密
ミドリムシの伝道師から地球の救世主へ
「創業して15年間、ずっとミドリムシって言い続けている」と、出雲は笑顔で話す。出雲と言えば、鮮やかグリーンのネクタイをいつも身に着けている。出雲以外にも、同社の幹部、スタッフの多くも、アクセサリーや靴など愛着を持って何かしらの緑色のものを身に着けている。
今年、40歳を迎えた出雲。人生の半分をミドリムシと共に歩いてきたと言っても過言ではない。そして、その出雲はミドリムシと出会ってから、「世界で、自分ほどミドリムシのことを真剣に考えている人はいない」と心の底から思っている。
SMBC日興証券会長の清水は、「しっかりとした夢とその夢を具現化する具体策を持っている。そして、自ら動き、説明する。そして、人を巻き込む力がすごい」と出雲の魅力と強みをこのように評価する。
出雲の夢は「地球上の栄養問題と環境問題をなくす」ことである。その夢をどのように実現するかは「ミドリムシ」を食料資源化することと、燃料として活用するという具体策を持っている。
この夢と計画を、常に社内外に、いたって真面目に、丁寧に、そして、少年のように純粋な気持ちで説いてきたのだ。「不可能だろう」という人も多くいるのも事実である。だが、ベンチャー企業家というのは、不可能と言われることに挑戦し、逆境をもろともせず突き進む、ある意味、「狂気」にも似た粘り強さがあるものだ。そうしていると、そのひたむきな姿勢にほれ込み、共感する人も現れる。
創業後、資金繰りがとても苦しかった時期に、初めて出資を受けた伊藤忠商事もその一つであろう。その発端となったのは、ある経済誌に出ていた出雲とミドリムシの記事であった。そこから1年以上、想いやミドリムシの可能性を伝え、08年5月、伊藤忠商事は出資を決定した。小さなベンチャー企業が大企業を動かした瞬間であった。もちろん、ミドリムシの可能性、有用性、それを裏付ける確かな「エビデンス(証拠)」がなければ、大きな企業は動けない。しかし、それだけで動くとも限らない。やはり、そこにはミドリムシにかける情熱やそれを使って成し遂げたい夢、大義がなければ人は動かないものだ。
書籍や様々な講演で、出雲は「ミドリムシで地球上の栄養問題と環境問題を解決する」ということを一貫して訴えている。創業メンバーの福本拓元も「出会った時から言っていることは変わっていない」と話す。「出来そうもないことを本気でできると思ってやり続け、少しずつ現実になってきている」福本は驚きを隠さない。
ゆるぎないエビデンス
そもそも、ミドリムシの大量培養ができなければ、同社は存在しなかったのではないか。そういった意味では、この成功が同社を大きく前進させ、可能性を引き出した。
しかし、冒頭にも述べたが、ミドリムシの大量培養というのは「不可能に近い」と言われていた。ミドリムシは、5億年も前から地球上に存在し、常に常に生態系ピラミッドの上位から「食べ続けられてきた」のだ。栄養豊富なため、ミドリムシが入っている水槽にほかの微生物が侵入したら、あっという間に食べつくされてしまうのだ。いかにして、ほかの微生物が侵入しないかを考えに考え尽くした。その上、その培養を屋外で行うということは今までの発想ではやはり不可能であった。
出雲と鈴木が導き出したのは、逆説的にミドリムシ以外の生き物が生きていけない培養液を作ることができたら、屋外で大量培養が可能になるのではないかと、大きく発想を転換させたのである。
この発想の転換が大量培養成功の鍵となった。とはいえ、そこから数百というパターンの培養液を研究、実験し、ようやく大量培養に成功したのだ。その当時、鈴木は石垣島に部屋を借り、研究に没頭していたことを付け加えておきたい。常に冷静なイメージのある鈴木であるが、その鈴木もまた大量培養成功に、静かに執念を燃やし、出雲の想いを実現するために、全身全霊をかけた一人であった。
現在、同社では、4つの研究拠点を構える。この4つの研究施設でユーグレナの機能性研究・バイオ燃料研究・基礎研究を鈴木の陣頭指揮のもと行っている。多くの大学や企業などとの共同研究を行い、学会での発表や論文を残しているのだ。
もちろん、研究だけでは商売にはならない。「研究を商売にする力」が同社の強みの一つと言えよう。同社には、鈴木を筆頭に多くの研究者がいる。
その研究者一人ひとりの研究がものづくりにつながっていると言える。研究結果に基づいた商品だからこそ、エビデンスを顧客に訴求し、商品の魅力や素材のすばらしさを伝えることができるのである。
鈴木は出雲を「面白い宿題や課題を与えてくれる人」と評する。その与えられた宿題や課題を、鈴木をはじめ研究者が取り組んで、解を導いていく。
研究というと、整った研究設備、環境の中で行うものというイメージがあるが、同社の研究は違う側面も持っている。例えば、三重県多気町にある「藻類研究所」の培養プールは、多くの人の協力もあったが、工事の施工管理、培養設備の機器の選定まで、同社の研究者が行った。
