会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。
(企業家倶楽部2019年12月号掲載)
「石橋攻略」で安全に株式投資
問 株を始められたのは、日本経済新聞社を2000年に定年退職された後だそうですね。
三橋 退職金が出ましたし、80万部ほど売れた著書の印税もあり、気が大きくなっていましてね。インターネットバブルの時流に便乗できるかと思い、「現物取引」で1000万円ほどIT関連株を中心に投資したところ、みるみる株価が下がっていきました。「下がったら買い」と買い増しているうちに焦げ付いて、わずか1年半ほどの間に、500万円が消えました。
問 再び株を始められたきっかけは何でしょうか。
三橋 ITが普及してネット専門の証券会社が登場し、「証券取引の構造が根本から変わってきた」と感じたのです。従来は1000株単位の大口取引が可能な富裕層しか投資は出来ませんでしたし、儲かれば利益は大きいものの、失敗した時には相当な損失を覚悟せねばなりませんでした。
問 現在は100株から買えますね。
三橋 100株単位で買えるというのは非常に魅力的です。例えばメガバンクのみずほホールディングスは現在1株160円くらいですから、100株1万6000円程。さらに売買手数料も窓口と比べて8分の1に下がったため、相当買いやすくなりました。
そこで、株式売買でも「ローリスク・ほどほどリターン」、投資金額の最低1割を稼げるのではないかと閃いたのです。安全第一でハイリスクの部分を極力抑え、一時的には元本を下回ることがあっても、「もうやめた」と現金化した時、元本を下回らないようにする「石橋攻略」を考えました。
配当金も侮るな
問 東証一部の日経平均225の銘柄から選ぶことを推奨されているのはなぜですか。
三橋 ハイリスク・ハイリターンを狙う人たちには安定し過ぎていると思われていますが、トヨタやソニーでも、年間で最高値と最安値の差は10%以上あるのです。「石橋攻略」では3%の幅を得られれば1~2万円稼げますので、それで良しとします。
また、1株5000円以上の株は買いません。例えば500円の株と言うと安く感じられるかもしれませんが、500株買えば25万円です。そして、この株価が25円上がれば、1万2500円の儲けになります。配当も5倍になるのでお得です。
配当金の高い銘柄の株式もお薦めです。現在、銀行株は値段が上がらないと敬遠されていますが、配当利回りが4~5%で、仮に値上がりしなくても配当金は大きい。私の7年間の実績でも、配当金の割合が3割ほどを占めています。定期預金は100万円預けても1年後に100円玉1個にしかならないことを考えれば、配当金は魅力的でしょう。権利付き最終日には、配当狙いで株価が上がります。仮に配当金をもらうよりも株価の差益を取った方が良いのであれば、そこで売ればいい。翌営業日が権利落ち日で、大抵の場合、配当金と同額株価は下がります。
信用取引は信用維持率100%で
問 一般に株式投資はハイリスク・ハイリターンと言われていますね。
三橋 ハイリスクなのは「信用取引」の際のレバレッジを利用した場合です。これは、預入金の3倍の取引が出来る買い方。100万円で300万円分の株を買えますから、上手く行けばその分大きな利益を得られる可能性もありますが、逆に失敗した場合には自己資金以上の損失を被ります。
また、信用取引では委託保証金を証券会社に預ける必要があり、信用維持率30%以上、つまり約定代金が100万円の場合は30万円が必要です。これを下回ってしまうと、追証金を差し入れるか、そこで損切りするしかありません。
しかし「石橋攻略」では、仮に100万円を証券会社に預けるならば、80万円分だけ買います。すると信用維持率は100%。投入した額以上の信用取引はしないということです。それならば、万が一株価が0になったとしても、それで終わりで済みますからね。そのように売買している限り、信用取引であってもそれほどの危険はありません。
問 ご著書では、現物取引と信用取引を組み合わせた運用を薦めておられます。
三橋 例えば現物取引で100万円分の株を買い、それを保証金にして信用取引で80万円分の株を買うと、合わせて180万円の投資が出来ます。「石橋攻略」では、それを提唱しています。
問 それでも怖い印象があります。
三橋 確かに信用取引は怖いですよ。現物で2~3年取引し、相場観を得た上でおずおずと始めなければ、大変な目に遭ってしまいます。現物取引だけでも1割の利益を上げるのは難しくないですし、向き不向きがありますね。信用取引は「失敗するかもしれない」という若干のワクワク感みたいなものがあって、私はそういうことが割と好きなのです。
日本の証券市場はニューヨーク市場の鏡
問 相場観は1年運用すると見えてきますか。
三橋 「ネット株手帳」を作り、1カ月の売買平均の変化と日経平均の変化をまとめて見られるようにすると良いですね。特定の株を売り買いすると、その株の変動も良く分かりますし、ニュースなどで「この株は面白そうだ」などと、自然と見えるようになってきます。
問 「証券取引所が開く朝の30分が勝負」というのはどういう意味ですか。
