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トピックス -企業家倶楽部

2020年10月27日

格を上げて起こした革新/メディアドゥ社長CEO 藤田恭嗣 Yasushi Fujita

企業家倶楽部2020年12月号 馬渕磨理子のそこが知りたい!vol.3


「ピンチはチャンス」。経営者なら誰しもぶつかる壁がある。その時、何を考えどう行動したのか。業界をリードする企業家たちをゲストに迎え、トップとしての心構えやブレイクスルーにつながるターニングポイントをアナリスト馬渕磨理子が紐解く。今回はメディアドゥ藤田恭嗣社長CEO。紙から電子の障壁をクリアし、異例の業界1位の買収を経て、今や電子書籍業界を牽引していくメディアドゥ。これまでのターニングポイントを振り返りながら、将来の展望とともに藤田社長に語っていただいた。聞き手:馬渕磨理子

モバイル×デジタルコンテンツを武器に

馬渕 学生時代、留学費用を稼ぐために起業をしたそうですが、どのような思いだったのでしょうか。

藤田 海外留学費用を貯めるという目的を定めていたので自分の人生を懸けてやっていく事業ではないと割り切っていました。元手資金が無い中、どういった事業ができるか取捨選択し、最後に残ったのがエージェント業でした。投資をせずに、エージェントとして営業努力だけでビジネス化できるという構造です。その中の一つに携帯電話の販売事業があり、携帯電話がこれから普及していくとわかっていました。

馬渕 そこから今の事業に移行されたのはどのような経緯があったのでしょうか。

藤田 2000〜01年にかけて、IT事業を模索し、様々な事業をやりましたが、なかなかうまくいきませんでした。04年にモバイルで音楽を配信する「着うた」を始めました。マーケットを見渡すと、当時は全体で1000億円でしたが、当社の売上規模は10億円ほどでした。その1%のマーケットシェアが10%や20%にはならないと考え、音楽で培ったノウハウを転用、転化できると考えて出てきたのがモバイル×デジタルコンテンツでした。02年に携帯電話のパケット通信料金が定額化され、できるだけパケット代がかからないモデルを考えていた発想を逆転させ、まずライトなコンテンツとして音楽を始め、次に少し重いコンテンツとして本に参入しました。

馬渕 随分と参入障壁は高そうですが、それは御社にそれまで蓄積されたノウハウがあったから入れたのでしょうか。

藤田 電子書籍業界や出版業界に全くノウハウはありませんでした。我々が持っているのは、システムと事業化、集客のノウハウでした。この3つを組み合わせて、電子書籍ビジネスを提案しつつ、コンテンツの仕入れを同時に行っていました。

 小さな画面に漫画を表示するためには、1ページのコマをひとつひとつ切り抜き、ナンバリングをして読み方の指示をしなければなりません。その電子化のコストは1冊当たり20万円かかりますが、出版社もそんなにお金をかけられません。そこで、我々が電子書店をシステムで束ね、みんなで電子化コストを按分することでその障壁をクリアできると考えました。参入障壁が高い理由を調べ、それを打破するためのモデルを考えて展開したのです。

馬渕 出版社と電子書店の間に立つことで両者にはどのようなメリットが生まれるのでしょうか。

藤田 電子書店からすると、まず権利許諾のもらい方がわかります。また、コンテンツ開拓や電子書籍ファイル、サーバーシステムを作ったりしなければなりませんが、その体制を1社で作るのは大変です。我々が作って分配することで制作コストがかからないというメリットがありました。彼らは運用とマーケティングに集中できます。

 出版社からすると、「そもそも電子書籍って何」という人がほとんどでした。そこで、我々がマーケティングや電子書籍業界の情報やコンテンツが売れている理由などのレポートを提供しました。また、コンテンツを売るということは新しい収入ということです。紙以外の収入を我々が少しずつ積み上げていったことが彼らにとってメリットでした。



