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【テックリポート】Re-al 社長 新明修平

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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居ながらにして釣りを楽しむ遠隔釣りロボットを開発

居ながらにして釣りを楽しむ遠隔釣りロボットを開発

Real社長 新明脩平氏

(企業家倶楽部2021年9月号掲載)

「24時間、何時でも居ながらにして釣りを楽しむことができる!」そんな夢のような話が現実になってきた。開発したのはReal社長の新明脩平氏である。遠隔地に触覚を伝えるという画期的な技術を開発した慶應義塾大学との共同研究の下、独自に遠隔釣りロボットの開発を進めてきた。この遠隔釣りロボット事業化支援に名乗りを上げたのがクリーク&リバー社である。新明社長とクリーク&リバー社の松永雄氏に、事業化の狙いと今後の可能性について伺った。

触れた感覚が遠隔地に伝わる

問 新明社長、そもそもこれはどんな技術なのですか。

新明 わかりやすく言うと、力を遠隔地に伝える技術です。人間の五感である「視覚」、「聴覚」、「触覚」、「味覚」、「嗅覚」のうち、「視覚」と「聴覚」を遠隔地に伝える技術は開発済で、テレビなどで映像や音声を楽しむことができます。今回は、触れた感覚「触覚」を遠隔地に伝えることができるようになったということです。

問 ついにそこまで来たかという人類待望の技術開発ですね。

新明 ニーズは70年前からありました。慶應義塾大学ハプティクス研究センターの大西公平教授を中心に、世界で初めて開発に成功しました。私もその中で一緒にやっておりました。この技術を使ってさまざま企業と連携、事業開発が進んでいますが、これを釣りに応用し遠隔釣りロボットを開発したいと2018年に起業しました。

問 釣りに応用とは面白いアイデアですが、なぜ釣りだったのですか。

新明 手元の感覚を楽しく伝えるには「釣り」が一番だと思いました。魚が釣れたときのあの感覚、力触覚を伝えるには釣りが一番です。エンターテインメント性もありますしね。

問 今、世間でも釣りが流行っていますので、いい決断ですね。

新明 海や渓谷に「釣り行く」には、オカネも時間もかかりますし、ある意味敷居の高いレジャーです。遠隔釣りロボットならその場所に行かなくても釣りを楽しむことができる。事業化には面白いと思いました。

新宿の「釣船茶屋 ざうお」とつないで実験

5G の時代だからこそ実現

問 この技術を実現するうえでの難しさはどんなところですか。

新明 一番の難点は通信の速さでした。触った瞬間に感覚が返ってこないとダメなので、通信の速さが一番です。

問 そういう意味では5Gが叫ばれる今だからこそ実現できる技術ですね。

松永 今回、クリーク&リバー社として、新明さんの遠隔釣りロボットの事業化を一緒に進めることになったのは、東京都の「5G技術活用型開発等促進事業」がきっかけでした。「事業を加速する現実&仮想空間を梃子にした5Gスタートアップの量産」をテーマに、「街に賑わいを」というコンセプトを基に、事業化に向けて必要な機能を提供するというものです。

問 こうしたスタートアップにC&R社が支援するのは素晴らしいことです。この遠隔釣りロボットは実際どんなところに売り込もうと考えていますか。

新明 まずはアミューズメント施設を考えています。ショッピングモールにあるゲームセンターなどに設置すれば、大人も子供も釣りを楽しめます。実際新宿の「釣船茶屋 ざうお」と繋いで実験しましたが、皆さん感動してくれました。

地方の活性化にも貢献

問 実際に釣りに行くとなるとハードルが高いので、そうしたアミューズメント施設で楽しめたらいいですね。ところで一台幾らぐらいを想定しているのですか。

新明 今のところ50 ~ 60 万円を考えています。

問 その位の価格なら、いろんなところに広がりそうです。地方の活性化にどのようにつながるのでしょう。

松永 ゲームセンターと海を繋いでやれば、その楽しさから実際その場所に行ってみたい方も出てくると思うのです。遠隔釣りロボットがきっかけで、現地での釣りに興味をもってもらえば、地方の活性化につながります。

問 一度その楽しさを味わったら日本全国出かけたくなりますね。

松永 近場であれば、実際に釣った魚をウーバーで届けてもらうことも可能です。都内のビアガーデンの釣りロボットで釣った魚が、一時間後に届いて釣りたてを食することもできるようになります。

問 なんだかすごいことになってきました。実際何時から販売予定ですか。

新明 今、量産体制を整えていますので、来年には売り出します。

問 百貨店の食品売り場や、寿司店などいろんな所に広がりそうですね。

仮想空間でも釣り体験

問 海や釣り堀と繋いで実際に体験するのもいいですが、仮想空間の釣りもできるとか。

新明 はい。実際に釣った時の魚の引きをデータ化し、仮想の魚に覚えさせ、仮想空間でも現実さながらの釣りを実現できます。仮想空間での釣りで、24時間365日釣りを楽しむことができます。実際の釣り名人は仮想空間でも腕前を振るうことができます。

