MAGAZINE マガジン

【オフィス訪問】ブロードバンドタワー会長兼社長CEO 藤原 洋

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

【オフィス訪問】 5Gを取り入れたオフィス空間

【オフィス訪問】 5Gを取り入れたオフィス空間

インターネット黎明期からデータセンター事業を展開し、ネットインフラのパイオニア的存在として知られるブロードバンドタワー。今回は、2017 年12月より日比谷パークフロントにオフィスを移転した同社の藤原洋会長兼社長に、理想的なオフィス空間やネットインフラの未来について、現在注力する5Gの観点から語ってもらった。


全社員で考えた5Gコンセプト

問 日比谷公園が一望できる素晴らしい眺めですね。なぜ日比谷パークフロントを移転先に選んだのですか。

藤原 このビル全体のコンセプトが「グリーン」であることが決め手です。現在はESG(環境・社会・ガバナンス)やSDGs(持続可能な開発目標)といった地球環境保護の観点に立った企業経営が世界的なトレンドとなっていますが、私たちもそうした考え方に共感しており、このビルが最適と考えました。

問 オフィスのコンセプトを一言で表すと何でしょう。

藤原 5Gです。5Gは情報通信インフラのモバイルシステム第5世代として知られていますが、それに掛けて、理想の働き方として5つのGを考えました。具体的には「Grow(成長する)、Glad(喜んで)、Gettogether(集まって)、Global(地球規模で)、Glorious(栄光ある)」仕事をしようとの想いが込められています。

問 インターネットインフラを支える御社の事業内容に連動したコンセプトですね。世の中にも5Gが広まりつつあり、時代に適合しています。

藤原 ただ単に新しい場所へと移転するのではなく、コンセプトがしっかりしていることが重要です。

問 こちらのコンセプトは藤原社長が考えられたのですか。

藤原 社員全員です。実は、この移転プロジェクトは社員が主体となって進められてきたのです。「チェンジチャンピオン」という事実上のリーダーを選び、彼らが経営トップと社員を繋ぐ重要な役を担いました。

問 そのリーダーを中心に、皆さんで意見を出し合いながらプロジェクトが進められたということですね。

藤原 はい。まず1年半かけて仕事場に関する調査を行いました。その後、全社集会で移転の趣旨や5Gコンセプトなどを社員に浸透させ、あとは社員が自分たちのスペースを自分たちで作り上げた。ですから、私自身完成したオフィスを初めて見た時、「これは凄い」と驚きましたね。

問 社員全員の想いが詰まったオフィスなのですね。なぜ社員参加型のオフィス作りをされたのですか。

藤原 私はオフィスをコストではなく経営資源だと捉えています。したがって、1日の大半を過ごす空間であるオフィスが楽しくなかったり、充実していなかったりすると、人生そのものがつまらなくなってしまうかもしれない。オフィスとは経営陣が勝手に決めれば良いというものではありません。社員全員が楽しいと思える空間とするためにも、このようなやり方を取りました。

社員が主役のオフィス

問 フリーアドレスにした理由も、社員を1番に考えた結果でしょう。

藤原 その通りです。席数を減らした昔ながらのフリーアドレスではなく、少しプラスアルファで席を設け、後々余計なお金がかからないようになっています。現時点では、社員が100人増えても大丈夫です。それだけでなく、偶然隣に座った人と対話をすることでコミュニケーションが生まれ、クリエイティブな活動ができる。そんな自発性を重視するオフィス空間を作りたかったのです。

問 とてもすっきりしていて開かれた環境ですね。新しいオフィスになって変化はありましたか。

藤原 移転してから約1年が経ちましたが、私が思った以上の成果が上がっていますね。フリーアドレスにするだけでなく、2つの改革によってさらに効率的な空間活用が実現しました。

 1つ目は、使用した紙を貯め込まないようにするペーパーストックレス化。実は、新オフィスにはごみ箱をほとんど設置しておらず、3カ所にまとめています。それにより社員のペーパーストックレス化の意識も高まり、結果として3分の2以上のストックが削減されました。

 2つ目はICT化です。例えば、固定電話は一切置かず、全社員にiPhoneを貸与。ビデオ会議やチャットツールを活用して情報を共有しています。移転後、社員に行ったアンケートでは70%近い満足度を達成していますし、65%の社員が「生産性が上がった」と感じています。

