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トピックス -企業家倶楽部

2020年10月27日

おしぼり産業の再発明に挑む

企業家倶楽部2020年12月号 特集第1部 FSXの未来戦略


テクノロジーによって既存産業が新しいビジネスに生まれ変わる革新を「ディスラプション」と呼ぶ。ベンチャー業界でよく使われる「イノベーション(創造的破壊)」とほぼ同義である。壊す対象は市場ではない。思い込みや既成概念であり、人々の行動を制限する思考を斬新な新しいアプローチで変革するものである。アパレルのファーストリテイリングやメガネのジンズなど、成熟産業と言われる市場でベンチャー精神を持つ企業家が新機軸を打ち出し組織を飛躍的に成長させてきた。今、おしぼり業界でゲームチェンジを起こし、ディスラプターになろうとしているFSX社長の藤波克之に迫る。(文中敬称略)



おしぼり産業のイノベーター

 飲食店などで食事の前に出される「おしぼり」。日本人のおもてなしの心として、すっかり定着している習慣だが、その歴史は江戸時代にまで遡る。旅籠と呼ばれた宿屋では、旅人のために水の入った桶と手ぬぐいを用意し、客は手ぬぐいを水に浸してしぼり、汚れた手や足を拭いた。この「しぼる」行為がおしぼりの語源になっている。

 おしぼりはその後も日本人の生活に根差し、手指衛生の代名詞となっている。当たり前であるが故、それ以上の進歩もなく江戸時代から今日まで姿を変えずにきた。

 FSXは現会長で実父である藤波璋光が1967年に創業。今から約50年前に日本は高度経済成長期を迎えファミリーレストランなど飲食店が増えた。その波に乗りレンタルおしぼり業も勃興し市場規模を拡大させた。マーケットは、ピーク時には380億円の市場規模があったが、現在は約200億円と半減している。もっともホテルなどの宿泊施設や病院・レストランなどにタオルやシーツ類をレンタルするリネンサプライ市場に目を向ければ、5000億円超のマーケットが広がっており、まだまだポテンシャルのある魅力的なビジネスと言える。

 藤波克之が入社した2004年には売上げ8億円だったが、この15年間で2.5倍の売上げ21億円まで業績を右肩上がりで伸ばしてきた。 数百年の歴史のあるおしぼりの本質を追求し、香りや抗ウイルスといった時代に合った新たな価値を付加することでおしぼり産業にディスラプションを起こしているのが東京都国立市に本拠を構えるFSXなのだ。「技術とブランディングを掛け合わせて、おしぼり産業を変革していく」と壮大な夢を語る。



新生FSXはどこへ向かうのか

「配送をする現場の人たちにも全員に伝わるように私たちが大切にする価値観を改めて言語化したい」


 20年9月11日、藤波は経営陣と共に河口湖の畔にある宿泊施設を貸し切り、オフサイトミーティングを行った。16年に「藤波タオルサービス」から「FSX」に社名変更し、4年が経つ。この数年かけて、専門家を交えて取り組んできたブランド推進プロジェクトの振り返りと今後のアクションプランについて、経営陣が膝を突き合わせ語り合う場を持った。

「コロナのようなウイルスの脅威は今後も減ることはあっても無くなることはないでしょう。私たちFSXが、おしぼりの本質を改めて再定義し、会社の進むべき方向性を確認したい。そのために新しいビジョンが必要」と藤波は真剣な眼差しでメンバーに話しかける。

 参加メンバーから「最近、『FSXやVBのロゴを見たよ』、『配達の車はいつもピカピカで奇麗だね。スタッフのTシャツもカッコよく、キビキビした動きでいいね』と声を掛けられることが多くなりました。社員も人から見られているという意識が高くなってきている」とブランディングの成果が徐々にではあるが見えてきたと報告があった。

 成熟産業と言われる市場からでも、常識を打ち破り、既存のルールを変えて飛躍する「ゲームチェンジャー」が誕生する。FSXがその一翼を担うことになるのか、これからの取り組みにかかっていることを藤波はよく分かっている。そこで、経営陣を集め合宿をしたのだ。

