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【私のターニングポイント】ランクアップ代表 岩崎裕美子

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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やりがいのあるところで社員は輝く

やりがいのあるところで社員は輝く

(企業家倶楽部2019年6月号掲載)


 残業も、ノルマも無い。それでも売上げはずっと右肩上がり。一見、理想の会社のように思えますよね。ですが、社内を見渡せばどんよりとした空気が広がり、まさにお通夜状態。それが、創業して5年が経った頃の私たちでした。

 社員の元気が無いことには気付いていましたが、なぜこんな理想的な条件が揃っているのに皆が暗いのか、不思議でなりませんでした。そんな時、「ワクワク冒険島」という研修を全社員が受けました。そして、それが私にとって一番のターニングポイントとなりました。

 一般職社員の研修最終日、私の携帯に講師の先生から直接電話がかかってきました。「岩崎さん、今すぐ研修所に来て社員に謝って下さい」。電話に出るなり言われたのが、その言葉です。

 この研修では、最後に社員が「自分は会社に対してどのような貢献ができるのか」を宣言します。ですが、どの社員も「会社が自分を認めてくれていないのに、貢献するなんて言えない」と宣言を拒否。そこから会社への不満が爆発し、講師の先生が私に電話をかけてきたわけです。

 当時、会社における全ての決定権は社長である私にありました。社員から何か提案されても、「私が言った通りに仕事をしていれば良い」と聞く耳を持ちません。もちろん、それでは社員のやる気は無くなります。

 社員としては、ただの「やらされ仕事」を毎日こなしているだけで、やりがいが存在しなかった。それが、会社の暗さの原因でした。ただ、給与や労働環境は良いので、辞める人もいませんでした。常に同じ30人で、毎日会社に文句を言いながら働く。私たちの会社は、「さほど好きではないものの、条件が良いので、別れたくても別れられない彼氏」と化していたのです。

 社員の不満を聞き、私は初めて自分がワンマン社長であったことに気付きました。「やる気のある社員を腐らせていたのは自分だったのか!」と分かって衝撃でしたね。「良い社長」と思われたくて、形としては社員が喜びそうなことを行っていました。ですが、一番大事な「社員のやりがいを作る」ことが全くできていなかったのです。

 研修での一件で従来のやり方を猛省した私は、まず会社の価値観を発表することにしました。研修の講師の方から「会社として目指すべきところが定まれば、社員の行動基準になる」とアドバイスを受けてのことです。

「もし将来大金持ちになっても、変わらず持ち続けていたいもの」こそが価値観。私と取締役の日高由紀子で譲れないものを出し合い、お互いに合致したのが「挑戦」でした。私たち2人は、新しいことにチャレンジしたくて起業したのです。こうして「挑戦」が会社の価値観となりました。

 例えば、最先端ながら不安定なサービスと古くても安定したサービスでは、どちらを選ぶか悩みどころだと思います。ですが、私たちには「挑戦」という価値観があるため、全員が迷わず前者を選択することができます。この価値観を提示したお陰で、権限委譲も進みました。

 価値観を発表した時は、これに共感しない社員が辞めるかもしれないと覚悟をしていましたが、結果的には皆会社に残ってくれました。最初は戸惑っていた社員も、徐々に新しい企画やプロジェクトを提案してくれるようになり、今では多くの商品や制度が生み出されています。

 改善したいことを提案すると会社から500円が支給される改善提案制度や、毎月北海道の新鮮な無農薬野菜が支給される無農薬野菜支給制度は、社員の提案で生まれました。

 私がこの失敗で得た教訓は、「社員の意見を傾聴する」ことです。社員の提案は、実際に取り組んでみると上手くいくことも多い。だからこそ、社員一人ひとりを尊敬するようにもなりました。是非とも経営者の方には自分がワンマン社長になっていないか、改めて問い直してほしいと思います。

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