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ギャプライズ 代表取締役CEO 甲斐亮之

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

人の人生が大きく変わる瞬間に立ち会っていきたい

人々のライフスタイル自体がネットを経由した形態に移行し、デジタル化が進んでいる。かつては調べ物をする際には書籍を読んだり、博識な友人に尋ねたりしたものだ。今ではネットで検索すれば世界中から情報が集められる。買い物も店舗に足を運ばなくとも、ネット通販で服から生鮮食品まで何でも自宅に届く。決済もキャッシュレス時代だ。個人のライフスタイルがデジタル化した現状に企業も対応すべくデジタルマーケティングに力を注いでいる。今やデジタルトランスフォーメーション(DX)は大企業だけではなく、中小ベンチャーも巻き込み大変革の時代を迎えている。そんな中、自らを「DX商社」と宣言するネットベンチャーに焦点を当てた。

企業のデジタル化支援

「私は運がよく、たまたま海外の進んだ面白いテクノロジーと出会えました。その『驚きと発見』から事業が拡大したので、顧客と一緒に成長し共通体験をしていきたい」とギャプライズを率いる甲斐亮之は夢を語る。

 同社は顧客企業のウェブ改善を数多く手掛け、デジタルマーケティングのノウハウを蓄積してきた。ユーザーは何か欲しいものや調べ物があるとネットで検索したり、誰かがSNS等で発言したレビューを頼りにし、最終的に企業の商品やサービスが掲載してあるページにたどり着く。そうしたユーザーが最終的にたどり着くページを「ランディングページ」という。企業はユーザーにそのページで購入するかどうかの意思決定をしてもらうことになる。つまり企業が収益を得る上で最も重要な場面であるのだ。

 商品やサービスに対して購入に足る十分な情報を提供し、興味を持ってもらい、不安を払しょくしなければそのページから離脱してしまう。かと言って、過度の期待させすぎも後のクレームになってしまう。的確な情報量と「今ならさらにお得」とそっと背中を押してあげるネット特有のノウハウがあるのだ。このランディングページの改善に特化したサービスが支持されギャプライズは群雄割拠のネット業界で勢力を拡大してきた。

 現在、社員は100名に増え、売上高は23億円を見込んでいる。今後も海外に目を広げ、最先端のテクノロジーを顧客に提供するため将来的には株式上場も視野に入れる。

なぜ売れているのか分からなかった

 会社設立は2005年とネット企業としては既に15年の歴史がある。創業当時から企業のウェブサイト制作を手掛け、さらに集客やウェブ改善とデジタルマーケティング支援を一気通貫で請け負い、「ランディングページならギャプライズ」と業界内でもある一定の評価を受ける存在であった。

「しかし、当時はなぜ売れているのか分からなかった」と意外なことを甲斐は打ち明ける。インターネット勃興期でグーグルやヤフーといったサーチエンジンに対応したSEOやウェブサイトのデザインの配置を変えて効果を測定するABテストなど、できる施策は何でも試してきたが、実際に集客数や購買数が伸びても、何が理由で売れているのか自分たちでもよく分からないというのが偽らざる思いであった。

 そこで甲斐らは売れている本当の理由を知りたいと思い、ユーザーのネット上での行動を可視化する解析ツールの開発を始めた。「売れる仕組み」には、「再現性」があるのか、そこが解明できたら差別化要因になる。開発を急いだ。

イスラエル発の最先端テクノロジー

「自分たちが開発しているサービスよりも3歩先を行っていて、正直驚きました。そこで、良いものは素直に認めてこれを日本で売ろうと決めました」

 開発を進めていた10年頃、甲斐はイスラエル発のスタートアップ企業のサービスを知り、自分たちとの技術力の差に驚きを隠せなかった。

 ウェブでの収益の生産性を高めようとユーザーの行動を可視化する新しい解析ツールを開発していたが、イスラエル発スタートアップのサービスは、マウスの動きを座標で押さえ録画して分析するもので、技術的にずば抜けており、国内にあるサービスの数段上を行くものであった。しかも、それをもう実装している。自社の開発段階と比較しても到底追い付けるものでもなかった。

