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トピックス -企業家倶楽部

2020年08月27日

マイナスをプラスに変える志

企業家倶楽部2020年10月号 馬渕磨理子のそこが知りたい!vol.2





「ピンチはチャンス」。経営者なら誰しもぶつかる壁がある。その時、何を考えどう行動したのか。業界をリードする企業家たちをゲストに迎え、トップとしての心構えやブレイクスルーにつながるターニングポイントをアナリスト馬渕磨理子氏が紐解く。今回は農業総合研究所及川智正会長CEO。「農業を良くしたい」一心からわずか50 万円で創業し、今や導入店舗は1582店舗にも上る。農総研はあの時のターニングポイントをどう切り抜けたのか。将来の展望とともに及川会長に語っていただいた。聞き手:馬渕磨理子

50万円からのスタート

馬渕 創業のきっかけについてお聞かせください。

及川 大学で農業を研究しており、「日本の農業をどうにかしないといけない」と思ったのが始まりで、実際に農業をやってみましたが収入につながりませんでした。農業の販売もやりましたが、「作って・売る」両方やって感じたのは、作るのも売るのもどちらも難しいことでした。この問題は生産と販売が交わる部分、流通を良くしていかないと解決できないと思いました。始めはハローワークに行って紹介を受けましたが、そのような会社がなかったので自分でやるしかありませんでした。起業したいとは思っていなかったのです。

馬渕 物流を変えないといけないという想いが強かったのですね。

及川 今のものが悪いとは思っていませんが「選択肢がそれしかない」ことに非常に問題があると思いました。生産者がイニシアティブを持って流通ができるしくみがどのようなものかを考えました。始めの1年間は自分の一生は大丈夫かとずっと思っていました。起業家はみんなそうなのかもしれませんが、自分が一生この仕事で終わるのかと思うと先がずっと真っ暗で、起業した当時は不安しかありませんでした。

馬渕 先が見えない中で、何か先にに進むようなきっかけはあったのでしょうか。

及川 始めてしまったら止まれないのです。経営者という意味では3年ほど一人でやっていましたが、当時は上場はおろか会社や社会のしくみも理解していませんでした。「農業をどうにかしたい」という気持ちだけで、前に進んでいるうちに、ある程度の売上になり、色々な形で情報発信ができて仲間が集まってきました。

馬渕 50万円からのスタートだったと聞きました。ここまで来るのは大変だったと思います。一番辛かったのはやはり創業当時でしょうか。

及川 創業当時、仕事がないのが一番辛かったです。動き出してみて「この先真っ暗」というのはまだマシでした。何から手を付けたらいいのか分からなかった時が一番苦しかったです。



「ありがとう」を流通させる

馬渕 実際に開発されたプラットフォームはどのようなものでしょうか。

及川 生産者がメーカーポジションで主体性を持って流通できるしくみが必要だと思っています。どの業界でもメーカーさんが値段を決めますが、農業は市場に行って競りで値段が変わります。生産者が自ら値段と売りたい場所を決められるしくみを作り、最終的にお客様から「ありがとう」が届く流通を作りたいです。

馬渕 メーカーポジションまで築くというのは農業では考えられない世界観ですね。

及川 農業は今までだと作るまでが仕事で、食べてもらうまでが仕事になっていませんでした。言い方は良くありませんが、作るだけというのは生産者の自己満足だと思っています。農産物は食べてもらって価値が出るものです。そこまでちゃんとお届けすることが考えられる流通のしくみにしていきたいです。

馬渕 そういったシステムは既存の方々からすると「入り込んできた」という感じがありそうですが。

及川 自分のテリトリーが侵されることなので、最初はいい顔はされなかったと思います。私はただ、農業界を良くしていきたいと思っていただけです。業界は生産者のレベルアップ無くして良くなりません。なので、生産者が、一生懸命考えて頑張った人が成長できるしくみを作ることはプラスになると思っています。どの業界でも新参者はいじめられます。たまたま私が入ったのが農業だったのでそこから抵抗があるのは普通のことでしょう。


「ありがとう」を流通させる

食べるまでを考える

馬渕 御社の位置づけについて教えてください。

及川 これまで続いてきたしくみは悪くありません。大量流通と大量販売ができ、生産者の出荷の手間が少なくなるようになっています。これは生産者が生産だけを考えるのであれば良いしくみです。ただ、これだけでは問題ということで出てきたのが直売流通と言われる道の駅や農産物直売所です。これは自分で値段を付けて自分で販売ができ、手取りも高いしくみです。しかし、少量しか売れなく、手間がかかるのが問題です。5か所の道の駅があれば生産者は5か所を回り、売れ残れば自分で引き取りに行かなければなりません。そこで、もう少しいい流通ができるのではないかというのが我々の中間の流通「農家の直売所」というツールです。自分で値段を付ける点は直売流通と似ていますが、販売する場所を地方ではなく都会に作ることによって、高くたくさん売れ、手間が少ないことがユーザーのメリットになります。

