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トピックス -企業家倶楽部

2020年08月27日

米中対立が先鋭化、中国「ティックトック」が標的に ―― テンセントなど中国ビッグテックに拡大は必至か

企業家倶楽部2020年10月号 GLOBAL WATCH vol.33





中国バイトダンスの動画投稿アプリ「ティックトック」は米トランプ政権の攻撃対象となっている。(Photo by Solen Feyissa on Unsplash)


コロナウイルス感染拡大の第2波が世界を飲み込む中、米中対立が先鋭化している。米国がヒューストンの中国総領事館を閉鎖すると、中国がすかさず成都の米国総領事館の接収に動いた。そして対立はコミカルな動きを表現する動画アプリ「TikTok(ティックトック)」にも及んでいる。同アプリを運営するのは世界最大のユニコーンとされる中国バイトダンス(字節跳動)だ。米中対立は11月の大統領選に向けて加速する可能性があり、さらに新大統領選出後も続く公算だ。BATと呼ばれる中国ビッグテックが圧力の俎上に載るのも時間の問題かもしれない。新冷戦とも呼ばれる2大大国の対立は、投資の相互排斥に発展し世界を2つの経済圏に分離しかねない。


 米中対立は総領事館という外交ルートの相互閉鎖に発展した。米国政府は7月24日、テキサス州ヒューストンにある中国総領事館を閉鎖した。「(同総領事館が)スパイ行為と知的財産盗み出しのハブとなっていた」(ポンペオ米国務長官)。スパイ行為に関与した外交官の国外追放はしばしば見られるが、総領事館そのものの閉鎖は思い切った行為と言える。中国は報復として7月27日に米国の成都総領事館を閉鎖、接収した。




 中国総領事館は何をしたのか。国営通信社『新華社』が7月28日付けで、米国側の主張を「米国の嘘」として簡潔にまとめている。それによると「(総領事館は)新型コロナウイルスワクチンの開発成果を含む米国の知的財産権を窃取」「米国で人材募集計画を通じて、テキサス大学付属MDアンダーソンがんセンターのような科学研究機関、ヒューストン地域のエネルギー企業やハイテク企業から科学研究の成果を窃盗」したという。「米大学のキャンパス内で香港地区の民主派を批判し、ナショナリズム的色彩を帯びた対抗活動を支持。キャンパス内にスパイを配置し、留学生に対するプロパガンダ活動を実行し、言論の自由を破壊」しているともされている。




 知財の窃盗は米国の利害に直接関係するが、香港の民主化運動などに絡めても米国は中国への圧力を強めている。中国の国会、全国人民代表大会(全人代)常務委員会が6月30日に、香港での反体制活動を中国治安当局が直接取り締まることを定めた「香港国家安全維持法」を可決・施行すると、トランプ米大統領は7月14日に「香港自治法」に署名。香港の自治の侵害に関わった中国や香港当局者と取引をする金融機関に制裁を科せるようにした。香港のパスポート保有者向け優遇措置も廃止し、香港の民主主義の衰退に関与した個人の在米資産も凍結できるようになる。





 世界がコロナ禍への対応で追われる中、南シナ海での活動を活発化させている中国に対しても、ポンペオ国務長官は7月13日、「南シナ海の海洋権益」に関する中国の主張は「完全に違法」と明言。翌日には「航行の自由作戦」の一環として、ミサイル駆逐艦を南沙諸島付近に通航させるなど、人民解放軍を牽制している。




 米国のコロナ感染者数は8月2日時点で462万人、死者数は154万人。米国の人口は中国の4分の1にも満たないのに、中国の感染者数8万8000人、死者数4700人を桁違いに上回る。米国の4〜6月の経済成長率は過去最悪のマイナス32%に落ち込み、プラス3.2%と急回復をみせる中国とは対照的だ。米ピューリサーチセンターの7月の調査によれば、米国人の73%が中国に対して否定的な見方をしており、この数字は2018年時点から26ポイントも上昇している。




 トランプ大統領はコロナ禍への対応のまずさを批判されており、中国たたきを通じて世論の支持を上げようという思惑も見え隠れする。選挙前100日に当たる7月26日時点で、米リアルクリアポリティクスが集計した世論調査によれば、再選を目指すトランプ大統領の平均支持率は民主党候補のバイデン元副大統領に9ポイントも差を付けられている。




