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【私のターニングポイント】アイハーツ代表 野田憲史

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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釣り竿戦略で金脈を掘り当てる

釣り竿戦略で金脈を掘り当てる

(企業家倶楽部2017年4月号掲載)

「何かがおかしい」

 業績は右肩上がり、主力事業は好調の最中、私はこんなことは長くは続かないと一人胸騒ぎがしていました。予感は的中、2015年には主力事業が落ち込み売上げが半減、利益も赤字に転落しました。

 完全に潮目が変わったのは、安部首相の一言により15年にスマホ料金値下げの動きが本格化してからです。しかし私は、その1年前から違和感を感じていました。市場自体は伸びているにも関わらず、大手キャリアが店舗で販促事業を行う子会社を手放したからです。確かにキャリアの広告費は莫大でしたし、業界全体で行き過ぎていたと思います。

 よって現場には別事業の新規開拓を進めてもらい、会社としても15年に5つの新規事業を起ち上げました。それが新卒紹介事業とシニアエリートの人材紹介事業、空きスペースのシェアリング事業、2つのメディア事業です。

 ネット上で企業や団体などに空きスペースを貸し出す「halooSPACE(ハロースペース)」は、1年前と比べて売上げベースで約5倍に成長しています。他社と違う点は、会議室だけでなく空きスペースならどこでも扱う点です。さらに、利用客層の提案も一緒に行います。例えば主婦の方々の集まりでは小さな子どもが奔放な行動をとることもありますが、そうした方々にも門戸を広げるメリットをオーナーに伝えるのです。

 またメディア事業で期待しているのが、コスプレ写真を自分で投稿できるSNSアプリ「コスらぼっ!」です。一度は事業化を却下したのですが、改めて出された現場社員からの提案書の熱量と数字を見て面白いと思いました。蓋を開けてみると、プロモーションを全く行わずに1年で3万ダウンロードを達成。どんな写真でも投稿できるインスタグラムなどと違い、コスプレに特化したのが功を奏しました。共通の好みを持った人が来る場所だから、ユーザーは安心して集まれるのです。写真を投稿するコスプレイヤーは、自費でカメラマンとスタジオを用意して撮影するほど熱量が凄まじい。今後の目標は100万ダウンロードですが、まずは10万ダウンロードを目指したいですね。

 5つの事業立ち上げは、釣り竿戦略だと言っています。釣り糸を垂らしてみないと分からない。机上の空論より、「ユーザーに問え」です。シェアリング事業、人材事業共に順調に利益を上げており、収益を支える柱となりました。もちろん全ての事業がうまくいくとは限らないので、失敗の原因は追求します。「コスらぼっ!」はサーバーを変えて表示速度を上げるとアクセス数が10倍に、多言語対応にしたところ更に10倍に伸びました。歩みを止めないことで、量が質に変わるのです。今期は会社の利益も黒字化した上に収益構造も変わったので、以前より多くの利益が見込めると期待しています。

 何より思う事は、売上げが半減する前に新規事業を投入し、そこに社員が付いてきてくれたことが本当に大きかった。僕は創業メンバーに全幅の信頼を寄せています。だからこそ、困ったときは、なりふり構わず「助けてくれ」と彼らに言います。僕の目標は「皆社長になれ」。各事業のリーダーには好きなようにやっていいと任せています。

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