トピックス -新商品

2015年08月20日

抑止力には核ではなくソフトパワーを

企業家倶楽部デスク 相澤英祐


 遅ればせながら、安倍首相による戦後70年談話を読んだ。積極的平和主義を掲げ、核兵器の廃絶を訴えるなど、評価できる点が多かったように思う。

   国際政治学者のジョセフ・ナイは著書『スマート・パワー』の中で、「パワー」を「誰かに何かをさせる力」と定義付けた上で、「武力攻撃を行う」「経済制裁を加える」といった強制力を伴う手法を「ハードパワー」、その国家の価値観や魅力によって「この国の望むことをしたい」と相手国に思わせてしまう力を「ソフトパワー」と呼んだ。この理論は、「ある対象が何らかの行動をしないように働きかける力」である抑止力についても通用するだろう。

   最近、日本の核武装の是非が議題として挙がることが多い。「核武装が戦争の抑止力になる」と言われるのは、「この国を攻撃すると反撃が怖い」と対外的に思わせることが出来るためで、それ自体は理に叶った主張である。

   しかし、核兵器を持つことによってハードパワーは確実に伸長するものの、それと引き換えにソフトパワーは著しく減退するだろう。特に日本の場合、世界唯一の被爆国としてこれまで散々非核三原則などを大々的に掲げておきながら、それを国益のために翻したとあっては、国際社会からの非難は免れまい。

   もちろん、国防を行う上で通常戦力の維持・増強は必要だ。実際に戦争で核兵器が使われれば人類滅亡の憂き目となる以上、想定すべきは通常戦力同士での戦闘か、むしろテロリストという姿の見えない相手との戦いということになるだろうが、万が一、本当に敵が攻め込んできた場合に戦えないのでは話にならない。

   現実として、毎日のように航空自衛隊機はスクランブルを行っている。こればかりはしっかり対処せねば、対外的に侮られる恐れもある。通常戦力を整えること自体は、グローバルな常識に照らして当然のことだし、国際世論からしても何ら非難の対象とはなるまい。

   ただ、そうした万が一の戦闘行為を回避するための抑止力として、核兵器を保持するという選択肢は不適切であろう。この場合、抑止力の本質は「この国に攻撃を行っても自国にとって何の利益も無い」と思わせることにある。では、核無くしていかにその抑止力を発揮するか。

   ここで有効なのが、前述の「ソフトパワー」である。具体的には、経済的な結び付きを切り離せないくらい強めたり、草の根レベルでの文化交流を深めたり、資金援助・技術提供などの国際協力を積極的に働きかけたりすることだ。「日本が攻められでもすれば、我が国の経済も甚大な被害を受ける」「日本にはかけがえのない友人が多くいる」「日本からは多大な援助を受けていて、恩義がある」という国や地域をどんどん広めていけば良い。

   日本に戦争を仕掛けたところで、敵ばかり増えて国際社会での立場が危うくなる。そうした国際世論の醸成こそ、究極の戦争抑止力なのではないか。義のない戦を仕掛けるほど、各国の指導者も愚かではあるまい。

   70年前の大戦で国際社会に大きな傷跡を残した日本の国是を考えても、戦争抑止力には核兵器よりソフトパワーを使っていく方が適切・有効だし、我が国らしいやり方ではないかと思う。その意味でも、今回の談話における「積極的平和主義」は大いに賛同できるものであった。



コメントをシェア

骨太対談
 
コンテンツメニュー
企業家賞
企業家倶楽部企業家大学
Page Top