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【核心インタビュー】大戸屋ホールディングス 社長 窪田健一氏

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

(企業家倶楽部2019年2月号掲載)

「大戸屋ごはん処」を国内外に約460店舗展開、「美味しくてヘルシーな家庭料理」で、外食業界で確固たる地位を築く大戸屋ホールディングス。2015年、カリスマ創業者の三森久実会長が急逝して3年。あとを引き継いだ窪田健一社長は、「ようやく整理がつき、これからが攻めるとき」と意欲を燃やす。アジア諸国はもとより、ニューヨークにも進出。「日本の家庭食を世界ヘ」と意気込む窪田社長に本音を伺った。 聞き手:本誌副編集長 三浦貴保

問 外食産業の概況はいかがですか。

窪田 この夏は猛暑、豪雨や台風、地震といろいろありましたが、気候の変化は事業にも多少影響が出ています。

問 御社の家庭食の代行のような、より日常に近い外食はそれほど影響ないのではありませんか。

窪田 気候の影響は受けましたが、7月にグランドメニューを変えてからは、手応え感のある数字になりました。

問 何をどう変えたのでしょうか。

窪田 メニュー自体は変えていませんが、画一的なメニューではなく3パターン用意して、エリアごとに決めています。今年はサンマの売上げが良かったので少し追い風になりました。

問 人気メニュートップ3を教えて下さい。

窪田 「鶏と野菜の黒酢あん定食」などの黒酢シリーズが人気ですね。あとは「さばの炭火焼き定食」などの焼き魚、「チキンかあさん煮食」ですね。

問 大戸屋の客層は幅広いですね。

窪田 10代から60代くらいまではほぼまんべんなくという感じですね。中心は30代、40代です。

問 女性客が多いですか。

窪田 女性は全体で63%ぐらいですね。

問 銀座のお店は外国人が多いように思います。

窪田 そうですね。それでも25%ぐらいです。

ようやく自走し始めた

問 三森久実会長が亡くなられて3年になりますが、やはり違いはありますか。

窪田 それはありますね。私自身は亡くなる1年前に知らされましたが、現実的には受け止められなかった。ただ頭では理解していますので、この会社を発展させていかなくてはと思いました。

問 社長が動揺している姿を社員には見せられないですからね。不安はありましたか。

窪田 当然不安もありましたが、三森会長がバリバリやっている時に一緒に薫陶を受けた仲間がいますので、皆で頑張っていこうと。

問 実際に会長がお亡くなりになって窪田社長としては何をどうしようと思われましたか。

窪田 とにかく、この会社をしっかり成長させていこうということですね。

問 あれから3年、トップになられて変わったこと、変わらないことはありますか。

窪田 先代を頼ってきた会社ですから、そのカリスマ経営者がいなくなるということは会社にとっては不安です。私が変わるというよりも、時代の方が変わっていきますので、それに応じて自分たちがどう変わっていけるかですね。

問 具体的には、どのような変化をされたのですか。

窪田 最近ようやく、みんなが自走し始めました。自分たちで新たなビジョンを打ち出すまでに時間がかかりました。

問 これから窪田流が息づいていくということでしょう。課題はありますか。

窪田 課題は山積みです。基本的には環境変化と人口減少が食の変化にも働き方の変化にも繋がっています。食材も今までの四季折々という嗜好が無くなってきています。

問 その中でも1番大変だと思われるのは何でしょうか。

窪田 働き方のところですね。労働法も改正になりますし、外食産業はもともと労働集約型産業と言われていますが、その労働が集約できなくなってきています。外食そのものも変化しなければならない。

問 スタッフを集めるのも大変ですか。

窪田 地域によっては外国の方の労働力に頼らざるを得なくはなってきています。

問 セルフサービスは考えておられない。

窪田 キャッシュレス対応はしています。ただ、タブレットを導入しても、業務改善にはなりますが、労務改善にはならない。もっとデジタル化、機械化していかないと労務改善は難しい。

