会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。
母が他界したのは20年前ですが、遺品から「単語帳」が出てきました。その単語帳には、21画は「頭領 大吉数」、24画は「興産 才智秀抜 金運あり」といったように画数による姓名判断が母の直筆で書かれていました。
母は姓名判断が好きで、親戚や近所に子供が生まれると聞くと姓名判断のアドバイスをしていたようです。私や弟の名前を付けるときも姓名判断の先生に占ってもらったそうです。実は私が会社を設立する際にも「今度、独立して会社を作るけれどもカタカナの社名でも画数は関係あるの?」と母に尋ねたら「関係がある」と即答でした。
会社設立は2000年で、その翌年の2001年に母が亡くなり、その後の会社の成長を見せることは叶いませんでした。母の手書きのこの単語帳は、筆跡がそのまま残っているので、遺品分けの時に私が持っていたいと思い、母の思い出として写真と共に今でも大切にしています。
ちなみに社名の「リンクアンドモチベーション」は31画となり、母の単語帳によると「頭領 智仁勇あり 大業を大成」とあり、とても運勢がよいそうです。社名を考えるときに会社全体の戦略と個々人の「モチベーション」を「リンク」させるということでこの2つの単語は入れたいと考えていたのですが、31画にするために「アンド」が必要だったのです。
もともと母は信心深く、ゲンを担ぐところがありました。私も母からの影響もあり息子の名前や社名を付ける際には画数が良いとされる字を選ぶようにしています。M&Aで新しくグループ入りした会社が何年か後に社名変更する際にも画数を意識して、姓名判断をしてから付けるようにしています。この様に何か始めるときには画数が気になります。それが行き過ぎて、会社移転の際に電話番号の候補をいくつか選べますが、それも番号を足して、数字が良いか見て決めるほどです。
経営者は人前では気弱な素振りは見せませんが、企業規模が大きくなればなるほど、恐れや怖さがあるものです。何かに頼りたいという気持ちから、姓名判断やゲンを担いだりルーティンを試したりするのだと思います。
今でも時折、講演会に招かれて人前で話をする機会があるのですが、何百回と経験してきても緊張するものです。講演の直前に必ずトイレに行き、両手に水を浸して、頬を軽く数回叩くといったルーティンをすると不思議と落ち着きます。
さらにどこかの本に「ハンカチを手に握っていると緊張しない」と書いてあったので、その2つは実践しているのですが、社員の誰も私がそんなことをしているとは知らないでしょう。
母から「あなたの名前の画数は良いけど、大器晩成だから焦ってはいけない。あなたは努力したら努力した分だけ実りがある。宝くじのような棚ぼたはないから努力を怠ったらいけない」と教えられました。子供ながらに努力しないといけないと恐怖を感じていましたが、逆に言えば、努力したらリターンがある訳ですから、結果的には良かったと思います。
母のタンスからこの単語帳の他に3人の子供たちの「へその緒」が出てきました。今となってはもう遅いのですが、もっと母の話を聞いておいたらよかったなと思います。
(企業家倶楽部2021年11月号掲載)