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Vol.81【日の丸キャピタリスト風雲録】日本テクノロジーベンチャーパートナーズ投資事業組合代表 村口和孝

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

新型コロナとの闘いに学ぶー9 スタートアップ経済エコシステム再点検法 失敗を恐れず未来を拓け!

2021年10月新型コロナ第五波収束


 9月コロナ第五波デルタ株が感染拡大し、医療崩壊する予測を裏切って、なぜか感染者数が急減少。東京感染者数は200人を切り、ようやく緊急事態宣言も解消された。ワクチン接種率先進国に仲間入りし、日本の二回接種者は米国を抜き60%を超え、英国に肉薄する状態だ。消費不足・貯蓄過多で、人流回復と消費経済の再稼働が待たれる。なお第五波も影響し菅首相の退陣のあと、岸田内閣発足。世界に目を転ずると、ワクチン接種先進国のみならず、遅れているインドなども感染者が急速に減少して、新しい経済活動の模索がみられる。

 感染者にワクチン接種者を足した累計者数の増加によって、人類全体で集団免疫を達成しつつあるのかもしれない。また、治療法もライフサイエンス進歩は目を見張る状況であり、世界史に残る大事件だ。私は、コロナ問題は収束すると考える。二年間の推移観察から、世界全体の経済政治について短時間で、実に深く学ぶことが出来た。

 感染急拡大と保険医療体制の連携不足、薬やワクチン開発と認可、マスクや人工呼吸器の需要供給と価格および政府介入、緊急事態発令と自治体や自衛隊と法律と強制権、政治家の対応と政府と自治体の役割、ワクチン開発に見るスタートアップ経済とマイルストーン未来投資、マスコミの役割とSNSデマ、専門家と言うトカゲの尻尾、緊急財政政策と金融政策下の金利変動、巣ごもり需要と強制貯蓄の積み上がり、GOTOアフタコロナ対応、緊急事態下の企業経営と株価の大変動まで、マスコミがその都度実況中継してくれたので、実に多くの事を集中的に関連付けて考察出来た。

スタートアップ経済エコシステム


 35年以上の長期にわたるスタートアップ投資を振り返ると、ぬるま湯化した膠着状態を脱却するための必要不可欠なエコシステムの循環図が見えてきた。「生活者」からスタートする「貯蓄「」消費」による「生活向上」が、人類全体80億人が生きている世間の、一般生活者の活動である。世界の経済全体が、それら世界中の人々の生活向上のために、「商品サービス」を生み出し、供給されて毎日経済が回っている。どうやって回っているか?スタートアップの順番に時計回りに説明していこう。

 ①12 時~ 3 時:自立から会社設立まで

 1.自分:主体

 生産者として自立した自分が、世間の中から信頼を得なければ、何も始まらない。信用は大切

 2.他者との契約
 
 生産者であり社会貢献するためには、他人とパートナーシップを結び、関わり、契約する覚悟が無ければならない

 3.勘定の出発

 経済活動をするためには、まず勘定が管理できる口座開設が何より大切だが、信用が無いとそれすら認めてもらえない

 4.定款自己資本

 パートナーらと、会社法に基づく定款つまり相互の重要で最も基本的なルール(契約)を定める

 ② 3時~ 6時:資金調達と投資、資産管理まで

 5.株主総会取締役会

 自分一人か又は複数の取締役を選任し、経営のための取締役会等を設け、会社経営を始める

 6.社会目標ガバナンス

 報告を検討し、具体的に社会目標を定め、忠実に発展をイメージし、実行

 7.調達/投資

 どこから資金調達をし、どんな投資をするのか?

 8.資産管理

 投資したBS 資産を定期的に管理、組替する

 ③ 6時~9時:商品サービス供給、ヒットまで

 9.原価

 天然資源を加工した中間生産物をいかに仕入れて、品質高い商品サービスを世の中に供給するか

 10.新/既存商品群

 生活者の生活が向上し、商品サービスに満足するのかしないのか?売れる満足度の高い商品か?

 11.販管費

 良い商品も販売促進し、好評が連鎖しないとヒットせず、営業活動、ネット活動をどうするか?

 12.売上

 発送、決済、顧客管理、クレーム処理重要だ

 ④ 9時~11 時:組織経営と決算監査分配まで

 13.執行分業雇用組織

 ヒットした商品サービスのオペレーションを、分業し従業員組織を使って実現する(組織人社会)

 14.決算監査総会

 決算を作成し、監査受けて、総会で報告する

 15.利益分配
 
 利益を出資者に分配することが、循環図の帰結だが、所得に対しては税金がかかる

人類の生活向上を目指せ!

