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【ベンチャー・リポート】

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NBCがスタートアップを支援 日本の活性化に貢献

NBCがスタートアップを支援 日本の活性化に貢献

(企業家倶楽部2021年11月号掲載)

 東京ニュービジネス協議会がスタートアップ支援に乗り出した。有数の企業家たちが集結、互いに切磋琢磨するネットワークとして35年の歴史を誇るNBC。ここにきてアントレプレナー創出委員会を設置、本格的に若手起業家支援に取り組んでいる。会長の井川幸広は「これからは我々企業家が起業家を育てていきたい」と宣言した。なんと心強いことだろう。9月末のこの日は、7社の経営者によるピッチ大会が開催された。ここから新たなIPO企業が誕生すると思うとワクワクする。ピッチ大会の様子をリポートしよう。( 文中敬称略)

 2021年9月29日夕刻、東京駅すぐのコワーキングスペース「fabbit 大手町」には、50人ほどのビジネスパーソンが集まっていた。コの字型に設えられた会場にはやや緊張した空気が流れている。

 東京ニュービジネス協議会(以下NBC)主催、fabbit 共催で、「第5回スタートアップ・メンタリング・プログラム」が始まるのだ。

 スタートアップ企業の経営者が7分間でピッチを行い、IPOを経験した経営者やベンチャーキャピタルからのメンタリングを受けられるというものだ。

 この日は選抜された7人の経営者が集まっていた。

 18時きっかりに会は始まった。

 NBC 会長の井川幸弘が登壇、挨拶をする。

 続いてこの日の審査員・メンターが紹介される。

 Ubicom ホールディングス社長 青木正之、クリーク・アンド・リバー社社長、NBC会長 井川幸広、エスクリ会長 岩本博、 エアトリ会長 大石崇徳、システムソフト副社長 田中保成の5名だ。いずれも上場企業の経営者で錚錚たる顔ぶれだ。

 そしてこの日の主役である7人の経営者が紹介される。優秀賞に選ばれれば、2022年2月に開催予定の決勝大会への出場権が得られる。

 この日モデレーターを務めたのはNBC 副会長でアントレプレナー創出委員会会長の青木である。

 7分間の勝負

 緊張感が高まる中、最初に登場したのは「Stayway」代表の佐藤淳である。補助金助成金申請の面倒な手続きを簡単にするクラウドを展開、さまざまな営業支援ツールを提供している。自社のツールを使えばどんなメリットがあるのか、事例を挙げ熱く語る。

 1分前のベルが鳴り響く。

 佐藤の発表に一層力がこもる。成功事例や市場規模、今後のプランになど、時間ギリギリまで熱いピッチが続く。

 終わるや会場からは大きな拍手が。

 モデレーター青木の労いの言葉が優しく響く。審査員から温かくも鋭い質問が飛ぶ。
「導入企業はどのぐらい」 

「市場規模は」 

 皆、真剣だ。

 それでは皆さん札を拳げて下さい。青木の声に、5人のメンターから「投資したい」「もう少し話を聞きたい」の札が挙がる。

 7分のピッチから質疑応答まで1社につき約10~12分程度。巧みな進行でピッチ大会が進む。

 次に登壇したのは「Cerevo」の大沼慶祐だ。ライブ配信機器「LiveShell」シリーズを中心とした自社製品開発・製造、サービスを手掛けている。

 このコンパクトなライブ配信機器使えば、ロケバスが必要ない、どこからでも手軽にライプ配信できるとあって審査委員も興味津々だ。

 次はハドラスホールディングス社長の山本英明だ。独自の高純度Nanoレベルガラスコーティング剤(HardoLass)の研究開発、製造・販売について熱く語る。コロナ禍ということもあり抗菌塗料は世界的に関心が高い。トヨタの新車のハンドル、セブン銀行の2万5000台のATMに採用されるなど、今後の可能性について熱く語る。

 審査委員からは「差別化のポイントについて」、「時価総額は」など質問が飛ぶ。

 4番目に登場したのはbatton 代表の川人寛徳だ。人工知能搭載型RPA「batton」(バトン)を開発し業務自動化をサポートしている。

 ハイレベルのプレゼンに会場は静まりかえり、次の登壇者を待つ。

 5番目に登場したのは、「Payment Technology」社長の上野亨である。審査不要の売掛保証BtoB決済後払いサービス「1month delay payment」の開発・提供について熱く語る。

「これを使えば1か月、最大53日の後払いが可能です。手数料は利用額の5.5%。今年4月からサービスを開始しましたが既に300社が利用、利用金額も上がっています。今ビジネス特許申請中です」

 審査委員からは「ありそうでなかったサービス、面白いね」

 この上野のピッチには審査員全員から「投資したい」の札が挙がった。

 6番目はアイセールスのCFO市原達大である。営業DX 実現のためのデジタル営業システム「i:Sales」の開発運営を手掛けている。「月30万円でわが社の営業DX 専門チームがお客様に伴走します」と熱く語る市原。今年度の売上は3.3億円、2023年にIPO予定であることを強調した。

