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【トップに聞く】ティア 代表取締役社長冨安徳久

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

目指すは日本で一番ありがとうと言われる葬儀社

(企業家倶楽部2008年8月号掲載)

1997年設立以来、名古屋発の葬儀ベンチャー企業として成長し続けるティア。社員一人ひとりの経営理念の共有、追求がティアの急成長を支えている。価値あるリーズナブルな葬儀の価格設定もティアの魅力の一つだ。葬儀ビジネスを天職と考える冨安徳久社長は「日本で一番『ありがとう』といわれる葬儀社になりたい」と葬儀に対する思いを語る。(聞き手は本誌編集長 徳永卓三)

 アルバイトで始めた仕事が人生を変えた

問「葬儀ビジネスは自分の天職だ」と言われていますね。この仕事に惚れこんだきっかけをお聞かせ下さい。

冨安 この仕事を始めたきっかけは大学入学前のアルバイトからです。私は、山口大学に入学することが決まっていたのですが、入学式まで2週間あったため山口市で短期のアルバイトを始めることにしたのです。破格の時給にひかれて始めたこのアルバイトが、その後の人生を変えるとは思ってもいませんでした。

 アルバイトを始めてからというもの毎日がとても新鮮で刺激的でした。強烈な印象として残っているのは、先輩について行った集金の時の出来事です。びっくりしました。遺族の方が「ありがとう。ありがとう」と先輩に何度も頭を下げているのです。仕事として当たり前のことをやっているわけですから、本来なら(おカネをいただく)こちらが「ありがとうございます」とお礼を言う立場。それなのに逆にこちらが心から感謝されているのです。次の瞬間「私も先輩の位置に立ちたい」と思い、その日のうちに店長に「私を社員にして下さい」と申し出ました。店長から返ってきたのは、「やめておきなさい」という一言でした。「葬儀屋という仕事は社会的地位が低い。偏見の目で見られても我慢できるのか?」と言うのです。しかし、私の決意は固いものでした。大学進学をやめてでもこの仕事に就きたかったのです。店長は、親の許しを得るために一度実家に戻りなさいと話し、2日間のお休みを下さいました。お休みをもらったものの、私は結局実家には帰りませんでした。両親に話して反対されたところで、どうしても葬儀屋という職に就きたかったからです。店長には、両親は快く許してくれたと嘘をつきました。そして、両親にはいいアルバイトが見つかったから仕送りはいらないと話しました。こうして私は、18歳で葬儀屋の社員になったのです。

問 しかし、葬儀社に勤めていたため、お付き合いしていた女性と別れることになったそうですね。

冨安 21歳の時、数年お付き合いしていた女性と結婚を考えていました。その女性の家族と会った際、「何の仕事をしているのか?」と聞かれ、「はい。葬儀の仕事をしています」と自信を持って答えました。すると、あからさまに態度が変わり、結婚を反対されました。「そんな仕事をしているやつに娘はやれない、どうしても結婚したいならブライダルの仕事に変えなさい」とまで言われました。

 しかし、大好きな仕事でしたのでやめられませんでした。結局彼女とは別れ、仕事の方を選びました。誇りを持ってやっている仕事を否定され、本当に悔しかったのを覚えています。

問 その後、富安さんが担当した葬儀の遺族からのご紹介で、現在の奥様と知り合ったと聞きました。

富安「全ての出会いは縁によって成り立っている」と私は思います。私が20代前半の頃、担当したある遺族との出会いが運命の出会いでした。当時から私は「葬儀の仕事の社会性を高めたい」と思い、日々一生懸命仕事をしておりました。ある日、施行が終わり、集金の時に遺族の方がこう声をかけて下さいました。「本当にありがとう。君はまだ若いのに感心だ。素晴らしい仕事をしているね」と。そして、「君は結婚する気はないか?」と言われ、今の妻を紹介されました。実は、その方の娘さんで、私の職業にご理解をいただき、結婚したのです。

 葬儀は その人の生きた証

問 葬儀の仕事のどんな部分に魅力を感じるのでしょうか。

冨安 この仕事には、人間が無条件に欲する4つの願いが叶えられています。「愛されたい、褒められたい、役にたちたい、認められたい」という願いです。この4つの願いが揃っているから、私は18歳のときこの仕事にのめりこんだのです。

問 葬儀という儀式についてどのように思われますか。

冨安 本当に大切だと思います。葬儀は、その人の生きた証そのものです。また、葬儀という儀式があるからこそ、残されたものは自分のなかで心の整理ができ、心にしっかりと故人との離別を刻むことができるのです。

問 冨安さんは死というものをどのようにお考えですか。

冨安 人間には、必ず死が訪れますから怖いものではないですね。私は日々、死というものを見てきて感じるのですが、死をしっかりととらえている人ほど生を充実させられる人だと思います。人生はとても限られた時間です。人生のゴール、つまり「死」が明日なのか、1年先なのか、10年、20年先なのかは誰にもわかりません。だからこそ、「今」を必死に精一杯生きたいと私は考えます。

 また、死こそがその人の遺言です。その人の死に方によって、残された者に言葉ではない何かを残すのだと思います。

問 人は、死後どのようになるとお考えですか。

冨安 人は、10万回生まれ変われるという話を聞いたことがあります。例えば、1度生まれ変わったとします。するとその人は、前に成長した部分からもう一度始められます。しかし、自分自身の成長を促していなかった人は、生まれ変わってもまた低い段階から始めなければならないそうです。ですから、死というものは終わりではなく次のステージへの始まりだと考えていただきたいですね。

