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編集長インタビュー FSX社長 藤波克之

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

ファミリービジネスとベンチャーの融合 前編

「温和で誠実な人柄」と経営者仲間や社員からは慕われ、年上の諸先輩からは「謙虚さが滲み出ていて応援したくなる好人物」と評価される藤波克之社長。その長身で爽やかな風貌から「おしぼり王子」と呼ばれる。「伝統と革新」をバランスよく融合し、人との「ご縁」を推進力に持続的成長に挑戦する稀代の企業家の世界観に迫る。(聞き手は本誌編集長 徳永健一)

コロナ禍で気付いたこと

問 2020年は新型コロナウイルスの世界的パンデミックが起こり、4月には緊急事態宣言が政府によって出され、経済活動も制限されました。特に外食産業への影響が心配されています。FSXの主力事業も飲食店向けのレンタルおしぼりですが、コロナ問題はどのように受け止めていますか。

藤波 はい、正直に一瞬ですがヒヤッとしました。レンタルおしぼりの需要が下がり4割減という数字が出ていました。飲食店の基盤が揺らぎつつあり、最大の危機でした。しかし、すぐに「持ちこたえられる。コロナは乗り越えられる」と思いました。それは、抗ウイルスのVB(ウイルスブロック)への問い合わせがコロナ前から増えていましたが、コロナ対策として注目され、さらに追い風となっていると感じたからです。

問 抗ウイルス商品のVBを先駆けて開発していたことが大きかったですね。もう少し、詳しく対応策について聞かせてください。

藤波 弊社は西東京の国立市に工場拠点があり、顧客層は都心の飲食店向けである「都市型」と地元である多摩地区を中心とした「市街地型」に分類できます。緊急事態宣言でそのことが鮮明になりました。都心のオフィスは大企業をはじめ在宅勤務になり、都内の居酒屋向けに出しているおしぼりが目に見えるように減りました。これはピンチでしたが、配送担当者に話を聞くと、「地元の西東京エリアは、比較的にまだ動いています」と報告がありました。

 これまで「都市型」と「市街地型」といった区別はしていなかったのですが、今回のコロナにより商圏によってエリア毎の傾向や違いがあるのだと知りました。

 そこに9月末から「リゾート型」が加わることになりました。同業の富士北麓地域でおしぼりサービスをしている会社の経営権を取得しました。このエリアは富士山や富士五湖など多くの世界文化遺産があり、歴史や文化、自然、レジャー施設など、豊富な観光資源を抱えています。日本の観光地のシンボルとして、今後更なる成長が期待されるこのリゾートエリアが商圏に加わることは、世界中からこの地を訪れるお客様に「おしぼり文化」を体験してもらえる、またとない機会となります。

問 レンタルおしぼりのマーケットには、エリアごとの特色があるのは興味深いですね。外的環境によって受ける影響にも違いがあり、お互いを補完したり、リスク分散にもなるのではないですか。

藤波 河口湖をはじめ富士五湖周辺は、別荘や宿泊施設も多くあります。最近流行りの高級アウトドア「グランピング」や温泉施設も充実しています。都心がピリピリと緊張した雰囲気の中、リゾートエリアはコロナ禍でも海外からのインバウンド客は減りましたが、普段通りでした。まだ海外渡航などに制限がある中、東京近郊のリゾート地は見直され、注目度も上がってきています。このマーケットは肥沃だと思い、進出を決めました。

 富士五湖エリアのマーケットを取り込めたことも大変期待していますが、売上げよりも今までの「都市型」と「市街地型」に加え、「リゾート型」という基盤が出来たことが大きいです。3つのタイプのマーケティングが可能になります。今回の買収には工場も含まれるので、「リスク分散」にもなるでしょう。

 都心から車で1時間強ですので、最近政府が推奨しているワーク(仕事)とバケーション(休暇)を掛け合わせた「ワーケーション」にも最適な場所だと思います。私も3月下旬に保養施設に籠って本を読んだり、事業戦略を考えていたのですが、桜が咲いている中、降雪があり、それは幻想的でした。

(後編に続く)

profile 藤波克之(ふじなみ・かつゆき)
法政大学卒業後、NTTグループ勤務を経て2004年に前身である藤波タオルサービス(2016年11月現社名へ変更)へ入社。2009年 代表取締役専務に就任。2013年9月より現職。

(企業家倶楽部2020年12月号掲載)

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