 最後に登場したのはHAPPYPRICE代表の小林裕昌である。ブランド品の輸入・買取、卸、販売や業者向けオークションなどを手掛けている。安心安全なブランド品を提供するSaaS プラットフォームを展開、ブロックチェーンを活用していると熱く語る。

 7社の熱いピッチプレゼンが終了、会場にはホッとした空気が漂う。

 審査委員たちは集計に忙しい。

 審査基準はビジネスモデル、革新性、成長性など5つの項目で、5点満点で評価する。

 集計している間、審査委員兼メンターの青木、井川そしてボードウォーク・キャピタル社長CEO那珂通雅が加わり、講評・鼎談が行われた。

「今回もハイレベルな会社が集まったね」

「どの会社も凄くて選定が難しい」

「どこもリアリティをもってしっかりゴールに向かっている」

「すぐにもIPOできそうな会社もあったね」

 メンターたちの温かい言葉に会場の緊張がほぐれ、一体感が生まれる。

 そしていよいよ審査結果の発表だ。

 まずは優秀賞2社が選出された。

 ハドラスホールディングスとHAPPYPRICEである。本来なら1社の予定だが、同点ということで2社選出された。

 拍手と共に登壇した2人に決勝大会への目録が渡される。

 そしてこの日最優秀賞に輝いたのは「Payment Technology 」である。1か月後払いというシステムは、市場規模も大きく、将来が楽しみなど、評価ポイントが高かった。

 上野は喜びを語るとともに、次の展開に向けての決意を語った。

 ビジネスマッチングの機会

 プログラム終了後は名刺交換会だ。

「大変いい勉強になりました」 

「素晴らしいメンターの方々と出会えてよかったです」

「頑張っているスタートアップと出会えていい刺激をもらいました」

 どの顔にも満足そうな笑顔がこぼれる。

 2時間のブログラムはあっという間に終了した。モデレーター青木の進行は神業というほどスムースでプロ級だ。何よりも審査員・メンターの面々の、厳しくも温かい眼差しが、ひしと伝わってくる大会であった。次はどんなチャレンジャーが出てくるのか楽しみだ。

 ところでここに登壇した7社のピッチ企業はどうやって選定されたのか気になるところだ。事務局に伺うとエントリーは公募で、ビジネスモデル、マーケットサイズ、事業計画、マーケットにおける強み、今後のマイルストーンなどを、NBC 会員経営者や大学教授などが綿密に審査するという。従ってこのピッチ大会に出てくるだけでハイレベルの会社ということになる。

このプログラムは、スタートアップの資金調達、ビジネス創成などの機会を提供、後進育成に注力したいとの意向で、2019年度よりスタートしている。

 これだけのピッチ大会を年4回開催するというから凄い。自ら起業、上場を経験した創業経営者や VC 等がメンタリングを行うのだからスタートアップ経営者にとっては心強い。「ファイナンス」「メンター」「アライアン ス」などについて、支援するサポーターとのビジネスマッチングの機会ともなっている。

 この日は200名のオンライン視聴者があったが、彼らとも繋がることができ、リアルに劣らぬ機会を創出している。

IPO スクールを開校

 それだけではない。NBCが東証や証券会社と連携して11月からIPOスクールを開校すると発表した。本気でIPOを目指す会社をきっちり指導するというのだ。

 入塾するには審査がある。ビジネスモデルのブラッシュアップ、株価形成指導、マーケティング指導、資本政策、CFOや監査役の紹介など至れり尽くせりだ。本気でIPOを目指す会社にとってはこんなにありがたいことはない。

 東京NBCは今会員企業450社、全国では4000社に上る。日本でも最大級の経営者のネットワークだ。このスタートアップ支援活動が全国に広がれば大きな力になる。地方の起業家たちにとって、次の成長への大きな機会となるであろう。

 米国ならベンチャーキャピタルが投資するだけでなく、メンターや経営指導も支援するが、日本にはそこまでのシステムが整っていないのが現実だ。

 それだけにこのNBCのスタートアップ育成活動の意義は大きい。

 経営はロマンとそろばん

 このピッチ大会の最後に会長の井川は、「皆さんレベルが高くワクワクしました。これからの活躍を期待したい。経営はロマンとそろばんです。ロマンをもって大きく羽ばたいて下さい」とエールを送った。

「井川さんが会長になってからますますベンチャー支援が加速している」と担当者。クリーク&リバー社として、自ら優れた才能や事業のマッチングに力を入れている井川。新しい才能、新しい事業の発掘は楽しくて仕方ないとばかりに笑顔を向ける。

 こうした地道な活動が日本中に広がり、日本がアントレプレナー大国となることを期待したい。

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