会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。
(企業家倶楽部2019年2月号掲載)
古い体質のおしぼり業界にイノベーションを起こした藤波タオルサービスがFSXへと社名変更を行った。アロマおしぼりや抗ウイルスおしぼりを開発。新たなニーズを掘り当てた同社が次に目を付けたのは、おしぼりとIoTの融合だ。設立50周年を目前に社名変更を決断した同社の藤波克之社長に真意を伺った。(聞き手:本誌編集部デスク 相澤英祐)
多角的な事業展開に向けて
問 2016年11月より藤波タオルサービスからFSXに社名を変更されたとのことですが、どのような想いを込められたのでしょうか。
藤波 新社名は、「藤波(Fujinami)のサービス(Services)を表現する(Xpress)」という意味です。Xpressは「速い」、「物流」という意味も含めたExpress由来の造語であると同時に、Xという文字は多様性も表します。
問 ベトナム、香港に引き続き、16年にはマレーシア法人を設立されました。海外展開を意識されてのことでしょうか。
藤波 16年中にアメリカ法人も立ち上げる予定で、海外展開が加速することは間違いありません。当然それも踏まえてのタイミングではありますが、実は社名変更自体は8年前から考えていました。
問 かなり前から考えられていたのですね。それはなぜですか。
藤波 家業であるレンタルおしぼり業のみを手掛けるのであれば、社名変更は必要無かったでしょう。しかし弊社は、ITやサイエンスを駆使し、新たな付加価値を備えたおしぼりを開発することで発展してきた会社です。今後はメーカーとして機械の提供や、最先端技術との融合を目指しています。あくまで事業軸がおしぼりであることは変わりませんが、事業が多角化していく。これからホールディング展開していく上で子会社を作ることも考えています。
求心力となる社名を
問 おしぼりを通じて日本文化を海外へ発信していくことも、御社の使命として期待されていることでしょう。社名変更を決断されたきっかけはありますか。
藤波 来春、コーポレート・アイデンティティやウェブサイト、名刺も全て一新する予定です。新しくブランドを作っていくことを考えると、このタイミングしかありませんでした。
社名を決める際、「藤波」の名前を残すか悩みました。もし私が創業社長だったら、もっと自由奔放な名前を付けたかもしれません。しかし、父と母が苦労して会社を育ててきた背中を見てきましたし、社名は経営理念と一緒で社員の拠り所です。事業が大きくなった際に、集まった多様なメンバーの求心力になります。「これからはモノのサービスは廃れるかもしれないが、心のサービスは廃れない」という父の言葉は忘れられません。
問 創業者であるお父様は新社名に対して何かおっしゃっていますか。
藤波 社員に発表する前に、両親には報告をしました。母は、「それだけ考えたのなら良いんじゃないの」と背中を押してくれたのですが、父の反応は正直鈍かった。満足していないのではないかと気になっていましたが、父が働いていた富士精密工業(旧中島飛行機)の略称が、「FS」だったと言うのです。後から知りましたが、これも何かの縁でしょう。
社名を一人で決めるつもりはありませんでしたから、デザイン会社とのコンペや社内外公募など色々考えました。しかし、過去の50年と未来の50年を両方語れるのは私しかいませんから、自分で決断しました。
問 社内外の反応はいかがですか。もう皆さん慣れましたか。
藤波 かなり浸透したと思います。呼びにくいとおっしゃる方もいらっしゃるかと想定していましたが、特にそうした事例はありませんでした。日本で元気があるラーメン屋や居酒屋は海外展開を意識している方も多いので、「藤波さんも海外に行くんだね」と肯定的に捉えていただけました。
掛け算の経営を志向
問 新しい技術とのコラボとおっしゃっていましたが、どのような事業をお考えでしょうか。
藤波 おしぼりとIoTの融合です。おしぼりにICチップを入れて、センサー技術を応用すれば何かできるのではないかと考えたのがきっかけです。技術的には既にホテルのリネンや制服に導入されていますが、おしぼりは熱湯を使って特別な薬品で消毒しなければいけない上、ずっと湿っているため、IT機器との相性が悪かった。今回はそれを克服しました。
問 ICチップを入れようと思われたきっかけは何かありますか。