 ティアイズム

問 創業以来、一貫して業績を伸ばしています。2007年9月期の売上高は52億6700億円(前年比13・6%増)、経常利益は3億3000万円(同55%増)、受注葬儀件数は3680件(同18・3%増)と好調ですね。御社が顧客の支持を得ている理由は何でしょうか。

富安 私たちは、お客様に心から『ありがとう』と言ってもらうために最大限の努力をさせていただきます。第1に、感動のサービスを提供するため、本気になって心から故人のことを考えます。儀式をただ提供するだけであれば他の葬儀社と変わりません。故人の思いを本気で受け止め反映させたいのです。社員には「その方の人生の重さをみんなで一緒に感じてあげようよ」と声をかけます。遺族の方たちとの打ち合わせのなかで、故人の愛した物や、好きな音楽はなかったかなどと話し合うようにしています。

 第2に、故人のための厳粛な儀式にするため、どのような設営をすべきか社員全員で考えます。私は、葬儀に集まってきた方々に、故人の何十年という人生を思い出してもらうのが葬儀のあり方だと思っています。その方の生前の姿を思い浮かべるような葬儀にしたい。ですから、故人の方が釣りが趣味だったと聞いたら、愛用していた釣り竿を貸していただけないかとご家族の方にお願いします。そして、それを祭壇の横やロビーに飾らせて欲しいと頼みます。また、美空ひばりさんが好きだった方なら、ひばりさんの歌を流してあげたいと考えます。私たちは、どうにか工夫してその方の思いや、人生最後のシーンを描きだしたいのです。それが我々のプロデュースです。

 ティアでは、本気で最愛の人をお送りする気持ちをティアイズムと呼んでいます。常にその気持ちを大切にすることで、感動を呼ぶ何かを伝えることができるのです。

問 最近は葬儀会館で葬儀を行うケースが多くなりました。現在、御社の施設数は。

冨安 直営店舗、フランチャイズを合わせて29店ですが、2008年7月には30店になる予定です。直営店舗23店、フランチャイズ7店です。フランチャイズは岐阜に4店舗、愛知に1店舗、大阪に2店舗です。

問 葬儀業界の市場規模はどれくらいあるのですか。

冨安 4兆円産業と言われています。葬儀だけでは、2兆円程度ですが、花や霊柩車などの関連事業と合わせると4兆円になります。現在、年間110万人がお亡くなりになっていますが、2040年まで増え続け、170?180万人に達すると予測されています。単純に計算すれば、市場規模は7?8兆円になるでしょう。しかし、これから客単価がどんどん下がっていくでしょう。なぜなら、少子高齢化社会だからです。私たちの世代は何人も兄弟がいる時代でしたが、今は一人っ子が多い時代。そして、一人っ子同士が結婚した場合には、2人で4人の親を見送らなくてはなりません。兄弟がいないため、香典も集まらず、とても大変です。ですから私たちは、時代に見合うビジネスモデルを考えていきたいですね。

問 御社は、葬儀一式58万円という低価格で提供していると聞きました。

冨安 その通りです。平均価格は120万円前後ですが、最低価格帯は24万円です。価格の明細も余さず記載しています。しかし、葬儀価格をはっきり打ち出した当初は、とても大変でした。同業他社に大きな衝撃を与え、嫌がらせをたくさん受けました。深夜になると事務所の電話がなり、病院かお客様かと思いながら電話をとると、「こんな安い値段でやるな」といきなり怒鳴られたこともありました。当時小学生だった息子は、「お前の父親、ぶっ殺すからな」と言われて泣きながら伝えてきたこともありました。しかし、悪質な嫌がらせがあったのは、我々の存在が気になった証拠です。

 最近、葬儀の予算を事前に考えるような時代がきました。私たちは、生前見積り“という言葉でメディア戦略をしています。コマーシャル、ラジオ、チラシのなかで繰り返しこの言葉を使うことで、大きな反響を呼んでいます。去年と比べると、生きている間に見積りを出すお客様は、倍になっています。

問 今後の見通しは。

冨安 我々は、これからの10年をセカンドステージと呼んでいます。10年以内に、直営店舗とフランチャイズを合わせ、200店舗展開を目標としています。そして2、3年以内に首都圏進出も視野に入れています。東京、名古屋、大阪は直営店舗で固め、政令指定都市を中心にフランチャイズを考えています。ブランド戦略に力を入れ、この仕事の社会性を上げていきたいです。

■ Profile■
冨安徳久(とみやす・のりひさ)1960年愛知県生まれ。18歳の春、知人から紹介されたアルバイトで葬儀業界に入る。大手葬儀社で葬儀の施行や会館マネジメントに携わるが、閉鎖的な業界の改革を目指して97年7月、株式会社ティアを設立。翌98年、名古屋市中川区に1号店をオープン。2008年7月現在、中部地区を中心に直営店舗23店、フランチャイズ7店を展開。独自の会員システム「ティアの会」会員数は、07年末の時点ですでに11万人を超えている。著書に、『日本でいちばん「ありがとう」といわれる葬儀社』(綜合ユニコム)『1%の幸せ』(あさ出版)などがある。
https://www.tear.co.jp/

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