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【頑張るしなやか企業】ニッコー 代表取締役 塩田政利 氏

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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液体ガラスで循環型社会を構築する

液体ガラスで循環型社会を構築する

ニッコー 代表取締役 塩田政利 氏


(企業家倶楽部2018年12月号掲載)

(文中敬称略)


木材の弱点を克服

 燃えやすく、腐り、シロアリにも食べられてしまう・・そんな木材の弱点を克服すべく挑戦を続けているのが、東京・杉並区に本社を構えるニッコーだ。彼らが独自技術を駆使して開発を行い、製造、販売まで手掛けるのが、液体ガラス。用途は多岐に渡り、木材に塗るだけで防炎、防腐、防蟻の他、汚れ、ささくれ、紫外線劣化などまで防ぐ効果を発揮する優れものだ。

 ガラスと言うと、窓やコップなどに使われる固形物を思い浮かべる向きが多いだろう。しかし、液体ガラスはその名の通り液状であり、これを塗布することで木材を守る。

 腐ったり、シロアリに食べられたりするのは、外から木の中へ大量に水が入るため。そこで通常の塗料は、上から塗ることで水や空気の通り道を塞ぎ、木材と外界を完全に遮断する。

 ただ、この「完全な遮断」もまた、腐食の原因となる。たとえ外からは水が入って来なくとも、木の中に水分が含まれるからだ。水は入りすぎると邪魔になるが、全く入って来なくても困るのである。

 したがって一番良いのは、塗料を塗っても空気中と木の中の水分が微妙に出入りできる状態を作り出すこと。この絶妙なバランスを見事に保っているのが、液体ガラスなのだ。その証拠に、液体ガラスを塗布した木材は呼吸しているので、匂うと木の香りがする。

 創業社長の塩田政利は、元々鉄筋コンクリートの強化を行うべく、この液体ガラスを開発した。これが木材にも使えるのではないかと考え、3~4年の試行錯誤を繰り返した結果、現在の製品開発に漕ぎ着けたのである。

 コンクリートと木材、対象物こそ違えど、防腐の原理は同じだ。本来であれば腐食の温床である水が入ってしまっていた組織内の隙間に、液体ガラスの粒子が入り込むことによって、大量の水が浸入するのを防いでいる。

「一般的な塗料で呼吸を止めてしまった木材の耐久年数は50年ほどだが、液体ガラスを塗布した木材は1000年だって持つ」と塩田は誇らしげに語る。

写真:液体ガラスは木材の防炎性を飛躍的に向上させる

日本の木材を生かしたい

 そもそも、塩田はなぜ木材に目を付けたのか。そこには、「資源に乏しい日本で、唯一大量にある木材が、全く生かされていない」との問題意識があった。日本の国土の約70%は森林にも関わらず、日本の山は管理が行き届いていない。そのため、使われる木も輸入木材に押されているのが現状だ。

「どうにか日本の誇る豊かな資源である木を活用した社会作りはできないものか」

 そう考える塩田の前に立ちはだかったのが、木材を使用するに当たっては避けて通れない問題の数々であった。すなわち、木は「燃える、腐る、シロアリに食われる」というわけである。

 これらを克服する液体ガラスを開発した塩田は、「橋、ガードレール、遮音壁など、全て木で作った方が良い。現在は鉄筋コンクリートで作るのが当たり前となっているが、それでは耐久性に難がある」と声を大にする。

 鉄筋コンクリートは、一時的な強度を高めるには適した素材だが、耐用年数は40~50年が限度。鉄筋を入れることで、塩害を受けやすくなり、錆びてしまうのが原因だ。ダムが100年以上もつと言われているように、コンクリートのみの構造体であれば、長期に渡って使うことも可能だが、都心部の狭い空間に住宅や高層ビルを建てるのに、まさかダムのような巨大なコンクリートを打つわけにはいかない。出来る限り柱を細くしつつ、耐震性も確保するために、鉄筋を入れるのは止むに止まれぬ選択なのだ。

「それならば、液体ガラスを塗布して防炎、防腐、防蟻の性能を高めた木材を利用した方が、日本にある豊富な資源を有効活用できるではないか」というのが塩田の主張である。

住宅を100年ローンに

 木材を駆使した社会づくりは、日本の産業構造にも影響してくる。

 まずは、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて国策にもなっている観光産業。「資源の乏しい日本が生きていくためには、観光以外に無い」と塩田が説くように、日本には四季があり、自然が豊かだ。山、川、丘、谷、海があり、山が多いため水が美味しい。観光産業には適していると言えよう。

 日本で観光を押し出す上では、神社仏閣などを始めとした古風な建造物をいかに上手く見せていくかが鍵となる。また、ふんだんにある木や竹を使った家、ホテルを建てていくことで、文化大国としての地位向上にも繋がるだろう。観光客に、木材の醸し出す和みや温もりを感じてもらうこともできる。「生涯に一度で良いから日本に行きたいという人を増やしたい」と塩田。木材を利用した観光立国が成れば、国家収入にも多大な貢献が見込めるだろう。

