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トピックス -企業家倶楽部

2020年10月27日

ソクラ座談会 欧州連合が導入する「国境炭素税」/ニュースソクラ編集長 土屋直也 Naoya Tsuchiya

企業家倶楽部2020年12月号 国際政治入門 vol.7


 今後の世界の4年間を左右する米国大統領選を11月3日に控えた時期に今号をお届けすることになります。アンチ・トランプの機運は強く、民主党のバイデン候補(オバマ政権の副大統領)が優勢であることは確かですが、今回の座談会では欧州の環境課税に目を向けてみましょう。ニュースソクラ編集部で話し合ってみました。



欧州首脳会議で導入が決まった「国境炭素税」

司会  欧州連合が7月の首脳会議で、コロナ対策を決めた。同時に重要な決定をしている。それは国境炭素税だ。まだ日本ではなじみが薄いが、どんなものか。

Zデスク 昨年、欧州の首相にあたる欧州委員長に就任したドイツ出身のフォン・デア・ライエン欧州委員長が昨年末に提唱した制度だ。委員長はドイツ政界でメルケル首相の秘蔵っ子と言われた手腕の高い政治家で、それまで仏独からは就任させないとされていた委員長ポストにメルケル首相がマクロン仏大統領を説得して就任させた人物だ。その代わりにドイツは欧州中銀総裁ポストをフランスに譲ったとされている。

 もともと委員長は環境派としてしられ、欧州首脳会議に向けてメルケル首相とマクロン大統領を直接説得し、導入への道筋をつけたとされている。

X部員 EUが輸入する製品でその製造過程で温暖化ガスを大量に発生させているものには炭素税として高関税をかける考え方だ。日本は製造の過程で使われる電気を作るのに石油や石炭火力に頼っているから大量の温暖化ガスを発生させている。自動車など日本で作られる工業製品は炭酸ガスを多く排出していることになるので、大半の製品に高関税がかけられることになりかねない。欧州向け輸出が大打撃となってしまうだろう。

Y部員 欧州首脳会議では2021年前半に制度設計を終えて、23年初めまでに導入するという期限も明示した。これだけの制度変更にしては短期間の導入で、日本にとってエネルギー政策を転換して対応していくには時間が足りなすぎる。



米民主党も前向きで欧米の流れになるかも

Qデスク 問題は欧州だけにはとどまらない可能性が高い。民主党のバイデン大統領候補の公約には国境炭素税の導入も盛り込まれている。オバマ政権の際も、隣国のメキシコなどに対して導入が検討されたことがあり、環境政策を重視する民主党にとってはお家芸のような政策でもある。もちろん連邦議会を共和党が握った場合には法律を通せるのかどうか問題が残るが、今回は連邦議会でも民主党が勝つ可能性もでてきている。

G部員 国境炭素税が導入されれば、影響がもっとも大きいのは中国だが、中国はパリ協定などでも「途上国扱い」でなにかと規制を緩めてもらえる部分がある。猶予期間が長くとられる可能性もあるだろう。世界のなかで打撃の大きいのは明らかに日本だ。



日本は原発再稼動で対応か

司会 日本政府はどう対応するのだろうか。

Zデスク 危機感を持った産業界の意向も受けて経済産業省が動いているが、基本的にはエネルギー政策の転換、すなわち原子力発電の比率を上げなければ、日本の製造業は壊滅するとの認識を強めているらしい。確かに、自動車に高関税がかかるということになると、現地生産を加速しなければならず、日本から製造業が出て行ってしまうことになりかねない。

Vデスク 経産省が原発再稼動で菅首相の了解をとりつけたという情報もある。菅氏はもともと安倍政権の一員として原発に否定的なわけではなかったし、電気料金の引き下げなど国民に利益が目に見える形で示せるのなら原発再稼動もOKと言っているらしい。菅氏は「値下げおじさん」と言われるぐらい値下げ政策が大好きなひと。そこを戦略的にくすぐったのだとしたら、経産省エネルギー庁も根回し上手、説得上手ということなのかもしれない。

X部員 日本の製造業を生き残らせようという必死の策ではあるが、ちゃっかり原子力発電の復活に道筋をつけてしまおうというのは、したたかな戦法だよね。いつもの外圧をてこに内政を動かすという官僚の得意技でもあるのだが。

司会 国境炭素税は欧州委員長の交代で初めてでてきた構想なのか。

G部員 ブッシュ米大統領が当時の温暖化対策の世界的な枠組みだった京都議定書から脱退したときに、米国向けの制裁として欧州では検討されたことがあった。だが、高関税政策となると自由貿易を阻害しており、当時は世界貿易機関(WTO)もそういう見解だった。そうこうするうちオバマ政権が成立して環境問題に積極的になったから、対米制裁としての国境炭素税というのは立ち消えになった。

X部員 WTO違反との指摘を回避するため、関税でなく、排出権を輸入業者に買わせる規制を導入する形で国境炭素税を実質的に導入しようという考え方もあり、欧州首脳会議でも案としてあがっている。このため、国境炭素税と言わず、国境炭素調整措置という言い方をする人たちもいる。



欧州製造業の競争力維持が狙い?

司会 欧州はなぜ、国境炭素税に熱心なのか。

Vデスク もともと環境問題への関心が高く、スウェーデンのグレタさんのような「スター」が生まれる土壌があるが、欧州の製造業への配慮という面が強いだろう。欧州は30年までに温暖化ガスの排出量を40%削減、50年にはゼロにするという目標を掲げており、そのためには炭素税の強化などエネルギー多消費型の産業へさらなる負荷をかけなければならない。そうなると、域外の規制がゆるい国々の製造業に比べ競争力が劣ってしまいかねない。それで、他国の製造業にも負荷をかける国境炭素税で競争力のバランスを取ろうというわけだ。

Qデスク 流れが停滞したり、逆流する可能性はかなり低いが、欧州首脳会議でも、輸入品に網羅的にかけるのか、特定の分野に絞るのか。段階的に導入するのか、猶予期間はどのくらいか、さらにそもそも、各製品ごとの温暖化ガス排出量をどのように計算するかなど、制度の根幹に関わる部分は決まってはいない。日本政府も異議申し立てによる「交渉」の余地はあると思っているようだが、時間稼ぎはできても導入阻止は難しい。日本経済の構造を変えかねない大きな問題であり、注目していく必要があるだろう。




Profile 土屋直也(つちや・なおや)
1961年生まれ。84年早稲田大学政経学部卒業、同年日本経済新聞社入社。86年から3年間ロンドン駐在員としてサッチャー首相の英国と金融街シティを取材。98年から4 年間ニューヨーク駐在中は、ウォール街を取材し、2001年9月11日の同時多発テロに遭遇。日本では主にバブル後の金融システム問題を日銀クラブキャップとして担当。バブル崩壊の起点となった91年の損失補てん問題で「補てん先リスト」をスクープし、新聞協会賞を受賞。2014 年7月、ソクラ創設のため、日本経済新聞社を退職。同年10月、株式会社ソクラを起業し、代表取締役兼編集長に就任。

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