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【トップに聞く】プラス 常務取締役 プラスファニチャー プレジデント北尾知道

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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オフィスに「引力」を。ニューノーマル時代のオフィスを提案

オフィスに「引力」を。ニューノーマル時代のオフィスを提案

(企業家倶楽部2021年3月号掲載)

2020年の新型コロナウイルス感染拡大でリモートワークが推奨され、オフィスの在り方が大きく変化している。「三密」防止や感染対策など、安全・安心なオフィスをどう作っていくのか。働き方、働く場の多様化など、コロナ禍で働き方改革が一気に進んでいる。長年、働きやすく、能力を引き出す理想のオフィスを提案し続けてきたプラスファニチャー。北尾知道社長に、ニューノーマル時代のオフィスについて語っていただいた。
聞き手:本誌副編集長 三浦千佳子


三浦 コロナ禍でリモートワークが増え、オフィス不要論などいろいろ言われていますが、実際はどうですか。

北尾 2度目の緊急事態宣言の後、ニューノーマルに向けて明らかに世の中全体が変わってきています。在宅勤務が推奨され働き方が変わる中で、働く場が大きく変化してきています。在宅勤務は首都圏だけ見るとおそらく5割程度、全国だと3割程度だと思います。実際在宅勤務をやってみて、意外に仕事できるじゃないかという声も多いです。

三浦 出社しなくてもできると。

北尾 元々テレワークは、東日本大震災の後、BCP対策として出てきました。その後一億総活躍時代とか人生100年といわれ、働き方改革が話題となり、その流れがベースにあります。在宅勤務はかなり前から話はありましたが、Wi-Fi 環境の問題もありますし、もともとは会社に出てこいというカルチャーでしたから。

三浦 日本の慣習として会社に行かなくていいのかと。

北尾 仕事に行くではなく会社に行くと。会社に行くことに意味があるみたいな。それが今回テレワークを体験し、意外にできるんじゃないかという会社と、やっぱり会社に行かないと、帰属意識や仲間意識が薄れるとか、創造的な仕事をしづらいなど、出社を推奨する会社と、両方あります。

三浦 本社縮小論や地方に移転する会社も出てきて話題になっています。実際はどうなんですか。

北尾 去年第一回目の緊急事態宣言のときに、大企業のスタッフ系の方は一斉に在宅勤務に移行、オフィス縮小論みたいな話が広がりました。しかし、もう一回よく考えようという会社もあり、一足飛びにオフィス縮小にはなっていない。在宅では集中できないなどの問題もありますので、それを埋めるべく、シェアオフィスやサテライトオフィスを検討している会社もあります。パソナさんのように淡路島に本社を移すとか、リスクヘッジのためにも分散した方が良いとの動きがあります。


コロナ後もリモートワークの流れは変わらない

三浦 コロナで働き方がずいぶん変わりました。丸の内界隈はリモートワークが多く静かです。

北尾 コロナが仮に収束しても、この流れは元に戻らない。価値観も働き方も変わるので、もうセンターオフィス一辺倒はないと思います。ニューノーマルに対するオフィスの在り方、多様な働き方、多様な働く場をいかに提供していくかですね。感染対策など、より健康で安全なオフィスが求められています。

三浦 もともと御社は働きやすいオフィスを研究しておられます。中でもこの1年間力を入れてやってこられたことは何ですか。

北尾 オフィスでの密を避ける、感染対策、飛沫対策に対応する什器、家具類の提供があります。例えばアクリル板や換気の問題、非接触などです。また Web 会議が増えますのでその対応をどうするかと。レイアウト的なところでは席を間引いたり、ずらしたり、背面型と言って背中同士に配置するなど。在宅に関してはWi-Fi 環境や、オフィス仕様の椅子、デスクやローパーテーションになる家具のネット販売が増えました。

センターオフィスが変わる

三浦 集まってはいけないというのは今までにないテーマです。

北尾 センターオフィスは、集中して物を考えたりする場所や、逆に集まって意見を交換したり、打ち合わせをするなどグループワークがしやすい場が求められています。

三浦  アイデア出しには仲間と意見交換した方がいいという話もあります。

北尾 「 いい仕事はいい雑談から」ということで、5年くらい前から、5坪カフェを提案しています。その進化版を今年出しまして、そこに集まること自体に意味を持たせようと。カフェスペースについては、投資対効果を聞かれますが、効率よりも効果だと思います。オフィスで笑顔がどれくらいあるかを測定したらいいと思います。

三浦 笑顔は重要ですね。会話することによって色んなアイデアが浮かびます。集まる意義をもう一回見直す必要がありますね。

北尾 オフィスにはコミュニケーションが重要で、そうした中から帰属意識や仲間意識が生まれます。企業文化を共有できるようなオフィスを作るべきだと。オフィスはメディアであるというのが我々の主張でしたので、その流れは変わっていません。そこにより安全・安心という要素や、Web 会議対応という要素が加わってきました。
 去年の11月には4週間にわたってオンラインでプラスファニチャーフェアを実施しました。Web のセミナーをほぼ毎日実施、 ニュースタンダードの働き方に対して、アイデア編やレイアウト編、企業戦略編など、お客様にも考えるきっかけをご提案。このオフィスもリニューアルします。

三浦 一番反響があるのはどういうご提案ですか。

北尾 ソロワークとグループワークの両面があります。1人1人の集中するスペースとグループワークをよりしやすい。人と人がちょっと集まれたり、プロジェクト的な形で集まって仕事ができるような可変性のあるスペースが求められています。あとは Web 対応の会議室の工夫です。