「1割2割の改善を革新とは呼ばない。大きな変革を起こしたい。おしぼり産業にイノベーションを起こす」と藤波は意気込む。


新生FSXはどこへ向かうのか

ファミリービジネスとベンチャー精神の融合

 長身で藤波はどこにいても目立つ。講演会やセミナーの会場では必ず講師らと挨拶を交わし社交的な性格と思いきや、「末っ子長男で幼いころから内気な性格」と本人はいう。人見知りも激しく、父親の会社を継ごうとは考えもしなかった。大学を卒業すると大手通信会社に就職し、家業とは違う人生を歩んでいた。

 そんな藤波に転機が訪れたのは、28歳の時だ。元気だった父親が病に倒れた。病室で狼狽える母親の姿を見て、自ら家業を継ぐことを決意した。母親を病室から連れ出し、そのことを伝えると喜んだ。そうして、04年10月に正式に入社することとなった。

 両親からは、「経営者になるのだったらボタンを多く持ちなさい」と帝王学を学んだ。意思決定する際の選択肢を持っておきなさいという意味だと理解した。

 本当の意味での使える人脈は親子であっても継承できるものではない。自分で築くものである。さっそく、平日夜と休日を使って経営者セミナーに出来る限り参加した。その中の一つにファミリービジネスの会があった。日本では同族経営とマイナスイメージで語られることが多い。

 しかし、海外に目を向けると、創業百年を超える長寿企業にはファミリービジネスが多く、企業の持続的成長に関与しているという実績が認められ、研究も進んでいる。藤波は日本のファミリービジネス研究の第一人者である日本経済大学大学院教授の後藤俊夫から多くを学んだ。

「ファミリービジネスの強みは長期視点で経営に当たること。逆に足りないものは反骨心だと感じた」と藤波は言う。

 気付くとユニクロを展開する柳井正やソフトバンク創業者の孫正義ら著名なベンチャー企業家の書籍を手に取っていた。そして、新進気鋭のベンチャー企業家の講演があれば受講した。GMOインターネット代表熊谷正寿の「夢が叶う手帳」という講演を聞いた夜は興奮してなかなか寝付けないほどだった。早速、手帳を買い求め、敬愛する経営者たちの気になる言葉を書き留めていった。その中に「疾風に勁草を知る」という今でも読み返す言葉がある。困難にあって初めてその人の節操の硬さが分かるという意味だ。

「ファミリービジネスのブレない長期視点とベンチャー企業の様に常に挑戦し続ける気概を掛け合わせた組織にしたい」と藤波は組織形態の理想について語る。



「悔しい思い」が原動力

「おしぼり」は日本人なら誰でも知っている生活習慣といえよう。来客に対する気配り、おもてなしの心であり、藤波自身も良いイメージを持っていた。以前に何かの雑誌の記事で、アメリカの人気歌手マドンナが来日した際に感動したことが2つある。それは、「ウォシュレットとおしぼりよ」という記事を読み、自分を育ててくれた家業であるおしぼりが取り上げられて嬉しかった。

 社員が地道に汗水流してよく働く職場だった。会長も社員想いで家族主義的な温かい会社という良いイメージを描いていた藤波だったが、世間のおしぼり業界に対するイメージとは大きなギャップがあった。

「異業種交流会で名刺交換をする際に、『おしぼり屋さんか、ヤクザな商売なんでしょう?』と業界に対するネガティブなイメージを持たれているのが伝わり何度も悔しい思いをした」と藤波は違和感が拭えなかったと打ち明ける。

 前職を退職する際にも送別会で同僚から、「これまで頑張ってきたのに、今さらおしぼり屋さんをするのか」と揶揄された。

 家族主義的な社風、不器用だが真面目に仕事に打ち込む社員に対する尊敬の念、どれも藤波が大切だと思う価値のあるものだった。周りの人に悪気が無いのは理解できるが、おしぼり業をよく知らずに馬鹿にするのが許せなかった。

「なにくそ、見返してやるぞとスイッチが入りました」と藤波は仕事に打ち込む原動力になっている。人は重要な価値観を傷つけられると激しく怒りの感情が芽生える。それを補完しようという動機が働くものだ。おしぼり産業に対するイメージのギャップを知る、この原体験が温和な藤波を突き動かしてきた。