 そもそもの目的との整合性を重視するマテリアリティ(重要課題列挙と優先順位づけ)の議論や、SDGsが注目される中で、経済エコシステムの全循環を効率的に実現することに世界の関心が向かっている。日本ではこれまで「会社経営とは、利益実現を追求しながら従業員組織の中で出世する事だ」と歪んで定義されてきた。組織は分業され、職務権限で縦割りが当然とされた。

 ところが、人類の生活向上のため経済全体がよくなるには、人生のスタートから始まる15工程全てが力強く活き活きと躍動することの大切さが、歴史的に浮かび上がってきた。どれが重要と言う事でなく、すべてが同時に緊密に関連し抜かせない。当然、「どこかを強化すると経営の問題が解ける」とのコンサルティング的な考え方は通用しない。分業調整組織の歴史的発展

膠着状態を脱却しよう

 会社経営をやっていると、時間経過の中で過去の努力が膨大な履歴となってゴミ屋敷化して訳が分からなくなって来る。うまく行っても行かなくても、時間とともに膠着してくるのだ。役職員は誰もが自分が組織人として、全体の中で部分でしかなく情報をすべて持っていないし責任も取れないと思うようになり、様々な感覚が組織の内向きに、保守化させてしまう。過去の経緯も不明だと、誰も全体がわかる人がいない。活き活きと未来に挑戦出来ず「安定とも低迷とも言える状態」だ。

 この膠着状態をどうすれば脱却できるのだろうか?私は経験上、時間を作って15工程の内容と履歴を棚卸して状況を観察し、分析して再構築を試みることを強くお勧めする。誰かが調べてくれると人任せにすることは出来ない。どこかを誰かに任せると、その部分が起業家として重要な欠点になる。最初は体験として15全部見る感覚的体験が大事であり、勇気と根性と率先性、現場性が肝要である。新しい時代の経営者は部分最適ではなく、循環の実現責任があるのである。全体が解像度高く分かったら、あとからオペレーションを組織化することは当然だが、全体循環の経営は分業組織人には出来ないと心得るべきだ。

全体構成をもう一度見直せ


 膠着状態に陥って、自ら脱却出来ないために、社長の交代も検討する事だろう。しかし忠実な後継社長は、良くも悪くも創業者の歴史を前提に経営をすることが多く、いわゆるイエスマンに取り囲まれ、全体に目がいかないことが多い。情報が欠落していたり、ゴミ屋敷状態になっているのを嘆いてみてもしようがない。結果について誰も代わりをやってくれず、責任をとってくれないのだ。新しい環境の中で、15工程と向き合う生活に慣れよう。いずれ必ず結果が出るはずだ。

 膠着脱却に、経営改革やリストラを考えるかも知れない。また、イノベーション事業部や新規事業開発部を設け、さらにはCVCを設立してスタートアップ会社に投資して、企業集団で世の中の変化に対応する方法もあるだろう。それはそれで、組織の中で経営者の役割を疑似的にせよ実現するのは大変で、コストがかかる。

 一番いい経済社会の膠着状態脱出方法は、社会の中からスタートアップ経済が多様に、自由闊達に多数生まれてくることだ。そのためには、様々な才能を秘めた国民の中から未来に挑戦する大勢の起業家が生まれることである。またそれをバックアップするベンチャーキャピタリストが質量ともに充実することだ。貯蓄は日本経済の中に大量に滞留している。そしてその中から、生活向上に貢献する事業の立ち上げに成功した多くの企業が、一社でも多くIPOして来る社会を作ることである。そうして初めて経営者も従業員も投資家も報われる。三者は相互にWINWINで連動しているのだ。

失敗を恐れず未来を拓け!

 高齢化社会を迎えた日本では、既存の産業組織が古くなり、圧倒的に起業家によるスタートアップ活動が不足している。戦後の経済成長から大企業の安定成長期に入ったとみなされ、日本経済が膠着状態に陥っている。過去の企業の整理にはコストも時間もかかる。まさに、スタートアップ経済発展こそ、膠着状態を脱却する最短の道である。新しい時代の中で、新しい事業が成長し存在感を示さないと果実は生まず、分配もくそもない。個人個人がそれぞれ自立して、人類の生活向上目指し、失敗を恐れず未来を拓こうではないか!これからもスタートアップ経済を再点検し盛んにすることで、日本経済を明るくして行きたい。長期連載の機会を頂き有難うございました(完)。

日本テクノロジーベンチャーパートナーズ投資事業組合代表 村口和孝

■著者略歴 日本テクノロジーベンチャーパートナーズ投資事業組合代表 村口和孝《むらぐち かずたか》 1958年徳島生まれ。慶應大学経済学部卒。84年ジャフコ入社。98年独立、日本初の独立個人投資事業有限責任投資事業組合設立。06年ふるさと納税提唱。07年慶應ビジネススクール非常勤講師。19年松田修一賞受賞。社会貢献活動で、青少年起業体験プログラムを、品川女子学院、JPX等で開催。投資先にDeNA、PTP、IPS、グラフ、電脳交通、APTO等がある。

(企業家倶楽部2021年11月号掲載)

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