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【私のターニングポイント】TMAC社長 古川英一

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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資金調達としてのM&Aを日本に根付かせたい

資金調達としてのM&Aを日本に根付かせたい

(企業家倶楽部2019年4月号掲載)

 TMAC(ティーマック)は独立系のM&Aコンサルティング会社です。1999年に設立し、今年で20周年になります。私のターニングポイントと言えば、まさに現相談役の新田喜男と東京企業情報(現TMAC)を創業したことですね。

 私は大学卒業後、野村證券に入社し、IPOやM&Aなどの投資銀行業務に11年間携わりました。実のところ、当初は3年で起業するつもりでした。親戚は皆自営業で、実家もアパレル会社を経営しており、企業家志向が強かったのです。しかし、どの分野で起業したら良いのか分からない。ならば多くの会社を見ることができ、かつ厳しく鍛えてもらえるとの定評があった野村證券に行くことに決めました。働き始めると仕事が面白く、あっという間に11年。「これ以上この会社にいたら、サラリーマン人生を全うするしかなくなってしまう」と感じ、周囲の反対を押し切って、98年34歳の時に退職しました。

 どんな業種でも成功者と失敗者はいるもの。したがって、「企業は事業内容ではなく経営者次第」というのが、会社勤めで得た結論でした。家業を継ぐことを決めると、業界を一から学ぶため、中堅アパレルメーカーまで丁稚奉公に出ます。当時は山一證券、長期信用銀行などが経営破綻し、デフレが顕在化した頃で、百貨店を回っても洋服が急速に売れなくなっていきました。実家も含め、アパレル業界は尋常でないほど業績が悪化し、泥舟が沈んでいくように感じたものです。段々不安になっていきましたが、古巣に戻るわけにもいきません。

 そんな折、野村證券時代の上司であった新田から「定年退職後に起業するから、一緒にやらないか」と誘われたのです。金融事業には資本力が不可欠ですから、最初はとんでもないと思いましたが、日本の株式市場が発展していくためには「どの金融機関にも属さないM&A専業会社が必要になる」と参画を決意しました。

 日本で企業売却と言うと、「万策尽きた時の最後の手段」といったネガティブなイメージがありますが、私たちは「資金の調達・流通」という本来的な意味でのM&Aを日本社会に根付かせたいという使命感で事業を開始。M&A領域で経営者に信頼される企業となるべく、努力してきました。

 現在、M&Aビジネスは日本的に形を変え、高齢に伴う事業継承のツールとしてM&Aマッチングサービスが盛んです。ただ、私たちはM&Aの本質を「経営資源の再配置」と捉えています。不採算部門や会社自体が、時代の変化や経年によって劣化する場合もあり、現状でパフォーマンスを発揮できないのならば、その価値を求める企業に買ってもらった方が良いのです。そして売り手となった企業は、売却資金でより高収益なビジネスを作っていけば良い。

 また、0から1を生み出す起業は得意でも、1から10、100と会社を大きくするのが不得手な経営者の場合、それが得意な経営者に任せれば良いのではないでしょうか。アメリカでは最初から会社を売る目的で起業する事例も多く、投資を回収するための場としてM&A市場が発達しています。そして会社を売却した経営者は、それを再投資していく。活発に売買できるマーケットがあれば、企業家はよりリスクを取れるのです。

 昨今、日本企業による海外企業の買収案件が増えています。18年には私たちも米国カリフォルニア州アーバインにオフィスを開設し、生え抜きの社員を派遣。同業他社で現地に社員を派遣しているところは少ないのですが、「M&Aは接触性が無ければできないビジネス」という私のポリシーを貫きつつ、アメリカ進出を果たしました。

 創業時の「M&Aを通じて経済社会に貢献する」という志を実現すべく、日米の国境を越えた案件でもお客様に頼られる存在となっていき、さらに20年の実績を活かして、次のサービスに繋げられればと思います。

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