「イスラエルは国の成り立ちから言って、周りを敵国に囲まれ、人やモノの移動に制限があります。内需が小さいので外貨を効率よく稼ぐ必要があり、そこで金融やダイヤモンドといった場所を取らず小さくて価値のあるもののビジネスが発達した歴史があります」と地政学的な特異性がイスラエルの強みとなっていると甲斐は説明する。

「もっとも効率的なものが、無形資産の『技術力』で、外交問題が宗教に関わることなのでいつ解決するか先が見えず、生き残りをかけてこの『技術』を磨き続ける宿命がある。だから、彼らは常にハングリーでテクノロジーが発達する土壌がある」

日本人とイスラエル人の違い

 海外の最先端テクノロジーとの出会いからイスラエルとの縁が出来た。自社での開発を潔く止め、ネットビジネスの進んだ北米での実績もあるサービスを日本国内で代理販売することを選択した。提携して分かったことがある。イスラエルのビジネスマンは、対立・議論を好み、感情を表現することを是とするのだ。ミーティングの席では、お互いの意見を激しくぶつけ合わさなければ良いサービスは作れないと考えている。一方の日本人は対立を避け、感情はあまり出さないのが一般的だ。

「イスラエル人と日本人の文化は真逆と言っていいほど違いがあります。しかし、議論が終わればケロッとしている。意思決定のスピード感が違います。私はその方がビジネスは楽しいと感じており、イスラエル方式を採用してから、会社の生産性は上がっています」と甲斐はイスラエル企業とのアライアンスの効果について語る。

企業は成長する

「場」である 甲斐は幼少年期を宮崎県で過ごした。早稲田大学進学とともに東京へ出てきたが模範的な学生ではなかったという。卒業後の進路として、ネットベンチャー業界にいる友人から一緒に起業しようと誘われたが、経験値の差があり気後れして断った。

「3年ほど外で営業力を身に付けて、彼らと対等に仕事が出来るようになってからジョインしたいと考えていた」と甲斐は言う。就職活動もそこそこに一旦は証券会社に入社したが、お客の利益は関係なく、取引手数料を頂くことに違和感を覚え、敢え無く数カ月で辞表を提出した。

「ダメだった」と素直に友人に打ち明けると、再度一緒に事業をしようと温かく受け入れてくれた。いくらかの経験があるといっても皆20代の若者であった。顧客の御用聞きとしてホームページ制作から集客改善と何でもやった。

「地方から都会にでてきて多くの人との出会いや縁に恵まれました。一人では何も出来ないと気付くこともできたのも、友人たちとの起業経験があったからです。何もないところから仲間たちと何かを作り出すのが楽しかった。会社は社員が成長できる『場』なので、多くの人にチャンスを掴んでもらいたい」と甲斐は仕事観について語る。

「経営者として、人の人生が大きく変わる瞬間に立ち会っていきたい。人生を振り返った時に、ギャプライズに居たからこそ、成長できたなと思える環境作りをしていきたい」と今後の夢について語った。

 自社開発でなくとも良いものは素直に認め、顧客のためになり、ウェブサイトの価値を高め、ひいては社会のためになることに貢献したいと甲斐は言う。今後も世界に目を向け、最先端のテクノロジーを日本国内に広める「DX商社」としてギャプライズの快進撃は続く。


会社概要 株式会社 ギャプライズ 所在地:東京都新宿区西新宿2-4-1 新宿NSビル6階 設 立:2005年1月27日 資本金:2000万円 代表者:代表取締役CEO 甲斐亮之 従業員数:105名(役員・アルバイト社員を含む)2019年9月30日現在

(企業家倶楽部2020年12月号掲載)

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