問 仮想空間での釣りですか。どこでもいつでも釣りが楽しめるとは、釣りの愛好者が増えそうです。

新明 高齢の人や肉体的ハンディキャップがあって実際の釣りができない人も、仮想空間で釣りを楽しむことができます。

クリーク&リバー社 事業開発グループ  オープンイノベーション事業部 部長 松永雄氏

さまざまな分野に応用

問 この触覚を遠隔地に伝えるという画期的技術はさまざまな分野に応用できそうですね。

新明 慶応大学ではさまざまな企業と共同研究を進めています。硬さややわらかさが伝えられるので、果物の選別に応用できます。医療分野では臓器の感覚もデータ化できるので、手術のシュミレーションにも使えますし、手術用鉗子の分野で研究が進んでいます。但し医療分野はなかなか進まないのが現実です。

問 さまざまな規制がありますからね。

松永 サービスロボットやセラピーロボットの可能性もあります。

問 いろいろな分野に広がれば、世界が変わりますね。まずは遠隔釣りロボットの事業化ですが、それにC&R 社の力が必要と。

新明 僕たちは技術開発は得意ですが、事業化するとなるとマーケティングや経理のプロなど体制強化が必須です。

松永 そこに我々がプロの人材を紹介、事業化を共に進めていきます。

問 両社のスキルが掛け合わさると、面白い世界が広がりますね。期待しています。

Profile 新明脩平(しんみょう しゅうへい)株式会社東芝にてEV 向け非接触給電システムや高速鉄道の技術開発、製品化を牽引。慶應義塾大学大学院博士課程を早期修了後、2017年に同大学ハプティクス研究センター特任助教に着任。工学博士。リアルハプティクスの事業化を促進するため、株式会社Re-al を設立。力触覚技術をエンターテイメント性がある釣りに応用、遠隔釣りロボットの開発・事業化を推進。2022年の発売を目指す。

プロのスキルを掛け合わせ新しい価値を創造/クリーク・アンド・リバー社 社長 井川幸弘

プロのスキルを掛け合わせ新しい価値を創造/クリーク・アンド・リバー社 社長 井川幸弘

 Re-alの新明社長を支援していますが、さまざまな分野のプロをネットワークしている当社と組むのはメリットがあると思います。ウチのリソースを使って大きく成長してもらいたいです。

 この触覚を遠隔地に伝える画期的な技術は、さまざまな分野に応用できると考えています。特に医療分野では手術のシュミレーション、ロボットの分野ではセラピーロボット、遠隔操作ができるブルドーザーなど、様々な分野に応用可能です。土木建築分野は高齢化が進んでいるので、部屋の中で操作できることになればスゴイことです。遠隔釣りロボットはそのとっかかりと考えています。

 当社は医療、建築、弁護士など18の分野の専門家をネットワークし、クライアントは4万社にのぼります。いろんな人のスキルを組み合わせて新しい分野を創り出すのが仕事です。ヒト、モノ、カネと言いますが、アイデアはヒトについています。従ってヒトをネットワークすることが大切です。

 今、さまざまな分野にチャレンジしていますが、10月には遠隔医療分野として病院をオープン予定です。仮想空間の街をつくりそこに仮想住宅展示場を作ります。当社には一級建築士が多数登録していますが、個人の方は、仕事依頼は口コミが中心です。それではもったいない。仮想住宅展示場に自分の作品を展示すれば、世界の人々に見てもらえます。日本の建築は世界でも評価が高いので、さまざまな可能性が広がります。

 AI は10人のプロが集まるとさまざまなことができます。これをまとめられると事業化できます。

 今、コロナ禍で世界中が苦しんでいますが、アフターコロナには世界が変わると思っています。今年、17か国から50人を採用しました。クライアントは今は国内中心ですが、グローバル化していきます。

 中国を除くアジア圏に6億5千万人いますが、ここをベースに世界に広げていくのが面白い。YouTubeもブロックチェーンも日本人が最初に開発していますが。日本は規制が厳しくチャンスを逃してしまい、もったいない。このアジア圏をベースに考えた方が早いと思います。

 コロナでDXが加速、世界が近くなりました。リモートで、どこででも仕事ができますから。世界中に散らばると会社の求心力、バランスをどうするかが課題になりますが。

 いろいろなプロジェクトが立ち上がっていますが、成功の秘訣は、目的を明確化することです。モノづくりが得意な人はそこに固執してしまう傾向がありますが、制作したものがクライアントにどう役立つかが一番重要です。クライアントの視点で考えることです。今、さまざまな事業が立ち上がっていますがその中から上場する会社が出てくれば面白いですね。

 わが社のカルチャーは多様で雑草のようなものです。いろんな人が集まっておもしろいことができる。皆が力を発揮できるカルチャーにしていきたいですね。

 今、18の分野で40万人が登録していますが、これを将来は50分野に広げていきたいと考えています。

 さまざまな分野のスキルを組み合わせて世の中にないものを創り出す。どう組み合わせるかは永遠の課題です。社会のギャップを埋め、新しい価値を創造する「事業クリエイティブカンパニー」を目指しています。(談)

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