同社の多くのプロジェクトには研究者が携わっているが、誰もが研究に留まらず、商品開発、営業と実際の商売サイドまでかかわっていることが多い。
そして、すべての研究者が「ミドリムシの可能性」を信じ、それを具現化することが、「持続可能な地球づくり」につながると信じ、日夜、研究に没頭している。これが同社の研究者なのである。
研究者が研究しやすい環境、また、幅広い人材を採用しやすいように通年採用を導入するなど、組織と仕組みで支えている。
ユーグレナの凄さはミドリムシが持つ豊富な栄養素を人に届けようとする努力である。ミドリムシがいくら59種もの栄養素を持つスーパーフードでもヒトに届かなくては勿体ない。
食品への活用はまずはサプリメントからはじまった。そして粉末を小分けにしたステイックタイプの飲料を開発。今はドリンクとして飲みやすく改良している。そして最近「からだにユーグレナ」とブランドを統一、営業に拍車がかかる。
当初飲みにくかった粉末タイプもかなり飲みやすくなった。最近はヨーグルト味の「ヨーグルナ」も開発、子供から大人までより多くの人に飲んでもらえるよう工夫している。
こうした商品開発力により、多くの人にミドリムシのパワーが届けられていくことだろう。
プロフェッショナルな組織
出雲が目指す組織とは、出雲自身が発信する夢、言葉をもって、自分より優れた人材を巻き込んで、それぞれがその専門性を最大限発揮し、「サステナビリティ・ファースト」というフィロソフィーを体現できる組織である。
実際、副社長の永田は「我が社の最大の強みは組織力」と語る。
同社は、現在に至るまで10数社の戦略的なM&Aを行ってきた。これによって、製造業としてのバリューチェーンの川上から川下までの体制を整えてきた。
執行役員の佐竹右行は、出雲が心の師と仰ぐ、ムハマド・ユヌス氏のグラミン銀行との合弁会社を立ち上げていた。親会社の方針の転換により、ユーグレナに仲間入りした。何という偶然であろうか。佐竹の想いと出雲の想いはシンクロし、バングラデシュでの活動の幅を大きく広げるきっかけともなった。
執行役員の高橋祥子もまた、自信が立ち上げていたジーンクエストとともに17年にグループの一員となった。「想いが一緒であることが仲間入りする決め手の一つになった」と振り返る。
現在、同社の事業は、大きく分けるとヘルスケア商品、ビューティーケア商品、遺伝子・健康検査サービスを提供するヘルスケア事業、バイオ燃料の開発、製造を行うエネルギー・環境事業、ソーシャルビジネス、リアルテック領域に特化したベンチャーキャピタルのリアルテックファンドを展開している。
各事業の精神的な支柱ともなるのは間違いなく「出雲の掲げる想い」であろう。それを、創業15年の節目で、「サステナビリティファースト」というフィロソフィーに凝縮させた。ミドリムシに限らず、どんなこと、どんなものでも、このフィロソフィーに基づき、各事業でそれぞれが着実に歩を進めていく。
出雲はこのゴール達成のために、様々なチャレンジングな課題を投げかける。それに対して、失敗を恐れずに前向きに取り組む仲間がいるのだ。
「出雲の求める要求水準は高い。しかし、チャレンジに仮に失敗したとしても、もう一度チャレンジできる環境がある」と、挑戦し続ける自社の企業文化に副社長の永田暁彦は胸を張る。
それもそのはずだ。もともと、不可能と言われていたミドリムシの屋外大量培養を成功させたのは、出雲や鈴木の数えきれない失敗の中でも、可能性を信じ、挑戦し続けてきた賜物でもある。
また、培養成功後も数百社に営業をかけたものの断られ続けた。そこでも、諦めずにアタックし続けてつかんだのが大きな転機となる提携先であった。
不可能を可能にするために全身全霊で取り組む出雲の諦めない粘り強さが、そのまま組織の強さとなり、組織の強さが栄養問題、環境問題を解決する原動力になっている。
世界は、地球温暖化や食糧問題、人口爆発、エネルギー問題と様々な環境問題にさらされている。世界規模でこの問題に取り組んでいかなければ、将来、大きな影響を及ぼすことになる。
「持続可能な地球を作る」本業で本気に地球問題に取り組む意気込みの表れであろう。
近い将来、同社の商品を購入することや同社に投資することが、環境問題や貧困問題、栄養問題を解決することにつながるという認知が広がり、環境に優しい企業、貧困問題・栄養問題を解決する企業として、世界から注目されるときが訪れることを確信した。
その世界が見えたとき、心の師であるユヌス氏が06年に受賞した「ノーベル平和賞」も夢ではないかもしれない。なぜなら、出雲と同社は「不可能を可能」にしてきたからだ。
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