「文句や愚痴をこぼす人が多い中、藤波さんが優秀なのは、ビジネスを通して見返そうとしている点だ」と後藤は事業家としての藤波の姿勢を評価する。



メーカー側の視点を得る

 入社すると経営戦略室室長を拝命した。学生時代にアルバイトの経験はあるが、まずはおしぼり産業を理解しようと現場から入った。朝から工場に行き洗い場を手伝い、配送ルートを回った。家業を継ぐと覚悟を決めて入社したからには、社長の息子であろうが新参者である。「自分に出来ることは何でもしよう」という謙虚な気持ちでいた。

 そう意気込んで飛び込んでみたが、「現場は自分たちに任せてください。室長にしか出来ないことをして欲しい」と要望があった。それは社内に新しい風を吹かせて欲しいということだと解釈した。

 藤波には「おしぼり産業のイメージ向上」という至上命題があった。というより、現状のままでは市場そのものが衰退してしまうという危機感に近かったかもしれない。ある時、外食をしていると女性客が「臭い」と言っておしぼりを使っていない場面に出くわしたことがある。この匂いの原因は、洗浄時に使用される次亜塩素酸ナトリウムでプールの消毒の匂いと同じである。

「以前から女性が嫌がる刺々しい消毒液の匂いを取り除き、香りを付けたいと考えていた」

 香りを付ける際も誤魔化すのではなく、天然ハーブを用いて消費者が喜ぶものにしたいと考えた。それは前職の通信会社で本質的に顧客が喜ぶことを提供するという思想を学んだことが影響していた。

 香料メーカーと開発を進め、香り付き使い捨てペーパータオルの商品化まで漕ぎ着けた。自社製品の開発は初めての経験で、箱のパッケージデザインから説明書を作ったり、商標登録をしたり、全て自分たちで手掛ける貴重な体験となった。広報活動も始めてみると、香り付きということでこれまでとは違う美容業界から問い合わせが来るようになった。販促のため展示会に出展し、パンフレットやウェブサイトも自前で作った。

「開発は大変だけど、楽しいことが分かった」と藤波はこの時の感想を語る。想像していなかった副産物もあった。それは、新商品を開発することで「メーカー側の視点」を持つことができたことだ。

 レンタルおしぼりという主力事業に物販という新しい収益の柱が加わった。おしぼりの匂いを改善し、イメージ向上のため創意工夫したことが、新しい収益となる事業の種をまいていたのだ。偶然の産物であったが、FSXが発展する転機となったことは間違いない。


メーカー側の視点を得る

「技術」への憧れ

 既成概念を打ち破る更なる挑戦をしたいと考えていたある日、同年代で10年来の友人でもある三菱鉛筆社長の数原滋彦の事業プレゼンを聞く機会があった。同社は鉛筆・シャープペン・ボールペンなどの筆記具を主力事業に売上げ620億円を計上する東証一部上場企業である。130年以上続くファミリー企業の後継者という立場も似ており、二人で会食し親交を深めてきた。

「社員の6割が理系で『技術』の塊のような会社と知り、驚きとともに技術に対する憧れを抱くきっかけとなった」と藤波はその時の衝撃について語る。

 技術力がある組織は新規事業を生み出し続けることができ、逆境に対してリスク分散にもなる。そこで、おしぼり産業において「技術」とは何だろうかと考えた。おしぼりを因数分解すると、「おもてなしの心」と「衛生面」の2つが浮かび上がってきた。

「衛生関連で何かしらの技術を持つことが出来たら強みになるかもしれない」と藤波は思いを巡らせた。 現在、手指衛生の主流となっているのは、アルコールである。しかし、アルコールは揮発性が高く、熱に弱く、時間の経過とともに効果が薄れてしまうという特徴がある。つまり、安定性が低いという課題があるのだ。「アルコールは決して万能ではない」という。

 今から約10年前にインフルエンザが流行し、航空業界からおしぼりを使ってウイルスの予防ができないかと問い合わせがあった。ちょうど抗菌や抗ウイルスに関心があり調べていたが、どの商材も納得のいく有力なデータがなく、藤波は辟易としていた。その中に慶応義塾大学医学部の文字が目に留まった。

