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編集長インタビュー FSX社長 藤波克之

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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ファミリービジネスとベンチャーの融合 後編

ファミリービジネスとベンチャーの融合 後編

(企業家倶楽部2020年12月号掲載)

ファミリービジネスとベンチャー融合

問 藤波社長は家業である「レンタルおしぼり業」に重点を置きながら、アロマや抗ウイルスなどの機能面で付加価値をプラスしています。新規事業に掛ける「時間」や「コスト」も相当な先行投資になると思いますが、新しい挑戦をし続ける理由は何でしょうか。

藤波 100年経営研究機構の代表をされている後藤俊夫先生との出会いは大きいと思います。経営者としての視野を広げてくれた恩師です。家業を継ぐなら会っておいた方がいい人がいると友人が後藤先生を紹介してくれました。

 後藤先生は長寿企業を研究されています。世界的なファミリー企業の団体があり、「学会で発表するから一緒に行かないか」と誘われ、05年にベルギーサミットに同行させてもらいました。メルセデスベンツやフェラーリ、ラグジュアリーブランドなど欧米にもファミリー企業は多くあり、成功している企業も多い。世界のファミリー企業が活躍する事実を知り、視野が広がりました。

問 家業を継ぐというと世襲、同族経営とネガティブなイメージもあるのは事実ですね。しかし、トヨタをはじめ日本にもファミリー企業で成功しているケースは実に多くあります。オーナーシップがあることは組織としては強みでもあると思いますが、藤波社長はどのように感じていますか。

藤波 後藤先生を通して、多くのファミリービジネスの事例を知ることで「ブレない長期視点」が強みだと感じました。コロナ禍においても長寿企業の方がダメージが少ないというデータが出ていると聞きました。

 しかし、ここで注意しないといけないことがあります。同族というマイナスのイメージもあります。「長期視点を持ちながら、甘えてはいけない」ということです。結果的に「伝統と革新」にたどり着きます。

 組織は革新し続けないといけないということです。ファミリー企業にも株式上場をしている会社があります。成長性があるか、株主の視点も重要視しなければなりません。

問 ファミリー企業として、何か差し迫る「危機感」があったのですか。一般論として、経営も安定していて、すぐに倒産するようなことがなければ、リスクを取って新しいことに挑戦することはないと考える人が多いと思います。代々続いている会社の経営者は品があり、ガツガツしていませんよね。そこに事業家としての物足りなさを感じたのでしょうか。

藤波 全員ではありませんが、2代目、3代目経営者の中には、高級車を自慢したり、付き合いで夜に飲みに行くのが仕事だというような社長もいます。しかし、私はその空気に馴染めませんでした。サラリーマンを辞めて家業を継ぐためにこの世界に飛び込んできました。気付かないうちにじり貧になっていく、言葉を選ばすにいうと「茹でガエル」になりたくないと、居心地が良くなかったのです。ハイリスクでも挑戦して這い上がっていくような気概がないと組織はすぐに衰退してしまうと考えています。

問 家族経営には何が足りないと感じたのですか。

藤波 「反骨心」です。衰退することなく、持続可能な成長ができる経営とはどういうものだろうかと考えると、「革新性」が必要だと。リスクを取ってビジネスをする気概が足りないのだと思いました。

 ファーストリテイリング柳井正会長やジンズ田中仁社長、GMOインターネット熊谷正寿代表といった活躍されている経営者の話を直接聞き、「これが企業家か!」と衝撃を受けました。

 私が2代目経営者であることは紛れもない事実です。そこで、ファミリービジネスのブレない「長期視点」という強みとベンチャー企業の「革新性」を掛け合わせた組織を目標としています。

全社視点で経営する

問 これまでに印象に残っていること、経営をするうえで教訓になっている出来事はありますか。

藤波 私が一つのプロジェクトに集中し過ぎて、他の問題が起こっているのに気付くのが遅れて、経営の危機に陥った経験があります。新商品を開発したのですが、なかなか計画通りには売れず、経営不調の理由をそのプロジェクトだと決めつけて、躍起になって解決しようと時間と意識を割いていました。

 組織全体に目が行き届かなくなっていたのです。本当は物流コストや製造原価が高騰していたにも関わらず、判断が遅れてしまいました。日々、様々な部署で問題が発生しているのですが、そのことに気付かないことの方が問題を複雑化させてしまいます。

 この失敗経験から、経営者は「全社視点」が重要なことを学びました。企業は人がすべてです。社員が笑顔で仕事をしているか、俯瞰で組織を見渡す視点がいるのだと知りました。教訓になっています。

問 今後、FSXをどのような会社にしていきたいと考えていますか。藤波社長の夢と求める人材について聞かせてください。

藤波 FSXは、「日本文化のおしぼりを新しいテクノロジーとデザインを掛け合わせて、おしぼり産業を再発明する会社」になりたいと思います。

 先日も知人の経営者との会話で、「藤波さんは、男性用ボディーシートは出さないの?」という話がありました。大手メーカーが清涼感のあるウェットティッシュを出していて売れていることも知っていますが、FSXが手掛けるものではないと考えています。FSXはおしぼりの本質を追求し、客人へのおもてなしの心を大切にするというコンセプトです。抗ウイルスの機能を持ったウェットティッシュを発売する会社にVBを技術提供することはあるでしょう。売れているからではなく、「おもてなしの心」に根差したサービスにこだわっていきます。

 数年かけて人事評価も含めて、このビジョンを実現する体制にしてきました。採用面でも、やっぱり「おしぼり」が好きな人に来て欲しいですね。

profile 藤波克之(ふじなみ・かつゆき)
法政大学卒業後、NTTグループ勤務を経て2004年に前身である藤波タオルサービス(2016年11月現社名へ変更)へ入社。2009年 代表取締役専務に就任。2013年9月より現職。


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