会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。
(企業家倶楽部2017年6月号掲載)
(文中敬称略)
「会社のホームページは損をしないものでいい」と語るのはベーシック社長の秋山勝。曰く、高級ブランドのサイトのように手が込み洗練されていなくとも、顧客が求めている情報が分かりやすく伝わればよい。月額5万円の同社のサービスを使えば、ウェブ担当者がいなくても、簡単に、早く、安く、ホームページ作成が可能だ。そして「本業に集中するべき」と秋山は声を大にする。
スマートフォン(スマホ)で、いつでもどこでも情報収集するのが当たり前となった。その情報に基づいて消費の意思決定が行われ、検索ランキング上位の物が売れ、SNSで評判になった店が行列を生む。あらゆる業種がインターネットでの発信に力を注いでいることだろう。日本企業の99・7%といわれる中小企業のデジタル化を推進すべく、同社は「ウェブマーケティング=自社のホームページをいかに集客に直結するサイトにするか」と位置づけた。
簡単・迅速・格安にデジタル化
そのためのサービスは大別すると2つある。
1つは簡単にウェブマーケティング全般の情報を得て、学習出来る無料の会員制メディアサイト「ferret(フェレット)」。用語解説など、初心者が一から学ぶコンテンツもあれば、上級者向けの事例やノウハウをはじめ、トレンドニュース、各種インタビューなども発信している。現在会員数は35万人。会員は資料のダウンロードも可能だ。
2つ目は実際にサイトを作成して運用するための「ツール・トレーニング・サポート」の3つがセットになった「ferret One(フェレットワン)」。初期設定費用は5万円となっており、基本プランは月額5万円で利用可能だ。スマホにも対応したホームページの作成は、誰でも簡単に実践できるよう、基本的にマウス操作だけで可能。申込みページやボタンなどの設定も容易だ。トレーニングは90日間で学べるカリキュラムと5回の講義で構成されている。動画も用意され、それでも分からない場合は、24時間メールで質問できる。
ホームページの開設後は、指定ワードの検索順位の確認、ソーシャルメディアとの連携もできる上、アクセス解析や行動解析レポートなども全てサービスに含まれている。顧客へのメール配信などを可能とした上位サービスは月額利用料8万円。「フェレットワン」の新規契約は月20~25社のペースで増えているが、課題は対象となる中小起業へのリーチが不十分なことだ。同社は、自ら掲げる「ウェブマーケティングの大衆化」のボーダーラインである1万社の導入を目指している。
顧客はネットの中にいる
「本当にインターネットに顧客がいるんですね!」
ビニール加工メーカー丸三の社長、長岡孝がホームページ公開後、問い合わせを受けて思わず発した一言だ。1960年に創業し、家族で腕章やスマホケースのビニールパッケージなどを手掛けている。
技術も需要もあるが、既存の顧客頼みで取引数は徐々に減少。何か対策をとらねばとの危機感からホームページも作ってはいたが、問い合わせは皆無であった。そんな時、ベーシックのEC事業部が商品の袋を丸三から仕入れていた縁で、「フェレットワン」を知った。
ただ、丸三にとって月々5万円は決して安くない投資である。また、時間も知識も無いのに機能を使いこなせるのか、本当にホームページを変えれば効果が出るのか、半信半疑だった。迷ったものの、他の製造業者からウェブの効果を聞いていたこともあり、思い切って導入に踏み切った。すると、公開後に数件の問い合わせがあり、半年後には実に数年ぶりとなる新規契約が成立。今では効果を実感しているという。
比較サイトが大当たり
ベーシックはフェレットの他に、スマホケース等を販売するEC事業、ユーザーと事業主をマッチングするメディア事業を合わせた3つを事業の柱とする。2004年3月に創業。社員110名の平均年齢は29歳と若い会社だ。国内だけでなくベトナムからも4名エンジニアを採用し、今後さらに増やす予定という。目指すは18年の東証マザース上場だ。
同社は、引越し料金の一括見積り比較サイト「引越しネット」からスタートした。「創業当時は、ヤフーに代表されるニュース、メール、オークション、動画配信など多数を包括するポータルサイトが主流だった。しかし、それでは求めている情報になかなかたどり着けず、違和感を覚えていた」と振り返る秋山。対象者や内容を絞ったメディアの時代が来ると確信するも、当時勤めていた会社で提案したところ理解を得られず、ならばと独立に踏み切った。
自分だけでは資金が足りず、友人2人に出資してもらっての起業だ。しかし秋山の狙い通り、数ある選択肢の中から自分に最も適したサービスを比較検討することのできるメディア事業は大当たり。フランチャイズ(FC)、留学、家庭教師、結婚情報など次々に業種を広げていった。
FC加盟者とFC本部を結ぶ「フランチャイズ比較ネット」は常時100社以上を掲載、利用者は月間20万人に上る。さらに、10年より始めたマッチングイベント「フランチャイズ起業・独立フェア」は、今や東京で年2回、地方都市で年3回開催。出展する小売、サービス、飲食など様々な業種のFC本部が一堂に会すことで、有益なマッチングが行われやすく、FC本部、独立を目指す人たちの双方から支持され、メディア事業の稼ぎ頭に成長した。
その後ベーシックはウェブマーケティングの部分を事業化し、07年、過去の検索からキーワードを表示するサービス初代の「フェレット」サイトをオープン。さらに顧客からの要望に応える形で、SEO/SEM対策の「フェレットプラス」や「フェレットSEO」をリリースさせていった。
ビジョンとミッションが不可欠
「事業の前に人ありき」を信条に事業を拡大し、11年には「毎日新聞デジタルが選ぶ注目企業50社」にも選定されたベーシック。順風満帆に思われたが、人を大切にしているはずにも関わらず、自己主張がはびこり、一体感が生まれなかった。
秋山の不安は的中。社員が1人、また1人と退職していく。「社員が辞めるたびに泣きました」と当時を振り返る秋山。チームワークを良くする施策も効果が無かった。先輩経営者の話を聞き、本もむさぼるように読んだ。そして確信したのは「組織にはビジョンとミッションが不可欠」ということ。ベーシックが「ウェブマーケティングを世界一簡単に」というビジョンを掲げてからは、会社の雰囲気も良くなっていった。今後は秋山の下、一丸となって日本中の中小企業のデジタル化を実現させていくことだろう。
目標は21年に時価総額1000億円達成。「会社の規模を大きくして、より社会性の高い事業に挑戦していきたい」と夢を語る秋山が率いるベーシックに期待したい。