 もう一つは、住宅である。前述の通り、現在住宅と言えば鉄筋コンクリートで作るのが一般的だが、その耐用年数には限りがある。翻って、京都や奈良の文化遺産を見れば分かるように、1000年以上の歴史を誇る木造建築が実在している。

「1000年とは言いませんが、少なくとも300年や500年は持つ住宅を作りたい。そうすれば、お金だっていきなり払わなくても良いわけですから、100年ローンにして親・子・孫の3代で払っていけば良いでしょう。必然的に、全収入に占める住宅費の割合も減り、他のことにお金を使えるようになる」

 現時点では、「木=燃える、腐る」という概念が浸透しているため、法律でも木造建築に対する規制は厳しい。しかし、塩田は液体ガラスによってその固定観念を覆しつつある。木材を利用した新しい社会づくりに向け、発想の転換が求められそうだ。

特許は取らない

 ニッコーはこれだけ画期的な物質を開発したのだから、もちろん特許を取って知財収入も得ているのだろうと思いきや、塩田は「特許は取らない」とバッサリ。彼曰く、「特許を出すと必ず真似される。どこか一部を少し変えて申請すると、特許庁は許可してしまう」というわけだ。

 確かに、特許を取れば、ニッコーが独自に開発した液体ガラスの製造法が公になる。塩田は「他社には私たちと同じ理論・製法で液体ガラスを作ることはできない」と断言。特許の無い状態では、万が一別の個人や企業が全く同じ製法で液体ガラスの製造に成功した場合、競争に晒される可能性をはらむが、それよりも「製法を公開するリスク」の方が大きいと判断したわけだ。

 では、その「万が一」があり得ないとする根拠はどこにあるのか。塩田は、まだ「液体ガラス」という呼び名が生まれる前から、人生を賭けて開発を行ってきた。「ここまで私が幾度となく繰り返してきた試行錯誤の努力を覆すのは不可能でしょう。積み重ねてきたノウハウや技術力は誰にも真似できない。年齢が追い越せないのと同じです」と塩田は語る。

 その言葉通り、最終形態である液体ガラスは誰でも見ることができるにも関わらず、ニッコーが企業秘密としている製造法は未だ破られていない。他にも液体ガラスの製造方法について特許を取っている企業はあるが、「うちの手法とは全く異なる」と塩田は意に介さない。

良い製品だからこそ売らせない

 製品への自信は、約200社抱える販売代理店との関係性にも表れている。ニッコーでは「液体ガラスを売りたい」との応募者には試験を課す。それに合格すると、売る権利を得られるという仕組みだ。

 試験の内容は、液体ガラスの特性、付加価値、使用方法などに関する事柄。販売代理店となった暁には、彼らが先鋒となって様々な企業に営業をかけていくことになるため、お客のニーズに応じた提案まで含めてできるように教育する必要があるのだ。

「良い製品だから売って下さいなどとは絶対に言わない。良い製品だからこそ、簡単には売らせない。しかし、決して威張っているわけではなく、真剣に売っていただける方にこそ、販売代理店として参画してほしいんです」

 その言葉を裏付けるように、ニッコーは販売代理店から加盟金や権利収入は一切取らない。「私利私欲を策する企業は続かない」というのが塩田の信条だ。

目指すはトヨタ超え

 全国に広がった販売代理店網の他、近年は大手企業の参画も目立つ。これまでの代理店と競合になりそうなものだが、「そこは問題無い」と塩田は言い切る。何しろ、液体ガラスは港湾や橋、住宅といった大きな建造物から、椅子や机、皿といった家具・食器まであらゆる用途に適用できる。大手が狙う市場と、中小の販売代理店が関係性を築いている企業は異なっており、それでもなお、まだ誰も手を付けていない領域が無尽蔵に広がっているのだ。

「液体ガラスを使えば、競争相手のいない自分だけの製品を作れる。誰でも参加できますから、皆が独立して、自分だけのオンリーワン商品を売れます。仮に1社が3製品を手掛けたとしても、1県につき30社くらいはできてしかるべきです。すると、日本全国47都道府県に1500社は立ち上がるでしょう」

 また塩田は今後、販売代理店に関しても1都道府県につき約10社、日本全国500社まで広げる構えだ。

「各社に10人の従業員がいれば5000人。私たちの商品は一人あたり少なくとも数億円は売れると自負していますので、いつかはトヨタを超せる」

 実は液体ガラスは、木材以外にも革、竹、和紙など様々な素材に利用できる可能性が見込まれる。「汚れない革靴などお手の物」と塩田。ただ、木材に対する市場だけでも莫大なものがあるため、手が回らないというのが現状だ。

 いずれにしても、液体ガラスが夢の広がる技術であるのは間違いない。これまで木材は様々な弱点から使用を敬遠する向きも多かったが、液体ガラスによって長期耐用が可能となれば、観光のような一産業に止まらず、持続可能な循環型社会の構築に貢献することができるだろう。

●会社概要●

社 名:株式会社ニッコー

設 立:1991年4月

所在地:東京都杉並区上荻1-24-19 シャイン荻窪ビルB1F

資本金:1000万円

従業員:12名

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