そうした中、米国政府による中国企業たたきの俎上に載ったのがバイトダンスだ。外国企業による米国企業の買収を国家安全保障の観点から審議する対米外国投資委員会(CFIUS、シフィウス)が19年末から、バイトダンスによる米ミュージカリー(現「ティックトック」)買収の調査を開始。結論はまだ出ていないものの、ポンペオ国務長官が20年7月6日に「ティックトック」など中国系ソーシャルアプリの使用禁止を検討していることを明らかにした。こうしたアプリがスマホから個人情報を抜き取って、中国共産党に提供している懸念があるとしている。トランプ大統領も7月31日、国際緊急経済権限法(IEEPA、アイーパ)などを使って、「ティックトック」の使用禁止を検討している旨を記者団に語った。


バイトダンスは12年に天津市の名門、南開大学でコンピューターサイエンスを学んだ張一鳴(チャン・イーミン)氏が創業した。まだ設立から8年しか立っていないが、CBインサイツによれば評価額は1400億ドルで、ユニコーン(評価額10億ドル以上の未公開企業)400社超の中で最大の企業となっている。2位のライドシェア大手、滴滴出行(ディディチューシン)の2.5倍だ。中国のビッグテックはBAT(百度=バイドゥ、阿里巴巴集団=アリババ集団、騰訊控股=テンセント)と呼ばれるが、バイトダンスは今や時価総額410億ドルのバイドゥのBに取って代わる勢いだ。 バイトダンスはもともとは「今日頭条(ジンリートウティアオ)」というニュースアプリで成長した。いろんなサイトから利用者の興味にあったニュースを人工知能(AI)で収集して表示するアプリで、「グーグルニュース」のようなサービスだ。バイトダンスは約8億ドルを投じてミュージカリーを17年11月に買収し、約1年後に傘下の抖音短視頻(ティックトック)と統合した。「ティックトック」は独自のコミカルな動きが受けて、世界中のZ世代に急速に普及した。「バイラル(ウイルスのように拡散する)アプリ」と呼ばれる中毒性のあるソフトで、世界150カ国以上、10億人を超える利用者がいる。20年6月には前年同月比5割増の8700万回ダウンロードされ、ビデオ会議アプリ「ズーム」を抑え、ゲーム以外で世界で最もダウンロードされたアプリとなった。中毒性の背景には「今日頭条」で培ったAIリコメンデーション機能があるとされる。

マイクロソフトが買収か

バイトダンスは米国政府の批判の対象となったことに対し、米国の利用者の情報は米国とシンガポールにあるサーバーに置いており、中国には情報を送信してないなどと主張している。しかし問題は情報がどこにあるかといったことではなく、その影響力にある。再選に向けてトランプ大統領がオクラホマ州タルサで開催した集会。トランプ氏は100万人の参加申し込みがあったとしていたが、約2万人収容可能な会場は空席が目立った。英BBCなどは若者が「ティックトック」を通じて、偽の参加登録を呼びかけて実際には参加しなかったなどと報道している。トランプ陣営の公式アプリには、「ティックトック」のユーザーが大量の書き込みを通じてネガティブキャンペーンを展開。主にダンス動画を投稿するたわいないアプリが、今や若者の情報発信力を背景に無視できない存在になっている。


影響力を懸念する動きは米国だけではない。6月29日、インド政府は「ティックトック」を含む59の中国系アプリを使用禁止にした。「インドの主権と安全保障を損なうため」としている。6月半ば、カシミール地方のラダックでインド軍と中国人民解放軍の軍事衝突があり、インド側に死傷者が出たことが背景にある。バイトダンスにとってインドは米国以上にダウンロード数がある最大のマーケットだった。民主化運動で揺れる香港では、「香港国家安全維持法」の施行で、バイトダンスは自発的な撤退を7月7日に発表している。米国政府の動きを受けて、バイトダンスは「ティックトック」の米国事業を米マイクロソフトに売却するか、「ティックトック」をベンチャーキャピタルなどに売却するか、所有権を手放さざる事態に追い込まれている。


 バイトダンスは知名度があったために盛んに報道されたが、米国政府はすでに複数の中国企業を様々なブラックリストに載せて、事実上の制裁を課している。「2019年度米国防権限法(NDAA2019)」では、通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)、中興通訊(ZTE)、海能達通信(ハイテラ・コミュニケーションズ)、監視カメラ大手の杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン)と浙江大華技術(ダーファ・テクノロジー)の5社から米国政府機関が製品調達することを19年8月に禁じた。20年8月からは5社の製品を使ってサービスを提供している企業も米政府機関の取引の禁止対象となる。