問 大戸屋と言うと定食屋さんというイメージですが、それは変わらないのでしょうか。

窪田 変わりません。

問 ライバルはどこになりますか。

窪田 あまり意識したことはないですね。勉強はさせて頂きますが。

問 家庭食をこれだけ気軽な値段で食べられるのはありがたいですが、御社がその位置を守り続けているということですね。客単価も今のままということでしょうか。

窪田 最低賃金が上がっていきますから、価格に反映させていかなければ難しい。

問 今、客単価はどのくらいですか。

窪田 880円です。

問 880円であれだけの定食が食べられるのは、やはりかなりリーズナブルですね。

先代の教えを礎に日本の定食を世界へ

先代の教えを礎に日本の定食を世界へ

写真:ニューヨークチェルシー店

海外展開を加速

問 三森会長はよく国内は窪田社長に任せて、自分は海外を強化すると言っておられました。今、海外は何店舗ありますか。

窪田 110店舗ぐらいですね。

問 タイには約50店舗あると聞いています。今後の海外戦略はどう考えていますか。

窪田 この2、3年で整理の段階が終わったので今年は少し攻めていこうと思います。

問 攻めるエリアはどのあたりですか。

窪田 ベトナムですね。ホーチミンを攻めたいと思っています。我々の今の身の丈で言えばアジアが中心となります。

問 なるほど。アジアの場合は良いパートナーと組むのが一番と三森会長がいつも仰っていましたが、やはりそうした戦略で向かわれますか。

窪田 結果的には良いパートナーと組むことが必要ですね。しかし、まずはその国の文化、法律も含め、自分たちで苦労しながら積み上げていかないと成功できません。新しく出店する国は、最低でも3店舗から5店舗は自分たちで運営して、そこで物流や食材面を確認し、その後良いパートナーと出会えれば、その方々にやって頂く形ですね。

問 台湾や中国本土はどうですか。

窪田 台湾はフランチャイズで、台湾ファミリーマートさんが約34店舗ほど出店しています。本土は難しいですね。ハードルが高いです。台湾と中国大陸は全然違います。

問 それでは香港はいかがですか。

窪田 香港は絶好調です。5店舗ありますが、もうあと1店舗か2店舗ぐらいは開いていきたいですね。

問 ニューヨークにも進出していますね。

窪田 マンハッタンに3店舗出しています。今は労働ビザのハードルが少し高くなっていますが、こちらから上手く送れれば、来年にはもう1店ぐらい行けると思います。

問 日本より高級なイメージですね。

窪田 ニューヨークで日本食を出すからにはお客様の期待もありますので、それに応えるためには、少し上のスタイルということで食器や店舗の内装で付加価値をつけています。現地の方には漆の食器とかがインパクトがあって、話題になりました。

問 和食が手軽に食べられるとして、大戸屋は重宝されているのではないですか。

窪田 たまに和食を食べたいというニーズはあると思いますが、こちらでイメージしているほど和食を必要としているのかは未知数です。

問 国内も海外も整理が終わってこれから攻めるという段階ですか。

窪田 海外はまさにそうですね。国内は攻めと変化対応を同時に行っているところです。

問 店内で魚を焼くというオペレーションは変えないのですか。

窪田 変化は出てくるでしょうが、店内調理自体は基本的に変えません。魚は焼き立てでなければ美味しくありませんからね。

もっと日常の味を

問 今後の目標をお聞かせ下さい。

窪田 時代が大きく変わって、食の外部化は今後ますます広がっていくと思います。家庭食の代行業として、味もオペレーションも、あらゆる面で変わっていかなければならない時に来ている。外食が日常的な事柄となっていく中で、今の大戸屋の味で良いのかと常に考えています。もっと優しくもっと毎日食べ続けられるような味に変わっていかなければならない。今の大戸屋の味は高度成長期を支えてきた味ですので。

問 外食は濃い味付けが多いですからね。毎日食べ続けても飽きないような味が求められていくということですね。

窪田 何かエッジを利かせて、特別感を演出して売っていくのではなく、もっと日常的な味を作っていく。逆にそれが今後特別になっていくと思っています。逆転現象が起きてくる。家庭食の代行をすることに変わりはありませんが、その在り方は変わっていかなければなりません。

問 経常利益10億円を目指すと書いてありました。

窪田 2021年3月期で売上高300億円、経常利益10億円を目指しています。

問 これは達成出来そうですね。

窪田 それに向けて頑張っています。今の時代は変化が激しいので、5年先の数字を積み上げて、そこに変に縛られるよりもむしろ、柔軟に対応していかなければなりません。

問 窪田社長の夢をお聞かせください。

窪田 大戸屋が沢山の人に「美味しいね」と言ってもらえれば良いですね。


P R O F I L E

窪田健一(くぼた・けんいち)

1970年埼玉県出まれ。1993年、東洋大学法学部卒業。株式会社ライフコーポレーションを経て96年に大戸屋(現・大戸屋ホールディングス)に入社。FC事業本部長兼FC営業部長、FC事業部長などを経て、2007年に取締役に就任。11年株式会社大戸屋 代表取締役社長(現任)、12年より現職。日本の家庭食を届ける和食チェーン「大戸屋ごはん処」の直営店・フランチャイズ店を国内外に460店舗以上展開、アジアを中心にアメリカにも事業領域を広げている。

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