業界2位が1位を買収

馬渕 2017年、業界1位の出版デジタル機構を買収していますが、どのような狙いがあったのでしょうか。

藤田 そもそも買収の手前になりますが、なぜ上場したのかに遡ります。昔は電子書店側の技術力が乏しく、ユーザーデータを無くしたり、サービスが止まって1日読めないこともありました。紙の本であれば、買っておけばいつでも読めますが、電子書籍は電子書店が潰れたら全部なくなってしまいます。それが一番の課題だと思っていました。

 マーケットを拡大していくためには、ユーザーの不便を便利にすること、不安を安心にすることが必要です。その根本的解決をしていかなければならないというのが私の想いです。ただ、何の力もないメディアドゥが出版業界に新しいテクノロジーを提案しても、箸にも棒にも掛かりません。そこで、まずは1位を買収するために上場しました。たまたま上場して案件があったから買収したのではありません。出版業界全体の市場を拡大するために、テクノロジーの観点からユーザーの不便と不安を解消する必要があることを業界1位になって初めて提案できると考えました。

馬渕 きちんとした目的があっての上場、買収だったのですね。この買収により当初の目的は達成されたのでしょうか。

藤田 目的は完遂できていませんが、ブロックチェーンというしくみで解決できると思っています。ただ、提案はできても理解してもらえるかはまた別です。例えば、音楽業界ではコロナの影響でコンサートができず、マネタイズできる出口を探しています。我々の提案も聞き入れやすいでしょう。しかし、電子書籍業界は好調です。やらなければいけないことがたくさんあるのに「なぜ新しい提案に耳を傾けて一緒にPOC(概念実証)をしなければいけないのか」となるのです。そういった面ではまだ期は熟していません。提案できるポジションには来ましたが、これから3年、5年、10年はかかると思っています。

馬渕 ブロックチェーンの考え方では、個人に買ったものの権利が紐づくということで、書店に行かなくても自分の所有物になる、紙と同じ感覚でしょうか。

藤田 紙には所有権がありますが、電子は所有権という権利がありません。電子書店がつぶれた場合、後ろのネットワークにブロックチェーンがあると、共通台帳として誰がどの電子書店から何を買ったのかの記録が残ります。共通台帳にアクセスするとユーザーがその本を購入した履歴が残っているので、本を再ダウンロードできるというネットワークのしくみです。

馬渕 共通台帳というのは、たくさんある電子書店の中心にあって、皆さんが共有しているという考え方ですか。

藤田 そういう世界を作りたいと思っています。マーケットを拡大するためには必須であるという危機感がないとそこまで踏み込めないでしょう。だから我々はそのネットワークをある程度作っていきます。

馬渕 最近の電子書籍業界の動向はいかがでしょうか。

藤田 電子書籍マーケットは、2000〜02年で頭打ちをするという予測でしたが、海賊版が出てきたため、紙ではなく電子書籍でもいけると気付き、マーケットが一気に大きくなりました。また、コロナで巣ごもり需要が高まり、マーケットが飽和状態になるタイミングが後ろ倒しになってしまいました。

 そもそも私は、今から5年前に「7年後にゲームチェンジが起こる」と予測していました。マーケットが飽和状態で不調になり、M&Aや企業統合が起こると想定していました。しかし、今は状況が良すぎるため統合が起こっています。資金を持った大きな会社が買収し始めました。アプローチが少し違うのです。20年前後で業界が制定されて再統合や再編が起こると考えると、来年、再来年が業界再編のフェーズに入ります。その準備期間が今年と来年です。