問 社員の意識が変わり、モチベーションも上がったということですね。

藤原 移転がゴールではなく、その先の働き方を考えようということで、様々なワーキンググループを作りました。ユニークなのが「宴」というワーキンググループで、彼らが新たなオフィス空間を利用した多種のイベントを企画し、開催するようになりました。

 秋にはファミリーフレンズデーというハロウィンパーティをオフィス内で開催。社員のご家族やお子さん、内定者とそのご両親を招待して交流を深めました。非常に好評で、多くの方に喜んでいただきました。

問 社員同士の親睦を深められるだけでなく、ご家族も安心できますね。様々なイベントを企画する機会も増え、まさに社員の方が楽しめるオフィスを実現されています。

協調を演出する空間

問 特に藤原社長が気に入られている場所はありますか。

藤原 全部自慢の場所ですが、強いて言えばイベントスペースですね。そこで記者会見やセミナーを自由に開くことができますし、希望する社員が自主的に運営するカフェもあります。ここはコミュニケーションの場として役立っています。

問 イベントスペースは様々な活用ができそうです。

藤原 以前のオフィスにはこのようなスペースが無かったので、社内だけでなく他企業との新たな連携を創出する場になっています。今まで競争し合っていた人が協調し合うような空間を演出できれば良いと思っています。

問 日本のネットワークを支える御社に呼応するようなオフィスです。

藤原 弊社のデータセンターにはNTT、ソフトバンク、KDDIのインターネットエクスチェンジが全て集結しています。ライバルである各社の中間に立って、一緒に業界を盛り上げていこうという協調姿勢を、このオフィスにおいても表しているのです。

問 場の力というのは大きいですね。オフィスのデザインにも何かこだわりはありますか。

藤原 新オフィスは「カフェトンネル」や「オフィストンネル」といったように、各ゾーンを一直線に見通せるトンネルをイメージして設計しました。このように未来への繋がりを意識した空間デザインを随所に施しています。イベントスペースの照明も、ネットワークの「自律・分散・協調」を表したデザインになっています。

世界を牽引する5G大国へ

問 インターネットインフラのように空間も繋がりが重要なのですね。藤原社長はいち早く5Gに注目されておりましたが、ようやく世の中でも5Gへの認識が広がり始めました。今後の5Gと日本の関わり方について、どのような期待を寄せていますか。

藤原 2020年には、日本は世界で最も通信環境の整備された5G環境を提供できるのではないでしょうか。同年に開催される東京五輪を世界に向けたショールームとするため、日本の5G整備はどんどん進んでいます。

問 具体的に東京五輪と5Gとの関係について教えて下さい。

藤原 5Gには超高速、超低遅延、超多地点接続という特徴があり、これらは4Gと比べて約100倍のスペックを持っています。したがって、5Gが整備されていれば、東京五輪の際、国立競技場にいる大勢の人々が同時にインターネットにアクセスしても全く障害が起こらないという見せ場になるわけです。

 実は、平昌五輪でも5Gの一部はすでに垣間見られました。スポンサーのインテルが5Gで制御した4500台のドローン部隊を作り、開会式で五輪の輪を作ったのです。他にも、競技会場内に100個のカメラを配備し、希望者に好きな位置から競技が見られる端末を配りました。東京五輪では、こうした施策がさらに進化を遂げた状態で取り入れられるでしょう。私たちはこれからも5Gのデータセンターとして、最前線でインターネットインフラを支えていきたいと思います。
 

■本社 東京都千代田区内幸町2-1-6 日比谷パークフロント9F

Profile 藤原 洋(ふじわら・ひろし)

1954年生まれ。77 年、京都大学理学部(宇宙物理学科専攻)卒業。日本IBM、日立エンジニアリングを経て85 年、アスキー入社。96年、インターネット総合研究所(IRI)を設立、代表取締役所長に就任。99 年、東証マザーズに上場。2000年、第2回企業家賞を受賞。05 年6月に子会社のIRIユビテック、8月にブロードバンドタワーをヘラクレスに上場させる。2018年IRIをイスラエル・テルアビブ証券取引所に上場。

(企業家倶楽部2019年1・2月合併号掲載)

一覧を見る