藤波 レンタルおしぼりの管理は長年の課題でした。やはり、しっかりしたタオル地のおしぼりを使いたいというご要望は多いのですが、質の高いものを使えば使うほど、使い捨てにするわけにはいかない。
問 おしぼりとはいえ、タオル地なので沢山なくなると困りますからね。目的は、納品した商品が返ってきているかどうかの確認でしょうか。
藤波 もちろんそれもありますが、現在の事業の課題はドラッカーの言葉を借りると「限定されている」こと。地域も限定されていますし、小口顧客になかなか対応できません。弊社はおしぼりに付加価値を付けることでお客様を飲食店以外にも広げましたが、対応できていない需要はまだ多くあります。例えば、「イベントに来た方々に出したい」というように、単発かつ少量で使いたいというお話も多いのですが、今はお断りしているのが現状です。
問 それはもったいないですね。
藤波 私が営業をしていた頃は、都内のお客様なら特別に私がお届けしたこともありますが、その方法では多くの声にお答えできません。対応自体はできたとしても、やはり個別に対応するには手間がかかります。最終的に効率を考えると、月極の大口契約を優先することになってしまうのです。
しかし、IoTを活用して管理ができるようになれば、そういった依頼も受けられる。本数が少なくても、お客様ごとにカスタマイズして対応するので、客単価も上がります。既存の飲食店向けサービスの土俵に立ち、安さで競争する必要がなくなるのです。
問 御社のこだわったおしぼりが活かされる市場ですね。
藤波 そのような需要は沢山あります。先日、試しに少量の案件を受けたのですが、一生懸命営業マンが対応して、工場にも大変な負荷がかかりました。これをシステム化して円滑に行いたいですね。
問 IoTを応用して、他にも何かお考えですか。
藤波 家電事業に参入します。将来的には、IoTのプラットフォームを構築することも考えていますが、まだ先の話になるかと思います。もちろん主軸のおしぼりに関わる製品を出すつもりですが、17年春にリリース予定なので今しばらくお待ちください。
目標は売上げ100億円
問 近年は「ダイバーシティ」といった言葉が着目されていますが、御社は以前から積極的に施策の中に組み込まれている印象です。御社の取り組みを教えてください。
藤波 おしぼり工場は包装など単純作業が多いこともあり、30年以上前から障がいを持つ方にも働いていただいています。12年には東京都と国立市から給付金をいただき、NPO法人「東京自立支援センター」を立ち上げました。
問 民間で初めて、NPO法人が作った就労継続支援事務所として話題になりましたね。
藤波 障がいがあっても、健常者と変わらない、あるいはそれ以上の能力を発揮される方は沢山います。健常者と同じ雇用と労働対価を手に入れられる支援をしたいですね。
問 最後に夢をお聞かせください。
藤波 2025年には売上げ100億円、営業利益10億円が目標です。やり方によっては十分可能な数字だと思いますが、今のままのスピードで着々と大きくなっていくだけでは届かない。おしぼりは一本数円、数十円の積み重ねですから、利益で10億円出すのは大きな目標です。
問 長期的な施策は何か打たれているのですか。
藤波 達成のために、社内で勉強しているのはM&A。売上げ50億円は見えてきましたが、100億円となると10~20億円規模の会社と一緒に歩む必要があります。
しかし、ただ同業者と一緒になって取引量を増やすだけに止まるつもりはありません。目指すは「質の経営」。今までの社業を積み上げて足し算していくというより、掛け算の経営が理想ですね。
問 「おしぼり×IoT」など御社が得意な展開ですね。
藤波 自社製品も増えましたから、規模も必要です。しかし、弊社は組織に自信があります。私自身、社員たちを尊敬していますし、彼らには何度も助けられました。そんな組織だからこそ、お客様にとってもプラスになるはずです。
いよいよトランプ政権が誕生するということで、アメリカ進出への影響は気になりますが、需要があることには変わりありません。私なりに一歩前に出て頑張っていきます。
P r o f i l e
藤波克之(ふじなみ・かつゆき)
1974年生まれ。法政大学社会学部卒。NTTGroup 勤務を経て、2004年に家業の株式会社藤波タオルサービスへ入社。09年に代表取締役専務に就任し、ECサイト「イーシザイ・マーケット」設立。11年2月、NPO 法人「東京自立支援センター」設立。13年7月には抗ウイルス技術が3件国際特許を取得。13年9月より現職。