業界2位が1位を買収

社格を手に入れるための移転

馬渕 本社を皇居に面した竹橋に移されたのにも思い入れがあるとお聞きしました。

藤田 色んな思いがあります。「日本のコンテンツを日本の中心から世界に出していく」こともありますが、一番は「社格」です。私が本当にやりたかった、出版業界に対してユーザーの不便を便利にする提案をしたい中で、ポジションを作っていくためには「格」を手に入れなければ難しいと考えました。しかし、会社がいきなり格を持てません。格を持つには何かを買収するか、何かに買収されるかだと思います。でも我々が買収されるわけにもいきませんし、買収して格が上がるような会社がその辺に落ちているわけでもありません。17 年に出版デジタル機構を買収しましたが、その前年の16年にこのオフィスに移ってきました。出版業界の方々に「メディアドゥというベンチャーがこういったオフィスを借り、皆さんをご招待するところまでやってきました」ということを見てもらうために移ってきました。


社格を手に入れるための移転

「冬」に向けて

馬渕 ご自身の人生を春夏秋冬に例えられて、今は、秋ごろだとお話されていましたが、冬に向けてどういった夢をお考えでしょうか。

藤田 秋は恩返しをするタイミングです。春は人に育ててもらい、夏は自分の足で立てるように訓練して挑戦するシーズンです。20歳で事業を始めて40歳で上場しました。夏の一つのゴールが上場であり、自分の中では40歳で一つの夏の区切りを終えました。私がここまでやってこられたのは、たくさんの人に支えられたからです。支えてくれた人たちに対して、できる範囲で恩返しをする生き方をしなければなりません。

 一方で冬は、自分の人生を生きたいと思っています。企業家はプライベートがほぼありません。事業をやるのは良いことですが、果たして本当に豊かなのでしょうか。人にとってお金は豊かなものの一つかもしれませんが、私が求める幸せはそこではないのでしょう。そうではない世界に時間を費やせる自分の環境を作っていくのが冬です。

 私の中では、「企業家をずっと続けていても自分の人生は幸せではない」という仮説を持っています。なので、秋の時点で私にとっての経済はすべて終わらせます。冬は求められたところに協力したり、自分の本当にしたいことをしていきます。

馬渕 それは後継者のようなことも考えているということでしょうか。

藤田 後継者というよりも、私が何をしたいかではなく、自分自身の限界がどこにあるのかは考えます。体や能力の限界はあります。私自身がこの会社にいて、ある一定のスケールができるものと、リーダーが変わらないとできないものはあるだろうと感じています。

 また、世の中自体にジェネレーションギャップがあると思っています。人口動態的に人が多いから私たちは幸せなのです。それを見ている下の人たちにとって、上の幸せを押し付けられることが幸せかというと全然違うでしょう。そこからすると経営も全く同じ方程式であり、自分の引き際は理解しておきたいと思っています。メディアドゥを仮に卒業したとしても、メディアドゥに匹敵するバランスの取れるものを見つけなければならないことが私にとっては重要なテーマです。

馬渕 冬の時代に入るときには、そのバランスの取れるものがビジネスとは限らないということですね。

藤田 私の中ではこれをやるべきというものがあって、それを今から育てていきます。バトンタッチする準備をこの10年かけてしていきます。50歳までにそれを明確に決めようと思っています。47歳なのであと3年でその設計を全て終わらせます。




藤田恭嗣(ふじた・やすし)
1994 年大学在籍時に創業。96年にフジテクノ、99 年にメディアドゥを設立。2006年より電子書籍流通事業を開始。13年東証マザーズ上場、16 年東証一部へ市場変更。20 年一般社団法人徳島イノベーションベースを設立、代表理事に就任。起業家組織EO Tokyo第24期会長を務めるなど、起業家としての社会貢献にも取り組む傍ら、地元である徳島県木頭村(現・那賀町)にて、13年より地方創生事業にも精力的に取り組む。


馬渕磨理子(まぶち・まりこ)
京都大学公共政策大学院を卒業後、法人の資産運用を自らトレーダーとして行う。その後、フィスコで株式アナリストとして活動しながら、現在は日本クラウドキャピタルでマーケティング・未上場株のアナリストも務めるパラレルキャリア。プレジデント、S P A ! での執筆を行う。大学時代はミス同志社を受賞。

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