 そして米商務省産業安全保障局が定める、輸出管理規則(ERA)の「エンティティ・リスト」。安全保障上懸念のある外国企業への米国製品の輸出を事実上禁止するリストで、19年5月にファーウェイとその関連会社が、19年10月にはウイグル人への人権侵害を理由にハイクビジョン、ダーファ、顔認識技術の商湯科技(センスタイム)と曠視科技(メグビー・テクノロジー)、音声認識技術の科大訊飛(アイフライテック)などが掲載された。今年に入っては5月にセキュリティーソフトの奇虎360(チーフーサンロクマル)、AIロボット開発の達闥科技(クラウドマインズ)などが、7月には「遺伝子解析のファーウェイ」などとも呼ばれるゲノム解析大手の華大基因(BGI)やタッチパネルの欧菲光集団(オーフィルムテック・グループ)などが追加された。




中国のビッグテックBATが制裁の対象になる可能性はないのだろうか。アリババの関連企業で金融大手のアント・フィナンシャルが米国際送金大手マネーグラムを買収しようとしたところ、CFIUSが買収を認可しない方針を18年1月に通達し破談になったことがある。アリババはニューヨーク証券取引所に上場しているが、19年11月に香港取引所にも上場した。中国企業を念頭に、米国で上場する外国企業への規制が強化されつつあり、いつ上場廃止に追い込まれるか分からないことが背景にある。バイトダンスを超える評価額とされるアントは香港と上海を上場先として選んだ模様。アリババの米国内でのプレゼンスは大きくはないが、クーポン共同購入サイトのグルーポンや、AR(拡張現実)グラス開発のマジックリープなど有力企業に出資する。


バイドゥも米ナスダックに上場している。「中国のグーグル」に相当する検索サイトだが、最近では自動運転技術の開発に力を注ぐ。中国国内だけでなく、米国でも走行実験を繰り返す。19年のカリフォルニア州における自動走行実験ではグーグル系ウェイモ、米ゼネラル・モーターズ(GM)系クルーズ、中国系の小馬智行(ポニー・エーアイ)に続き、第4位の走行距離を記録した。自動運転は走行する場所の詳細な地理情報を収集する必要がある。こうした情報収集が国家安全保障上の問題と見なされないとも限らない。またバイドゥはブロックチェーン技術による決済サービスを手掛けるサークルなどに出資するほか、自前の企業ベンチャーキャピタル(VC)を通じて多くの米スタートアップに投資している。


そしてテンセント。「中国のフェイスブック」は主に中国人向けに「ウィーチャット」「QQ 」といったソーシャルメディアを運営する。テンセントは香港で上場し、米国では上場しておらず、アリババやバイドゥのように米国金融市場から締め出される懸念はない。インドはバイトダンスとともに「ウィーチャット」「QQ」も使用禁止にしたが、こうしたアプリが米国内でどれほど使われているかは疑問。禁止されてもそれほど打撃にはならないだろう。


 しかしBATの中でもテンセントは国内外のスタートアップに積極的に投資していることが知られている。米国ではエピック・ゲームズ、ロブロックスといったゲーム系ユニコーン、さらにスナップ、ディスコード、リディットなどのソーシャルメディア系ユニコーンに出資する。出資そのものが懸念事項と見られる恐れはある。





 中国企業は中国で上場するようになり、米国の投資家は中国への投資を引き上げないまでも、新規投資は控えるようになるだろう。中国も輸出で稼いだ外貨準備の多くを米国債で運用しており、米国政府にとっては最大の投資家である。中国が米国債を売却すれば、ドルが下落し米国の金利は上昇する。金利上昇は米国の国内投資を落ち込ませる要因になる。そしてドル下落は人民元高騰を意味し、中国製品の輸出競争力は低下する。中国国内の景気も萎むことは確実だ。米国が中国を排除し、中国がそれに反撃することで、米中経済はスパイラル的に悪化していくことが予想される。米ソの冷戦と違って、中国は資本市場にすでに組み込まれている。新冷戦は米ソ冷戦以上に複雑だ。




Profile  梅上零史(うめがみ・れいじ)
大手新聞社の元記者。「アジア」「ハイテク」「ハイタッチ」をテーマに、日本を含むアジアのネット企業の最新の動き、各国のハイテク産業振興策、娯楽ビジネスの動向などを追いかけている。最近は金融やマクロ経済にも関心を広げ、株式、為替、国債などマーケットの動きもウォッチしている。

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