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【注目企業】ギークス 代表取締役社長 曽根原稔人

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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挑戦者をあらゆる面から支援する

挑戦者をあらゆる面から支援する

(企業家倶楽部2017年10月号掲載)
(文中敬称略)

 
 スマートフォン向けゲーム「カクテル王子」。プレイヤーがバーのマスターとなり、イケメン店員たちとバーを経営していく。実在する「カクテル」を多種多様なイケメンに擬人化した個性的なキャラクターにより、リリース前から話題を集めていた。この開発を行っているのが、東京・渋谷に本拠を構えるギークスだ。
 
浮き沈みの激しいゲーム業界にありながら、手がけるゲームが次々とヒットしている要因は何なのだろうか。鍵を握るのは、ゲーム内でキャラクターの声を担当する声優陣である。
 
実は彼ら、ツイッターで何十万人というフォロワーを誇る業界の有名人ばかり。そのため、出演するゲームの情報を彼らが発信すると一気に拡散し、リリース前からある程度ファンが付く。さらに魅力あるキャラクター作りや、ゲームに持たせる物語性など、ユーザーが世界観に浸りやすいよう工夫を凝らすことで、ユーザー獲得に繋げている。
 
5年程前、社会現象にもなった「パズル&ドラゴンズ(通称パズドラ)」の大流行を契機に、スマホゲームが一気に普及。特に、女性のゲームユーザーが急増した。それまで、スマホゲームと言えばユーザーの大部分は男性。それを象徴するかのように、ゲーム内のキャラクターは女性ばかりだった。

しかし社長の曽根原稔人は、そんな中でも少しずつイケメン男子を押し出した女性向けのゲームが登場してきたことに着目。ターゲットを女性に絞り、ゲームとしての面白さも追求した結果、リズムゲームに辿り着いた。「実は、僕自身はゲームをあまりやらない」と明かすが、その戦略眼は確かだ。

フリーエンジニアに特化した人材紹介

 では、ギークスは純粋なゲーム制作会社かと言うと、そうではない。同社においてゲーム事業と共に売上げを折半するもう一つの柱が、IT人材事業である。IT系のエンジニアと、彼らのように技術力を持った人材を必要とする企業をマッチングするのがこのビジネス。現在、取引企業数は3000社に上る。個人事業主として働くフリーランスのエンジニアに特化して紹介しているのが特徴で、登録者数1万2000人を誇る。

 IT業界全体を見渡すと、退職金制度を持っている企業は少なく、結果として雇用が流動化しているのが現状だ。手に職を持っているエンジニアは特に、様々な仕事に携わりたいという欲求も強く、転職することが多い。普通は仕事に就けないかもしれないという怖さがあるが、今やITエンジニア不足が騒がれているため、フリーでも十分に食べていける。その彼らを組織・支援しているのがギークスだ。

 同社が紹介するのは、主にクライアント企業に常駐するタイプの仕事だ。そのため、エンジニアには一度ギークスのオフィスまで来てもらい、しっかり打ち合わせを行う。使えるプログラミング言語の種類、これまでに関わったプロジェクトの内容と役割などをヒアリングし、データベースに登録。実際に案件の話が来れば、エンジニア、クライアント企業、ギークスの担当者で再び綿密に話し合い、出来る限りミスマッチが無いように心がけている。クライアント側も安心して仕事を発注できることは想像に難くない。

あえて茨の道に進む

 曽根原は元々、2001年に共同でウェブドゥジャパン(現クルーズ)を立ち上げた。この会社もIT人材事業から始まったが、成長エンジンとなったのは、当時主流であったガラケーのモバイルコンテンツや、モバイル広告の事業であった。
 
 同社は07年2月、大証ヘラクレス(現東証ジャスダック)に上場。当時、モバイル事業と人材事業は売上げが半々であったが、ブランディングを分けた方がそれぞれの事業を伸ばしやすいとの経営判断から、同年8月には人材事業を分社化した。本体の100%子会社とし、曽根原がこちらの社長も兼務することに。これが、後のギークスである。

 そんな中、親会社のウェブドゥジャパンでは完全にモバイルコンテンツ事業に集中するという決断が下り、人材事業は売却する運びとなった。しかし、折しも時はリーマンショックの真っ只中。当然、買い手は付きづらい状況だ。茨の道とは分かりつつ、最終的には「僕が買い取るよ」と曽根原が名乗りを上げた。こうして、彼は親会社の代表を下り、子会社を個人で買い取って、新たな航海に乗り出した。

クライアントを総入れ替え
 
 ただ、リーマンショックによる打撃は予想以上であった。主要取引先である、メーカーや銀行を相手としたB2Bのシステム会社は軒並み業績悪化。企業には人が余っていて、フリーのエンジニアに発注する仕事など無い。むしろ、「うちの社員をどうにかしたい」と相談される始末だ。売上げは半減し、初の赤字を計上。まさに万事休すである。
 そうした中、世間に目を向けると、スマートフォンが徐々に普及しつつあった。不景気ながら、消費者はゲームに興じているし、SNS時代も到来。Eコマースの分野も伸びていた。B2C領域のIT企業は、さほどリーマンショックの影響を受けていなかったのである。

 「営業先をB2C企業に変えよう」
 
 そう決断した曽根原は、クライアントを90%入れ替えた。結果、業績はV字回復。当時はとにかく必死で、答えなど無い状況だったが、インターネット産業自体が景気に関係無く伸びていくのは確実であった。
 
 危機を脱し始めた頃には、曽根原は次の事業を見据えていた。「リーマンショックを経験したことで、一つの領域だけに特化することのリスクが身に染みました。様々な事業を軸として育てるようになったのはここからです」
 
 エンジニアを紹介するだけではなく、自社でも彼らと一緒に何か作れないかと考えた曽根原。そうして行き着いた先が、B2Cのゲーム事業だった。

挑戦こそ生き残るための条件
 
 現在も、曽根原は新事業への意欲に満ち溢れ、「生き残るためには、新しいことに挑戦して事業化せねばならない」と豪語する。例えば、映像の制作部隊を持ち、VR研究に挑戦中。また、ゴルフメディア「グリッジ」は若い層から注目されており、フェイスブックの「いいね」数は10万に上る。「挑戦したいと思った時に挑戦できる組織体制を作る」ことが現在の目標。「もう一度この会社を上場させたい」と意気込む。そんな曽根原の夢は、新しい企業家や事業に投資していくことだ。

「弊社には、アイデアを持っていて起業したいという人に対して、様々な投資をできる環境が揃っている。それはお金だけではなく、人材、場所、組織構築に及びます」
 
 確かに、ギークスはフリーランスのエンジニアを組織しているため、人材面では心強い味方となるだろう。場所に関しても、既に「21カフェ」という無料スペースを貸し出しており、エンジニアのイベントや勉強会が行われている。組織構築ノウハウに関しては、曽根原が自らアドバイザーを買って出る気満々だ。

「ギークスのオフィスを訪れると起業に際して色々と助けてもらえる、という状態を作りたい」
 
 日本は世界的に見ても起業数の少ない国だ。若い世代が新しい事業にどんどん挑まねばならない。その一助となるべく、あらゆる方面から支援しようと志す曽根原の下には、多くの企業家が集うことだろう。

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