馬渕 その中で1億円プレーヤーの方も出てきたと聞きました。

及川 今はきのこ農家さんが3億円ぐらい売り上げています。農業って儲からない3Kの仕事と思われますが、本当に能力があり弊社より儲けている方はたくさんいらっしゃいます。

馬渕 それは御社が消費者のニーズを可視化し、「どこで何が売れているか」を生産者の方に届けたことも大きいのでしょうか。

及川 生産者である農家が自分たちで口に入るまでを考えたことが大きいと思います。どうしても大量流通だと流通が望む「箱に入りやすい」「並べやすい」ものしか作りません。でもお客様が求めているのは「おいしい」「面白い」ものです。そういうものを自分で考えニーズを探り出荷できる点が大きいと思います。作るということだけではなく、口に入るまでを考えることができた結果、儲けられる農家さんが増えてきたのだと思います。

馬渕 消費者側も、〇〇産のきゅうりが食べたいなどのファンができたということでしょうか。

及川 今までの流通は「和歌山県産の有田みかん」というものですが、我々はもう少し掘り下げて「〇〇県産の△△さんがどういう気持ちを込めて作った□□」まで伝わるしくみを作っていきたいです。今までの流通だと、どうしても流通経路が長くなってしまい、感謝の声が聞こえてきません。消費者から「美味しかったよ。次はいつ出荷してくれるの。来週は何を送ってくれるのですか」と言われたら嬉しいと思いますし、逆に生産者からも「いつも食べてくれてありがとう。次は何を作ってほしい」とできたら面白いでしょう。「ありがとう」という感謝の言葉が作る側と食べる側に届くようなしくみを作ることによって、自然と良いスパイラルを生み出し、活性化させていきたいです。

馬渕 既存のコミュニケーションを取れるようなしくみを改築していったのでしょうか。

及川 もともとはアナログでした。スーパーで「この人のきゅうり美味しかったよ」と言われ、それを「お客さんに美味しかったって言われましたよ」と伝えていたことをIT化していこうとなりました。最終的には商品はスーパーから買い、情報の伝達はお客さんと農家さんが直接できるような簡単なしくみができれば良いと思っています。

馬渕 物流がカギなのですね。

及川 農産物の場合、ITはどこでもできると思っています。ただ、物流はすごく難しいです。白菜は大きくてかさばりますが1個100〜200円という安さで買えます。ですが、北海道から白菜を仕入れようと思っても200円でご自宅には届かないでしょう。そこで、物流を良くしていくことが農産物流通ではキーポイントになっていくと思ったのです。

 よく投資家さんから「なんでスーパーマーケットにプラットフォームを構築しているのですか」という質問がきます。楽天さんやオイシックスさんなど直接B2Cで売っているところはたくさんあります。「1万人も生産者がいるなら直接やったらいいじゃない」と言われますが、僕らはつなげるよりも物流をどう作っていくかを一番大切にしています。今、市場を流れる70%の野菜と果物がスーパーマーケットで販売されています。物流コストは大量流通、大量販売をしていかなければ安くなりません。なので、まずは一番流れているスーパーマーケット向けに出口を作っていき、それができてから色々なところに販売するプラットフォームを作っていこうと思っています。

馬渕 今後の戦略はどう考えているのでしょうか。

及川 今は、我々の「農家の直売所」というコーナーで売っていますが、スーパーの青果売り場でのコーナー比率は5〜10%くらいしかありません。残りの90%は市場さんから仕入れて販売しています。だったらここに対して、我々の生産者のものを買ってもらえるしくみができると思っています。我々の物流を活用して色々な商品をご提案し、スーパー1店舗あたりの売上を高めていく新しいしくみが「農家の直売所」です。僕らの目標は2035年までに野菜と果物の流通額を1兆円にすることですが、1000億円ほどの市場外流通だけでは難しいです。なので、スーパーの1店舗当たりの売上を広げながら、既存の流通に関わっていくことで生産者にも生活者にも喜んでいただけるしくみができるでしょう。

馬渕 御社が目指していく流通はどのようなものでしょうか。

及川 生産者にとって妥当な金額がちゃんと戻るような、末端のお客様が毎日新鮮な野菜を食べられる金額で販売できる流通です。我々が目指しているのはどちらかというと生産側ではなく食べる側です。野菜と果物は毎日食べるものなので、おじいちゃん、おばあちゃん、子供たちでもある程度毎日買える金額で購入できるプラットフォームを作ることだと思っています。



「持てない経営」から始まった「持たない経営」

馬渕 郵政さんやJALさんとのアライアンスがより加速する上で必要だったと思いますが。

及川 「持たない経営」という経営方針を心掛けていますが、かっこよく言っているだけで、「持てない経営」でした。50万円ってほとんど何もできないのです。上場したからといって資金調達できる機会も知れています。農業を良くするために、「航空便を使いたい」「トラックを有効活用したい」「郵便局で野菜を詰めたい」と思っても、自分たちでゼロからはできません。持っているところとアライアンスを組み、農業の世界に活用していった方が早いし良くなると考えています。農業を良くするために色々なアライアンスを組んで農業界に無いもの引っ張ってくることが僕らの仕事だと思っています。