「父親がもしまた病気になった時に慶応病院を紹介してもらえたらいいな」、そんな軽い動機で慶応大学医学部教授の団克昭を訪ねた。



ブランディングの重要性

 一人の人物との出会いが運命を大きく変えることがある。団との出会いが大きなターニングポイントになるとは、このときはまだ当の藤波も知る由もなかった。

「ポリ酸を活用した新技術をビジネスに応用できないか」と団から提案があった。「技術」によっておしぼり産業に変革を起こしたいと考えていた藤波の狙いとも合致した。早速、ポリ酸水溶液を使って専門機関で調査すると想像以上の結果に驚いた。厚生労働省が定める基準を満たすだけでなく、既存の次亜塩素酸ナトリウムでは時間の経過とともに菌が増殖してしまうのに比べて、ポリ酸では菌は増えないどころか、ウイルスも抑制していたのだ。

 その後も研究を継続し、ポリ酸にはアルコールにない特性があることが分かってきた。まず、揮発せずに熱に強い。水によく溶け、長時間効果が持続し、安定性が高いというデータが実証された。この瞬間、FSXは藤波が欲していた「技術力」を手に入れたのだ。

 このウイルスを寄せ付けない新技術には、その特性を表現し「VB(ウイルスブロック)」と名付けた。

「尊敬するユニクロ柳井さんから自社ブランドを広く知ってもらうためには、他とは違うという『識別性』が重要だと学びました」と藤波はブランディングの重要性を説く。飲食店で出されるおしぼりのパッケージを注意してみてもらいたい。「VB」のロゴが入っていれば、それはFSXが大学と共同開発した新技術から生まれたおしぼりである。

「このコロナ禍で抗ウイルス商品への注目が高まり各方面から問い合わせが多くなってきている」と藤波は手応えを感じている。医療関係者や大企業では品質は安全か確認する際に必ず論文を見る。データで実証された論文は何よりも説得力を持つ。FSXでも年内に複数の論文を発表する予定だ。

「新技術に対しては今後も惜しまずに研究開発を継続していきたい」と藤波は未来への投資を止める気はない。

「サイエンス(科学)に裏打ちされたエビデンスがビジネス上の強みとなる」とジンズ社長の田中仁も太鼓判を押す。



社名変更に込めた想い

 13年9月、藤波は社長に就任。名実ともに会社を代表する顔になった。その年の12月には、最先端の設備を導入した新工場を稼働させた。建設のため金融機関から融資を集め、約5億円の投資となった。

「これからは自分が責任を持たなければならないと思い、私から父に社長になると伝えました。それに、若いうちに社長としての経験を積むことが重要で、もし何か判断に迷うことがあったときには会長にアドバイスをもらうこともできると考えた」と社長就任の経緯を語る。

 社長就任を発表すると先輩経営者である日本交通会長の川鍋一朗から直接藤波の携帯電話に連絡があった。「おめでとうございます。社長と専務では見える景色が違います。大変だけど頑張ってください」と励ましのエールをもらった。実際、社長に就任すると社内外から最終的な意思決定を求められる場面が増え、半年くらいは地に足がつかず、フワフワしていたという。

 16年11月には、「藤波タオルサービス」から「FSX」へと社名変更した。レンタルおしぼり事業を主軸にテクノロジーとデザインに根差した会社に変わることを社内のメンバー、社会に対して浸透させるのが目的で、藤波は社名変更に8年間という長い時間をかけてきた。

「X」には、伝統と革新を掛け合わせる意味を込めて付けた。

 現在は、おしぼり産業の再定義をしようと様々な検証が始まっている。AIを活用し、レンタルおしぼりの在庫・回収状況をデータ化し可視化することで最適化を図る試みをしている。データにすることで貸し過ぎや未回収といったロスを減らすことができる。レンタルおしぼり産業にとって、タオルが資産であり、ロスがあれば多額な投資をしなければならない。AIなど新しいテクノロジーを活用することで効率的な経営が可能になる。

「日本文化のおしぼりを新しいテクノロジーとデザインを掛け合わせて、おしぼり産業を再発明する会社になる」と藤波は力強く宣言した。FSXの挑戦から目が離せない。



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