三橋 今や日本の証券市場はニューヨーク市場の鏡相場と言われています。売買を行う75%が外国人投資家ですから、日本の経済指標など見ていません。株価は日本のGDPの増減や日銀短観ではほとんど動かなくなり、米国大統領の発言やFRBの政策金利に関するニュースに影響される。だからニューヨーク市場が終わり、日本の市場が始まる9時からの30分は、価格が上がる場合でも下がる場合でもバイアスがかかってしまうのです。安く買う場合も高く売り逃げる場合もその30分が勝負で、時間が経つと常識的な価格に戻ってきます。
株を長期保有する時代は終わった
問 株売買の常識としては、長期保有で株価が上がっていくのが良いとされていて、多少下がっても持ち続けている人は少なくありません。
三橋 現物取引では長期で2~3年以上持ち、失敗している人が多いですね。もはや長期保有の時代ではなく、現物株を信用株と同様に短期で売買すれば、確実に利益が得られるでしょう。
問 長期で保有されている株は無いのですか。
三橋 売るタイミングを逸した株はありますが、基本的には12月に処理します。仮に1~12月までに200万円儲けた場合、2割の40万円を税金として払わなければなりませんが、損切すれば、その分が儲けた額と相殺されるため、払うべき税金が少なくなるからです。
株価には季節変動があり、企業や個人は12月に損切りしますから、1月の第1週だけは株価は上昇します。それ以降2月初めにかけてずっと株価は下がるので、その時に安くなった株を、12月に損切して得た現金で買うのです。
株価は8~9月が悪く、10月半ばくらいから12月にかけて上がってきますから、きめ細かく取引をすればそれほど損はしません。
同じ銘柄の売買を繰り返すのも手
問 長期保有より石橋の方が結果は良いのですか。
三橋 長期保有の場合でも「買値から6%上がったら売れ」とする説もあるようですが、そうした機会は年に1回あるかどうかです。ならば3%くらいで1~2万円稼ぎ、それを集積する方がはるかに良い。売買手数料も1回数百円です。
問 「100株ずつ買え」とのことですが、売る時も同様ですか。
三橋 そうですね。これ以上の株価上昇が期待できないと思えば一括して売りますが、自分で売却価格を決めているので、売る方が割と簡単です。逆に買う方が大変で、見極めて買わなければ、信用取引では買値を上回らないまま、期限の半年が経ってしまうこともあります。現物の場合には配当金の高いものを持てば良いでしょう。
最初に買った株が上がって売却した後、「次に何を買えば良いか分からない」という人がいますが、同じ銘柄の売り買いを繰り返せば良いのです。新たに見つけるよりも、自分のよく知っている株の方が安心でしょう。利益を確定しないと税金も納められませんし、それが経済にとって一番の損失です。
現役世代こそ「石橋攻略」で資産運用
問 この本を書かれた動機は何でしょうか。
三橋 同世代が10数年前から定年退職していきましたが、大会社で数十億円というような巨額を動かしていた人たちであっても、自分の退職金や蓄えの運用方法が分からないのです。そこで結局は銀行に預けるのですが、ゼロ金利ですからみるみる預金が減ってしまう。「資産を安全に運用して、その運用益で生活を豊かにしよう」というのが執筆した最初の動機です。
問 人生100年時代を迎え、今まで以上に老後資金が必要となります。6月に金融庁から「老後資金は2000万円不足する」という試算が出され、物議を醸しました。
三橋 日本は社会主義国ではありませんし、国が100%老後の生活を見るなんて、市場経済では有り得ません。もちろん国の財政が豊かで、年金が多いに越したことはないですが、ある程度は自助努力で知恵を絞って稼ぎ出す気概が必要ではないでしょうか。
シルバー世代に向けて執筆しましたが、年金支給年齢は益々上がってきていますし、むしろ現役世代こそ、「石橋攻略」で今から準備して老後に備えることが肝要でしょう。シルバー世代と違って、その年稼いだ分は貯めれば良いのです。
50歳の現役が500万円を年10%で運用できれば、複利で計算すると8年目に2倍の1000万円になります。その8年後だと2000万になります。そうすると彼らはまだ66歳。もっと早く始めれば、もっと増やすことも可能でしょう。
問 株価が1割上がれば良いというわけですね。多くの方が株に興味を持ち、現預金が少しでも流れれば、景気も大分良くなります。
三橋 家計の金融資産残高は約1800兆円です。その約半分の900兆円程が預貯金だと言われていますから、大半が銀行に預けられています。「日本国民が銀行に預けている900兆円を死蔵させておいて良いのか」という問題意識があります。もし、ある程度の利子所得が保証されていれば、経済が活性化するでしょう。
仮に1%の金利が付けば、それだけで9兆円。その一部が個人消費として動けばかなりのインパクトになるに違いありません。金利が10%ならば90兆円となり、国家予算に近い金額となります。
しかし、政府は超低金利政策を採り続け、安倍総理の就任時に比べて株価が上がったと口では言っていますが、その割に国民は株が怖いのです。この書籍が少しでも経済を循環させる一助となれば嬉しいですね。
『石橋をたたいて渡るネット株投資術 シルバー世代の小遣い稼ぎ』
三橋規宏 著 海象社(1460円+税)
経済ジャーナリストの筆者が元金を減らさずに株式投資を行うため、従来の常識を覆す「ローリスク・ほどほどリターン」を提唱。自ら考案した「石橋攻略」投資術を駆使し、7年間で年平均15%の利益を上げた手法を余すところなく紹介した一冊。