三浦 コロナ禍で一気に進みますね。業績的にはどうですか。

北尾 2020年はオリンピック・パラリンピックがある予定でしたので、オフィスビルや大型プロジェクトは予定通り進みました。ホテルやタワーマンションのパブリックゾーンをご提案する仕事もありますので、去年は大変な特需がありました。 EC 部門も大きく伸びました。

三浦 大きな変化の中でも業績がいいのはすごいことです。コロナ禍で一気に働き方改革が進みそうですね。

北尾 ワークスタイルとライフスタイルの両面が変化しました。時間とか場所を選択できるということが、自律性や多様性を生みます。ワークライフのインテグレーションが良い意味で進化した。在宅勤務は性善説に立たないと進みません。それを制度の問題とか、IT 環境も含めて整備しないといけません。

三浦 今はニューノーマルな働き方に向かっての過渡期なのでしょうね。

北尾 元には戻らないと思いますので、その中で特にセンターオフィスの在り方が変わってきます。サテライト、シェアオフィスもあり、今はどこでも仕事ができるようになってきていますので。

オフィスに引力を

三浦 センターオフィスのあり方はどうなりますか。

北尾 わが社ではブランドコンセプトとして今年「オフィスに『引力』を。」を掲げました。人を惹きつける、社会を惹きつける、未来を引き寄せるということです。オフィスがあることによって、所属しているエンゲージメントや自分はこの会社で何をやっていくのかを自覚する。この市ヶ谷オフィスのフロアコンセプトは「ワーキングサロン」です。出社率50% を前提に、ソーシャルディスタンスも含め、メンバーシップ的なことを表したワーキングサロンです。企業文化としてカルチャー、気持ちよく仕事のはかどる居心地の良さとしてコンフォート、人とのつながりが重要ということでコネクト。三つのC で表現していきます。

三浦 引力のあるオフィスとはいいですね。出社しないと帰属意識も薄れますね。ベンチャーはオフィスを魅力的にして、離職防止にしているところも多いです。

北尾 大企業もリクルート&エンゲージメントという面ではオフィスは重要です。一方、わが社でもサテライトオフィスを横浜と所沢の2か所に作りました。今年中に6カ所に広げようと考えています。在宅だと集中できないとか、個人情報が気になるとかいろいろありますので。

三浦 サテライトオフィスの需要は各社あると思います。

北尾 自社で持つのか、シェアオフィスを使うか、今後の流れによりけりです。

三浦 コロナで大変ですけど一気に世の中の動きが変わってきた。今後どう変化していくか逆に楽しみでもあります。

北尾 これからはオフィスをどう使っていくのかが大きな価値になってきます。我々の知見だけでは足りないところは、外部とどうアライアンスを組んで進めていくか、よりモノからコトへと、コンサルティング的な要素が必要になります。
 今般、Suwary(スワリー)というフリーアドレスの座席予約のアプリを作りました。スマホで予約をするのですが、これがコロナ禍ですごく引き合いが多い。どこの席がよく使われているとか、座席の利用履歴が残るので、万が一コロナに感染したら濃厚接触者がすぐわかる。施設管理者や会社側から見るとリスクマネジメントができるということです。

中国のオフィス文化を変える

三浦 いろんな分野に踏み込んでおられますね。今後の目標についてお聞かせください。

北尾 ウィズコロナからアフターコロナへの大きな流れの中で、センターオフィス、サテライトオフィス、在宅のよりよい環境を提案していくとともに、Eコマースに力を入れていきます。また日本だけでなく、海外展開も力を入れていこうと。

三浦 海外展開はどちらですか。

北尾 中国で一番大きい文具メーカーのDELI と合弁会社を作り、日本のクオリティと中国の彼らの営業ネットワークと一緒になって、中国のオフィス文化を変えていこうと。わが社の技術力や品質管理も含めて、ノウハウを共有しながら進めていこうと。今、浙江省、杭州に工場を作っています。中国は日本の10倍くらいのマーケットがあります。2 019 年、DELI と我々プラスで、「DELI-PLUS」という会社を作りまして、去年ブランド発表会を実施しました。今年3月に広州展示会というアジアで一番大きい展示会があるのですが、延期になりました。加盟店は今70社ほどですが、フラッグシップ的なショールーム付きの店を北京、杭州、上海周辺と広州の4箇所に作って進めています。

三浦 中国はマーケットの規模が違いますから楽しみですね。

北尾 中国はまだまだ昔ながらのオフィスもありますし、一方で世界的な IT 系企業も多いので期待できます。知識創造型社会への流れは 日本よりも進んでいるくらいです、そこにオフィス作りをご提案していく余地がある。さらにアジア各国に広めていければと考えています。

三浦 中国からアジアへと急拡大が期待できますね。

北尾 このコロナは、我々にとって挑戦しがいがある、ある意味チャンスだと思っていまして、コロナの経験は誰も初めてですから。ここからが勝負です。

三浦 全員同じスタートラインに立っているということですか。

北尾 こんないいチャンスはないと。コロナで働き方が変わるということはみんな共通ですので、全てのお客さんに対して、新しい働き方、ニューノーマルを提案できるという意味では非常にチャンスが大きい。規模の大小関わらず、悩みは皆さん共通の部分もあるので、それに合ったご提案ができます。

三浦 まさに「ピンチをチャンスに」ですね。

P r o f i l e 
北尾知道(きたお・ともみち) 1958年生まれ。東京大学大学院修士課程修了。セゾングループに21年、KADOKAWAグループに7 年在籍後、2012 年よりプラス株式会社在籍、2013 年取締役ファニチャーカンパニープレジデントに就任、2016 年常務取締役ファニチャーカンパニープレジデントに就任、現在に至る。

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