馬渕 この提携はスムーズにいったのでしょうか。

及川 これは上場したからだと思います。上場前はだめだったところが向こうから来てくれるようになりました。CSRやSDGsなどで農業も注目を浴びている時期なのでしょう。話が早くまとまるようになりました。中の人間は変わっていませんが世間からの見方は変わるのだと思いました。

馬渕 最初から俯瞰的に日本の農業をもっと良くしたいという想いだけなのですが、徐々に想いが伝わっていったのですね。今後のアライアンスを組んでいく見通しはありますか。

及川 これからも農業に必要なものであればどんどんアライアンスを組んで伸ばしていきます。ただ、1兆円を目指すとなると1000億円を目指さなければなりません。そうなると、我々も持たない経営ではなくどこかで「持つ経営」を考える時期が来ると思っています。時代時代で考え方を少しずつ変えていかなければならないと思っています。

馬渕 昨年の社長交代も考え方を変えるきっかけにするためでしょうか。

及川 この業界が長くていいこともあれば悪いこともあります。「農業だからできない」と思うこともあり、社内の血のめぐりを良くしていくことが大切と考え、昨年社長交代をしました。堀内が社長をやることでまた新たなことができると思っています。



心の準備をしておく

馬渕 コロナは御社にどのような影響がありましたか。

及川 去年おととしと負けていて、続いたことで負け癖がついていました。人間どちらかというと負け癖がつくと「こんなもんだ」と思ってしまうのです。一回勝つと「こうすれば勝てる」と思って良い循環に入ったりします。今回のコロナでは勝ち癖がついたひとつのきっかけとなりました。社長交代も社員の部署替えもそうですが、そこが目的ではなかったのですが、色々やることでプラスにもマイナスにも働きます。難しいのは勝ち癖が付けばいいわけではないということです。大切なのは両方向があることを認識しながら事業を進め会社を経営していくことだと思いますね。

馬渕 今後同じようなことが起こったときのために準備はしておくのでしょうか。

及川 準備は大切です。準備には二つ、物理的な準備と想像力があります。業績を上げて内部留保をちゃんと上げていくこと、そして起こりうる色々なことをどれだけ想像できるかということです。ある程度準備をしながら出たとこ勝負を作っていくことが大切です。半分はしっかり準備をして、半分は出たとこ勝負で動けるようなしくみを作っておくことだと思います。あとは社員です。会社だけ潰れてもと思いますが、社員や知り合いが病気やケガをした話は聞くだけで辛いので、そういうことが起こらない準備をしておくことだと思います。逆に助けてあげられるぐらいになれば最高です。


心の準備をしておく

時代に合った決断を

馬渕 経営者としての心構えをお教えください。

及川 座右の銘は「中庸」です。物事にはプラスもマイナスもあります。プラスが良いわけでもマイナスが悪いわけでもありません。大切なのは、両方あることを経営者が認識して、その時代に合った選択をしていくことです。「及川さんよく上場できたね。きっかけは何」と言われますが、始めに50万円しかなかったマイナスがプラスに転じたと思っています。50万円で自分のやりたいことを一生懸命考えた結果、今ここにつながっているのです。これは私の持論ですが、経営者、経営陣に必要なことは、その時代に合った決断です。その決断は、感覚や雰囲気のようなものであり、普段から鍛えておく必要があると思っています。

馬渕 若い起業家へのメッセージをお願いします。

及川 時代で変わっていくので、自分の経験談がそのまま若い人には使えないと思いますし、使ってもらいたいとも思いません。怒られてしまうかしれませんが、私には尊敬する経営者がいません。その時代に生きていないからです。時代に合わせて考え方や方法は変えていかなければいけないと思うのです。何ができるのか、やらないといけないのかを自分で考えないといけません。




及川智正(おいかわ・ともまさ)
1975年生まれ。97年東京農業大学農学部農業経済学科卒業後、巴商会入社、宇都宮営業所転属。2003年和歌山県にて新規就農。06年エフ・アグリシステムズ(現フードディスカバリー 野菜のソムリエ協会)関西支社長に就任。野菜ソムリエの店エフ千里中央店開設、スタッフへ譲渡。07年農業総合研究所設立、代表取締役就任。17年企業家賞ベンチャー賞受賞。19年、会長CEO就任。


馬渕磨理子(まぶち・まりこ)
京都大学公共政策大学院を卒業後、法人の資産運用を自らトレーダーとして行う。その後、フィスコで株式アナリストとして活動しながら、現在は日本クラウドキャピタルでマーケティング・未上場株のアナリストも務めるパラレルキャリア。プレジデント、S P A ! での執筆を行う。大学時代はミス同志社を受賞。

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