2020年08月27日
本気度欠く経産省の脱石炭火力路線/千葉商科大学名誉教授 三橋規宏
企業家倶楽部2020年10月号 緑の地平 55
経済産業省は7月初め、二酸化炭素(CO2)を多く排出する低効率石炭火力発電の9割を2030年までに休廃止する方針を打ち出した。日本国内には約140基の石炭火力がある。このうち110基が非効率な旧式タイプ。CO2の排出量が多く、国内の石炭火力による発電量の約半分を占める。9割減だと計算上約100基を休廃止することになる。これまで国際世論の動向に背を向け、「石炭火力維持、増設」を推進してきた経産省もようやく「脱石炭火力に動くのか」との観測から新聞、テレビなどのマスコミは「石炭火力100基休廃止」(日経)、「旧式石炭火力『9割減』」(朝日)などと大きく報じた。
経産省が脱石炭火力路線に踏み切ったのではないか、とみられるもう一つの証拠として石炭火力の輸出抑制について環境省に譲歩したことである。昨年(19年)12月、スペイン・マドリードで開かれたCOP25(第25回国連機構変動枠組み条約締約国会議)に出席した小泉進次郎環境相は、世界の脱石炭の潮流を肌身で感じ、これ以上脱石炭に背を向け続けるのは日本にとって得策ではないと判断した。その突破口として石炭火力発電の輸出条件の見直しを話し合う省庁横断型の話し合いの場を2月下旬に設置した。メンバーは環境、経産、外務、財務の各省と内閣官房である。その成果が、7月9日開かれたインフラ輸出戦略を決める会議(経済インフラ戦略会議)で決まった。石炭火力発電を輸出する際、相手国の脱炭素化に向けた方針を確かめられない場合は原則公的支援を行わないなどの厳しい輸出要件を正式に決めたのである。会議終了後、梶山弘志経産相は「石炭火力以外に選択できない途上国があることから目をそらすべきではない」と不満を口にしたが、小泉環境相は「これで、実質的な支援案件はなくなる」と自信を示した。
経産省が旧式石炭火力発電の大規模な休廃止に加え、石炭輸出でも譲歩をしたことで、遅ればせながら脱石炭路線に転じたのではないかとの憶測を呼んでいるのである。果たしてそうだろうか。
一方、石炭火力に執心の経産省がそう簡単に路線変更するとは思えない、何か魂胆があるに違いない、同省得意の目くらましに過ぎないのではないかとの疑問、疑惑が根強く残っている。同省は大幅休廃止を打ち出した方針説明の中で、高効率な石炭火力を引き続き利用、新設を認め、石炭火力を安定的な電源(ベースロード電源)として重視する考え方を強調した。これまでの姿勢と少しも変わっていない。単に効率の悪い旧式の石炭火力を廃止し、高効率に切り換えるだけのことではないか。
経産省の本気度を確かめるためには、政府が定めた30年度の総発電量に占める石炭火力の発電比26%が今後どう変わるかをチェックする必要がある。現行のエネルギー基本計画(5次)は18年7月に閣議決定された。そこで、30年度の総発電量に占める電源として例えば原子力20〜22%、再生エネルギー22〜24%、石炭26%などの目標値が決められた。
石炭火力の発電比率は現在32%だが、旧式発電と高効率(27基)発電に加え新規増設分(18基)を加えると、30年の石炭火力の発電比率は4割を上回る可能性がある。経産省が旧式発電の大幅廃止に踏み切る方針を決めた最大の理由は、実は増え続ける石炭火力比率を30年までに26%まで引き下げたいとの思惑が見え隠れする。
政府(経産省)は現行のエネルギー基本計画を21年に改定し、第6次基本計画を作成する方針だ。新たに作成される基本計画で、30年度の石炭、原子力、再生エネの発電比率が現行の基本計画と比べどう変わるかによって、経産省の本気度が分かる。
11年の東電福島原発事故以降、国民の原発アレルギーは強い。厳しい安全基準が設定されているため、今年7月初め時点で、運転中の原発はわずか5基に過ぎない。残りの稼働可能な28基は運転停止中だ。発電に占める割合も6.5%( 19 年)に過ぎない。加えて地震列島日本では近い将来大地震の発生が予想されている。原発リスクはきわめて高い。30年に現行の発電目標20〜22%を賄うためには20基以上の原発を稼働させる必要があるがとても不可能だろう。
原発比率が低下した分を再エネで補うことが理想だが、そのためには思い切ったヒト、モノ、カネを動員し国家の重要政策として取り組まなくてはならない。経産省も再エネ普及への取り組みに積極姿勢を見せている。たとえば送電網の利用ルールの見直しである。現行ルールでは発電量が増えて送電網の容量を超えると、再エネは原発や火力発電などより先に出力を制御されることになっている。この数年、九州電力管内では電力供給が需要を上回る場合、太陽光発電の発電抑制が日常化に実施された。太陽光や風力などの再エネ事業者にとってはいつ発電量が制限されるかわからず、収益構造上不安が大きい。利用ルールが改善されれば、再エネ投資にも弾みがつく。だが、水力発電を除く太陽光や風力などの純粋の再エネ発電比率を30年に14%程度(現在6%程度)まで引き上げたい意向だが、よほどの優遇政策が導入されない限り難しいだろう。
そこで経産省がニンマリ登場する。再エネで補えなかった分は、「石炭火力で賄うほかはあるまい」と。この場合、石炭火力比率は26%を大きく超えてしまうかもしれない。その切り札が旧式火力の廃止にほかならない。逆に再エネ中心で賄うことが可能になれば石炭火力比率は20%を大きく割り込むことができる。
パリ協定は30年までに各国に対して温室効果ガス(GHG)の削減目標値を求めている。日本は30年に13年比26%の削減を公約している。その場合、石炭火力発電比26%は容認される。
フランス、ドイツ、イギリスなどの欧州主要国は30年までに石炭火力の全廃、アメリカも今世紀初めには石炭火力比率が50%を大きく超えていたが、今では半減しており、30年には10%を大きく割り込む見通しだ。 経産省・総合資源エネルギー調査会小委員会は同省の低効率石炭火力発電削減発表を受けて、電力会社に設備の廃止を促すための規制や再生可能エネルギーの普及策などの検討を開始した。年内をメドに具体案を作成する方針だ。
21年のエネルギー基本計画改定にその結果が反映される。そこで石炭火力比率が10%以下になるようなら経産省の脱石炭火力路線は本物だと評価できる。だが、石炭火力に固執している今の経産省を前提に考えれば石炭火力比率の大幅低下は「夢のまた夢」と言わざるをえないだろう。
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